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5章 必要とされない者
5-14 久々の味
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ナーヴァルとテッチャンは横に置いて、勝手に思い出話に花を咲かせてもらおう。
お前ら声がうるさいから、もう少し離れたところで話して。
俺たちは厨房に近い席に戻る。
騒ぎに交じっていない奥様と話す。
「ええと、奥さんはナーヴァルとは幼馴染みとかではなく?」
「私は旦那を通じての知り合いという感じですね。結婚式等でお会いしたくらいで」
あー、それだとあの五人組とテッチャンの中に一人でいるのは辛いだろう。
魔の大平原に出ている三人も余りにも久々に会うので、夜には砦に戻ってくるという話になったようだ。
どうせ夜は街の居酒屋に飲みに行くのだろうし。
あ、リージェンも飲みに行きたいとごねるだろうから。休日にしてもらっても良いんだけどね。
ただ、この頃ゴタゴタしているから安全を考えよう。
うーん、リージェンが夜いないのなら、補佐の一人を今から休んでもらって、夜に出てもらった方が良いか。補佐二人体制の方が安心だ。
一瞬だけ俺は砦長室に戻って、補佐に話をしてシフト調整して、食堂に戻ってきた。
「あ、そうだ、試食して良いですか」
「はい、どうぞ」
このカラダになって初めての醤油と味噌か。
醤油だと刺身が良いのだが、、、砦には魚がないな。そういやワサビもないな。
醤油はスプーンにチョイとつけて舐めれば良いか。
味噌は、、、とりあえずキュウリをスティック状に切って持って来た。
「塩辛いから気を付けて」
クトフが教えてくれる。
うん、素材の味を生かす料理で薄味に慣れている俺たちからすると、それが正直な感想だろう。
どちらも味見をする。
「、、、どちらも軽い口当たりですね」
「はい、他国の方々はコレでも塩辛いと言われるので」
だろうね。
「普通の醤油と味噌ってありますか?」
「こちらに。うちの国の者は国のものと同じものが欲しいと言われるので」
ああ、他にもこの国に来ている人がいるんだね、ナーヴァルみたいに。
そちらを味見してみる。
あー、コレコレ。醤油と味噌だね。こっちの方が馴染みが深い味だ。
でも、このカラダで食べると確かに塩辛い。
今の日本で普及している食事は日本人が食べ慣れているから美味しいのであって、食べ慣れない人が美味しいと思うには時間と手間が必要だ。
この砦で仕入れるなら軽い口当たりの方だろう。味付けの幅が広がる。
ナーヴァルたちが懐かしいと思うなら、祖国の味を自分たちで購入してもらえば良い。
「コレだとラーメンとかを食べても塩辛いとか味が濃すぎるとか思うんだろうなあ」
ついボソッと言ってしまった。
「っ、ラーメンをご存じなのですかっ。あ、ナーヴァルたちに聞いたとか」
急に奥様が拳を握って立ち上がった。
おやーん?奥様の熱量が上がってしまった。
もしや?
