4 / 4
4
しおりを挟む
あっけに取られた、が正しい。そして、次の瞬間、不覚にも、わたしは噴き出してしまった。
だって、それは、赤ちゃんとか、幼い子供に向かってやるしぐさ。それを、こんないい歳をした女性に、いい歳をした男性が恥ずかしげもなくやってのけるとは、まったく夢にも思わなかったのだ。
不意を突かれた、と言うか、なんだかこちらのほうが気恥ずかしくなってしまった。
そして、それから、不可思議な気持ちに胸が満たされた。
以前にも、同じことが、あったような気がする。
わたしは彼を見た。優しげに微笑むその顔は、今日初めて見たもののはずなのに、どうしてか懐かしさを感じる。安心感が込み上げる。
とたんに、わたしには知らないものがある、と思い出した。頭の中で、風船が破裂したような衝撃に近い。唐突なことだった。だけど、怖いとは思わない。そうじゃない。ただ、ただ、胸が詰まる。
知らないものの正体を、探りに行くように、わたしは指先を静かに伸ばした。彼の頬に触れる。知っている、この感覚。初めて、彼が表情を失くしていた。
眉間に光が走る。それに向かって手を伸ばす。掴む。
「――――征、ちゃん……?」
崩れるように、目の前で、征嗣が泣き出した。
(fin)
だって、それは、赤ちゃんとか、幼い子供に向かってやるしぐさ。それを、こんないい歳をした女性に、いい歳をした男性が恥ずかしげもなくやってのけるとは、まったく夢にも思わなかったのだ。
不意を突かれた、と言うか、なんだかこちらのほうが気恥ずかしくなってしまった。
そして、それから、不可思議な気持ちに胸が満たされた。
以前にも、同じことが、あったような気がする。
わたしは彼を見た。優しげに微笑むその顔は、今日初めて見たもののはずなのに、どうしてか懐かしさを感じる。安心感が込み上げる。
とたんに、わたしには知らないものがある、と思い出した。頭の中で、風船が破裂したような衝撃に近い。唐突なことだった。だけど、怖いとは思わない。そうじゃない。ただ、ただ、胸が詰まる。
知らないものの正体を、探りに行くように、わたしは指先を静かに伸ばした。彼の頬に触れる。知っている、この感覚。初めて、彼が表情を失くしていた。
眉間に光が走る。それに向かって手を伸ばす。掴む。
「――――征、ちゃん……?」
崩れるように、目の前で、征嗣が泣き出した。
(fin)
0
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
【完結】愛されないと知った時、私は
yanako
恋愛
私は聞いてしまった。
彼の本心を。
私は小さな、けれど豊かな領地を持つ、男爵家の娘。
父が私の結婚相手を見つけてきた。
隣の領地の次男の彼。
幼馴染というほど親しくは無いけれど、素敵な人だと思っていた。
そう、思っていたのだ。
完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました
らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。
そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。
しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような…
完結決定済み
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
いい雰囲気から一変、どうなっちゃうのという場面に。
この先どうなるか気になるところですね。
あー景綱さん!
また読みにきてくださったのですね!
ありがとうございます(;´Д⊂)
短編なのですぐに終わりますが、少しの間お付き合いください♪