【ルーズに愛して】指輪を外したら、さようなら

深冬 芽以

文字の大きさ
138 / 147
17.指輪に誓う永遠

しおりを挟む



 OLCのみんなが私を心配して、捜してくれていることは、すぐに気づいた。

 おびただしい数の着信と、メッセージ。

 その中に、さなえからのものだけがない。

 みんなのことだから、妊婦のさなえに心配をかけまいと、私のことを黙っているのだろう。

 だから、私はさなえに連絡を取った。

 きっと、気持ちのどこかに、見つけて欲しいという願いがあったのだと思う。

 けれど、私は素直じゃない。あきら以上に。

 それに、妊娠を自覚し、不安だった。

 さなえを心配する内容で、妊娠中の様子を聞く。

 悪阻が全くない人もいれば、出産まで続く人もいるらしい。

 私は、どうだろう。

 不思議と、産まない、という選択肢はなかった。

 一人で育てるつもりだった。

 大和の浮気疑惑が浮上し、さなえが電話をかけて来た時、さなえが私の現状を知ったことは何となくわかっていた。

 別に、みんなから逃げているわけじゃない。

 何となく、大事になってしまっただけで、私は妊娠の事実に向き合いたくて連絡を絶っただけ。

 札幌に帰るように必死で説得してくれる仲間の存在に、私は胸が熱くなった。

 だから、龍也の『借りを返せ』という挑発に乗ったのは、心配をかけたお詫びでもあった。

 それから、あきらと龍也には幸せになって欲しかったから。

「あきらが龍也のプロポーズを受けたら、帰るわ」

 そうは言ってみたものの、遠からず帰るつもりでいた。

 龍也が春から釧路に転勤になることは驚いたし、二人がそばを離れていってしまうことは寂しいけれど、傷心の龍也を一人で行かせるのは避けたかった。

『あきらが考えると、ろくなことにならないのはわかりきってる。だから、今すぐ、この場で決めてくれ』

 うじうじと返事を迷うあきらに投げた龍也の言葉に、私は吹き出すのを堪えた。

 同時に、こんな大事な一幕を、スマホ越しにしか立ち会えないことが、少し寂しかった。

『俺とあきらの気持ちが同じじゃないなら、別れる。今、この場で、終わりだ』

 龍也の言葉に、私まで心臓を鷲掴みにされたような、息苦しさを感じた。きっと、あきらの痛みはそれ以上だったはず。

「意気地なしのあきらには、無理よ」

 お決まりの憎まれ役も、最後だろう。

 私の言葉に、あきらが決意した。

 やけくそだっただけかもしれないけれど、それでもいい。

『ついて行くわよ!! 他の女になんか……渡さないわよ』

 あきらの涙声に、私まで涙を誘われた。

『婚姻届、書いたわよ! 千尋、さっさと帰って来なさい!! あんたにだけは、意気地なし呼ばわりされたくない!!!』

 うん、そうだね。

 あきらは勇気を出して、龍也の手を取った。強く、握り締めた。



 私は……?



 お腹の中の子の小さな手を握るまで、独りで耐えられるだろうか。

 そんな不安に追い打ちをかけるように聞こえてきた、比呂の声。いつも電話で聞くよりも、くぐもった声。

『これから六○亭の西三条店に行く。きっかり三十分後に、サクサ○パイを注文する。そのパイの賞味期限三時間だけ、待ってるよ』

 まさか、既に帯広に来ているとは思わず、私は言葉に詰まった。

『三時間待ってお前が来なかったら、食べずに帰る。もう、お前を追わない。諦めるよ』

 咄嗟に壁に掛かった時計を見る。



 三時間……。



『帯広は雪が少ないな。これなら、十五分後には店につきそ――』

 不自然な電話の切れ方に、なんだか嫌な汗が額に滲む。

 昨夜遅くに父親との対面を果たしたせいで、私はパジャマ姿で、両親はまだ眠っていた。

 私は急いで顔を洗い、着替えて、化粧もそこそこに家を飛び出した。その時点で、比呂との電話から既に三十分が過ぎようとしていた。

 小走りに指定された店に向かう。

 走ってはいけないと思いつつも、足が前へ前へと止まらない。



 早く、比呂の元へ――。



 もう、迷いなどなかった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

身体の繋がりしかない関係

詩織
恋愛
会社の飲み会の帰り、たまたま同じ帰りが方向だった3つ年下の後輩。 その後勢いで身体の関係になった。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

元彼にハメ婚させられちゃいました

鳴宮鶉子
恋愛
元彼にハメ婚させられちゃいました

網代さんを怒らせたい

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「なあ。僕たち、付き合わないか?」 彼がなにを言っているのかわからなかった。 たったいま、私たちは恋愛できない体質かもしれないと告白しあったばかりなのに。 しかし彼曰く、これは練習なのらしい。 それっぽいことをしてみれば、恋がわかるかもしれない。 それでもダメなら、本当にそういう体質だったのだと諦めがつく。 それはそうかもしれないと、私は彼と付き合いはじめたのだけれど……。 和倉千代子(わくらちよこ) 23 建築デザイン会社『SkyEnd』勤務 デザイナー 黒髪パッツン前髪、おかっぱ頭であだ名は〝市松〟 ただし、そう呼ぶのは網代のみ なんでもすぐに信じてしまい、いつも網代に騙されている 仕事も頑張る努力家 × 網代立生(あじろたつき) 28 建築デザイン会社『SkyEnd』勤務 営業兼事務 背が高く、一見優しげ しかしけっこう慇懃無礼に毒を吐く 人の好き嫌いが激しい 常識の通じないヤツが大嫌い 恋愛のできないふたりの関係は恋に発展するのか……!?

処理中です...