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ネウスの言葉に、ヘンリーは瞳を見開くと言われた言葉をそのまま繰り返す。

「ネウス殿からも、罰を……? 」
「ああ。別に禁じられてはねえだろう?うちの国──治める俺が直々に罰を与えてやれば、この国の民にもしっかりと周知出来るんじゃねえか、まだ俺自身もこの国と"友好関係を望んでいる"と。──そちらが嫌なら別に俺は手を下さなくてもいいがな?」

にっ、と口端を吊り上げてそう言葉にするネウスに、ヘンリーは僅かに顔色を悪くさせると「有難い申し出です」と慌てたように返答する。

裏を返せばネウスの言葉は、「人間側」が望まなければいつでも友好関係──同盟のような物を断っても良い、と言っているような物だ。

そのような事になれば、それ程時間が経たぬ内にこの国、アリティネイア国は周辺諸国に魔の者との同盟が消滅したと言う事が知られてしまう。
そうしてしまえば、数百年前に比べて強力な魔法の使い手が減少してしまったこの国は、周辺諸国から攻撃を受けた時に国を守る事が厳しい。

王立魔道士団に入団出来る者の基準も下げてはいるがそれでも魔道士団に入団出来る魔法の使い手は年々減少してきている現状である。

今は、数少ない魔の者と人間の間に生まれた者達が極小数この国に残って国防に携わる重要な役割を引き受けてはくれているが、人間よりも寿命が長いと言われている混血の存在でも、寿命は存在する。

殆ど魔の者との交流が無くなってしまった現在、その彼らがいなくなってしまったらこの国の将来はどうなるのだ、と数代前の国王から頭を悩ませる問題である。

だからこそ、久しぶりに適性者が出た、と言う聖属性魔法の使い手であるメニアを王族でしっかりと囲っておきたい、と言う考えを持っていたのだが──。
ヘンリーはメニアとネウスの様子を見て、それは不可能だ、と悟る。

宰相であるラドからも報告を受けていたが、件の夜会があった際にも、ネウスはメニアを自分の色でしっかりと固め、執着を顕にしていた。
そして、今現在も「そう」だ。
王族の意図を察したのであろうネウスは、牽制するようにメニアに執着している様をわざと見せている節がある。

王太子であるエリシュオンには、未だ婚約者が居ない為、メニアの一つ年上のエリシュオンと婚約を結び直させようと画策していたのだが、ヘンリーはちらり、とエリシュオンに視線をやると、ヘンリーの視線に気が付いたエリシュオンは微笑みを浮かべたまま「お手上げだ」とでも言うように肩を竦めた。

あれ程までにネウスがメニアに執着している様を見せられて、横からメニアを奪うなんて暴挙に出れる筈も無い。
そんな事をしてしまえば、ネウスは怒りこの国を直ぐに攻撃し始めるだろう。


ヘンリーは短期間で考えを纏めると、国の安寧を取った。

「──セリウス・レブナワンドと、シャロン・タナヒルへの処罰は三日後、裁きの間で行います。その際に魔の者と通じていた証拠として、ネウス殿の国の……その、魔の者を一時だけお引渡し下さい」
「あー……、分かった……。だが、悪いが残ってるのはフィエンって言う男しかいねえ。複数いた奴らは既にこっちで処罰済だ」

ひょい、と肩を竦めるネウスに、ヘンリーはひくりと口端を歪めると「そ、そうですか」とか細く言葉を零す。
処罰済、で残っている者はフィエンしか居ない、と言う事は「そう言う事」だろう。

例え自分の部下だった者達でも、容赦無く切り捨てるネウスの行動にヘンリーは背筋を伸ばす。

「今回の所業は、彼ら個人だけの罪では収まりきらない為、両侯爵家は爵位を剥奪の上、労働刑に処す予定です。当事者は十五年間、家族は十年間、の予定ですが……張本人達への罰は、我が国での処罰が済んだ後になってしまいますが、ネウス殿はそれでも宜しいでしょうか?」

ヘンリーの言葉に、ネウスは些か考え込むような仕草を見せると、ぽつりと「それまで持つかどうかだな……」と呟いてからヘンリーに向かって頷いた。

「分かった。……それが終わってからで良い。十五年後、必ず両名を俺に引き渡せ。この国に使いをやるからその人物に引き渡してくれりゃあ良い」

ネウスは、ちらりとマティアスに視線を向けてそう告げるとマティアスは肩を竦めて唇を開く。

「……分かりましたよ、俺が引き取りに行くんですよね」
「良く分かってんじゃねえか。頼んだぞ」

にんまりと笑みを浮かべるネウスに、マティアスはがっくりと項垂れた。




国王達との短いようで長いような会話が終わり、メニア達は再びラドの案内の元、王城を後にする。

ラドを先頭に、メニアとネウスが横に並んで着いて行き、その後ろにマティアスとロザンナが続く。
捕縛したフィエンは既にネウスの転移魔法によって魔の者の国に返されており、ネウスの右腕だと言う男性と、ロザンナの長男でありマティアスの兄であるロンが「しっかりと」面倒を見てくれるらしい。

「国王陛下からの正式な謝罪は、レブナワンド侯爵家とタナヒル侯爵家の裁きが終わった後、場所を城の大広間に移して行います。お時間を取らせてしまい恐縮ですが、ハピュナー嬢と、ネウス様両名にはお付き合い頂ければ、と……」
「分かりました、参加します」

ラドの言葉に、メニアが小さく言葉を返す。
隣を歩いていたネウスは、メニアに視線を向けると気遣うように唇を開いた。

「──流石に、色々あり過ぎて疲れたか?」

ネウスの言葉にメニアは暫し迷ったように視線を泳がせるとこくり、と小さく頷く。

「そうですね……。セリウス様やシャロン様とあのような結果になって……それに引き続きこの国の国王陛下とお会いになったので緊張しちゃいました。緊張疲れですかね……?」
「俺だって一国の王だってのに、緊張してねえじゃねえか、差別か?」
「ち、違いますよ──!」

後方で気安く言い合いを始める二人に、ラドは「本当に仲が良い物だ」と苦笑する。
ラドは、未だにネウスの前に立つ事ですら、ネウスの瞳に自分の姿が映される事ですら緊張感で震える程なのに、そのような偉大な存在となんて事の無いように会話をするメニアに感心してしまう。

(いや、ネウス様がハピュナー嬢に対して威圧感を出していないのか)

ラドはそう一人納得をすると、馬車を呼び、四人が乗り込んで城を去って行くのを見届けて中へと戻って行く。

裁きの日までに、やらなければならない事が山積みだ。
この国の宰相であるラドは、痛む頭にまた頭痛薬を飲まなければ、と額を抑えた。








メニア達が馬車に乗り込み、ハピュナー子爵邸へと戻る最中。

ハピュナー子爵邸は驚きと、戸惑いに大騒ぎになっていた。
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