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第3章 学園に通おう

96話 あーん

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 きゅるるるる……。

 この先どうしたものかと考えながらパンを食べていたら、なんかバナくんのお腹から可愛い音が聞こえた。

 今日は僕のお世話ばっかりしてたから、まだ朝ごはん食べてないんだろうな。

 ちょっと恥ずかしそうにお腹を押さえてるバナくんを手招きする。

「なに?おにいちゃん」

 僕に呼ばれて嬉しそうに寄ってくるバナくんに、パンをひとちぎりして差し出す。

「はい、あーん」

「あーん♪」

 そして、素直に差し出されたパンを美味しそうに食べた。

「バナくんも一緒にご飯食べる?」

「うんっ!
 ……あ、でも、ヴィーくんがおにいちゃんがたべてるときは、おてつだいしてなきゃダメって……」

 笑顔でうなずいた後、すぐにしょんぼりしてしまう。

 ヴィーくん……ヴィンターさんかな?

 ヴィンターさん、ああ見えて……って言ったら失礼か、まあ、かなり真面目だからなー。

 他の子が僕と一緒にご飯を食べているときでも絶対に給仕に徹している。

 ミゲルくんたちなんかももちろん真面目だけど、意外と要領よく休憩とかを取っているのに比べてヴィンターさんが休んでいるのを見たことがない。

 ……夜以外で。

 そういう意味では、イヴァンさんに似た真面目さがあるな、ヴィンターさん。

「そっかー。
 それじゃ、今日は僕からの命令です。
 一緒に食べましょう」

 ヴィンターさんの教育方針には反するかもしれないけど、これも計画のためということで許してもらおう。

「おにいちゃんといっしょにたべていいのっ!?」

「うん、一緒に食べようね」

 満面の笑顔で喜んでいるバナくんにうなずき返して、この流れでエミールくんにも『エミールくんも一緒に食べない?』と声を……。

「エミくんっ!おにいちゃんがいっしょにたべていいってっ!はやくこっちっ!!」

 僕が声をかける前にバナくんが有無も言わさぬ口調でエミールくんを呼びつけてた。

「えっ、いえ、俺は……そんな事……」

「エミくんっ!はやくパンもってきてっ!ぼくはスープもってくるっ!」

 オロオロとしているエミールくんに構うことなく、バナくんはもう決定事項というように準備を始めてしまっている。

「エミールくん、諦めてこっちおいで」

 これ断るとか絶対無理なやつだから。

 ノリノリの笑顔でスープを準備しているバナくんを見る限り、これは逆らえない。

 逆らったら『ぷくーっ』ってなる。

「……あの……すみません……」

 エミールくんもそれを悟ったらしく、追加のパンを持ってテーブルにやってくる。

「あっ、おにいちゃんっ!」

「ん?なに?」

 僕もなにかやることあるかな?

「エミくんにもあーんしといてねっ!」

 は?

 思わずなに言ってるのかわからないって顔をしてしまった僕に、バナくんが少し頬を膨らませている。

「ぼくだけおにいちゃんひとりじめしたら、エミくんないちゃうでしょっ!
 だから、エミくんにもあーん」

 ……なるほど、昨日ミゲルくんに言われたことちゃんと覚えてたのか。

「え?あーんって?えっ?……え?」

 1人話の通じてないエミールくんがオロオロと動揺している。

「バナくんはエミールくんにも自分と同じ事してほしいんだって」

 簡単に説明して、パンをひとちぎりしてエミールくんに差し出す。

 まあ、恥ずかしいだけで実害はないし、キスよりマシだろう、きっと。

「はい、エミールくん、あーん」

「えっ?いや?……そ、そんなわけには……」

 当然かもしれないけど、食べてはくれないエミールくん。

 バナくんの頬がまた膨らんできてしまっている。

 エミールくんもそれが分かっているのか、チラチラとバナくんの方を見ている。

「イヤ?一応、ちゃんと手は洗ってきたけど……」

 まあ、そう簡単には他人の手で物は食べられないよねぇ。

 いや、本当ごめん。

「い、いえっ、嫌ってわけではないんですが……も、申し訳なくて……」

「イヤじゃないんなら、おいで」

 道理が通じない独裁者が相手だから、仕方ないと諦めてもらおう。

 パンを差し出し続ける僕を見て、諦めたように僕の手からパンを食べてくれるエミールくん。

 なんか『頑張ったっ!偉いっ!』って気分になって、そのまま頭を撫でてしまう。

 エミールくんは顔を赤くして恥ずかしそうに俯いてしまったけど、そのまま頭を撫でられ続けている。

 バナくんは嬉しそうに頷きながら自分とエミールくんの分のスープを持ってきてくれているし、ご満足いただけたようだ。

 地頭と何とやらには勝てぬって言うしバナくんには困ったものだ。

 苦笑いする僕に、バナくんは可愛い顔で不思議そうに首を傾げた。
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