解放の砦

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5章 必要とされない者

5-4 通信の魔道具改良版

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 この世界の通信魔法は、電話のベルのようなものが存在していない。
 通信魔法をする場合は魔導士同士でも先にこの日時に魔法で連絡取りましょうという連絡が必要となる。。。
 本末転倒だよな。

 それをある程度解消したのが、通信の魔道具という位置付けらしい。
 この利点は、お互いが魔導士でなくても使える。事前の連絡は必要ない。
 が、この欠点は、受ける者が何をしていようと、強制的に通信してしまうという点にある。

 ケータイが鳴る、着信ボタンを押す、という段階が省かれてしまっている。
 いや、この部分、大切だろ。どうして誰もこの部分を解消しようとしなかった。

 想像はつくが。
 だいたいは緊急時か、密談か、ぐらいしか使われないからだろう。
 あまりにも遠距離でなければ、会いに行って話した方が齟齬がないからだ。

 ケータイ電話のような気軽さで使う代物ではないらしい。
 高い魔石を使うからなあ。

 何とか他の魔法との掛け合わせで、どうにか手軽に使える代物にできないか。
 緊急時のときは赤く点滅するとか、別の機能を付け加えて。
 できなくはない気がするのだが。

 はっ、こういう時こそ情報検索の魔法だな。




「通信の魔道具改良版でーす」

「、、、リアム」

 呆れたように見えるクリス様がいるなあ。えー、通信の魔道具は簡単に作れるよー、って言ったのはクリスじゃん。何で呆れてるのー?
 入門編の魔法書のご返却のために、砦に遊びに来たクリス様をつかまえた。
 ここは砦長室の隣の応接室。なぜかナーヴァルも同席している。当然、クリス様の後ろにはお付きの人と護衛が並んでいるよ。

 三十個ほどのペンダントが箱に並んでいる。裏には番号が刻印されている。同じ魔石を使用したので、このペンダントならば、指定した相手に通話が可能。緊急時には全部に通話が可能という代物。
 通信、というからには映像も送れる魔道具も存在する。が、魔石の魔力の消費も大きい。長く使いたいのならば、音声のみに絞る方が良い。

「これなら、指定する相手と話すことができるし、緊急時には赤く光らせて全員に緊急通報を流すこともできます。どうです?どうです?」

「どうです?って聞かれても凄いねとしか言いようがないんだけど、何で三十個もあるの?」

 クリスの目が半目になっているんですけどー。本当に凄いって思っていますかー?

「砦のA級、B級パーティにできるだけ渡したいなあと思ったら、このぐらいの数は。とりあえず砦側は俺、砦長、副砦長、料理長が持つし、修繕工事のときの現場監督者らに渡すのなら、B級パーティに渡すのは難しいかなあ。今後、数が取れそうな魔石が取れたときにでも更なる改良版を、、、いや、まだ修繕工事は先の話だから、先にB級パーティにも一つずつ渡して使用してもらい問題点を洗い出すか」

 新しいパーティに渡すのは難しいが、とりあえず今いるA級、B級パーティの数にはギリ足りる。ビーズのような単独行動冒険者がこれから増えるとなかなか厳しいが。仲間割れという事態がないように願う。

「普通はその相手ごとに一セットずつ用意する魔道具なんだけどなあ。発想が違うのか」

「あ、そうだ、中継機みたいなの作れば、更なる改良版と相互に使えるようにならないかなー。そうすれば、今回のと同じくらいの魔石でも数が増やせるなー」

「、、、やだ、この子、怖い。この技術でも凄いのに更なる改良案をもう思いついてる」

「でも、コレ、砦と魔の大平原、せいぜいこの街一帯ぐらいの通信機能しかないですよ」

 通信の魔道具はもちろんこの大陸全土で使える物も存在する。たぶんクリス様が持っている物もその類だ。
 が、俺の作ったものは砦の冒険者用である。隣町に行ってしまうとうんともすんとも言わなくなるだろう。コレは魔の大平原に向けて広範囲に広がっているものだから。

 着信のお知らせも、バイブ機能である。なぜ、震えて知らせるのかというと、音も光も魔物を引き寄せてしまう。A級、B級冒険者が魔物と交戦中の場合、コレはマズい。他の魔物も引き寄せてしまったら、命が危ない。しかも、話し声が強制的に聞こえてしまうのも危険極まりない。
 ゆえにペンダントの魔石に触れなければ通信は成立しない。

 緊急時はさっさと砦に帰って来てもらうので、砦からの花火とともにペンダントを赤く光らす。服の下に入れていても赤い光が漏れる程度の強い光である。
 砦からの花火が誤報だったときは、このペンダントから通信を入れれば取り消しの連絡を入れることができるだろう。
 長年心配だった花火誤報の訂正が、このペンダントで一気に解消する。ありがたい。
 今まで花火の誤報はないのだけど。

