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13巻
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しおりを挟む第一章 知人に会いに行こう。
僕は茅野巧。エーテルディアという世界に転生した元日本人だ。
何故〝元〟かというと、この世界の神様の一人、風神シルフィリール――シルがうっかり起こした事故で一度死んでしまったからだ。
そして、責任を感じたシルが、僕をエーテルディアに転生させてくれたのだが……シルの眷属として転生したことが判明したり、転生先が危険な森の中だったり、その森の中で二人の子供を保護したりと、初日からいろんな出来事が目白押しだった。しかも、その保護した子――アレンとエレナと名づけた子供達は、実は水神様の子供だったのだ。
どこに行っているのか、水神様は現在所在不明だったため、僕が二人を引き取り、弟妹として一緒に生活している。
兄と慕ってくれる子供達と冒険をしながらいろんな街を見て歩いていた僕だったが、今はガディア国の王都に戻ってきている。僕達がよくお世話になっているルーウェン伯爵家の次男である、グランヴァルト・ルーウェン様――ヴァルト様が結婚することになったと知らせを受け、結婚式に参列するためだ。
残念ながらヴァルト様は仕事で留守だったため、まだお祝いの言葉を贈っていないんだけどね~。
「「きょうはどこいくー?」」
「そうだな~。まずは注文しに行こうか」
王都に戻ってきた翌々日、僕達は買いものをするために街へ繰り出していた。
街をいろいろと巡る予定だが、忘れないうちにとあるものの注文を終わらせてしまおうと思ったのだ。
というわけで、僕達はまず宝飾店へと向かった。
「ここしってるー!」
「エレナのこれ、かったところ!」
「正解」
真珠のアクセサリーを作ってもらったり、エレナが好んで身に着けている雪の結晶のブローチを購入したりしたお店である。
「これはこれは! タクミ様ではありませんか! ようこそおいでくださいました」
店に入ると、一番奥にいた店員がすっ飛んでくるように近づいてきた。
何度か会ったことがあるが、確かここの店長さんだ。
入り口の近くにいた店員さんを押しのけるようにしてやってくる。
「えっと、僕のことを覚えているんですか?」
「もちろんでございますよ。あれほど見事な真珠を融通してくださったタクミ様を忘れるなんて、そんなことできませんよ」
「あ~、確かに印象には残るか」
僕の手持ちの真珠はどれも形や大きさなどの質が良く、さらに見たこともない色付き真珠まであった。そりゃあ、顔も覚えられるか~。
「本日は、何かをお求めでしょうか?」
「制作依頼です。できれば、急ぎでお願いしたいんですが……あ、もちろん、その分の料金は支払いますので、お願いできませんか?」
「まずはお作りする品のお話を聞きましょう。制作するものによっては、日数がかかってしまうものもありますからね」
「それもそうですね」
「では、奥へどうぞ。そちらでお話を伺います」
僕達は店の奥にある応接室へと案内された。
「タクミ様、お久しぶりです。この度は制作依頼と伺いましたが、どのような品をお求めでしょうか?」
応接室には、以前真珠のアクセサリーを作った際にルーウェン邸で会ったデザイナーさんも来てくれた。
「これを使用した装飾品を作ってもらいたいんです」
僕は《無限収納》から、『色彩の迷宮』で手に入れたプラスチックっぽい素材の造花を取り出した。僕の握り拳くらいはある、パステルカラーの造花だ。
「これは! 本物の花のようですが、作りものですかっ!?」
店長さんもデザイナーさんも食い入るように花を見つめる。
「迷宮で手に入れたものなんです。それで、これを使って髪飾りを四つ。貴族夫人が使用してもおかしくないものを三つと……」
「エレナの~」
「この子用で一つ。お揃いに近い形で仕上げてもらえれば嬉しいです」
僕としては結った髪に挿して使う簪みたいなものをイメージしているので、それも伝える。
「ご夫人というのは、ルーウェン伯の奥方、ご子息の奥方ですね。申し訳ありません、もう御一方はどなたでしょうか?」
店長さんが言っているのは、子供達が〝おばあ様〟と呼んで慕うルーウェン伯爵家の奥様であるレベッカさん。ルーウェン伯爵家の長男、グランヴェリオさんの奥さんであるアルメリアさんの二人だ。
「次男、グランヴァルト様が結婚されるので、そのお相手にお祝いとして差し上げたいんです。急ぎと依頼したのは、結婚式が近いのでそれに間に合わせたいからですね」
最後の一人は、まだ名前すら聞いていないヴァルト様の結婚相手の女性である。
「そうでございましたか」
