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お茶会での出来事3

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ミュラーは幼い頃の出来事を思い出し、そして少し寂しく思ってしまった。
レオンの事を諦めたらもうあの優しさに触れる事は出来ないんだと、大人の男性なのに少しふにゃっとした表情で笑う可愛い笑顔も見れないのだと思うと後ろ髪引かれる気持ちになるが、レオンに気持ちがないのであればキッパリと忘れるべきだ。

ミュラーは、昔の事を思い出してしんみりしてしまった気持ちを振り切ろうと、1人庭園の散策に出る為同じテーブルにいる友人達に声を掛ける。

「アレイシャ。少し庭園のお花を見に散策してきてもいいかしら?」
「それは大丈夫だけど…1人で平気?」

少し気落ちしているミュラーを心配して、アレイシャがそう声を掛ける。

「ええ、大丈夫よ。あまり遠くに行かないし、皆の視界に入る辺りでお花を見てくるわ」

先程のフレッチャー家の令息を思っての言葉だろう。
アレイシャはちらり、と先程の令息の方へ視線を向けると「それならわかったわ」と微笑んだ。

「我が家の庭園もハドソン家に負けず劣らず見事だから是非ゆっくり見て頂戴」
「ええ、では皆さんまたのちほど」

ミュラーはにこやかに笑うと、3人に軽く手を振り庭園へと足を進めてゆく。
そのミュラーの後ろ姿を見ながら、残った3人はミュラーとレオンの話へと切り替える。

「…どうなっちゃうのかしら、あの2人」
「ミュラーさんもアルファスト侯爵の事が好きなのに、何故あの夜会の日、あんな事を…」
「そうですよね…傍から見たらあのお2人が思い合っていることは明白なのにもどかしいですわ…」

ふぅ、と3人はこの後どうミュラーを励まし、諦めるなと元気づけようか頭を悩ませた。









色とりどりの花々を見ていると、心がうきうきと弾むような気がする。
沈んだ気持ちを、美しい花々に癒されてミュラーは微笑んだ。

あのお花は何という種類かしら?と気になった花の元へ向かおうとした所で、後ろから高く、鈴の音のような美しい声で声を掛けられた。

「ハドソン嬢、こんにちわ」

初めて聞くその声に驚き振り返れば、そこには亜麻色の長い髪の毛をゆったりと編み込み、口元を扇で隠した涼やかな目元の美しい令嬢が佇んでいた。
目元は笑顔を作っているのに、真っ直ぐとこちらを射抜くその瞳は冷たく感情を感じない。
ぴりっ、とした空気を感じつつもミュラーは声を掛けてきた令嬢へ挨拶を返す。

「お話するのは初めまして、ですわね。わたくしはキャロン・ホフマンと申します。お時間よろしくて?」

疑問形で聞いてくれているが、否と返せないそんな雰囲気にミュラーは「えぇ、大丈夫ですわ…」と返す事しか出来ない。

キャロンは、庭園の端にあるガゼボへと足を進めてゆく。
ミュラーはそのガゼボが少し奥まった箇所にあり、お茶会を開いているローズガーデンから離れてしまっている事にアレイシャから言われた言葉に背く事になってしまう、とキャロンを呼び止めようと口を開く。

「ホフマン嬢、申し訳ありませんがこれ以上ローズガーデンから離れたくありませんの」

そのミュラーの言葉に、不機嫌さを隠しもせずキャロンはぎろり、とミュラーを一睨みすると、完全に体をミュラーへと向けて振り返った。
苛立たしげに瞳を細め、扇をぎりぎりと握りしめているからか細い指先の爪が白くなっている。

「あぁ、嫌だ嫌だ…!そのおどおどした態度も、他人を伺うその媚びた視線も気持ち悪いですわ!」
「…っえ?」

突然そう怒鳴り散らすキャロンにびっくりしてミュラーは瞳を見開いた。

「その小賢しい態度で縋って、優しいレオン様に長年縋りついていたのでしょう?幼い子供の内からあの方に散々迷惑をかけておいて、ご自身が成人すると同時に他の男性を漁るなんてハドソン嬢は随分と尻軽な女性なのですね?」
「なっ!」

殆ど初対面で、面識のないキャロンから罵倒されミュラーは怒りでカッと頬に熱が灯る。

「だ、男性を漁るとは何て侮辱的な事を言うのですか!」
「あら、わたくし間違った事を言ったかしら?優しいレオン様の態度に味をしめた貴女がずっとレオン様に纏わりついていたせいで、レオン様はずっと結婚する事が出来なかったのですよ?幼い子供に強く断る事も出来ず、レオン様を散々苦しめておきながらさっさと自分は他の婚約者の男性を見繕おうとするなんて…!」

何てはしたなく、尻軽な女性なのでしょう!と、キャロンは広げていた扇をパチン!と閉じると更に言い詰める。

「2年前、あの方が結婚しようとしていた女性がいた事を知っていて?夜会で逢瀬を重ね、愛を育んでいたのを知っていて?そんな女性がいらしたのに、ハドソン嬢の邪魔のせいでレオン様はその女性と結婚する事が出来ず、泣く泣く別れた女性がいらしたの!その女性はレオン様と別れざるをえなくなったそのショックで心を病み、儚くなってしまったわ!」

レオンには結婚を約束していた女性が、いた──?
夜会で逢瀬を重ねていて、愛を育んでいた──?
ミュラーはその言葉を聞いて、はっと昔の記憶を思い出す。
二度と思い出したくなかったその辛い記憶、一昨年の夜会で確かにレオンがある伯爵家の女性に口付けていた光景を。

キャロンはミュラーのその表情を見て、ニタリと笑むと吐き捨てるように言葉を続けた。

「覚えがあるようですわね。その女性はパトリシア・フィプソン伯爵令嬢ですわ。わたくしの従姉妹で、儚くなってしまった後わたくしを気遣って下さったレオン様は何度もわたくしのホフマン家へ足を運んで下さったわ。その後…レオン様とわたくしは愛を育みましたの…」

ほぅ、と頬を染めレオンを思うキャロンのその言葉にミュラーはぐらぐらと足元が崩れて行く感覚に陥る。

「レオン様はわたくしが成人するこの時を待って下さっていたの。貴女もレオン様にはもう二度と纏わりつかないで頂戴。わたくし達の邪魔をせず、大人しく他の男性と結婚しなさいな」
「……」

キャロンの言葉が鋭利な刃物のように心に突き刺さる。
─私は、レオン様の愛する人を奪っていたの?レオン様の幸せを、壊してきたの?
ミュラーはぐっ、と拳を握りしめ溢れ出そうになる涙を唇を噛んで必死に押しとどめた。

「まったく…レオン様が優しく、貴女を一度も怒ったことがないからと言って、ここまで考え無しなのは困ってしまうわ。今後は、わたくしの未来の夫に近寄らないで下さいませね?」

キャロンは勝ち誇ったようにミュラーに笑いかける。
そのキャロンの言葉に、ミュラーはふと違和感を覚えた。

「レオン様から…、聞いたのですか…?私を一度も叱責した事がない、と」
「ええ、そうですわ。レオン様はあの通りとても優しいですから。年下の子供には怒れない、と仰ってましたわ」

そう告げると、もう話す事はないとばかりにキャロンはふん、と鼻で笑うとミュラーをその場に置き去りにするように足早にその場を立ち去って行った。
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