最後の男

深冬 芽以

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10 女の闘い

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「私が可哀想? バツイチだから? 一人で子供を育てていかなきゃいけないから? ご心配なく。離婚してセーセーしてるし、子育てに不自由しない程度の養育費はもらってるわ」

 女たちの顔色が変わる。

「次は? 子供たち? 父親がいないから可哀想? 勝手に決めつけないで。私の息子たちの幸せを、他人のあなたたちが決めるの? 何様よ!」

 言いながら、自分が、自分で思っている以上に彼女たちに苛立っていたのだとわかった。

 感情的になりながら、冷静に自己分析している自分が不思議だ。

「千堂課長にしろ溝口課長にしろ、私にとやかく言う前に自分で何かした? ばばあに持ってかれたくなきゃ、若くて綺麗な身体使って堕とせば?」

『彩って、本気になったらかなりエグイよね』

 小学校からの友達に、そう言われたことがある。

『絶対、敵に回したくないタイプだわ』とも。

 離婚のとき、自分でも納得した。

 そして、今も。

 もう、やめればいいのに、すべて吐き出してしまわないと、気が納まらない。

「それから、私をばばあ呼ばわりしてるけど、あなたたちも十年経ったら立派にばばあよ? 私はあなたたちの年には結婚していたし、十年経って離婚したとはいえ可愛い子供が二人もいるし、優しい上司に恵まれたから幸せだけど。十年後のあなたたちも幸せだといいわね?」

 豊沢さんと近藤さんは呆気に取られていた。京本さんは般若の如く、今にも角が生えそうな形相で私を睨みつけている。

 ようやく、言い過ぎたかなと思った。

 大人気なかったな、と。

 私は大きく息を吸い込んで、自分を落ち着けた。

「あなたたちがこんなことをしてるって知ったら、課長たちに軽蔑されるだけじゃない? 好きなら私みたいなばばあなんて相手にしてないで――」

「うるさい! くそばばあ!!」

 京本さんが、言った。

 フロア中に響きそうな声で。

 いきり立つ京本さんの後ろで、豊沢さんと近藤さんは逃げ出したそうに目を伏せている。



 さて、どうしたものか……。



 私が何て言って彼女をなだめようかと考えていると、京本さんの顔が青ざめていくのに気がついた。視線は、私の肩の向こう。

 私はゆっくりと振り返った。

「堀藤さん。デスクの資料、急ぎでまとめてください」

 千堂課長は笑顔だけれど、目は少しも笑っていなかった。
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