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第6話
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「それじゃあちくわ、ママとちゃんと病院に行くんだよ。ママ、ちくわをよろしくね? 行ってきまーす!」
純連ちゃんは名残惜しそうに学校に出掛けて行った。
ママさんがゴミを外に出そうと玄関を開けた時だった、俺はこの瞬間を狙っていた。
(今だ!)
俺は外に向かって猛ダッシュをした。
「ちくわ!」
ママさんが慌てて俺を捕まえようと追いかけて来たが、俺は止まらなかった。
思いっきり道路を横切り、公園の茂みの中を走った。俺は全力で走ったのである。
はあはあ
どこに行こうとしたわけではない、組に戻れるわけでもジュリアに会えるわけでもない、もちろん猫山家に不満があるわけでもなかった。
ただ俺は自由に向かって外へ飛び出したかったのだ。このなんとも言えない閉塞感をぶち破るために。
「大変、早くちくわを捕まえないと純連に叱られちゃう」
ママさんは泣きながら必死になって俺の名前を叫んだ。
「ちくわー! ちくわー! 戻ってらっしゃーい!」
久しぶりの外の世界だった。不思議と不安はなかった。
「ニャオーン!(俺は虎ニャ! 虎になるのニャ!)」
俺はタイガーマスクにでもなったような気分だった。うれしかった。
だが銀次郎はまだ子猫、すぐに力尽きてしまった。
「ニャアニャアー(あー、疲れたニャア、腹減ったニャ~)」
自由になるということは孤独、そして空腹との闘いでもある。
銀次郎はネズミ一匹捕ることも、雀に飛びかかることも出来なかった。
銀次郎は仕方なく、カリフォルニア・フライド・チキンのゴミ箱を漁ろうとしたが、流石はカルフォルニア・フライド・チキン、廃棄物処理は完璧で、しっかりと頑丈なコンテナに収められ、施錠されていた。
「ニャオ~(ちくしょう、これじゃあ骨付きチキンが食えねえじゃねえか)」
銀次郎は空腹のまま、住宅街を歩いていると温かい視線を感じた。その視線を辿ると、YKKのアルミサッシの窓から俺を見ている白いヒマラヤンがいた。
銀次郎はヒマラヤンに近寄って行った。
「ニャオニャオ(お前、この家の飼い猫かニャ?)」
「ニャオーン?(そうよ、あなた、野良猫ニャのね? 毛艶はいいみたいだけど、もしかして脱走して来たニャ?)」
「ニャオ(さっきまで飼い猫にゃったニャ)」
「ニャオ?(さっきまで?)」
「ニャオニャ(脱走して来たニャ)」
「ニャオニャオ?(虐待とか、多頭飼育とかニャの?)」
「ニャオ(そうじゃないニャ、オス猫は荒野を目指すものなのニャ。五木寛之先生の小説にもあるニャ。『子猫は荒野をめざす』とニャ)」
「ニャオニャオ(ウチのご主人様は私を大切にしてくれるわ。だからここが天国ニャの、外になんか行きたくもないわ)」
「ニャオ(メス猫にはわからねえニャ、オス猫の気持ちニャんか)」
「ニャオーンニャオニャオ(どうしても辛くなったらまたここにいらっしゃい、ご主人様にあなたを飼ってもらえるように頼んであげるから)」
「ニャオ(ありがとニャ、お前、ニャ前は?)」
「ニャオ(ジュリアよ、あなたは?)」
「ニャオニャオ!(ジュリアだって! 俺の女と同じニャ前ニャないか! 俺は銀次郎・・・、じゃなかった猫山ちくわニャ)」
「ニャア(ちくわ、ニャン(元)気でね?)」
「ニャオ(ジュリア、お前もニャ)」
銀次郎は再び住宅街を歩き始めた。
ニャ 「シャーッ!(おいお前、どこから来たニャ? ここは虎鉄一家の縄張りニャ! 通して欲しければチャオチュールを10本、置いて行けニャ!)」