「醤油や味噌を普及した後、ラーメンを普及しようとか思ってますか?」
俺の言葉に彼女は真っ赤になって、しずしず座り直す。
「そうなんです。味に慣れて来た頃を狙って。私はラーメン大好き普及委員会会員でして」
何、その普及委員会。。。
ナーヴァルたちの祖国、面白すぎなんですけど。
いつかは行ってみたいなあ。
「じゃあ、ラーメンの麺とかスープとか収納鞄に入れていたり?」
「もちろんですっ」
もちろん、ですか。
さて、ここにいるのは、料理人三人と俺、、、クロとシロ様がちょこんといつのまにかテーブルにいる。
ちょうどお昼時間だからなあ。
「ええっと、このテーブルにいる俺たち六人前を用意することは可能ですか」
「六人前、、、ええ、可能ですよ。私たちも昼食をご一緒してもかまいませんか」
もちろんです。笑顔で頷いておいた。
奥様の視線がクロとシロ様を向いていた。この子たちもラーメン食べるの?といった視線だ。
何でも食べますよー、俺が手を加えたものならば。
「俺も俺もー。久々のラーメンー。俺は三人前でー」
「ナーヴァル、自分で金は払え」
「えー、坊ちゃんたちはー?」
「コレは砦でメニューにできるかどうかの味見だから必要経費だ」
「えー、シロ様とクロ様はー?」
「俺やクトフも料理を手伝う。もう昼食時間だからちょうどいい」
「えー、ずるー」
「じゃあ、一人前は経費で落としてやる」
「ううっ、坊ちゃん、厳しい」
「はははっ、しっかり尻に引かれているなあ」
テッチャンが笑ってナーヴァルに言った。
俺は何もツッコミしないぞ。
俺たちは厨房に移ると、二つの鍋にお湯を沸かす。
「スープは本来何時間も煮込んで作る物なんですが、今回は簡単にできるようにお湯でのばす濃縮したスープの素を使います」
「今回は醤油ラーメンですか?味噌ラーメンですか?」
醤油と味噌を売りに来たのだから、とりあえずこの二択だろう。
「種類まで知っているんですか?スープを取る時間があるならとんこつラーメンも食べてもらいたいんですが、今回は定番の醤油ラーメンです」
濃縮したスープの素を微かに味見する。それを見ていた料理人たちも味見をした。すぐに水を飲んでいる者がいる。そりゃ、濃いよ。
「うーん、俺たちの分はお湯の分量を普段より少し多めにしてもらえますか?それか、スープの素を少し減らすとか。たぶんこのままだと俺たちには味が濃いと思います」
「確かにそうだな。うちの国の食事は味付けが濃いものが多い」
ナーヴァルが遠くから頷いた。テッチャンも遠くから見守っている。テッチャンはもしかして料理下手か?
で、醤油ラーメンか。となると。
「クトフ、ネギ余ってるか?」
「あるよー」
クトフがすでに洗ったものを数本持って来てくれる。
青い部分を切って、お湯を沸かす鍋に入れる。
「白髪ねぎの方が良いかー。あと何かないかなー。あ、塩煮豚もどきがある。チャーシュー代わりにコレを使おう」
収納鞄から取り出した。塩煮豚もどきは魔物肉で作ったので豚ではないので、もどき。一人当たり二枚ずつかなあ。
白髪ねぎもちゃっちゃと切って、水に晒す。
「、、、もしかして、食べたことあります?」
「うーん、食べたことがあるような、ないような」
このカラダでは食べたことがないが、前世ではけっこう食べてました。
さて、この奥様はラーメン丼まで収納鞄に入れていた。箸やレンゲも出している。
この砦には丼はないが深めで大きめの皿がある。大量に食べる者に出される皿である。
もしラーメンが採用となったらその皿で良いだろう。箸って、この砦で使える者は少数派じゃないのか?
フォークも用意しておこうか。
チャーシューネギラーメンが出来上がった。
今日は食堂に移り、テーブルを囲む。
俺やナーヴァルは箸を使っているが、クロとシロ様も器用に箸が使えるのは不思議だ。丼の方が大きいのに、器用に食べている。
