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第2話
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私は霞が関にある、西川弁護士の事務所を尋ねた。
西川弁護士はテレビでもよく見かけるコメンテーターだった。
物腰はやわらかいが眼光の鋭い、ハイエナのような男である。
いかにもお金が大好きそうで、いつかは衆議院議員になって法務大臣となり、「俺様が法律だ!」と、妄想しているような、脂ぎった中年男性だった。
「はじめまして田所さん。弁護士の西川です。
既にご存知かとは思いますが、あの『行列に並ぶなんてまっぴらゴメンだ 法律案内所』に出演している、あの西川則易夫です。よろしく。
先日はお電話で失礼いたしました。お父上の榮太郎会長とは生前からお付き合いがございまして、今回のご逝去に伴い、遺言書に基づく遺産相続のお手続きのご依頼をいただいております。もちろん、ご相続の意思はおありですよね?」
「遺産というのはどのくらい・・・、あるんでしょうか?
負債も財産ですよね? まさか借金を相続なんてことはないですよね?」
「あはははは ご心配には及びません、負債は銀座のクラブに二千万円ほどです」
「二、二千万円! 相続しません! そんな大金! 失礼します!」
私はスリットスカートがエロい、江角マキコのような秘書が出してくれた、マダム津々子のバウムクーヘンをエゾリスのように口に頬張ると、素早く退席しようとした。
「まあまあ落ち着いて下さいよ田所さん。話はこれからです」
相手は西川弁護士である。騙されたら大変だ。
私は眉毛に唾を付けた。
(騙されるものか!)
就職してから父とは一度も会ってはいなかった。
母は私が中学の時に他界しており、私と父は賃貸マンションにふたりで暮らしていたが、私が就職して家を出ると父も家を引き払い、行方不明になっていたのだ。
西川弁護士は話を続けた。
「資産は世田谷に屋敷が1邸と、その他相続税等を支払った場合の残りの現預金、有価証券等がおよそ3億4千万円、そしてポルシェとメルセデス、そしてフェラーリF40がございます」
私は思わず叫んでしまった。
「世田谷に屋敷! 3億4千万円の株式と現預金! ポルシェにベンツ! そしてフェラ・・・」
「田所さん、フェラチオではありません、フェラーリですフェラーリ。はい、左様でございます。もちろん銀座のクラブの未払金も支払った後の金額でございます。
何かご質問はございますか?」
「あのー、父の死因は何だったのでしょうか? そしてどうして父がそんなお金持ちに?」
「死因は急性心筋梗塞でした。こちらがその時の死亡診断書になります。
お父上のお話ですと、宝くじで5億円が当選し、それを元手に株や先物取引、不動産売買等で財を成したとおっしゃっていました。よう知らんけど。
失礼、大阪出身なものでつい大阪弁が出てしまいました。お許し下さい。
それではこれらの書類をご確認の上、サインをお願いいたします」
書類を確認して私がサインをしようとすると、西川弁護士がそれを止めた。
「お待ち下さい。ひとつ言い忘れていたことがございます。
遺言状の中に、「家は売却してはならん。シェアハウスにして住人と一緒に暮らすように」という文言がございますが、その点については大丈夫でしょうか?」
「つまり、世田谷の家は売らずに「シェアハウスの大家になって一緒にその住人たちと暮らせ」ということでしょうか?」
「そのようです。いかがですか?」
もちろん親父の残してくれた家を売るつもりはない。
折角父が残してくれた家だからだ。
そして私は父が好きだった。
だがそれを岬が知ったら多分こう言う筈だ。
「その家をさっさと売っちゃってさあ、そのお金で港区のタワマンで暮らそうよ!」
と言うに決まっている。
岬は都内のタワマンで生活するのが夢だったからだ。
「もちろん家は処分しません。わかりました、家は私が大家として同居して、シェアハウスにします」
「では改めてサインをお願いします」
その日から私は突然の大金持ちになった。
西川弁護士はテレビでもよく見かけるコメンテーターだった。
物腰はやわらかいが眼光の鋭い、ハイエナのような男である。
いかにもお金が大好きそうで、いつかは衆議院議員になって法務大臣となり、「俺様が法律だ!」と、妄想しているような、脂ぎった中年男性だった。
「はじめまして田所さん。弁護士の西川です。
既にご存知かとは思いますが、あの『行列に並ぶなんてまっぴらゴメンだ 法律案内所』に出演している、あの西川則易夫です。よろしく。
先日はお電話で失礼いたしました。お父上の榮太郎会長とは生前からお付き合いがございまして、今回のご逝去に伴い、遺言書に基づく遺産相続のお手続きのご依頼をいただいております。もちろん、ご相続の意思はおありですよね?」
「遺産というのはどのくらい・・・、あるんでしょうか?