「・・・」
そこには汚れた野良猫たちが5匹たむろしていた。野良猫たちは子猫の銀次郎を見て薄ら笑いを浮かべている。
銀次郎はソイツらを無視して歩き出した。するといきなり猫パンチをされた。
「ニャオニャオ!(売られたケンカは買う性分ニャ!)」
銀次郎は今まで喧嘩に負けたことがなかった。
だが今回は百戦錬磨の5匹の野良猫たちが相手だ、子猫の銀次郎はボッコボコにされてしまった。
「シャーッ!(馬鹿野郎めニャ、子猫のくせに!)」
悔しかった。銀次郎はやっとの思いで立ち上がり、ヨロヨロと道路を歩き始めた。
その時、クルマが猛スピードで近づいて来た。
もう駄目だと思った瞬間、カラダがふわりと宙に浮いた。
マルさんが俺の首筋を咥えて危うくクルマから助けてくれたのである。
「ニャ~(マルさん~・・・)」
「ちくわ、あぶないところだったわね? さあもう気が済んだでしょ? 猫山家に帰るわよ」
「ニャオン(ありがとう、マル姐さん)」
マルは銀次郎を背中に乗せると猫山家へと帰って行った。
途中、純連ちゃんとママさんが大きな声で銀次郎の名前を呼んでいた。
「ちくわー、出ておいでちくわー!」
「ちくわー、早く出て来て頂戴! どこにいるのー!」
「どうやら迎えに来てくれたようね? 良かったわね? ちくわ。あなたは純連ちゃんとママさんに愛されているのよ。もう冒険なんかしちゃだめよ、わかったわね?」
「ニャア(マル姐さん、もう家ではしませんニャ。純連ちゃん、ママさん、ごめんニャさい)」
「ちくわ!」
「ちくわ! どうしたのこんなに怪我して! 野良猫とでも喧嘩したの!」
純連ちゃんが俺を強く抱きしめて号泣した。ママさんも泣いていた。
「よかった、見つかって」
「ちくわ、病院に連れて行ってあげるからね? もうどこへも行かないでよ?」
純連ちゃんとママさんに抱っこされて、俺はやっと安心した。
俺は猫山家の猫で本当に良かったと思った。
純連ちゃんは名残惜しそうに学校に出掛けて行った。
ママさんがゴミを外に出そうと玄関を開けた時だった、俺はこの瞬間を狙っていた。
(今だ!)
俺は外に向かって猛ダッシュをした。
「ちくわ!」
ママさんが慌てて俺を捕まえようと追いかけて来たが、俺は止まらなかった。
思いっきり道路を横切り、公園の茂みの中を走った。俺は全力で走ったのである。
はあはあ
どこに行こうとしたわけではない、組に戻れるわけでもジュリアに会えるわけでもない、もちろん猫山家に不満があるわけでもなかった。
ただ俺は自由に向かって外へ飛び出したかったのだ。このなんとも言えない閉塞感をぶち破るために。
「大変、早くちくわを捕まえないと純連に叱られちゃう」
ママさんは泣きながら必死になって俺の名前を叫んだ。
「ちくわー! ちくわー! 戻ってらっしゃーい!」
久しぶりの外の世界だった。不思議と不安はなかった。
「ニャオーン!(俺は虎ニャ! 虎になるのニャ!)」
俺はタイガーマスクにでもなったような気分だった。うれしかった。
だが銀次郎はまだ子猫、すぐに力尽きてしまった。
「ニャアニャアー(あー、疲れたニャア、腹減ったニャ~)」
自由になるということは孤独、そして空腹との闘いでもある。
銀次郎はネズミ一匹捕ることも、雀に飛びかかることも出来なかった。
銀次郎は仕方なく、カリフォルニア・フライド・チキンのゴミ箱を漁ろうとしたが、流石はカルフォルニア・フライド・チキン、廃棄物処理は完璧で、しっかりと頑丈なコンテナに収められ、施錠されていた。
「ニャオ~(ちくしょう、これじゃあ骨付きチキンが食えねえじゃねえか)」
