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第百三十二話

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ミリアベルの魔力が完全に戻るまではあれから丸三日を有した。



その間、ノルトはミリアベルの身を案じ魔力が回復するまで安静にするようにと言い、ミリアベルが与えられた客室から出歩かないようにしっかりと使用人達へと言い伝えていた。

魔力を回復させる間、ノルトやネウス、カーティスやロザンナが国内が現在どんな状態になっているか等を逐一報告してくれて、ミリアベルが暇を持て余している際等はノルトを筆頭にネウスやロザンナ、魔道士団の女性団員であるアラベラがやって来て、話し相手になってくれた。

ランドロフ殿下は事態の収束に慌ただしく動いているらしく、ミリアベルが目覚めた当初に顔を出して以来部屋には来ていない。

ミリアベルは魔力が完全に回復するまで暫くぶりのゆったりとした時間を過ごし、ノルトやネウス、カーティスやロザンナ達と談笑したりして過ごした。

時々、ネウスとロザンナが難しい顔をして揃って部屋を出て行くのが何度かあったが、ノルトへ視線で問うてもノルトは黙って首を横に振るだけで、ノルト自身もネウスとロザンナが何をしているのかは分からないらしい。
ネウス曰く、「うちの国での問題」と言われてしまえばそれ以上干渉しにくい。

ネウス達の国の問題についてもミリアベル達は協力を申し出たい気持ちは変わらない。
その件についても、ランドロフへ話をしなければいけないのだが、ノルトから魔力が回復してからだ、と言われてしまえば今は大人しく回復を待つしかない。




ミリアベルが無事魔力の回復を成したその日の夜。
ネウスは皆が寝静まった頃、外からミリアベルの部屋の窓を数秒見つめてからその場から姿を消した。
















──真っ白な空間が見える。見渡す限り真っ白で、何もない。

「ここ、は……何だ?」

男──かつて大司教として教会の権力者として君臨したイルムドはキョロキョロと周囲を見回す。

拘束されていたはずの手足も自由で、体の痛みも感じない。
自分の足が動く事を確認したイルムドは、ゆっくりと足を動かし、何かないか、と辺りを歩き回った。

「──何も景色が変わらん……」

だが、どれだけ歩いても真っ白い空間が続くだけで何も景色は変わらない。
イルムドは訝しげに眉を顰め小さく呟くと、その場にぴたり、と立ち止まった。

「何か、来る……?」

イルムドの視線の先。
視線の先に、ゆらりと揺れる人影のような物が見えた。

イルムドは瞳を細め、その人影のような物を注視する。
何か、自分に害をなそうとする物なのだろうか。
それとも、自分に利を与える物だろうか。
ゆっくりとその朧気だった人影のような物の輪郭が次第にはっきりと見えてくる。
その影がはっきりと見えた瞬間、イルムドは歓喜の表情を浮かべて喜色に満ちた声音で叫ぶ。

「リスティアーナ!!」

イルムドが叫んだその名前は、ランドロフの母の名でこの国の第二王妃の名前でもある。

「リスティアーナ、何故ここに……!?そうか、そうか……!成功してたのだな、子供の心臓を得る事は出来なかったが、"代わり"でどうにか成功したんだな……っ。良かった、本当に良かった……!もう大丈夫だ、リスティアーナ……!これからは私がずっと側に居る。何も恐れる事は無い。ずっとずっと一緒だ。あんな男となんてもう一緒に居なくていい。本当に愛し合った者同士で居られるんだ」

イルムドは、目の前で優しく自分に微笑むリスティアーナに向かって恍惚の表情を浮かべてゆらりゆらりと歩いて行く。

あの頃と変わらないまま、優しくイルムドを見つめる視線のままその場でイルムドを待ち続けている。

イルムドはリスティアーナのその笑顔を見て、自分の胸が満たされていくのを感じる。

自分から離れない、あの頃と変わらない優しい笑顔で待ち続けてくれている。
それが、嬉しくて嬉しくて嬉しくて。

イルムドが伸ばした手が、リスティアーナに触れる瞬間、ふいっとリスティアーナが体を翻しイルムドから離れて行く。

「……っ!リスティアーナ!待て!」

自分から離れようとするリスティアーナに、イルムドは瞬時に怒りを覚え駆け出すと無理矢理リスティアーナを自分の腕で抱き締める。

「リスティアーナ、何故私から逃げようとする!?何故私から離れようと──!」

イルムドは、怒りの感情そのままに自分の腕の中に閉じ込めたリスティアーナの顔を見ようと、顎を掴み無理矢理顔を上げさせた。

瞬間。

「──ひっ!!」

イルムドは、驚愕に瞳を見開いた後怯えて腕の中のリスティアーナを突き放す。

「何故っ、何故お前が──っ」

イルムドに突き放された"男"はそのままドサリ、と地面に倒れるとぐるり、と首を擡げぎょろり、と血走った瞳をイルムドに向けた。

「見つけた、やっと見つけたぞ。イルムド……。私達から逃れるなど許さない、お前はずっとずっと私の物だ。例え炎で焼かれようとも、私達のあの場所が無くなろうとも、お前は私達から離れる事は出来ない!」
「──ひっ、やめっ、司教様っ」

でっぷりと肥え太った体で、「司教」とイルムドに呼ばれた男はイルムドの足首をぎちり、と掴むとそのまま地面に引き倒す。

先程までのイルムドとは信じられない程、怯え、震える姿に憐憫の情を覚えてしまう程。
それ程、その「司教」と呼ばれた男が現れた瞬間にイルムドはガタガタと弱々しく震え始める。






そのやり取りを、後方から腕を組み、つまらなさそうに見つめる男が居る。

「──なるほどなぁ……?何故あんなに歪んだ人間が出来たのか分からなかったが、あの男の生い立ちに関係があったのか……」

紅い瞳を愉しげに細め、顎に手を当てて目の前の惨状を見つめる。

「まあ、幻覚の効果は上々だな?あとは、吸収の結果が如何程か」

男は愉しそうな笑みを浮かべたまま、ゆっくりと目の前の光景に背を向けると歩き出す。

やっとミリアベルの魔力が戻った。
やっと、この先について人間側の王と話し合える。

「ミリアベルには、この事は伏せとくか。汚ぇもんな」

ちらり、と背後に視線を向けて眉を顰めるとさっさとミリアベルの元へと戻る為に転移魔法を使用した。
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