久々の醤油ラーメンだ。やはり味が濃いのでお湯を持って来て少々薄める。俺はスープを飲む派なのだ。
コレはコレで美味しい。
コショウもかけるか。
「麺がツルツルもっちりとしていて美味しいですね」
「うちの店が研究を重ねた自信作です」
「うちの店?奥様は国に店をお持ちで?」
「あっ、いえ、うちの実家の店がラーメン屋なんです」
「ああ、それで。ご実家のラーメン屋は醤油ラーメンが基本のメニューなんですか?」
「実はうちの店はとんこつラーメンで」
だから、一押しがとんこつラーメンだったのか。しかも、こだわりがある話し方だった。スープを取るって言っていたからなあ。
「良いですねえ、とんこつラーメン。俺も一番好きでしたよ」
「そうですよね、良いですよね。他国では少々不評なんですが、じっくりとじわじわと侵略していきたいと思います」
侵略かあ。
「頑張ってくださいね」
クロとシロ様も満足しているようだし、たまには砦でも変わった物をメニューにするのも良いかもしれない。
砦で育って、砦で亡くなる者も少なくないのだし、外国の食事に触れる機会もあっても良いのだろう。
お前ら声がうるさいから、もう少し離れたところで話して。
俺たちは厨房に近い席に戻る。
騒ぎに交じっていない奥様と話す。
「ええと、奥さんはナーヴァルとは幼馴染みとかではなく?」
「私は旦那を通じての知り合いという感じですね。結婚式等でお会いしたくらいで」
あー、それだとあの五人組とテッチャンの中に一人でいるのは辛いだろう。
魔の大平原に出ている三人も余りにも久々に会うので、夜には砦に戻ってくるという話になったようだ。
どうせ夜は街の居酒屋に飲みに行くのだろうし。
あ、リージェンも飲みに行きたいとごねるだろうから。休日にしてもらっても良いんだけどね。
ただ、この頃ゴタゴタしているから安全を考えよう。
うーん、リージェンが夜いないのなら、補佐の一人を今から休んでもらって、夜に出てもらった方が良いか。補佐二人体制の方が安心だ。
一瞬だけ俺は砦長室に戻って、補佐に話をしてシフト調整して、食堂に戻ってきた。
「あ、そうだ、試食して良いですか」
「はい、どうぞ」
このカラダになって初めての醤油と味噌か。
醤油だと刺身が良いのだが、、、砦には魚がないな。そういやワサビもないな。
醤油はスプーンにチョイとつけて舐めれば良いか。
味噌は、、、とりあえずキュウリをスティック状に切って持って来た。
「塩辛いから気を付けて」
クトフが教えてくれる。
うん、素材の味を生かす料理で薄味に慣れている俺たちからすると、それが正直な感想だろう。
どちらも味見をする。
「、、、どちらも軽い口当たりですね」
「はい、他国の方々はコレでも塩辛いと言われるので」
だろうね。
「普通の醤油と味噌ってありますか?」
「こちらに。うちの国の者は国のものと同じものが欲しいと言われるので」
ああ、他にもこの国に来ている人がいるんだね、ナーヴァルみたいに。
そちらを味見してみる。
あー、コレコレ。醤油と味噌だね。こっちの方が馴染みが深い味だ。
でも、このカラダで食べると確かに塩辛い。
今の日本で普及している食事は日本人が食べ慣れているから美味しいのであって、食べ慣れない人が美味しいと思うには時間と手間が必要だ。
この砦で仕入れるなら軽い口当たりの方だろう。味付けの幅が広がる。
ナーヴァルたちが懐かしいと思うなら、祖国の味を自分たちで購入してもらえば良い。
「コレだとラーメンとかを食べても塩辛いとか味が濃すぎるとか思うんだろうなあ」
ついボソッと言ってしまった。
「っ、ラーメンをご存じなのですかっ。あ、ナーヴァルたちに聞いたとか」
急に奥様が拳を握って立ち上がった。
おやーん?奥様の熱量が上がってしまった。
もしや?
