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10章 秋休みは稼ぎ時
10-1 魔法陣での出発
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「コレが大都市か、、、」
冒険者ギルド総本部の建物の外に出る。
クジョー王国の王都もなかなかに大きな建物が並び広く賑わっていたが、さすがにこの大陸一の大国と言われているグレーデン大国の首都である。
この世界には建築許可なんて存在していないのだろうなと思うほどの高さや歪な、、、自由な発想の形の建物が並ぶ。
魔法があるから何とかなる、という建物だ。
そして、冒険者ギルド総本部の建物前の大通りの人通りの多さといったら、クジョー王国の比ではない。
服装だけでなく肌の色も髪の色も体格等も人それぞれ、多民族国家だということを色濃く表している。
秋休み初日。
俺はゾーイとバージとともに、クジョー王国王都の冒険者ギルドに向かった。ゾーイの御者は馬車で俺たちを運ぶと帰っていったが、従者くんは大きな荷物を持って横に立っている。
バージも大きいトランクを持っているが、俺はいつも通り何もかも収納鞄に入っているのでいつもの冒険者の格好である。
冒険者ギルドのクジョー王国本部では職員さんに応接室へと通される。
ここの職員さんたちには書類の素案を見せて意見や感想を聞いている。
冒険者に書きやすい書類であっても、それを事務作業するのは職員たち。そちら側の意見も聞いておかなければならなかったからだ。それに、その書類にはなくてはならない必要な事項や、そこになくてもかまわない項目の洗い出しもおこなってもらった。
冒険者の意見としては、書類を書くこと自体が面倒だという話だ。
そうだけどさ。
俺もそう思うけどさ。
どないせいっちゅうんじゃ。
この世界でも届出は紙の書類ベースだ。
まあ、冒険者に対してはシンプルに書きやすくするしかないのだろう。
必要最小限。
これまでは必要だった事項でも、書かなくても良くなったものも存在している。
総本部の方でもどうなのか確認して、新しい書類は適度に試験運用してもらってから開始したい。
総本部の迎えがまだだったので、俺たちは応接室で職員さんにお茶を出してもらえた。
まあ、職員さんたちも余裕をもった時間を言ったのだろう。
「冒険者ギルドの総本部はグレーデン大国にあります。ここでも行ったことのある者も本部長など数が限られておりまして、この地でも大国の物は輸入されてきますし、噂はどうしても耳にしてしまうんです」
でしょうね。
国外の品物は総じて高くなる傾向がある。それが大国となるとこの地ではさらに高額の品になる。
貴族はともかく、庶民では高嶺の花。それがさらに憧れを強めてしまう。
スっと職員さんに封筒を二つ渡された。
「リアムさん、こちらは餞別です。できれば私たちにお土産を買ってきてほしいという下心で皆から集めました。そして、こちらでお土産を購入してきてください」
はい、下心をしっかり口にできる職員さん、意外と好きですよ。
餞別という名の依頼料と、きちんとお土産用のお金をわけて渡してくれるところが素晴らしい。冒険者を相手にする冒険者ギルドらしいと言えば、その通り。
封筒の裏にはしっかり依頼主まで書かれている。
職員さんもしっかりしているなあ、、、おや、冒険者も含まれていません?
ゼンさんの名前も記載されてますよ。職員さんはどこまで声をかけているのだか。
俺、いつもおうちにお金がないと言い続けているからなあ。。。
だから、依頼形式なのかな?
