【完結】偽りの聖女、と罵られ捨てられたのでもう二度と助けません、戻りません

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メニア達が子爵邸に戻る頃には、日が傾き始めていて午前中に王城に行ったと言うのにいつの間にこんなにも時間が経ってしまったのだ、とメニアは驚いた。

「こんなに、時間が経っていたんですね」

メニアが馬車の窓の外から見える景色にぽつり、と言葉を零すと同じ馬車に乗っていたネウスとロザンナがメニアに同意する。

「ああいった国の裁きの際には時間が経つのは早いもんだからな……」
「ネウス様の国では重罪人の場合はネウス様がさっさと処罰してしまいますから早いですけど、それ以外の軽微な裁きの場では時間がかかりますからねぇ」

事実確認や証拠確認やら時間が掛かるものねぇ、とロザンナがうんざりしたような表情で口にするのを見て、メニアは何処の国でも、裁きに時間が掛かるのは同じでそしてその場の時間が流れる感覚が早く感じてしまうのは皆一緒なのか、と納得する。

「早く、ネウスさんの国に行きたいですね……」

ぽつり、と呟いたメニアの言葉にネウスは黙ってメニアの頭を撫でた。




ハピュナー子爵邸に馬車が到着すると、メニア達が戻って来るのを待っていたのだろう。
正門の奥、正面玄関の所でメニアの父親と義兄のハロルドが待っており、メニアはネウスに手を貸してもらい馬車から降り立つと急ぎ父親と義兄の元へと向かった。

「お父様、お義兄様、ただ今戻りました……！」
「お帰り、メニア。無事で良かったよ」

メニアに笑顔を向けた後、メニアの父親はネウスとロザンナ、マティアス達に視線を向けると「ご無事で良かった」と口にする。

ネウスはひょい、と肩をすくめると当然だと言うように口端を持ち上げて唇を開いた。

「俺が居るんだから無事に決まってる。──この国を出る許可も国王から貰ってる。今後はもう何も心配する事はねえよ」
「ネウス殿、まことか！？それは、良かった……本当に良かった……。もし万が一国を出る事に対して難色を示されてしまっては、と考えていたのだが……無事にそちらの件も解決したようで安心した」

移住に関して、すんなりと許可がおりないと考えていたのだろう。
メニアの父親は本当に安心したように表情を緩めると、もう一台の馬車から降りて来たカーナとユリナに視線を向けて目元を緩めると、邸の中へと足を進め始める。

「ネウス殿と、メニアが王城に行っている間に移住の準備はある程度進めておいた……。直ぐにこの邸を出て行ける程度には準備はしておいたが……終わらなかった部分は後日、この邸に残っている使用人達に準備をしてもらう予定です」
「ああ。使用人も、希望者は全てこっちの国で面倒を見るから移動してくる人数が把握出来次第、俺に教えてくれ。俺がいない場合はマティアスか、ラティージル、と言う男に伝えてくれれば良い」

ネウスの言葉に、メニアの父親はこくりと頷くと少し前方を歩いていたハロルドとカーナとユリナに視線を向ける。

ハロルドの子供でもあり、メニアの甥っ子と姪っ子を気に入っているカーナとユリナは、嬉しそうな表情を浮かべてハロルドと会話をしている。

メニアがネウスの邸に居る間、魔石を子爵邸に届けていたカーナとユリナはいつの間にか義兄のハロルドや、姉のシルビアと親交を深めていたのだろう。
甥っ子姪っ子のマルクとリリーとも仲良く遊んでくれるカーナとユリナに、ハロルドもシルビアも、メニアの父親や母親も感謝し、二人を暖かく迎え入れてくれている。

メニアは、自分の家族にネウスのみならずロザンナやマティアス、カーナやユリナが優しく穏やかに接してくれているこの状況に有り難さと、嬉しさを感じる。
例え人間と魔の者で種族は違えど、こうして関係を築く事が出来るのだ。

この国の人間から敵意や悪意を向けられて、人間ではない魔の者が自分自身を理解してくれて、心配して心を砕いてくれた。

メニアが甥っ子と姪っ子に会いに行こうと廊下を駆けて行くカーナとユリナの後ろ姿を微笑みながら見詰めていると、隣を歩いていたネウスが不思議そうにメニアの顔をひょい、と覗き込んだ。

「メニア……？どうした？」

キラキラと煌めくネウスの紅い瞳を見詰めながら、メニアは笑顔を浮かべて唇を開いた。

「──ネウスさんと出会えて良かったなぁ、って考えていたんです」
「──っ、ばっ、お前っ、こんな所で……っ」

メニアが素直に自分の気持ちを吐露した事に驚き、嬉しさやら照れくささでネウスは頬を薄らと赤く染めると、照れ隠しをするようにメニアの頭をぐりぐりと撫でた。



そんな二人のやり取りを生温い視線で見詰めながら、メニアの父親とロザンナ、マティアスは顔を見合わせて苦笑した。