「醤油や味噌を普及した後、ラーメンを普及しようとか思ってますか?」
俺の言葉に彼女は真っ赤になって、しずしず座り直す。
「そうなんです。味に慣れて来た頃を狙って。私はラーメン大好き普及委員会会員でして」
何、その普及委員会。。。
ナーヴァルたちの祖国、面白すぎなんですけど。
いつかは行ってみたいなあ。
「じゃあ、ラーメンの麺とかスープとか収納鞄に入れていたり?」
「もちろんですっ」
もちろん、ですか。
さて、ここにいるのは、料理人三人と俺、、、クロとシロ様がちょこんといつのまにかテーブルにいる。
ちょうどお昼時間だからなあ。
「ええっと、このテーブルにいる俺たち六人前を用意することは可能ですか」
「六人前、、、ええ、可能ですよ。私たちも昼食をご一緒してもかまいませんか」
もちろんです。笑顔で頷いておいた。
奥様の視線がクロとシロ様を向いていた。この子たちもラーメン食べるの?といった視線だ。
何でも食べますよー、俺が手を加えたものならば。
「俺も俺もー。久々のラーメンー。俺は三人前でー」
「ナーヴァル、自分で金は払え」
「えー、坊ちゃんたちはー?」
「コレは砦でメニューにできるかどうかの味見だから必要経費だ」
「えー、シロ様とクロ様はー?」
「俺やクトフも料理を手伝う。もう昼食時間だからちょうどいい」
「えー、ずるー」
「じゃあ、一人前は経費で落としてやる」
「ううっ、坊ちゃん、厳しい」
「はははっ、しっかり尻に引かれているなあ」
テッチャンが笑ってナーヴァルに言った。
俺は何もツッコミしないぞ。
俺たちは厨房に移ると、二つの鍋にお湯を沸かす。
「スープは本来何時間も煮込んで作る物なんですが、今回は簡単にできるようにお湯でのばす濃縮したスープの素を使います」
「今回は醤油ラーメンですか?味噌ラーメンですか?」
醤油と味噌を売りに来たのだから、とりあえずこの二択だろう。
「種類まで知っているんですか?スープを取る時間があるならとんこつラーメンも食べてもらいたいんですが、今回は定番の醤油ラーメンです」
濃縮したスープの素を微かに味見する。それを見ていた料理人たちも味見をした。すぐに水を飲んでいる者がいる。そりゃ、濃いよ。
「うーん、俺たちの分はお湯の分量を普段より少し多めにしてもらえますか?それか、スープの素を少し減らすとか。たぶんこのままだと俺たちには味が濃いと思います」
「確かにそうだな。うちの国の食事は味付けが濃いものが多い」
ナーヴァルが遠くから頷いた。テッチャンも遠くから見守っている。テッチャンはもしかして料理下手か?
で、醤油ラーメンか。となると。
「クトフ、ネギ余ってるか?」
「あるよー」
クトフがすでに洗ったものを数本持って来てくれる。
青い部分を切って、お湯を沸かす鍋に入れる。
「白髪ねぎの方が良いかー。あと何かないかなー。あ、塩煮豚もどきがある。チャーシュー代わりにコレを使おう」
収納鞄から取り出した。塩煮豚もどきは魔物肉で作ったので豚ではないので、もどき。一人当たり二枚ずつかなあ。
白髪ねぎもちゃっちゃと切って、水に晒す。
「、、、もしかして、食べたことあります?」
「うーん、食べたことがあるような、ないような」
このカラダでは食べたことがないが、前世ではけっこう食べてました。
さて、この奥様はラーメン丼まで収納鞄に入れていた。箸やレンゲも出している。
この砦には丼はないが深めで大きめの皿がある。大量に食べる者に出される皿である。
もしラーメンが採用となったらその皿で良いだろう。箸って、この砦で使える者は少数派じゃないのか?
フォークも用意しておこうか。
チャーシューネギラーメンが出来上がった。
今日は食堂に移り、テーブルを囲む。
俺やナーヴァルは箸を使っているが、クロとシロ様も器用に箸が使えるのは不思議だ。丼の方が大きいのに、器用に食べている。
久々の醤油ラーメンだ。やはり味が濃いのでお湯を持って来て少々薄める。俺はスープを飲む派なのだ。
コレはコレで美味しい。
コショウもかけるか。
「麺がツルツルもっちりとしていて美味しいですね」
「うちの店が研究を重ねた自信作です」
「うちの店?奥様は国に店をお持ちで?」
「あっ、いえ、うちの実家の店がラーメン屋なんです」
「ああ、それで。ご実家のラーメン屋は醤油ラーメンが基本のメニューなんですか?」
「実はうちの店はとんこつラーメンで」
だから、一押しがとんこつラーメンだったのか。しかも、こだわりがある話し方だった。スープを取るって言っていたからなあ。
「良いですねえ、とんこつラーメン。俺も一番好きでしたよ」
「そうですよね、良いですよね。他国では少々不評なんですが、じっくりとじわじわと侵略していきたいと思います」
侵略かあ。
「頑張ってくださいね」
クロとシロ様も満足しているようだし、たまには砦でも変わった物をメニューにするのも良いかもしれない。
砦で育って、砦で亡くなる者も少なくないのだし、外国の食事に触れる機会もあっても良いのだろう。
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