★【完結】海辺の朝顔(作品230722)

菊池昭仁

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第8話 100万本の薔薇と 5本の薔薇

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 いつもの金曜日、私は友理子の店に花を買いにやって来た。

 「いつもの花をくれ」
 「かしこまりました」

 ボルツは花屋で働いている時はとてもしあわせそうだった。
 女には多くの顔がある。
 私は花屋で働くボルツが好きだった。

 最近、自分の身体が少しずつ弱っていくのがわかる。
 私は後どのくらい、こうしていることが出来るだろうか?
 当たり前のように無情に過ぎゆく毎日。だがその先には大きな深い滝壺が、口を開けて待っているのだ。
 それが今、どのあたりまで近づいているのか私には知る由もなかった。

 人生はメリーゴーランドのようなものだ。
 木馬に跨り、上がったり下がったりを繰り返しながら、何度も同じところをグルグルと回り続ける。
 そしてその木馬の上で歳を重ね、多くの苦悩と僅かな喜びのなかで死を迎える。
 私は何のために生きているのだろう? そしてなぜ、今ここにいるのだろうか?
 

 「ハイどうぞ! そしてこれは私から神崎部長へ。いつものお礼です」

 それはカスミ草に彩られた、5本の深紅の薔薇だった。

 「ありがとう。女から花をもらうなんて、普通の会社員だった時の送別会以来だよ」
 「私は初めてですよ、男性に花を贈ったのは。
 とてもお似合いです。部長に薔薇って。
 なんだか映画、『ゴッドファーザー』のアルパチーノみたい」
 「マーロンブランドではなくか?」
 「あの人はおじいちゃんじゃないですか?」

 私たちは笑った。

 「100万本のバラの話を知っているか?
 貧しい絵描きの青年が、大好きな女に恋をして、家を売り払い、100万本の薔薇を買って彼女の住む街を薔薇で埋め尽くすという話だ。
 薔薇が1本500円だとして、100万本だといくらになる?」

 ボルツは即答した。

 「5億円ですね?」
 「いい話だよな? 自分を愛してくれるかどうかわからないその女のために、全財産を投げ出す。それに意味はあると思うか?」
 「部長はどう思うんですか?」
 「俺は意味はあると思う。そいつは自分がその女を愛したという確実な想いを手に入れたからだ。
 死ぬほど人を好きになるとはそういうことじゃねえのかなあ」
 「そんな風に愛されたいです、私も・・・。
 神崎さん、ところでお願いがあるんですけど」
 「何だ?」
 「今度、娘の楓と一緒にお食事に付き合っていだたけませんか?
 娘が私の夜の仕事を心配しているようなんです。
 ですから「この素敵な人がママの上司なのよ」と安心させてあげたいんです。
 安心というより自慢ですけどね? あはははは ダメですか?」
 「いいよ、今度の日曜日、焼肉でもどうだ?」
 「ありがとうございます! あの子、焼肉大好きなんです!」
 「じゃあ、また後で」

 私は花束を2つ抱え、店に向かった。




 「あれ? 支配人、今日はお花が2つも、どうしたんですか? それ?」

 すると、ミュウがすかさず言った。

 「どうせそっちの薔薇の花束は、あの花屋の美熟女に貰ったんでしょー?
 いいですねー、モテる男は。
 赤い薔薇が5本。「あなたに出会えて本当にしあわせ」かあ?
 嫌な女。
 神崎さんには黄色い薔薇がお似合いよ」
 「どうして?」
 「浮気者だから」

 ミュウは怒って奥の休憩室に行ってしまった。
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