「魔の大平原が広大過ぎるんじゃないか?」

「けど、レッドライン以降の性能は保証してないし」

 S級以上の魔物の住処である奥地も奥地は、冒険者が立ち入らないように指導しているので、レッドラインより先はつながるかはわからない。助けを求められても困るしね。完全に二次遭難する。

「えー、何ー、この魔道具を私に見せてー、自慢なのー?」

 ちょっとクリスが不服そうだ。欲しいのかな?街の外れはギリ届くかもしれないが、保証はしないぞ。

「クリス様には入門編の魔法書を見せていただいたので、その成果を披露しました」

「、、、入門編でこの成果になるのが怖いよー。中級編、上級編を渡していたらどうなっていたんだよー」

 中級編、上級編もあるのか。。。
 その通信魔法は使い勝手が良くなるのだろうか?なーんか明後日の方向に進化している気がする。俺が求めているものとは違う気がする。

「結果は同じだと思いますよ。俺が考えるのは、砦の冒険者が安心して便利に使える魔道具なんですから。それに通信魔法が貴族や大商会の間では一般的なら、俺のように工夫して使っている方も多いでしょうし」

「くすん、こんな数日で工夫できる魔導士なんていやしないよ。そもそも、この三十個の魔石が一つの石なんでしょ。こんな大きい魔石を手に入れるのが難しい」

 まあ、それは冒険者の特権ですね。冒険者ギルドが間に入ったら、この魔石のサイズだとかなりの高額だ。侯爵家ならすぐさま払える額だろうが、王都では販売個数が限られているということなのだろうか。あそこは王族や貴族の宝庫だから買い手が大勢いるのだろう。
 けれど。

「いえ、コレ、半分の大きさですよ」

「ん?」

 クリスが意味わからないという顔をした。ナーヴァルはちょっと横を向いた。
 クリス様がわからないといけないので、砦長室に戻って片割れを持って来た。

「コレが残り半分です」

「って、だとしたら、あと三十個はペンダントができるじゃないかっ」

「いえ、コレは砦になければならない魔道具になってます」

 小さい台座にのっているのでわかりにくいか。この小さい台座が魔道具。
 コレがケータイの基地局のようなものになっている。
 直接、ペンダントの通信の魔道具が、それぞれのペンダント同士でやり取りするわけではない。
 ペンダントはどれもこの大きい魔石の魔道具に向けて通信をする。
 ペンダントには番号が割り振られており、ペンダントを手で握って一番と口で言って指定すると俺のペンダントに通信が入る。もしくは、リアムと名前を呼んでも良い。番号かあらかじめ登録した所持者の名前を言えばバイブで相手にお知らせする。
 着信が入った場合は、ペンダントを手で握れば応答できる。
 緊急の赤い光の信号も握れば終了するようになっている。赤い光は緊急帰還の花火と同義であるが、それと同等の緊急事態なら使用しても良いことにしている。

 このペンダントはパーティのリーダーだけ持つことになるが、リーダーの名前を呼べば、パーティの他の者がそのペンダントを持っていてもつながる。ちなみに今は最初に登録した名前だけで、愛称では繋がらないので注意。
 同じ名前のリーダーがいないのが幸運だったが、今後どうするかは検討中。

 順次、砦に帰ってきたA級、B級冒険者パーティのリーダーに渡していこうかな。
 後でアンケートをお願いしたいと思うが、今まで使ってない魔道具をすんなりと利用するだろうか?
 奥地に行ったときに、数回程度、時間によって砦長か副砦長に連絡を入れるように頼んでおくか。もしくは、逆も試すか。魔物討伐で忙しければ無視をして、落ち着いたらかけ直すことにしてもらえば良い。

 クリス様にかいつまんで魔道具の説明をした。

「その大きい魔石が通信を中継しているということか。。。先ほど中継機がどうのこうのって言っていたが、できてるじゃないか」

「いえ、アレは違う魔石同士のやり取りをするための中継機が作れないかなーという意味なので、これとは別物です。そちらの方が難易度が高いと思いますよ」

 作れない危険性もある。数を増やすのなら、今の魔道具を総取り換えはもったいないので、できるだけ完成させたいが。

「ねえ、この技術、うちの兄にも話して良ーい?」

「良いですよー」

 クリスがグリグリとメモを取っている。
 通信の魔法がクリスにとって一般的なら、侯爵にとっても一般的なものだろう。
 侯爵ならそのぐらいの技術はすでにどこぞの国であるわー、とか言うんじゃないか。
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