負債も財産ですよね? まさか借金を相続なんてことはないですよね?」
「あはははは ご心配には及びません、負債は銀座のクラブに二千万円ほどです」
「二、二千万円! 相続しません! そんな大金! 失礼します!」
私はスリットスカートがエロい、江角マキコのような秘書が出してくれた、マダム津々子のバウムクーヘンをエゾリスのように口に頬張ると、素早く退席しようとした。
「まあまあ落ち着いて下さいよ田所さん。話はこれからです」
相手は西川弁護士である。騙されたら大変だ。
私は眉毛に唾を付けた。
(騙されるものか!)
就職してから父とは一度も会ってはいなかった。
母は私が中学の時に他界しており、私と父は賃貸マンションにふたりで暮らしていたが、私が就職して家を出ると父も家を引き払い、行方不明になっていたのだ。
西川弁護士は話を続けた。
「資産は世田谷に屋敷が1邸と、その他相続税等を支払った場合の残りの現預金、有価証券等がおよそ3億4千万円、そしてポルシェとメルセデス、そしてフェラーリF40がございます」
私は思わず叫んでしまった。
「世田谷に屋敷! 3億4千万円の株式と現預金! ポルシェにベンツ! そしてフェラ・・・」
「田所さん、フェラチオではありません、フェラーリですフェラーリ。はい、左様でございます。もちろん銀座のクラブの未払金も支払った後の金額でございます。
何かご質問はございますか?」
「あのー、父の死因は何だったのでしょうか? そしてどうして父がそんなお金持ちに?」
「死因は急性心筋梗塞でした。こちらがその時の死亡診断書になります。
お父上のお話ですと、宝くじで5億円が当選し、それを元手に株や先物取引、不動産売買等で財を成したとおっしゃっていました。よう知らんけど。
失礼、大阪出身なものでつい大阪弁が出てしまいました。お許し下さい。
それではこれらの書類をご確認の上、サインをお願いいたします」
書類を確認して私がサインをしようとすると、西川弁護士がそれを止めた。
「お待ち下さい。ひとつ言い忘れていたことがございます。
遺言状の中に、「家は売却してはならん。シェアハウスにして住人と一緒に暮らすように」という文言がございますが、その点については大丈夫でしょうか?」
「つまり、世田谷の家は売らずに「シェアハウスの大家になって一緒にその住人たちと暮らせ」ということでしょうか?」
「そのようです。いかがですか?」
もちろん親父の残してくれた家を売るつもりはない。
折角父が残してくれた家だからだ。
そして私は父が好きだった。
だがそれを岬が知ったら多分こう言う筈だ。
「その家をさっさと売っちゃってさあ、そのお金で港区のタワマンで暮らそうよ!」
と言うに決まっている。
岬は都内のタワマンで生活するのが夢だったからだ。
「もちろん家は処分しません。わかりました、家は私が大家として同居して、シェアハウスにします」
「では改めてサインをお願いします」
その日から私は突然の大金持ちになった。
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