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高等部に進級しました
208:気づいた気持ち
しおりを挟む食堂で食事を終えた後、
俺たちは軍にいるデアーグに
会ってから、キングナイト王国に
戻ることにした。
一応、デアーグに学生に戻るから
しばらくは来ないと言っておこうと思ったのだ。
しばらく会えないと言うと、
デアーグは驚いた顔をした。
だが、キングナイト王国からの
支援は引き続き行われるし、
父や宰相さん、騎士団長さんたちが
スクライド国に来る必要があれば
きっと俺が力を使って
連れてくることになるだろうから
もう会えないとかではないと
俺が言うと、デアーグは
何故かほっとしたような顔をした。
「救済の天使の姿を一目見たいと
この国では多くの住人が
城下町に訪れる。
国の活性化にもつながっているから
できれば、何もなくても
遊びに来て欲しい」
デアーグにそう言われて
俺は苦笑する。
救済の天使って、
創造神の愛し子とどっちが
恥ずかしい名前だろうか。
なんて俺が現実逃避すると
ルイが「街を歩いているだけで
あちこち拝む姿を見かけるもんな」
と小声で追い打ちをかけてくる。
俺が嫌そうな顔をしてルイを見ると
ルイは肩をすくめて知らん顔だ。
そんな俺たちの様子を見て
デアーグは笑った。
「救済の天使も、ただの
子どもで学生なのだな」
「子どもではなく16歳です」
いつまでもお子ちゃまじゃないからな!
と威嚇して言うと、義兄が
「そういうところが子どもだ」と
俺をたしなめた。
空気が少し緩み、
俺はデアーグとそれから
そばで様子を見守っていた
ゲリーに頭を下げた。
「それでは、また」
俺の言葉にルイたちも
頭を下げる。
「あぁ、感謝する。
またいつでも来てくれ」
デアーグの言葉にうなずいて
俺はクマをぎゅっとすると
光の筒が現れる。
俺たちはもう慣れたもので
その中に入ると、
次の瞬間、王宮の、
ティスの執務室の前にいた。
この光の筒も、
何度も使っているうちに
俺が力を調整することで
落ちたりすることが
無くなってきた。
何も考えずに
無自覚に足を踏み入れるから
落ちたり押し出されたり
踏み外したりするのだ。
そしてどこに出るかも、
俺の思うがままだ。
と言っても、
全く知らない場所は無理だ。
俺が脳裏に思い描いた場所に
出るので、見知らぬ場所であっても
一番最初にスクライド国に
行った時のように、
映像とかで見ていれば
行けないことはない、とは思う。
一応、帰ってきたことを
ティスに言おうと俺たちは
執務室の扉をノックしたが
返事は無かった。
義兄が扉を開けるが、
誰もいない。
「陛下たちと話をしているのかもしれないな」
義兄はそう言い、
クリムとルシリアンに
先に帰るように言う。
「馬車は王宮のを借りるといい」
義兄の言葉に二人は恐縮していたが
早く帰って体調を万全にしてから
一緒に学園に行こうと
俺が言うと、素直に頷いてくれた。
「アキルティア、
公爵家の馬車は常に王宮にいるから
それで先に帰るといい」
「兄様は?」
「殿下と義父に報告をしてから帰る」
「それなら……」
「俺が一緒に残るから大丈夫」
一緒に残ると俺が言う前に
ルイがそんなことを言う。
「ルイが?」
「俺も、俺の国のことで
報告したいことがあったからさ。
アキラは先に戻って休んどけよ」
そんなことを言われて
俺は迷う。
でも一緒に帰りたいし。
と思った俺の表情を読んだように
ルイが笑った。
「なんだ?
