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新しい出会い

27:わんこは考える【マイクSIDE】

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私はユウさまたちと共に
旅立つと仕えの者に告げ、
急いで身支度を整えた。

一応、神官服と、必要そうな
ものを手短にカバンに詰める。

その間に、侍従に
服を用意させると、
平民と同じような目立たない
茶色いズボンとシャツ。

そして分厚い生地の黒い上着を渡された。

着替えは最低限のものしか
準備できなかったが、路銀はあるし、
必要ならどこかの街で買い替えればいいだろう。

私は着替えながら、
侍従に状況を手短に説明した。

この侍従は私が屋敷から
連れて来た者で信頼できる。

一応、家の者と王都の大神殿にいる
祖父にも状況を伝えるように
命じておく。

私は馬車を用意させ、
神官たちがユウさまを探す前に
教会を出ることにした。

私は『聖樹』が蘇るのを見るのは
2度目だったのと、ユウさまが
お傍にいるので、すぐに我に返ったが。

おそらくあの場にいるものたちは
もうしばらく興奮状態にいるだろう。

今のうちに、出ていくのが得策だ。

ユウさまは、どうやらお優しく、
慎ましい性格のようで、
あまりその行幸を知られたくないご様子だったから。

私はユウさまと、
侍従のように働くディランを促し、
教会を出た。

教会の前にはすでに馬車が
準備万端の状態で待っていた。

私はそばで見ている侍従に
目配りをして、ユウさまを
馬車に乗せた。

馬車は揺れるであろうことを
想定して、クッションを
準備させてはいたが。

ユウさまは、何故か
ディランの膝に乗っている。

何故だ!

「ユウさま。
何故、その男の膝に乗るのでしょうか」

「支えてくれると、
揺れなくていいでしょ?」

と無邪気に笑うユウさまは
とても可愛らしい。

が。

ディランがにやりと笑って、
ユウさまのお腹に回した
手の力がこれみよがしに
強まるのを私は見逃さなかった。

「わ、私の膝でよろしければ
いつでもお使いください」

と申告したものの、
ユウさまは、笑顔でありがとう、
と言って…そのまま眠そうに
目を擦った。

ディランが得意そうに
ユウさまの体の向きを変え、

こともあろうか
ユウさまは、ディランの
胸に顔を押し付けて眠ってしまわれた。

「こいつは、揺れると
すぐに寝ちまうんだよなー」

などと得意げに言うディランに
殺意を覚えたのは仕方がないことだろう。

「……貴様、
何のために、ユウさまのお傍にいる?
何が目的だ?」

ユウさまが寝ている間に、
まずはコイツがユウさまを
どう思っているのかを
確認せねばならない。


「目的……ねぇ?」

にやり、と笑う顔が気に入らない。

「あの村までユウさまを
保護して連れてきたことには礼を言う。

だが、ユウさまと一緒に
旅をする必要はないはずだ」

「そうだったんだがな」

ディランはユウさまを見た。

それは…とても、優しい瞳で。

優しい仕草で眠るユウさまの髪を梳く。
ユウさまは嬉しそうな顔をして
ディランにすり寄った。

感情を抜きにしてみると、
仲の良い兄弟にも見える。


「ほっとけないだろう?
こんな子どもが、必死で頑張ってんだ。

大の大人に傅かれて、
戸惑うな、と言う方が無理だ。

さっきの神殿でもそうだろう?

あんな爺さんでも、
おそらくは高位の神官たちだ。

そんな爺さんたちが
ユウの服や足に敬意の口づけをしようとする。

少なくともユウは、
そういうことを嫌がってる。

だから俺は、そういった輩から
こいつを守ってやろうと思ってるわけだ」

もちろん、お前からもな。

と釘をさされた。

確かにユウさまは、
そういうことを嫌っている節があった。

だからこそ、あの村で
『聖樹』を芽吹かせた後、
誰にも何も言わず
立ち去ることを選んでいたのだろう。

そして私もまた、
ユウさまの前では、跪き、
頭を垂れてしまう人間だ。

ユウさまにとっては、
そういったこととは無関係の
この男の傍の方が、

我々よりも心地良いのだろうか。

私は知らずと唇を噛んだ。


「それに、俺も
ユウには用事ができたしな」

「用事…?
それはなんだ?」


不穏な言葉にディランを見るが、
ディランは答えなかった。

ただ、ユウさまを守るし、
『聖樹』を見に行くと言う
ユウさまの行動は邪魔はしない。

用事は簡単には言えないが
ユウさまの気持ちを尊重すると
そういったことを言った。

私としてはユウさまの護り手が
増えるのであれば、
まぁ、いいか、とも思えた。


ディランがユウさまに
危害を加えないことさえわかれば
とりあえず、今はそれでいいだろう。

「でもまぁ、
あんたがユウを見る目つきが
変態だった理由もわかったし。

神殿の神官たちの様子をみれば
あんたの行動は、ただの幼児趣味では
なかったってことだろ?」

変態とはなんだ!

そして私は幼児趣味などではない!
ユウさましか見てないのだから。


私の憤った。

だがディランはそんな私を
気にすることなく、私に視線を向けた。

先ほどまでの揶揄うような顔ではなく
真剣な瞳だった。


「一緒に来てくれて
助かる……な、とりあえず」

ディランはひっかるような
言い方をした。

「何が助かるんだ?
貴様の言う用事とやらに
私に手を貸せとでもいう気か?」

「いや、そういうわけじゃない。
だた、その…二人っきりになると
ヤバイ夢…じゃねぇ。

そう、あれだ!

俺が小銭稼ぎで、
魔獣や魔物を治したりとかする時に
ユウを連れて行くわけにはいかないだろう?

このひとつ前の村でも
そういう依頼があったんだが、
こいつを一人で置いておくのも
心配だし、連れて行くのも心配だった。

だから、あと一人、
ユウの傍に信頼できるやつがいれば
いいと思ってたわけだ」


信頼できる、か。

言い訳のようにいきなりしゃべりだすから
身構えたのだが、私のことを
ユウさまを預けるに足る人間だと
認めたということか。

ディランという男、
気に食わないが、
なかなか良いヤツではないか。


私のユウさまに対する敬愛の深さを
ちゃんと理解しているのだな。

よしよし。

次の街では、侍従に
宿の手配をさせている。
仕方が無いから、
コイツも宿に泊めてやろう。

身体も大きいし、
ユウさまを守るというのであれば
ユウさまの盾として利用させてもらえばいい。

そういう意味では価値はありそうだし、
ユウさまのお傍に侍ることを
許可してやろう。


まぁ、
私とユウさまの間に
何人たりとも入ることはできないがな。



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