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一章

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 お茶会の招待状を手に持ち、その内容を眺めているハウィンツが呆れたように言葉を零した。

「──凄いな……。普通は自分の行動がバレてしまわないように暫くは対象から距離を取るものだと思うんだが……」

 リリーナはそんな気は微塵も持っておらず、堂々とリズリットを茶会へと誘った。
 その豪胆さにハウィンツが舌を巻いていると、連絡を受けたディオンがやって来たようで、庭先でディオンを迎える為に揃って椅子に座っていたリズリットとハウィンツはディオンの出迎えに腰を上げた。

 今日のリズリットの装いは、淡いピンク色のデイドレスで、胸下にくるりとブルーのリボンを一周させて左側にリボンで飾りを作り、止めている。
 スカートは脛が隠れるか隠れないかの丈で、風が吹くとふわりと柔らかな裾が広がり、柔らかな印象を見せる。
 リズリットの灰色の髪の毛はふんわりと柔らかく編み込まれ、髪飾りは鶺鴒の精霊が居るからだろうか、鳥の形を模した装飾の両側に花々が咲いている大ぶりだが品のいい髪飾りで編み込んだ髪の毛を纏めており、その可憐さにディオンはマーブヒル邸の庭先に来るなり「妖精!」と叫んでその場で停止した。

「えっ、妖精……っ、? 精霊では無くですかっ!?」

 リズリットはよもや自分に向けられた言葉だとは思わず、妖精が居るのだろうか、と周囲をキョロキョロと見回す。
 リズリットの肩に止まっていた鶺鴒の精霊は自分の主の情けない姿に呆れたような視線を向けて、リズリットの首筋に頭を擦り付けた。

 ハウィンツは呆れつつも、ディオンの態度が「いつも通り」だと確認すると先程の妖精発言には触れずにディオンに向かって唇を開いた。

「呼び出して悪いな、ディオン。リズリットに案の定招待状が届いたから連絡した」
「──え、あ、ああ。うん、思ってたよりも早いな」

 ディオンは何度か咳払いをして気持ちを切り替えると、恐らくだらしなく緩んでいた自分の表情を引き締めてハウィンツとリズリットの元へと向かい、進められるまま椅子へと腰を下ろした。

 リズリットも妖精の姿を見付ける事が出来ず、諦めてハウィンツとディオンの会話に視線を向けると自分宛に届いていた招待状を、ハウィンツがディオンへと渡した。

 ディオンはその招待状を受け取ると、さっと内容に目を通してリズリットへと視線を向けると唇を開いた。

「ロードチェンスでの茶会は、明後日か……。リズリット嬢、お願いしても大丈夫だろうか?」
「はい、勿論です」

 心配そうに声を掛けてくれるディオンに、リズリットは何処か嬉しく感じながらこくり、と頷く。
 これは国から正式に依頼された調査のような物だが、自分の身を案じてくれる人が居てくれるだけで何とかやれそうな気持ちになるのは何故だろうか、とリズリットは不思議な感覚に擽ったくなる。

 血の繋がった身内に心配してもらうのとはまた違った擽ったさ。
 リズリットは、「友人が出来るとこれが普通なのかしら」とはにかみながら考えるが、友人が出来た事の無いリズリット自身にもよく分かっていない。
 リズリットが感じるその感情は、友人相手に覚える感情とはまた少し違った物だと言う事は。


「二日後か……通常、招待状を送るのは一週間前に送るのが常識的なのに……これは……」
「ああ。嫌がらせにも似たような物だろうな」

 ディオンとハウィンツはリズリットに聞こえない程度の小さな声音でぽそぽそと小声でやり取りを行う。

 茶会に招待されたのならば、手土産を用意する時間や、デイドレスの準備などもしなくてはならない。
 慌ただしく準備させてしまう事を避ける為に、招待相手を気遣い、通常は余裕を持って招待状を送るのだが、こんなに直近に招待状を送り付けて来るなど、リズリットを思いやる気持ちは一切無いと言う事だ。

 ディオンはふむ、と自分の顎に手を当てて考えるように虚空を見上げるといい事を思い付いたとでも言うように唇を開いた。

「それならば、茶会に持参する手土産は公爵家で用意しよう。デイドレスや装飾品も俺が用意する」

 ディオンの言葉に、リズリットは驚きに目を見開き、ハウィンツは気持ち悪そうに表情を歪めた。

「そ、そんな事をディオン卿にさせてしまうなど出来ません! 手土産も、ドレスも用意しますのでお気になさらず……っ!」
「いや。そもそも、今回の茶会に参加してもらうのは国王陛下からの勅令のような物だ。その為、必要な出費は全て国で賄うのが普通だろう。公爵家で用意し、こちらから陛下に請求するのでリズリット嬢は気にしないでくれ」
「で、ですが……」

 本当にそんな事までディオンの言葉に甘えていいのだろうか、とリズリットが躊躇っていると、隣に座っていたハウィンツがのんびりと紅茶のカップに口を付けながら「いいんじゃないか」と言葉を零す。

「ディオンが良いと言っているし、確かにリズリットは国の指示で茶会に参加するんだから言葉に甘えよう。……ここぞとばかりに高いドレスを強請ればいいさ」
「ああ、リズリット嬢はただ当日が来るのを待っていてくれれば良い。茶会へ赴く際の衣服は全て用意しよう」

 あっさりとハウィンツからもそう告げられて、リズリットはお二人がそう言うのでしたら、と申し訳ない気持ちになりながら頷いた。
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