実際、メルクイーン男爵家には金がないが。
それでも、餞別がなくても、菓子折りの一つくらいはお土産として買ってきただろうけど。
「高いものじゃなくて良いんです。グレーデン大国のお菓子やお酒をできるだけ数多く手に入れて来てくれることを我々は望んでいます」
菓子折り一つじゃ足りないーっ、と言っているかのようだ。一箱程度じゃ全職員には絶対に行きわたらないからな。
俺が無尽蔵の収納鞄を持っているからこその依頼。
グレーデン大国から来る総本部の人たちは特に手土産を持って来ることもない。
つまり、大衆向けのお菓子や酒を購入してほしいということだろう。
ふっ、そういう依頼なら貴族とは名ばかりの庶民生活が長い俺に頼むのは正解だ。
しっかり費用対効果が高いお菓子やお酒を選んでこようじゃないか。
「あれっ、時間通りに来たのに、お茶してる?はっ、まさか、待たせちゃいました?」
応接室に入ってきたズィーが俺たちを見るなり言った。
本部長も一緒に応接室に入って来た。
うん、予想通りだった。
封筒を収納鞄にしまう。
「いえいえ、少し打合せしていただけですよ。お迎えに来ていただいてありがとうございます、ズィーさん」
「いやいや、こちらの依頼ですからね。迎えに来るのは当然です。非常に残念ですが、私が貴方がたのそばにいるのは最初と終わりの数日間です」
いつもながら目がほっそいなー。
心配なのかな?
「俺たちが何かしでかさないか不安でしょうが、書類を改良することは砦のためにもなりますから、手は抜きませんよ」
「そういう心配はしてないよー。私が苦情処理で各地を飛びまわる必要がなかったら、リアムたちのそばにいて面白さを味わえるのに」
「書類作成にそんなに面白いことなんてありませんよ」
「そっかなー?時間が空いたら、途中で様子を見に行くよー」
ズィーさんは何を期待しているのだろう。黙々と作業をするか、事務方と打ち合わせをするか、そんな仕事しかないと思うが。
隣の何もない部屋に移り、ズィーがほどほどの大きさの魔石を中央に置き、指輪の魔法陣を展開する。
素早い。
壁際にお見送りの本部長と職員さんが立っている。
一応、複写の魔法をしておく。前回と同じだと思うけどね。
ゾーイの従者は冒険者ギルド総本部が雇うわけではないので報酬は出ないが、ゾーイは貴族も貴族の侯爵家の人間なので、従者の宿泊費等の必要経費は冒険者ギルド持ちになっている。
バージに従者を連れて行くかと聞いたところ、自分のことは自分でできるから必要ないと言われた。
ゾーイも自分のことはできるんだけどね。侯爵家の面子なんだろうね。
俺にはもともと従者なんかいないしー。
「では、グレーデン大国の総本部に出発ー」
ズィーの緩い号令とともに、ほんのりと光を放つ魔法陣の上に五人でのった。
魔法陣の光がおさまると、同じような窓のない調度品が何もない部屋にいた。
冒険者ギルドの部屋の内装はどこの国でも似たようなものだろう。
見送っていた二人がいなくなっていたので、目的地に着いたようだ。
ズィーがさっさと部屋の扉を開けて通路に出る。
「クジョー王国とは時差があるから、こちらはもう夕刻だよ。まだ疲れてはいないだろうけど、総本部の隣に宿をとっている。総本部内にも宿泊施設はあるが、監視されているようで気が休まらないと思って、別に手配した。仕事をするときは総本部の会議室の一つをキミたち専用にしているからそこを使ってほしい。明日からゴウが手伝いに来るから、是非ともこき使ってやってほしい」
細い目が本気で言っている。こき使えって。。。
ズィーさんは苦情処理担当、、、これも苦情処理ってことか。。。
「あと、コレは翻訳の魔道具だ。この国にいる間、貸与という形になる」
通路を歩きながら、ズィーが俺たちにペンダントを渡す。
長い通路を移動する時間も無駄にはしない。
四人ともさっさと首にかける。
「ズィーさんはクジョー王国の言葉を普通に話してますよね」
「まあ、この大陸では大元の三種類ぐらいを話せれば、後は多少変化するだけだから。大陸の西の方の言葉を話せれば、クジョー王国の言葉も何とかなる」
「その多少変化する、のが難しいのに」
過去のナーヴァル一行のようなことになるというのに。
ズィーは苦情処理担当なのだから、そのあたりは熟知しているのだろうけど。
彼が多言語を扱うのは、やはり謝罪はその国の言葉で語るのが一番だからか?
俺はじっと翻訳の魔道具を見る。
ん?
