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第4章 獣人
2リオ②
しおりを挟む長身のガイアの後に隠れているようだ。
「中へどうぞ。お茶を用意します」
クリスが、ガイアをソファへと誘導する。
「待っていたよ」
その一言で、少しガイアの眉間に皺が寄った。
「リオ……悪いが、とても人見知りなんだ。身分証も持っていない。礼儀がなっていないとか、そう言うのは勘弁してくれるか?ここに連れて来るのも今回だけだ。貴族相手に見せたくない」
平民なのか?
「夜会に今すぐ出せとは言わないよ。体が弱いとか適当な理由は作れる。
転移して俺とクリスと一緒にお茶をするくらいなら、今回だけとか言わないで欲しいな」
「他人の目に触れさせたくない」
これは、相当だな。あのガイアが溺愛なのか。面白いな。
「分かったよ。だけど、お前今後の夜会はどうする?連れがいないままなら、迫られ兼ねないだろう?」
「その時は、俺も欠席する。護衛だけなら裏からでも出来るからな」
まじか?それは、それで不味いと思うぞ。
「と、とにかく紹介して欲しい」
ガイアの隣り、黙ったままフードを目深に被っている。
体格差のせいでとても、小柄に見える。
いったい───
「ユラ、フードを下ろして大丈夫だ」
真っ黒の長い髪を一つに束ねている。瞳は琥珀。
「あ、え?令嬢?」
いや違う。ベストにリボンタイ。片耳のピアスは、お互いの瞳の色の様な石が付いている。
恋人の証は、ピアス以外にも身につけている。
繊細な彫刻のバングルには、お互いがペアである様に石の並びが違う。魔力を帯びていて、ガイアが魔力構築をしたものだと分かる。
すごい。
相当な魔術式だ。金を積んで欲しがる者がいそうだ。王家なんて、喜んで金を出すレベルだな。
「恐ろしいな。そのアクセサリー」
独占欲の塊だ。納得もする。これ程美しいとは、思わなかったな。
性別の問題は、ない。
特に嫡子でなければ、子供がいなくても大丈夫だ。
同性婚は後継の問題が無ければ、好きなもの同士が婚姻しても責められたりしない。
だが。
服装からいけば、男だ。ガイアが男を選ぶとは思わなかったな。
テリーが美人と言った。テリーは、男と知っていて俺に言ったのだな。
「これは、美しいな」
「リオ」
「リオ様」
ガイアとクリスから注意を受ける。そう言う誘うつもりなんてないんだが……
「ええっと、すまない。なるほど、ガイアが隠したい理由もテリーがべた褒めするのも納得だよ。
初めまして。リオ・フランだ。
フラン辺境伯爵の長子だ。ガイアとは、友人関係でもある。魔術師としてここの魔術師団に所属してもらっている」
ガイアの隣りで少し、伏せ目がちに座っている。小さな手がガイアのローブを握っている。
これは、ガイアも離れられないだろう。
猫みたいだ。
「変な気を起こせば、いつでも俺は出て行くから」
おいおいおい。
「ちょっと待て。ここの領内は恋人の証を付けた者達へのちょっかいは、禁止だ。それに、ガイアを失う訳にはいかない」
「クリスだって、魔術師として優秀だ。俺より、皆の信頼も厚い」
その発言に慌てたのは、クリスだ。飛んだとばっちりだろうな。
「ガイア、俺に責任を押し付けるのはやめろ」
クリスが、迷惑そうに断っている。
なすりつけ合いになったところで、ユラが花が綻ぶように笑った。
うちの剣豪の恋人も可愛いが、これは想像以上で、堅物のガイアが執着しているのも納得だな。なんなら、彼女が気に入って離さなくなりそうだ。
「ガイア、出て行くとかやめてくれ。ユラにも、ここにいて欲しい。ガイアが出て行かない様にしっかり捕まえてて欲しい」
少し目を見開いた後、俯いた。
それから、またガイアを見つめる。大きな手でユラの頭を撫でたかと思ったら、フードを被せてしまった。
「お前、そんなに独占欲が強い奴だとは思わなかったぞ」
「ええ。俺も、ユラに会って変わりました」
──おまえ、偽物じゃないのか?
そう思わずにはいられない。
これから、天変地異でも起きそうだ。
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