一人でタウンハウスに
戻るのは寂しいのか?」
ニヤニヤ笑って俺の頭を
ぐりぐり撫でるから
思わず、子ども扱いはヤメロ、と
その手を振り払った。
「一人で帰れるし。
寂しくなんかないし。
ずっと兄様とルイが
一緒だったからって、
急にそばにいないからって
不安になるわけないし。
俺にはクマがいるからなっ」
俺が両手でクマを掲げてやると
ルイは吹き出した。
「わはは、わかった、わかった。
そんなに拗ねるな。
すぐに帰ってやるから」
笑うルイに俺が唇を尖らせると
義兄に頭を撫でられた。
「報告が終わったらすぐに戻る。
それよりも、先ほどは何も
食べなかっただろう?
タウンハウスに戻ったら
キリアスに言って
何か口に入れるように」
義兄にそう言われてしまえば
俺に拒否権はない。
俺はしぶしぶ頷いて
クマと一緒に馬車で帰ることにする。
俺がスクライド国へ
行き来している間は、
公爵家の護衛は必要ない、
というか、
ついて来てもらうわけには
いかなかったので、
キールはずっと留守番だった。
俺の『力』の詳細は
国家機密レベルでナイショだからな。
俺が馬車留めまで行くと
そのキールが馬車のそばに立っている。
俺が近づくと、キールは
嬉しそうに一瞬、目を輝かせた。
「アキルティア様、今日はお早いですね」
「うん。
スクライド国も随分落ち着いたし、
学生生活に戻ろうと思って。
また護衛、よろしくね」
俺がそう言うと
キールは口元を緩めて
俺に騎士の礼をしてくれた。
そして馬車の扉を開けてくれる。
話を聞くと、どうやらキールは
俺がスクライド国にいる間は
ずっと王宮で騎士団の人たちと
訓練をしたりして、
俺が戻るのをずっと
待っていたらしい。
俺はキールは朝一緒に
王宮に来たら、折り返して
タウンハウスに戻っていると
思っていた。
どうりでいつ戻っても
キールが王宮にいるわけだ。
随分遅い時間に王宮に
戻ってきても、すぐにキールが
迎えに来てくれるので
おかしいとは思ってたんだ。
「ごめんね、いつも待たせてて」
俺が言うと、キールは首を振る。
「いえ、仕事ですから。
それに俺は正直、誇らしいです」
「誇らしい?」
「はい。俺のお仕えする
アキルティア様が
この国だけでなく、
他国までも救ってしまう
素晴らしいお方だと
多くの者に自慢したいぐらいです」
純粋な目で言われて
俺は照れた。
それに気恥ずかしいが、
救済の天使だとか言われて
道端で拝まれるよりも、
正面切って素直に言われた方が
何倍も嬉しいと思う。
「ありがとう、キール」
心の中があったかくなった気がする。
そういや俺、ずっと頑張ってたもんな。
頑張ったのは俺だけじゃないけど。
誰かの褒めて欲しいから
頑張ったわけじゃない。
戦争を止めたのも、
この世界を繁栄させようと
頑張っているのも、
感謝されたいからしているわけじゃない。
でも、こうして面と向かって
「誇らしい」と言われて
純粋に、嬉しい。
俺は嬉しくなって。
でも世界を救いたくて
戦争を回避したわけじゃないから
なんて考えて。
俺は思考を止めた。
「アキルティア様?」
俺の様子に首を傾げるキールに
俺は何でもない、と言う。
でも今、俺は何を考えた?
戦争を止めようと頑張ったのは
世界の為……じゃない?
そう、だ。
俺が戦争を止めたいと願ったのは、
世界の為でもなく、
この国の為でもない。
俺は自分の脳裏に浮かんだ答えに
唖然とした。
「アキルティア様?
お顔が真っ赤に……?
まさか体調が悪いのでは…」
キールの声に俺は大丈夫と
必死で言う。
だが、だが。
俺は隣に置いたクマを
ぎゅっと抱きしめる。
やばい、クマ!
やばすぎる~~っ。
俺の心の叫びをクマは聞いたのか、
ぬいぐるみのふりをしていたはずなのに
俺の腕の中で丸い手を
小さく動かし、ぽん、ぽん、と
俺の胸を軽くたたいた。
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