「、、、それも解析しちゃうの?できちゃうの?」
その細い目は何を期待しているんだ?
冒険者ギルド総本部の建物の外に出る。
クジョー王国の王都もなかなかに大きな建物が並び広く賑わっていたが、さすがにこの大陸一の大国と言われているグレーデン大国の首都である。
この世界には建築許可なんて存在していないのだろうなと思うほどの高さや歪な、、、自由な発想の形の建物が並ぶ。
魔法があるから何とかなる、という建物だ。
そして、冒険者ギルド総本部の建物前の大通りの人通りの多さといったら、クジョー王国の比ではない。
服装だけでなく肌の色も髪の色も体格等も人それぞれ、多民族国家だということを色濃く表している。
秋休み初日。
俺はゾーイとバージとともに、クジョー王国王都の冒険者ギルドに向かった。ゾーイの御者は馬車で俺たちを運ぶと帰っていったが、従者くんは大きな荷物を持って横に立っている。
バージも大きいトランクを持っているが、俺はいつも通り何もかも収納鞄に入っているのでいつもの冒険者の格好である。
冒険者ギルドのクジョー王国本部では職員さんに応接室へと通される。
ここの職員さんたちには書類の素案を見せて意見や感想を聞いている。
冒険者に書きやすい書類であっても、それを事務作業するのは職員たち。そちら側の意見も聞いておかなければならなかったからだ。それに、その書類にはなくてはならない必要な事項や、そこになくてもかまわない項目の洗い出しもおこなってもらった。
冒険者の意見としては、書類を書くこと自体が面倒だという話だ。
そうだけどさ。
俺もそう思うけどさ。
どないせいっちゅうんじゃ。
この世界でも届出は紙の書類ベースだ。
まあ、冒険者に対してはシンプルに書きやすくするしかないのだろう。
必要最小限。
これまでは必要だった事項でも、書かなくても良くなったものも存在している。
総本部の方でもどうなのか確認して、新しい書類は適度に試験運用してもらってから開始したい。
総本部の迎えがまだだったので、俺たちは応接室で職員さんにお茶を出してもらえた。
まあ、職員さんたちも余裕をもった時間を言ったのだろう。
「冒険者ギルドの総本部はグレーデン大国にあります。ここでも行ったことのある者も本部長など数が限られておりまして、この地でも大国の物は輸入されてきますし、噂はどうしても耳にしてしまうんです」
でしょうね。
国外の品物は総じて高くなる傾向がある。それが大国となるとこの地ではさらに高額の品になる。
貴族はともかく、庶民では高嶺の花。それがさらに憧れを強めてしまう。
スっと職員さんに封筒を二つ渡された。
「リアムさん、こちらは餞別です。できれば私たちにお土産を買ってきてほしいという下心で皆から集めました。そして、こちらでお土産を購入してきてください」
はい、下心をしっかり口にできる職員さん、意外と好きですよ。
餞別という名の依頼料と、きちんとお土産用のお金をわけて渡してくれるところが素晴らしい。冒険者を相手にする冒険者ギルドらしいと言えば、その通り。
封筒の裏にはしっかり依頼主まで書かれている。
職員さんもしっかりしているなあ、、、おや、冒険者も含まれていません?
ゼンさんの名前も記載されてますよ。職員さんはどこまで声をかけているのだか。
俺、いつもおうちにお金がないと言い続けているからなあ。。。
だから、依頼形式なのかな?
