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第四十話
しおりを挟むさあっ、と顔色を悪くするジェイクに、セレスティナは「やっぱり」と小さく呟くと、ジェイクに追い討ちを掛けるように更に唇を開く。
「やはり、レーバリー嬢が言っていた事は本当なのですね……。それでしたら、私達もこのままではいられません」
「──セレスティナ?」
ジェイクは、嫌な予感を感じてドクドクと早鐘を打つ自分の心臓を抑えるように手を当てると、伺い見るようにセレスティナへと視線を向ける。
視線を向けた先にいるセレスティナの瞳からは、なんの感情も読み取れなくてジェイクはひゅっと息を飲んだ。
「早急に、──なるべく早く私達の婚約を解消しましょう。つい先日婚約を結んだばかりではありますが、両家の両親にしっかりと事情をお話しして、謝罪を致しましょう」
「解、消……」
「ええ、ジェイク様も早く"婚約者役"等居なくなった方がレーバリー嬢ともお早く婚約し直せると思います……。お話ししたい事はこれだけですので、私はこれで失礼しますね」
「レーバリー嬢……?ちょ、ちょっと、待っ──!」
ジェイクは、セレスティナの口から突然出てきたフィオナの名前に困惑すると、セレスティナを呼び止めようとしたがジェイクの声を振り切るようにセレスティナは背後の扉を開けると足早に出て行ってしまう。
「待ってくれ、セレスティナ──っ、痛っ!」
ジェイクは扉から出て行ってしまったセレスティナを追おうと扉に駆け寄ったが、急いでいたせいか、思い切り扉に自分のつま先を打ち付けてしまう。
「──っ、」
ジェイクは余りの痛みにその場に蹲ると、涙目で扉を見つめる。
ギイイ、と音を立てて閉まる扉の隙間から、セレスティナの姿が見えて、そして扉が完全に閉じ切るとセレスティナの姿が見えなくなった。
ジェイクはじんじんと痛むつま先の痛みが治まって来るまでその場を動く事が出来ず、出て行ってしまったセレスティナを追い掛ける事が出来なかった。
セレスティナは、ジェイクの呼び掛けを振り切るように扉から出て行くと、廊下をパタパタと駆けて行く。
扉から出て行く時、確かにジェイクの声で呼び止められた気がしたが、追い掛けてくる気配は感じない。
セレスティナは少し離れた所で足を止めると、肩越しに後ろを振り返る。
振り返った先には、非常階段に続く扉が見えており、その扉が開くような気配は感じれない。
「──っ、何故、ジェイク様は呼び止めたりしたの……っ呼び止めるくらいなら追い掛けて来てよ……っ!」
くるり、とセレスティナは扉に背を向けるとそのまま教室へと戻る為に別棟の廊下を再度駆け出した。
もう、ジェイクと話す事は話した。
教室でももう以前のようにやり過ぎな婚約者役を演じる必要はないだろう。
今後、ジェイクはフィオナと本当の婚約を結び直すのだから、自分達の仲が良くない物に変わっている、と周囲に印象付けた方がいいだろう。
それならば、教室に戻ったら今後は徐々にジェイクと距離を置いて、周囲に自分達が別れた、と思わせないといけない。
そこまで考えて、セレスティナはふと思い出す。
そう言えばジェイクは今日の朝は共に行けないが、帰りは一緒にいつもの様に帰ろうと言っていたのだ。
「……と言う事は、ジェイク様はまだこの偽装婚約を続けるつもりだったの……?」
セレスティナは混乱して困惑の表情を浮かべると「何の為に?」と考える。
何故、フィオナとの婚約の準備が整ったのに未だに自分と婚約者役を続ける必要があるのだろうか、と考えるがいくら考えてもジェイクの考えが読めない。
ジェイクのしようとしている事がちぐはぐ過ぎて、何をしたいのか、ジェイクはどうしたいのかが分からない。
セレスティナは走っていた状態からぴた、と足を止めると何だかおかしな状態になっている事に気付く。
先程は、フィオナの言葉を信じて頭に血が上った状態のまま思考もめちゃくちゃでジェイクに詰めるように言ってしまったセレスティナであったが、言われたジェイクは初めは絶望したように顔色を真っ青にしていたが、セレスティナの言葉を聞いたジェイクは後半、慌てたようにセレスティナを呼び止めようとしていた。
「──何故、ジェイク様がショックを受けたような表情をしていたの……?」
ショックを受けたのはこちらだ。
裏切られたような気持ちになって、悲しみと怒りが湧いてきたが、今考えれば何故ジェイクがショックを受けていたのだろうか。
「あれ……?何かがおかしい……?」
冷静になった今、何かがおかしい様に感じてセレスティナは首を傾げる。
何とも言えない違和感が拭えず、廊下に立ち竦んでいると、背後の非常階段の扉が開く音がして、ジェイクの声で自分の名前を切なげに呼ばれた。
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