銀次郎は空腹のまま、住宅街を歩いていると温かい視線を感じた。その視線を辿ると、YKKのアルミサッシの窓から俺を見ている白いヒマラヤンがいた。
銀次郎はヒマラヤンに近寄って行った。
「ニャオニャオ(お前、この家の飼い猫かニャ?)」
「ニャオーン?(そうよ、あなた、野良猫ニャのね? 毛艶はいいみたいだけど、もしかして脱走して来たニャ?)」
「ニャオ(さっきまで飼い猫にゃったニャ)」
「ニャオ?(さっきまで?)」
「ニャオニャ(脱走して来たニャ)」
「ニャオニャオ?(虐待とか、多頭飼育とかニャの?)」
「ニャオ(そうじゃないニャ、オス猫は荒野を目指すものなのニャ。五木寛之先生の小説にもあるニャ。『子猫は荒野をめざす』とニャ)」
「ニャオニャオ(ウチのご主人様は私を大切にしてくれるわ。だからここが天国ニャの、外になんか行きたくもないわ)」
「ニャオ(メス猫にはわからねえニャ、オス猫の気持ちニャんか)」
「ニャオーンニャオニャオ(どうしても辛くなったらまたここにいらっしゃい、ご主人様にあなたを飼ってもらえるように頼んであげるから)」
「ニャオ(ありがとニャ、お前、ニャ前は?)」
「ニャオ(ジュリアよ、あなたは?)」
「ニャオニャオ!(ジュリアだって! 俺の女と同じニャ前ニャないか! 俺は銀次郎・・・、じゃなかった猫山ちくわニャ)」
「ニャア(ちくわ、ニャン(元)気でね?)」
「ニャオ(ジュリア、お前もニャ)」
銀次郎は再び住宅街を歩き始めた。
ニャ 「シャーッ!(おいお前、どこから来たニャ? ここは虎鉄一家の縄張りニャ! 通して欲しければチャオチュールを10本、置いて行けニャ!)」
「・・・」
そこには汚れた野良猫たちが5匹たむろしていた。野良猫たちは子猫の銀次郎を見て薄ら笑いを浮かべている。
銀次郎はソイツらを無視して歩き出した。するといきなり猫パンチをされた。
「ニャオニャオ!(売られたケンカは買う性分ニャ!)」
銀次郎は今まで喧嘩に負けたことがなかった。
だが今回は百戦錬磨の5匹の野良猫たちが相手だ、子猫の銀次郎はボッコボコにされてしまった。
「シャーッ!(馬鹿野郎めニャ、子猫のくせに!)」
悔しかった。銀次郎はやっとの思いで立ち上がり、ヨロヨロと道路を歩き始めた。
その時、クルマが猛スピードで近づいて来た。
もう駄目だと思った瞬間、カラダがふわりと宙に浮いた。
マルさんが俺の首筋を咥えて危うくクルマから助けてくれたのである。
「ニャ~(マルさん~・・・)」
「ちくわ、あぶないところだったわね? さあもう気が済んだでしょ? 猫山家に帰るわよ」
「ニャオン(ありがとう、マル姐さん)」
マルは銀次郎を背中に乗せると猫山家へと帰って行った。
途中、純連ちゃんとママさんが大きな声で銀次郎の名前を呼んでいた。
「ちくわー、出ておいでちくわー!」
「ちくわー、早く出て来て頂戴! どこにいるのー!」
「どうやら迎えに来てくれたようね? 良かったわね? ちくわ。あなたは純連ちゃんとママさんに愛されているのよ。もう冒険なんかしちゃだめよ、わかったわね?」
「ニャア(マル姐さん、もう家ではしませんニャ。純連ちゃん、ママさん、ごめんニャさい)」
「ちくわ!」
「ちくわ! どうしたのこんなに怪我して! 野良猫とでも喧嘩したの!」
純連ちゃんが俺を強く抱きしめて号泣した。ママさんも泣いていた。
「よかった、見つかって」
「ちくわ、病院に連れて行ってあげるからね? もうどこへも行かないでよ?」
純連ちゃんとママさんに抱っこされて、俺はやっと安心した。
俺は猫山家の猫で本当に良かったと思った。
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