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第四十一話

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「──セレスティナ……っ!」

後ろからジェイクの声が聞こえて来たと思った瞬間、駆け寄る音が聞こえて来て、セレスティナが振り向くと同時にジェイクに腕を掴まれる。

「ジェイク様……っ」
「セレスティナ、待ってくれ……ち、違うんだ……」

まるで懇願するようなそのジェイクの態度に、セレスティナは益々違和感を覚える。
セレスティナは困惑したような表情を浮かべると、そっとジェイクが掴んだ腕をジェイクの手のひらから抜いて一歩距離を取った。

「違う、と言われましても……何が違うのか分かりませんし、これ以上ジェイク様に振り回されるのはもう懲り懲りなのです……」
「すまなかった……。セレスティナに沢山迷惑を掛けてきてしまって申し訳ない……だが、フィオナ嬢から聞いた言葉は、その……いや、違くはないのだが……、俺の本心ではあるのだが……そもそも俺からセレスティナに伝えねばいけない気持ちであって……」

セレスティナから距離を取られたジェイクは一瞬だけ傷付いたような表情を浮かべたが、覚悟を決めたのだろうか、しっかりとセレスティナと目を合わせて言葉を紡ぎ始めるが、最後の方はごにょごにょと呟いているせいで何と話しているのか聞き取れず、セレスティナは眉を顰める。

先程からずっと、ジェイクの態度や言葉が煮え切れず、セレスティナは眉を顰めたままジェイクに向かって唇を開く。

「──何を仰いたいのか分かりませんし、聞き取れません。レーバリー嬢が言った事が本当だ、と言うのならばやはりもう私達が一緒にいる事は好ましくありません。早急にこの契約の解消を致しましょう」
「──っ、嫌だ!駄目だ、婚約の解消は行わない!」

セレスティナの言葉を聞いた瞬間、ジェイクが弾かれたようにセレスティナに顔を向けて悲痛な声音で叫ぶ。
その声を聞いた瞬間、セレスティナはびくり、と体を強ばらせると「え?」と驚きに目を見開く。

「待って、下さいジェイク様──っ始めから偽の婚約者役は、レーバリー嬢との婚約の目処が立つまで、と言うお話でしたのに、これでは契約内容の違反です……っ!レーバリー嬢との未来に目処が付いたのならばこの契約はすぐに破棄するべきです!」
「レーバリー嬢との仲?それはもう、俺の中では終わっているんだ──……っ、セレスティナは確かに俺を薄情な男だと思うかもしれないが、だが、それでも惹かれてしまうのは仕方ないだろう?!例えセレスティナに軽蔑されようとも、俺は自分の気持ちに嘘はつけないんだ……っ」

話がまったく噛み合わない。
お互いがお互いに自分の言いたい事ばかりを言葉にしていて、話の終着点が見えない事にセレスティナは困惑すると、一度落ち着いて話した方がいいだろう、と考える。

──何処か、落ち着いて話せる場所があるだろうか。

セレスティナはそう考え、きょろり、と周囲に視線を巡らせる。
何処か空き教室のような物があれば、そこで落ち着いて話した方がいい。
別棟で、人が訪れる事が殆どないとは分かっているが、それでもこのような廊下で契約、や婚約の解消、などと感情に任せて話していい内容では無い事に今更気付きセレスティナはジェイクから視線を逸らしたのだが、ジェイクはそんなセレスティナの態度を見て、再度自分から逃げようと周囲を伺っているのか、と思い込んでしまった。

「──セレスティナ……っ」
「──!」

セレスティナがジェイクから視線を外した隙に、ジェイクはセレスティナに素早く近付くとセレスティナの腕を引っ張り、自分の胸に強く抱き込む。

「ちょ……っ、ジェイク様っ!」
「駄目だ、俺から逃げないでくれセレスティナ……っ!」

ジェイクの突然の行動に、セレスティナは困惑すると同時に自分の顔に熱が集まってくる。
こんな真正面から強く抱き締められて顔を赤く染めないで居られる訳がない。
ぎゅうぎゅうと逃がさない、とでも言うように強く抱き締められてしまい、セレスティナは息苦しさを感じてジェイクの背中をばしばしと叩くが、抱き締める腕の力が弱まる事はない。

何故、突然ジェイクはこんな突拍子もない行動に出たのか。
そして、先程からジェイクが話す言葉達を思い出しセレスティナは益々自分の顔を朱に染める。

これでは、まるでジェイクが自分の事を好きだと言っているような物だ。

「ちょ、苦しい、苦しいですジェイク様っ!」
「駄目だ……っ、俺が今腕を離せばセレスティナは俺から逃げて行ってしまうだろう。それだけは、本当に嫌だ……こんな気持ちになるのも、こうやって抱き締めたいと思うのもセレスティナだけなんだ、本当に、俺は……好きと言う気持ちをきちんと理解してなかった大馬鹿者なんだ……」

ぐりぐりとセレスティナの頭にジェイクが自分の額を擦り付けてくる。
セレスティナは、ジェイクの言葉を聞いてやはり自分達の話が食い違っている事を確信すると、ふ、と自分の体から力が抜けてしまう。

「セレスティナ?」

ジェイクが驚いたように力の抜けたセレスティナの体を支えるようにぐっ、と支える力を強める。

これ、は。
もしかしたらレーバリー嬢にやられてしまったかもしれない。

未だに逃がさないように抱き締める力を緩めようとしないジェイクに、セレスティナはジェイクの胸元から顔を上げるとお互い落ち着いて話しをしよう、と提案する事にする。

「──ジェイク様、何だか先程から私達の話が噛み合ってません……一旦冷静になってお話しませんか?」
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