僕と店長さんが話している間にデザイナーさんが画帳を取り出して、二本軸っていうのか? 二股? の軸のトップに、持ち込みの花の画を描く。
花自体がわりとゴージャスなので、その花だけでも映えそうな髪飾りだ。
「ベースはこのようにしまして、あとは個別で花の周りを華やかにする感じでいかがでしょうか?」
「いいですね。あとはそうだな~。チェーンとかに石を付けてしゃらしゃらと動きに合わせて揺れるようなのはどうですか?」
「ほぉ~、それは斬新ですね」
「あれ? 斬新ってことはあまり見ない形になるのか? マナー違反だったりします?」
「いいえ、そのようなことはありませんよ」
「そうですか。良かった~」
髪飾りは頭に固定されていないといけない……とかだったらまずいが、大丈夫だったようだ。
「あ、宝石ですが、僕の手持ちの真珠を……と言いたいところですが、真珠を使うと怒られるので、水晶を使ってください。子供用に使えそうなガラス玉もあります」
「タクミ様がお持ちの真珠は大変素晴らしいものですからね。贈答品としては高価過ぎますから、注意されるのも仕方ありませんよ」
僕としては《無限収納》で眠るだけになるくらいなら使ってもらったほうがいいのだが、レベッカさん達からしたらそうはいかないらしい。なので、最近は受け取ってもらうのは諦めようと思っている。
「……真珠、買い取ってくれます?」
「お売りくださるんですか? 喜んで買い取りましょう!」
お金を必要としているわけではないが、市場に出回っている数を少し増やしておきたいので、店長さんに話を持ち掛けてみたら、思いの外喜んでくれた。
それなら、大きいものや色付きは高額になりすぎるので避けて、小さめの粒をいくつか売ろう。
「それじゃあ、髪飾りの注文が終わったらお出ししますね……エレナ、髪飾りは、誰にどの色がいい?」
「んとね~……」
真珠の売買は後に回して、自分達の注文をしてしまうことにする。
造花の色は何種類かあったので、まずはエレナに選んでもらおう。
「おばあさまは……きいろ! おねえさまは……ピンク!」
赤い髪に赤い瞳のレベッカさんには黄色の花。焦げ茶の髪に青い瞳のアルメリアさんにはピンクの花。
「ヴァルト様のお嫁さんは確か……銀髪に青い瞳って言っていたよな~」
「じゃあ、あお!」
「エレナは?」
「エレナはしろがいい!」
なかなか良いチョイスだと思う。
「水晶は同系色でまとめるほうがいいかな」
レベッカさんには黄水晶か橙水晶、アルメリアさんには赤水晶か紅水晶、お嫁さんには青水晶か紫水晶ってところかな? まあ、最終決定はデザイナーさんに任せよう。
「エレナ用のガラス玉はどんな色でも合いそうだから、好きな色にしな」
「えっとね~、えっとね~……」
「珍しく悩んでいるな~。何色で悩んでいるんだ?」
「あかもいいけど、きいろもいいの。あ、ピンクも!」
エレナは時間をかけて真剣に悩んでいた。
うちの子達は普段からわりと即決することが多いので珍しいな。エレナは小さくても女の子ってことかな?
「そうだな~、チェーンを取り外しできるようにして、石の色を気分で取り替えられるようにできますか?」
そう提案してみると、デザイナーさんは目を輝かせる。
「できます! なるほど、取り替えることができれば、本体一つでいくつもの楽しみ方ができるんですね! 素晴らしい!」
「あ、うん、できるなら、それでお願いします」
もの凄く絶賛された。
僕はただエレナがかなり迷っていたので、ならば全部作ってしまえばいい。とはいえ同じような髪飾りがたくさんあっても仕方がないから、つけ替え。そんな軽い気持ちで提案してみただけだったんだけどな~。
「おにぃちゃん、ありがとう」
「エレナが喜んでくれたら、お兄ちゃんも嬉しいよ」
隣に座っているエレナがくいくい服を引き、可愛い笑顔でお礼を言ってくれる。提案したかいがあったってもんだ。
「タクミ様!」
「あ、はい、大丈夫です。そういう商品を作って売っても問題ありません」
「ありがとうございます」
店長さんの期待の籠もった表情で何が言いたいかわかったので先回りして答えると、店長さんは晴れやかな笑みを見せた。
「ですが、こちらの品を先に作ってくださいね」
「それはもちろんでございます」
デザイナーさんも早速デザインを思いついたのか、いくつかのデザインを描くとテーブルに並べていく。
「これ、おばあさまに、にあいそう!」
「こっちはおねえさま!」
「こっちは、エレナの?」
「かわいい!」
アレンとエレナが、はしゃぎながらデザイン画を見比べていく。
夫人用はシンプルで上品な感じに。エレナ用だと思われるものは、レースのリボンを使って可愛さの際立つデザインになっていた。
「どうですか?」
「いいですね。これでお願いします」
