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レグルスは軽くシャワーを浴び終え、シャワー室から出てくると髪の毛を雑にがしがしと拭きながら室内へと戻る。

ぽたぽたと自分の髪の毛から拭い切れなかった雫がベッドに落ちてしまうが、レグルスは構わずそのままベッドに腰掛けると予備で入手していた地図を荷物から取り出して広げる。

「ここ、がリンドブルム領内にある港町のベリーウェイだろ······」

レグルスは自分の指先に熱を灯すと地図に指先を押し当てる。
じゅっ、と音を立てて地図上の"ベリーウェイ"と記載された箇所が薄く黒く色付く。
ベリーウェイから南下して行けば王都へと辿り着く。
ずっと南下して、王都へでも行ってみるかそれとも北上してまったく人のいなさそうな場所へとふらりと向かってみるか。

「だが、北上するには防寒具等も必要だよな······」

金はあるが、これを使い続けていればいずれ金も尽きてしまうだろう。
そうなると日々食べる物や眠る場所の確保に困ってしまう。
何らかの仕事をしながら金を稼ぎあちこちを見て回った方がきっといい。

レグルスはシザーバッグの中に入れている残りの持ち金を頭の中に思い出しながら自分の顎に手を当てて考える。
なるべくガルバディスから貰った金に手は付けない方がいい。本当に無くなってしまった時に困ってしまうだろう。

「適当に護衛でもしながら稼ぐか」

小さい町から街へと道中、山賊や盗賊、モンスターから身を守りたいと冒険者ギルドや傭兵を募集している人もいるだろう、とレグルスは考えると地図を南下する事に決める。

この町より少し大きめの町が徒歩で二日程の距離の場所にある。
そこで傭兵として登録しよう。冒険者ギルドに比べれば傭兵ギルドの方がまだ制約に縛られない。
依頼は受注したのならば達成しなければいけないが、冒険者のように依頼を失敗したり、長期間依頼を受けなくてもランクが下がる事はない。

自由気ままに各地を旅するのであれば傭兵として傭兵ギルドに登録するのが一番楽かもしれない。


レグルスは次の目的地を決めると、広げていた地図を片付け着替えていく。
明後日にはこの町を出る事になる。
部屋に点々としている自分の私物達を片付けておこう、とレグルスはベッドから腰を上げると散らかした服を手に取り片付けていく。
色々と買い足した本等は必要な物は自分で持って行き、子供が好みそうな本は孤児院に寄付という形で置いていけばいいだろう。

「──これは、ルルにだな」

レグルスは何の気なしに持ち上げた本が、先日ルルと買い物に行った時に購入した簡単な読み書きの本だった事に視線を落として気付く。
この宿を出る時に渡して行けばいい。

レグルスは散らばった服や、本等を全て自分の手荷物の中に空間収納魔法でしまい込むとぐるり、と部屋の中を見回す。
粗方片付いた事を確認するとレグルスは夜中中動いていた事もあり、眠気に襲われる。

「──少し、寝ておくか」

欠伸を噛み殺すと、のろのろとベッドに移動してそのまま倒れ込むように横になる。

この町に来て、沢山の人間と関わった。
性根が腐った人間もいれば、純粋なままの人間もいる。
皆が様々な感情を持ちそれぞれが暮らしている事にレグルスは驚いた。
自分の世界には薄汚れた石壁と、友人の古龍種しかいなかったのだ。
だからこそ、ガルバディスは人が愛おしいと言っていたのだろう。
一人では出来る事に限りがあるが、お互い協力し合いその"出来る事"の範囲を大きくして達成するのだ。

自分にはそんな事は到底出来そうにないな、と考えながらレグルスは眠りに落ちた。










「──お兄さん!」

ゆさゆさ、と自分の体が揺さぶられている感覚にレグルスの意識がゆっくりと浮上してくる。

「ん、?」

起きてくれよ!と自分の近くで困ったような幼い女の子の声がする事にレグルスは徐々に意識が覚醒し始める。
薄らと瞼を持ち上げると、困ったような表情でレグルスを見つめるルルの瞳と視線が合う。

「ルル?」
「あ~やっと起きたね、お兄さん!もう夕方だけど、夕食は食べるよね?」

何度も外で声掛けたんだけど、全然返事ないから入らせてもらったよ!と腰に手を当てて若干頬を膨らませて言ってくるルルに、レグルスはベッドから上体を起こして足を下ろすとルルの頭を撫でてやる。

「声を掛けてくれてありがとう。すっかり寝入ってしまったみたいだな」

夕飯は食べるから宜しく頼む、とレグルスがルルに伝えるとにっこりと笑って了解!と言いながらレグルスの部屋を去っていく。

「もう夕方か······すっかり寝過ごした」

レグルスがその場で軽く伸びをすると、肩からぱきん、と音が鳴る。
随分寝入ってしまっていたようだ。
ベッドから立ち上がりフード付きの洋服を羽織ると窓から外に視線を移す。

日が陰り、夕闇が広がってきている。
この宿で夕食を取るのも明日で最後になる。

レグルスは、ぼうっと外を眺めながら夕食の時間までを過ごした。
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