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しおりを挟む夕食の時間を迎えレグルスは自室に戻ってくるとベッドに体を投げ出して仰向けになる。
ぼうっと天井の木目を眺めながら、明日がこの町で過ごす最後の一日になるのだな、と考えた。
騎士隊の面々がこの町唯一の宿屋に泊まっているせいか、店主のルドガと手伝いをしているルルが忙しそうにしていた。
手を煩わせるのは申し訳ない、と思いレグルスは明日の朝食を辞退したので外に食べに行かなければいけない。
外に食べに行くのならば丁度いい。そのまま外で夕食の時間まで時間を潰し、夜に孤児院まで足を伸ばして本を寄付しておけばいい。
ガヤガヤと部屋の外、廊下を歩く騎士隊の声が聞こえてきてレグルスは寝返りを打った。
彼らの話が漏れ聞こえてくるのに耳を傾けると、どうやらこの地域の領主の罪を暴いた人物を探しているらしい。
もうこの町を出て行ってしまっているのでは、という会話を聞きながらレグルスは見つかる前に早くこの町を出なきゃいけないな、と微睡む思考の中考えて眠りについた。
翌朝
すっきりとした目覚めを迎えたレグルスは、まだ早朝という時間帯の中起き上がると身なりを整えていつもの様にコートを羽織り、すっぽりとフードを目深に被った。
この宿屋に泊まっている騎士達が起き出す前にこの宿を出てしまおうと、シザーバッグを腰に付けるとレグルスは自室から音を立てずにそっと出た。
まだ朝日が登ってから間もない時間帯だ。
宿屋の二階は静まり返っていて、起きている人間はいないようだ。
レグルスが二階から静かに降りて行くと、朝食の準備をしていたのかルルが音に反応してぴょこり、と顔を覗かせた。
「あっ!お兄さん、おはよう!」
「ああ、おはようルル」
大きな瞳で見上げてくるルルの頭を撫でてやると、ルルが嬉しそうに瞳を細める。
「お兄さん、うちの宿に泊まるのは今日までなんだよね?また旅に出るのかい?」
「ああ、そうだな。南の方へ行ってみようと思ってる」
「南かあ~そうしたらこの町より気候も良くなるし、大きな街が沢山あるね」
いいなあ、楽しそうだ!と笑うルルにレグルスも口元で笑みの形を作ると「そうだな」と答える。
初めて訪れた町の人達が優しい人達で本当に良かった、とレグルスは改めて思う。
先日捕まえたあの領主のような人間ばかりの世界であればこんな穏やかな気持ちで日々を過ごす事が出来なかっただろう。
レグルスはルルの頭をもう一度撫でて唇を開く。
「夕食は遅くなるかもしれないけど、最終の時間までには戻ってくるよ。明日は明け方には出るつもりだから、カウンターに鍵を置いておけばいいんだよな?」
「うん、そうだけど……きっとおばあちゃんも、私も起きてるだろうから声を掛けてってくれよ!」
寂しそうに頭上にある耳をぺしゃり、と倒してそう言ってくるルルにレグルスは笑うと分かった、と伝えて宿屋を出て行った。
宿屋を出て町中を見渡すと、まだ殆どの店が閉まっている為町中には人がいない。
レグルスは明日、自分が向かう次の町への道を確認しにシザーバッグから地図を取り出すと、町の入口へと足を向けた。
この町に来た時にくぐったこの町へ入るための門に近付くと、番をしていたこの間の男がレグルスを見て「おや」と声を出した。
「あんたはこの間の──今日、この町を出るのか?」
親しげに話しかけて来る男にレグルスはいいや、と否定すると明日この町を出るから周囲を少し散策したいんだ、と告げる。
「そうか、もう明日出るんだな。この町はのんびりとした空気が良かっただろう?……少し、昨日からは騒がしかったが普段はゆったりとした町なんだよ」
「ああ、そうだな。──騒がしい、と言ってもそんなに気にはならなかったな。ゆっくり休むことが出来たし、この町に住んでる人達は皆親切で有難かったよ」
レグルスの嘘偽りない言葉に番の男は嬉しそうに笑うと「嬉しいねぇ」と言って体を横にずらしてくれる。
「目の前に続く街道を逸れずに真っ直ぐ行けば次の街が見えてくる。この港町よりは大きめの街だから、色々と店もあるだろう」
番の男が示す先をレグルスが見つめていると、番の男が少し声のトーンを落としてレグルスに伝えて来る。
「だが、最近盗賊の被害が増えているそうだから、明日以降野宿の際は充分気を付けた方がいい」
「──ああ、ありがとう。少し、外を見てくるよ」
レグルスは番の男にそう言うと、町への門を潜って外へと足を踏み出した。
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