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愛があるれる世界
301:嘆き
しおりを挟むカーティスの憔悴した様子に、
私はうろたえた。
でも、今更言葉を撤回することはできない。
「ユウ、待て。
そんなに早く結論は出さなくてもいいだろう」
スタンリーが眼鏡の縁を
人差し指で上にあげて私を見た。
いつも冷静なスタンリーだけれど、
少しだけ、声が震えているようにも聞こえる。
「俺たちのこともそうだが、
隣国の話をもう少し聞きたい。
この国とできれば友好関係を
結びたいと国王陛下も仰せだったし、
もし交流するのであれば、
具体的な案なども話し合う必要がある」
そう言われれば、確かに、と私は思った。
このまま別れても仕方がないと思ったけれど、
今後も国同士で交流があるのなら
気まずい思いのまま別れるよりも
ちゃんと決めることは決めて、
お互い納得して別れるべきだ。
「俺たちとのことは、
隣国とのことが解消してからでいいだろう」
私は頷く。
パパ先生にも、この国が
隣国のことをどうするつもりなのかを
聞いてくるように言われている。
焦って別れを告げる必要はないかもしれない。
「とにかく今は……」
スタンリーがヴァレリアンを見る。
「あぁ、そうだな。
カーティス、国王に報告して来い」
ヴァレリアンがカーティスを見下ろす。
「国王に現状を伝えてくれ。
俺もあとから行く」
床に崩れていたカーティスは
その声を聞き、顔を上げた。
「ユウ、待ってて。
早まらずに、いいね」
カーティスはそう言いながら
立ち上がった。
そしてソファーに座った私の手を取り、
その甲に唇を落とす。
「絶対に、一人で動いたりしないで。
もう、私に黙って行くなど……」
私を見上げるカーティスの瞳は
うっすらと潤んでいるように見えた。
けれど、その瞳の奥には何故か
怒りの感情も見え隠れしているようにも感じる。
「約束して欲しい。
すぐに戻ってくるから」
いなくならないで、と訴えるカーティスに
私が頷くと、カーティスは
嬉しそうな顔をして立ち上がり、
座ったままの私を抱きしめた。
「いい子で待っておいで」
そう言ってカーティスは
早足で部屋から出て行った。
「ユウ、とにかく今は休め。
疲れただろう」
ヴァレリアンがそう言ってくれるので
私は素直に従うことにする。
「汗を掻いてるなら着替えるか?」
スタンリーがそう言って、
ベットのそばにあるクローゼットを開けた。
「うん、ありがとう。
そうしようかな」
気楽な部屋着に着替えてダラダラしたい。
そんな気分になってきた。
私の様子にスタンリーと
ヴァレリアンは顔を見合わせて
ほっと息を吐く。
「じゃぁ、俺はヒヨコが来るまでに
親父のところに行ってくる」
ヴァレリアンはそう言うと、
スタンリーに、あとは任せた、と言って
部屋から出て行った。
「ユウ、湯殿に入るか?
それとも着替えるだけでいいか?」
スタンリーがこうして私の世話をしてくれるのは珍しい。
いつもカーティスがやってくれていたからだ。
「今は着替えるだけでいいかな。
ちょっと歩き疲れたから、
ダラダラしたい」
って素直に言うと、
スタンリーは私のシャツのボタンを
首元から数個だけ外して、
シャツの裾を掴む。
どうするのかと思うと、
スタンリーはそのまま一気に、
肌着ごとシャツを脱がせてしまった。
そして、大きなワンピースみたいな
大きめの寝間着を頭からかぶせてくる。
無言で服を一気に脱がされて
上からワンピースをスポっとかぶせられたのだ。
驚いたけれど、笑ってしまう。
いつもカーティスは、いや、
マイクもだけれど、
丁寧に私の服のボタンを外したり、
肌を傷つけないように、と
ゆっくりした動作で私の服を脱がして
着替えさせてくれていたから。
スタンリーの無造作な様子に
子ども扱いされているような気がして。
そして几帳面だと思っていたスタンリーが
まさか、シャツも肌着もすべて一緒に
脱がしてくるとは思ってなかったので
じつは彼は私生活ではずぼらなのかもしれないと
そんなことも思ってしまった。
そんなギャップに笑ってしまったのだ。
もしかしたら彼は、自宅では
下着もズボンも靴下さえ一緒に
一度に脱ぎ捨てる人なのかもしれない。
「どうした?」
「ううん、ありがとう」
私は何でもない、と手を振って誤魔化した。
意外なスタンリーの姿を見て、
張ってた気が緩んだような気がする。
私は笑って、わざと子どもの素振りで
「わーい」とベットに転がった。
うん、ふかふかで気持ちいい。
ちょっとだけ昼寝だ。
今何時かわかんないけど。
本気で疲れていたからか
私はすぐにウトウトしてしまう。
「疲れているのなら寝ればいい。
私はそばにいるし、
ヒヨコたちが食事を持ってきたら
起こしてやろう」
スタンリーの言葉に私は目を閉じる。
少しベットのマットレスが
沈んだ気がして、
スタンリーがベットの端に
座ったのだと理解する。
でも、疲れていたし、
目を開ける気にはならなかった。
大きな手が私の髪を何度も撫でる。
それも心地いい。
少しだけ、少しだけ寝よう。
エルヴィンたちがお菓子を持って
来てくれたら、お茶を飲んで
おしゃべりしよう。
それから、それから…
ウトウトしながら色んなことを考える。
マイクやディラン、
勝手に一人で出てきたから、
怒ってるかな?
でも、またマイクが利用されるのは
どうしても避けたかった。
それに金聖騎士団の皆は大好きだけど、
家族から引き離す気にはなれない。
「愛していても、離れないとダメか?」
スタンリーの声が聞こえた。
だから私は夢現で答える。
大好きだから、
大好きな人たちが傷つかないようにしたい。
私がずっと欲しかった家族がいるのだから
その家族を大切にして欲しい。
私の頭を撫でる手はそのままに、
「そうか」と声が聞こえて来たけれど
私は眠くて頷くこともできなかった。
そして私は結局、
そのまま翌日の朝まで、
ぐっすりと眠ってしまったのだ。
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