実際、メルクイーン男爵家には金がないが。
それでも、餞別がなくても、菓子折りの一つくらいはお土産として買ってきただろうけど。
「高いものじゃなくて良いんです。グレーデン大国のお菓子やお酒をできるだけ数多く手に入れて来てくれることを我々は望んでいます」
菓子折り一つじゃ足りないーっ、と言っているかのようだ。一箱程度じゃ全職員には絶対に行きわたらないからな。
俺が無尽蔵の収納鞄を持っているからこその依頼。
グレーデン大国から来る総本部の人たちは特に手土産を持って来ることもない。
つまり、大衆向けのお菓子や酒を購入してほしいということだろう。
ふっ、そういう依頼なら貴族とは名ばかりの庶民生活が長い俺に頼むのは正解だ。
しっかり費用対効果が高いお菓子やお酒を選んでこようじゃないか。
「あれっ、時間通りに来たのに、お茶してる?はっ、まさか、待たせちゃいました?」
応接室に入ってきたズィーが俺たちを見るなり言った。
本部長も一緒に応接室に入って来た。
うん、予想通りだった。
封筒を収納鞄にしまう。
「いえいえ、少し打合せしていただけですよ。お迎えに来ていただいてありがとうございます、ズィーさん」
「いやいや、こちらの依頼ですからね。迎えに来るのは当然です。非常に残念ですが、私が貴方がたのそばにいるのは最初と終わりの数日間です」
いつもながら目がほっそいなー。
心配なのかな?
「俺たちが何かしでかさないか不安でしょうが、書類を改良することは砦のためにもなりますから、手は抜きませんよ」
「そういう心配はしてないよー。私が苦情処理で各地を飛びまわる必要がなかったら、リアムたちのそばにいて面白さを味わえるのに」
「書類作成にそんなに面白いことなんてありませんよ」
「そっかなー?時間が空いたら、途中で様子を見に行くよー」
ズィーさんは何を期待しているのだろう。黙々と作業をするか、事務方と打ち合わせをするか、そんな仕事しかないと思うが。
隣の何もない部屋に移り、ズィーがほどほどの大きさの魔石を中央に置き、指輪の魔法陣を展開する。
素早い。
壁際にお見送りの本部長と職員さんが立っている。
一応、複写の魔法をしておく。前回と同じだと思うけどね。
ゾーイの従者は冒険者ギルド総本部が雇うわけではないので報酬は出ないが、ゾーイは貴族も貴族の侯爵家の人間なので、従者の宿泊費等の必要経費は冒険者ギルド持ちになっている。
バージに従者を連れて行くかと聞いたところ、自分のことは自分でできるから必要ないと言われた。
ゾーイも自分のことはできるんだけどね。侯爵家の面子なんだろうね。
俺にはもともと従者なんかいないしー。
「では、グレーデン大国の総本部に出発ー」
ズィーの緩い号令とともに、ほんのりと光を放つ魔法陣の上に五人でのった。
魔法陣の光がおさまると、同じような窓のない調度品が何もない部屋にいた。
冒険者ギルドの部屋の内装はどこの国でも似たようなものだろう。
見送っていた二人がいなくなっていたので、目的地に着いたようだ。
ズィーがさっさと部屋の扉を開けて通路に出る。
「クジョー王国とは時差があるから、こちらはもう夕刻だよ。まだ疲れてはいないだろうけど、総本部の隣に宿をとっている。総本部内にも宿泊施設はあるが、監視されているようで気が休まらないと思って、別に手配した。仕事をするときは総本部の会議室の一つをキミたち専用にしているからそこを使ってほしい。明日からゴウが手伝いに来るから、是非ともこき使ってやってほしい」
細い目が本気で言っている。こき使えって。。。
ズィーさんは苦情処理担当、、、これも苦情処理ってことか。。。
「あと、コレは翻訳の魔道具だ。この国にいる間、貸与という形になる」
通路を歩きながら、ズィーが俺たちにペンダントを渡す。
長い通路を移動する時間も無駄にはしない。
四人ともさっさと首にかける。
「ズィーさんはクジョー王国の言葉を普通に話してますよね」
「まあ、この大陸では大元の三種類ぐらいを話せれば、後は多少変化するだけだから。大陸の西の方の言葉を話せれば、クジョー王国の言葉も何とかなる」
「その多少変化する、のが難しいのに」
過去のナーヴァル一行のようなことになるというのに。
ズィーは苦情処理担当なのだから、そのあたりは熟知しているのだろうけど。
彼が多言語を扱うのは、やはり謝罪はその国の言葉で語るのが一番だからか?
俺はじっと翻訳の魔道具を見る。
ん?
「、、、それも解析しちゃうの?できちゃうの?」
その細い目は何を期待しているんだ?
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