上 下
12 / 19

第12話

しおりを挟む
 夏目と朝倉サト、そして由佳の三人は、いつものようにパトラッシュとプリンの夕方の散歩をしていた。

 「由佳ちゃん、みんなに『ミセスドーナツ』でも買って行こうか?」

 夏目が由佳に言った。

 「うん、由佳ちゃん、『ミセスドーナツ』のアメリカン・クルーリー大好き!。サトちゃんは何が好き?」
 「私はポンタリングが好きかな?」
 「チョコのついているやつ?」
 「あれ、美味しいわよね?」
 「うん」
 「それじゃあ由佳ちゃんはアメリカン・クルーリーとポンタリングのチョコがついているやつね?」
 「ありがとう夏目っち。由佳ちゃん、うれしいなあ。
 由佳ちゃん、夏目ちゃんのお嫁さんになってあげるね?」
 「ありがとう、由佳ちゃん」

 夏目とサトは顔を見合わせて笑った。

 

 『ミセスドーナツ』までは少し遠かった。
 ドーナツを買って店を出ると、由佳が夏目に言った。

 「夏目っち、由佳ちゃん疲れたからおんぶして」
 「疲れちゃったか? 今日は歩いたからな?」
 「うん、おんぶして」
 「わかったよ。サトちゃん、すみませんがドーナツをお願いしてもいいですか?」
 「もちろんよ」

 夏目はサトにドーナツの入った箱を渡し、由佳をおんぶした。
 サトはパトラッシュとプリンのリードを巧みに操りながら、由佳を背負った夏目と並んで歩いた。

 
 女の子は意外と重い。だが夏目はうれしそうだった。

 「由佳ちゃん、眠っているわ。余程疲れたのね? 重いでしょ? 女の子って男の子よりも重く感じるものよ」
 「私にもひとり、娘がいましてね? 娘が小さい時はよくこうしておんぶしたもんです」
 「夏目さんって結婚していらしたの?」
 「ええ。10年前に女房と離婚して、それ以来娘ともずっと会っていません。
 私は家族から捨てられたんです」
 「捨てられたんじゃないと思う。あなたが捨てたのよ・・・」

 サトはまるで自分のことを言っているかのようにそう呟いた。

 「そうですね? 私は家族を捨てました。大切な家族を」

 夏目は泣いていた。背中に幼かった娘の記憶を感じて。

 「ヘンなことを言ってごめんなさい」
 「いえ、サトちゃんの言うとおりですから。
 でもこの涙は悲しいから泣いているのではありません、うれしいんです。私に由佳ちゃんという孫が出来て」
 「そうね? それは私も同じ気持ちよ」

 夕暮れの田園調布。夏目とサト、由佳、そしてパトラッシュとプリンは家族だった。




 ポロロロロン ポロロロロン

 「はい! こちら『すごい大学病院』の救命救急です!」
 「渋谷道玄坂消防です! 50代男性と30代女性、意識はあります! バイタル少し高めの不倫カップルの受け入れは可能でしょうか!」
 「受け入れ可能です! でもどうして不倫カップルだと?」
 「それは患者を見ればわかります!」
 「了解しました!」


 15分後、不倫カップルが搬送されて来た。1台のストレッチャーに乗せられて。

 「こ、これは何!」
 「ふたりとも結婚指輪をしている! ダブル不倫カップルだわ!」
 「早く何とかしてくれ! チ◯コが千切れそうだ!」
 「膣痙攣を起こしている! おい秋山、すぐに男性患者の前立腺を刺激して射精させてやれ!」
 「わ、私には出来ません! そんなの夫にもやったことがない!」
 「お前はそれでもナースか! お前は自分がデリヘル嬢だと思え! お前はこの救命救急の、ナンバーワン・デリヘル嬢だ!」
 「わかりました北島先生! 私はこの『救命救急24時』のみだらな人妻、デリヘル嬢の秋山です!」
 「そうだ! 俺は今、大動脈破裂の患者で手が離せん! 頼んだぞ秋山!」