「では、急ぎで仕上げさせていただきます」
具体的にどれを誰用にするか決めれば、注文は終了だ。
一応、レベッカさん達の分も色違いの水晶で取り替え用も作ってもらうようにお願いした。あと、ついでとばかりに、ヴァルト様のお嫁さん用にはお揃いで使えるような首飾りと耳飾りも合わせてお願いした。お祝い品だし、このくらいならいいだろう。
使う水晶を手持ちから出してお店に預け、真珠を売ってから僕達は宝飾店を後にしたのだった。
次は木製の細工や家具の店だ。
「「こんにちは~」」
「いらっしゃ……ん? 坊主と嬢ちゃんは、以前にうちに来たことがあるな?」
「「うん、ある~。おぼえてるー?」」
「おう、覚えているぞ。変わったもんを注文してもらったからな」
「うすとー」
「きねー」
「ああ、そんな名前だったな」
「その節はお世話になりました」
この店には以前、臼と杵を作ってもらったのだが、店主は僕達のことを覚えていたようだ。
「ガヤの木ですり鉢を作るなんて注文、記憶に残らないわけがないよな?」
「ははは~」
通常、ガヤの木は家具などを作るのに使う高級素材だ。それで臼と杵を作ったとなれば、店主がこう言うのも納得だ。
「それで今日はどうした? ガヤの木で食器でも作りに来たのか?」
「ああ、それもいいですね」
「おい!」
たぶん、店主は冗談で言ったんだろうけど、僕がそれに乗ってみたら鋭い突っ込みが返ってきた。
「冗談ですよ」
「おまえさんの場合は冗談に聞こえんわ! というか、食器の場合はオレのとこじゃないからな!」
ここの店は家具などが専門っぽいので、食器を頼む場合は他の店にお願いしないといけないようだ。
ということは、本来は臼と杵も専門外だったのかもしれないな~。ただ、道具類としては大きい部類だし、簡単なものだったから作ってくれたのかな?
「それでしたら、ガヤの木で食器を作ってくれる店を知っていたら教えてください」
「冗談だったんじゃないのかよ!」
「丈夫そうだし、燃えにくい食器があってもいいかな~と思い直しまして。本当に作ってもらおうと思います。こちらにも今日お願いしようとしていたものとは違いますが、ガヤの木で家具もお願いして良いですか?」
今からではヴァルト様の結婚式には間に合わないだろうが、後から贈っても良さそうなので、ソファーなどの家具をいくつか注文しておこう。
「本当か!? もちろんだ!」
すると、店主が思いの外喜んでいた。
そういえば、職人って良い素材を使ってみたいと思う傾向があったな。これなら臼と杵を頼んだ時にもっといろんなものを頼んでおけば良かったな~。
「本当ですよ。いろいろと注文していいのなら、あれもこれも注文しますよ!」
「うっしゃー! どんと任せろ!」
「お願いします。でも、ガヤの木以外の注文も受けてくださいね」
「おうよ!」
ガヤの木の家具の注文の前に、今日の本題である注文を聞いてもらう。
「それで今日お願いしたかったものなんですけど……木を出せるところはありますか?」
「じゃあ、裏に資材置き場があるから、そっちに来てくれ」
場所を移動して、僕は《無限収納》から真っ黒な木を取り出す。
「まずはこれを見てください」
「うぉ! 何だ、この木は! 断面も同じ色だぞ?」
木を見た途端、店主は驚きの声を上げて、まじまじと木を眺め始める。
「迷宮で見つけた木です」
「迷宮産かよ。へぇ~、色を塗っているわけじゃなくて、もともと色付きなのか」
「「そうなの!」」
すると、アレンとエレナが嬉しそうに声を上げた。
「これでアレンたちのイスと~」
「エレナたちのテーブル~」
「「つくって!」」
二人が言うように、まずは子供達用の椅子とテーブルを作ってもらうつもりだ。外でも使えるような脚が短くて小さなものを、子供達に持たせておくことにしたのだ。
僕は続いて、今度は水玉模様の木、それも色違いのものを七本取り出す。
「なっ!?」
店主は黒い木以上に驚いていた。
「これも迷宮産です。で、これらで大きな宝箱風の物入れを……全部で七個」
こっちは子供達とジュール達全員分だ。それぞれ好きな色のもので作って、そのままお宝入れとして使いたいと強請られたのである。
「はぁ~……兄ちゃんには驚かされることばかりだな~」
店主は深く、疲れたように溜め息をつく。
「宝箱だったな。具体的な大きさはどのくらいだ?」
「そうですね~、僕が一人で抱え上げられるくらいの大きさだったら、この一本で作れますか?」
「ああ、それだったら余裕でいけるな」
「じゃあ、そのくらいの大きさでお願いします」
七色の水玉模様の宝箱。できあがったものを並べたら、さぞ壮観だろうな~。とても楽しみである。
「あ、ガヤの木もここに出していいですね」
ガヤの木は大きいし太いから、とりあえず二本もあればいいかな?
