完結・転生したら前世の弟が義兄になり恋愛フラグをバキバキに折っています

たたら

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閑話9

救済の天使【スクライド国・閣下SIDE】

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 俺の名前はデアーグ・バルツアー。
ただの軍人だが、3年前、
スクライド国の王家から
政権を奪ったために、
周囲から元帥閣下と呼ばれるようになった。

この国は最悪だった。

俺はもう40歳を越えたが、
生まれる前の戦争の爪痕が
生まれた時からあった。

いや、爪痕なんかではない。

戦後からずっと、
この国の王家は
武力だけを求め、
民衆は使い捨ての
ただの捨て駒だった。

俺は平民出身だが
たまたま腕力があり、
剣の腕に恵まれていた。

たったそれだけで
俺は軍に入り、
生きていくために
ひたすら戦った。

戦った相手は魔物たちだ。

魔物は狩っても狩っても
どこからか湧いて来る。

村が襲われ、
街が襲われ、そのうち
城下町にまで魔物がでるようになった。

だが、王家は何もしない。

俺たち軍は戦った。
だが、戦っても、戦っても
魔物は減らないし、
なによりも、食料がなかった。

民衆たちよりも軍部の方が
食料には恵まれている筈だが
軍ですら、食料に困るようになった。

さすがにおかしいと思い始めたころ、
王家が出資している研究所から
魔物が出てくるところを
見たと言う目撃証言が
相次いで出てくるようになる。

そこで俺は副官だった
ゲリーと一緒にその研究所を
探ることにした。

そこで俺たちが見たものは……
口に出すのもおぞましい、
魔物を作る実験だった。

この国はもう終わりだ。
国王はきっと狂っている。

それでも仲間たちがいる
この国を捨てることもできず
俺は軍の仲間たちを集め
クーデターを起こした。

俺が国を変えてやる!
そう思ったが。

思ったのは一瞬だった。

俺が国王の代わりになっても
王家の代わりに軍が
政権を奪っても。

何も変わらなかった。

もう手詰まりだったのだ。

それでも3年は頑張った。

だが、どうにもならない。

このまま冬が来たら
国民全員が飢え死にする。

そう思った時、
隣国、ブリジット王国から
密書が届いた。

戦争を起こし、
キングナイト王国を
滅ぼそうという内容だった。

俺は迷った。

もし本当にキングナイト王国を
落とすことができるのなら
美味しい話だ。

国民たちも助かる。

だが、キングナイト王国には
創造神の愛し子がいるという
噂は、鎖国していても
この国には届いていた。

鎖国はしていたが、
この国にある教会や
神殿にいる神父や神官たちは
国境など関係なく
あらゆる国を行き来できるからだ。

信仰に国境はない。

神父や神官たちは
ほそぼそとキングナイト王国に
出向き、村や町の人のために
食料や情報を運んでいるようだった。

国がこんな状態なのだから
創造神に縋る者も多くいる。

噂では創造神の愛し子は
黄金の髪と紫の瞳を持ち、
常に大きなクマのぬいぐるみと
一緒にいるという。

なんだそれは、と
最初は思った。

民衆たちが救いを求めるあまり
妙な妄想をしているのだと
俺は思ったのだ。

だが、ある日、そんな俺の前に、
金色の髪をした子どもが

部屋の真ん中に、
いきなり姿を現したのだ。

驚きのあまり、
俺もゲリーも動けなかった。

まさか部屋の真ん中に
突然、人が現れるなど
考えたことも無かったし、
咄嗟に動ける者などいないだろう。

そしてその子どもは名乗った、

それは今から戦争を起こそうとしている
国の公爵家の名だった。

反射的に俺とゲリーは剣を手にした。

殺そうと思ったわけではない。
だが戦争を起こすのなら
交渉の手札になると思ったのだ。

だが、そんな俺たちを
子どもは……いや、子どもが
持っていたぬいぐるみのクマが
俺たちを拘束した。

目から不気味な光を出し、
俺とゲリーをぐるぐる巻きにしたのだ。

不気味に光る眼を持つクマは
恐ろしい形相をしていて、
数多くの魔物を殺してきた俺でも
肝が冷えるほどの殺気を見せる。

だは俺たちは軍人だ。

戦わずして負けるなど
軍人としての矜持が許さない。

そう思い、もがけばもがくほど
光は俺たちの身体に巻き付き、
痛いほど絞め上げてくる。

そんな俺たちに子どもは
にこやかに話を始めた。

場違いなほどの笑顔で。

「僕はできれば
このスクライド国の現状を
救いたいと思っています」

何を言ってる?
敵国の人間だろう。

そう言おうとした俺が
声を出す前に子どもは言う。

「このままだと、
この国は、終わります」

今更な言葉に俺は自嘲した。

「何を今さら。
もう終わっているだろう」

すると、子どもは
創造神の話をする。

「つまり創造神が
この国を潰すと
決断したということか?」

はは、と乾いた笑いが漏れた。

そりゃそうだろう。
こんな国、再生させるより
全部潰して、新しい国を作った方が
手っ取り早い。

俺がなんとかしてやると、
そう思った3年前の決意が潰えた瞬間だと俺は思った。

だが、子どもは首を振る。

「創造神は僕に力を
与えてくれました。
この国を排除できるほどの。

でも逆に考えれば
この国を再生できるほどの
力と言えると思います」

まさか、と思った。

目の前の子どもは
創造神の愛し子で間違いないだろう。

だというのに
創造神の意志に逆らい、
この国を救うというのか。

子どもは俺の前で
デスクにおいてあった
1輪の枯れた花を、
あっという間に蘇らせた。

軍部の近くの枯れた畑に
唯一咲いていた花だった。

花が咲くのなら
まだ畑は大丈夫。
生き返る。

そう信じて摘んだ花は、
あっという間にしおれてしまい、
畑は枯れ果てた。

その花を、
子どもは蘇らせ、
大輪の花を咲かせたのだ。

「この力があれば
この国の土地を
豊かにすることもできるかも」

その子どもの声に、
俺は言葉を詰まらせた。

「本当に、この国を
救ってくれるのか?」

頷く子どもに、俺は懸けた。

どうせこのままでも
この国は亡びる。

ならば、一縷の望みを
懸けたのだ。

戦争ではなく、
花を蘇らせた子どもとクマに。

その判断は間違いでは無かった。

その日を境に、
国はみるみる蘇っていく。

俺はとうとう創造神に屈した。

今まで祈ったことなどなかったが、
こうなっては感謝以外の言葉が出ない

俺は初めて城下町の教会を訪れた。

教会のガラスは真っ黒で、
屋根は雨漏りがしているらしいが、
祈りの場だけは綺麗な状態で
保たれていた。

神父は俺が出向いたことで
驚いた顔をしたが、
俺を祈りの場に案内する。

「救済の天使様を
創造神が遣わせてくださったのです」

創造神などいても
俺たちを助けるわけでもなく
いてもいなくても同じだと思っていた。

創造神を信じる者たちを
鼻で笑っていたこともある。

だが俺は神父の言葉を
素直に受け入れた。

あの子どもがこの国に来たのは
創造神のおかげだということを
知っていたからだ。

例え最初は、この国を
亡ぼすつもりだったとしても。

俺は創造神の像に祈った。

あの子どもと会わせてくれた礼と、
この国は絶対に滅ぼさせはしないと
言う決意を心の中で告げる。

すると一瞬だが、
創造神の像が光ったような気がした。

気がしただけかもしれないが。

だが俺の言葉はきっと届いたと思う。

創造神に祈るのはこれで最後だ。

俺は神頼みではなく
自分の力でこの国を守っていく。

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