 すると別の壇蜜のようなお色気たっぷりのナースが叫んだ。
 ズボンではなく、膝上のスカートを履いていた。

 「先生! ショックです!」
 「とにかくサテンスキーで今、動脈の血流を遮断するのが先だ!」
 「北島先生! 今度はさっき運ばれて来た患者さんの血圧が70に下がりました!」
 「フェローの野村はどうした!」
 「わかりません! 逃げたみたいです!」
 「探して来い!」
 「はい!」

 ERはてんてこ舞いである。

 「看護士さん、早くして下さいよ!」
 「ちょっと待っててね? すぐに気持ちよく抜いてあげるから!」
 「看護士さん、パンツ見せて下さいよお! その方が早く出せますから!」
 「何を言ってるのバカ部長! バシッ バシッ」

 30代の杉本彩に似た女がその男に往復ビンタをした。
 
 「そもそもお前のせいだぞ! 早く俺のデカチンを離しやがれ!」
 「イヤよ! 奥さんとは別れるって言ったくせに! この変態デカチン部長!」

 そこへ初代『どざえもん』の声優と声がそっくりな婦長がやって来た。

 「ボク、どざえもん。パッパラパッパッパ~ パパ・ローション!」

 婦長はポケットからパパ・ローションを取り出すと、結合部分にそれをたっぷりと塗った。

 「これでもう大丈夫よ。これくらい覚えておきなさい。秋山さん、一体何年ナースをやってるの?」
 
 チュポン

 チ◯コが抜けた。

 「婦長のバカ! 前立腺プレイ、やってみたかったのに!」
 「そうだったのね? ごめんなさい、秋山しずかちゃん・・・。ボク、どざえもん」


 
 やっと一段落したので、北島は二週間ぶりに『陽だまり荘』へ帰った。


 「北島先生、お久しぶり~」
 「お父さん、お疲れ様。大丈夫だった?」
 「ああ、やっと落ち着いたから帰って来たよ。麗華、何か変わったことはないか?
 恋愛もいいが、不倫だけは駄目だぞ、絶対にだ。
 今日もそんな不倫カップルが緊急搬送されて来た。まったく。
 しかもダブル不倫だぞ」

 麗華は固まってしまった。

 「先生もどうです? ドーナッツ?」
 「ありがとうございます。もう3日も風呂に入っていないので、お風呂をいただきます」
 「大変なお仕事ね? 救命医って」


 なーぎさのはいから人魚~♪ キュートなヒップにズキドキ♪


 北島の携帯が鳴った。病院からだった。
 病院からの着信音はキョンキョンの『渚のはいから人魚』にしていたのである。
 流石に救命からの着信音を、まさかデーモン閣下の『聖飢魔II蝋人形の館』には出来まい。

 「どうした? うん、わかったすぐに行く!」
 「お父さん、また病院へ戻るの?」
 「ああ、それじゃ行ってくる」
 「気をつけて」

 救命救急医の北島に、つかの間の休息もないのであった。
 シャワーも浴びることが出来ない。

 「いい香り・・・」

 だが、岬は3日も風呂にも入れない北島の体臭に、うっとりと欲情するのであった。

 
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

幽霊じゃありません!足だってありますから‼

恋愛 / 完結 24h.ポイント:120pt お気に入り:596

幼馴染がそんなに良いなら、婚約解消いたしましょうか?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:26,309pt お気に入り:3,544

義妹(いもうと)

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:108

淫乱お姉さん♂と甘々セックスするだけ

BL / 完結 24h.ポイント:937pt お気に入り:10

巣ごもりオメガは後宮にひそむ

BL / 完結 24h.ポイント:7,465pt お気に入り:1,591

あなたが見放されたのは私のせいではありませんよ?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7,797pt お気に入り:1,660

処理中です...