「こっちでは二人掛けのソファーがいいかな。あとはテーブルと椅子のセットとか……まあ、その他諸々を適当にお願いします」
特に何が欲しいとかはないので、店主にお任せでお願いする。
ヴァルト様へのお祝いは、できあがったものの中から選べばいいだろう。残りは自分の部屋で使ったり、贈りもの用としてストックしておいたりしてもいい。
「おいおい、何だよその注文は! そんなこと言うと、本当にオレが作りたいものを好き勝手に作るぞ!」
「はい、そんな感じでお願いします」
「……いいのかよ」
店主は若干呆れている様子だが、気にしないでおこう。
「ガヤの木は高価で希少なものだってわかっているのか? 一、二度来ただけの店にポンと預けていいような品じゃないぞ。オレが量をちょろまかして売る可能性だってあるんだぞ!」
「ははは~。妙なことを企む人はそんな注意はしてくれませんから、おじさんは大丈夫ですね!」
「「だいじょうぶ~」」
「……」
ちょろまかす人は、こんな風に注意なんてしてくれない。それに、アレンとエレナも警戒していない。ということは、店主は良い人だってことだろう。心配ないな。
「それで、前金はどのくらい払えばいいですか?」
「ガヤの木を持ち込んでいる時点で、前金なんていらんよ! というか、こんなにガヤの木を預かるのは怖いんだが!? うちの倉庫はそこまで頑丈じゃないんだぞ!」
「盗難の心配ですか? それはほら、僕がガヤの木を持ち込んだことは誰も知りませんし、大丈夫ですよ。それに、仮に盗難にあっても責める気はありませんし、賠償も求めないですよ?」
「だとしても、せめて、小分けで持ち込んでくれ! さすがにこんな大木を二本も置いていかれたら、心配で眠れなくなる! 胃が痛くなる!」
店主が切実そうに訴えてくるので、ガヤの木を一本回収する。
「もう一声! そうだな、この長さがあれば……あ~、でも、切るのはかなり時間がかかるか~」
「じゃあ、短めのものを出します」
もう一本のガヤの木も一旦回収し、別のガヤの木を取り出す。
僕が持っているガヤの木は、イビルバイパーを倒した際に使った風魔法に巻き込まれて切り倒されたものだ。当然、木の根元部分を狙って真っ直ぐに飛んだわけじゃないので、実は短いものもかなりある。
「まだあるのかよ! 凄いな!」
「長さはこれで足りますか?」
「充分だ」
「できれば、さっきのカラフルな木のほうを優先でお願いします。どのくらいでできますか?」
子供達用の椅子とテーブル、宝箱は僕が王都にいるうちに受け取りたい。今後の予定を決めているわけではないが、あまり時間がかかるようだと困るからな。
「そうだな~。五日後ってところだな」
「わかりました。じゃあ、そのくらいに取りに来ます。それで、ガヤの木のほうですが、他に仕事が入ったならそっちを優先しても大丈夫ですので、仕上がったタイミングでルーウェン伯爵家に連絡してください」
ガヤの木の家具は僕が王都にいなくても大丈夫なように、マティアスさんに受け取りを頼んでおこう。あ、ついでに加工前のガヤの木も、邸の倉庫とかにいくつか置かせてもらっておこうかな。そうすれば、ガヤの木が追加で欲しくなった時、いつでも持っていってもらえるな。
「ルーウェン伯って……おまえさん、お貴族様だったのかよ!」
「いいえ、ルーウェン家にお世話になっているだけのただの冒険者ですよ。ガヤの木の家具は、その家の方に贈るので、貴族が使ってもいいような感じにお願いしますね」
「おう、腕を振るって作らせてもらうよ」
「お願いします」
「「しまーす!」」
家具工房を後にした僕達は、続いて紹介してもらった食器などを作る工房を忘れずに訪れた。
そこでガヤの木の食器をお願いしたのだが……大変驚かれたものの大喜びで引き受けてもらえたので、いろいろとお願いしておいた。
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