異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~

水無月 静琉

文字の大きさ
表紙へ
243 / 321
16巻

16-3

しおりを挟む
 ◇ ◇ ◇


 碧海宮に一晩泊まった翌日、僕達は碧海宮を後にして海中散策をしていた。

「「ていやー!」」

 アレンとエレナは魔物を発見すると、素早く泳いでいき、途中から上手く体勢を変えて流れる勢いのまま両足でりを繰り出す。

《むむ。やっぱり水中戦は難しいな~。上手く動きの切り替えができないや》
《アレンちゃんとエレナちゃんは、本当に上手に動くわよね~》
《ぼくの場合は頭、というかくちばしから突っ込んでいけばいいので体勢を変える必要はありませんが、ジュール達はさすがに頭から行くわけにはいきませんよね》
《くっ! オレはもう頭から行く!》
《わたしには水中戦は間違いなく無理なの! みんな、頑張れなの!》
《ラジアンもむり~。タクミおにーちゃん、あそぼ~》

 ジュール達は海に潜るのは今回で二度目か? 泳ぎはだいぶ上達しているようだが、残念ながら泳ぎながらの水中戦闘には慣れていないようだ。

「数をこなせば、そのうち慣れるさ!」

 そんな子供達を、カイザーがひたすら監督かんとくしていた。
 カイザーにとって水中戦は慣れたものだろうけど……それはリヴァイアサンの姿の時だ。人の姿の時は戦えるのだろうか?
 まあ、いざとなったら元の姿に戻ればいいのだから、特にできなくてもいいのかな?

「カイザー、子供達……主に戦っている子達の様子を見ていてくれる?」

 見ていてもしようがないので、僕達も動くことにした。

「うむ? それは構わんが、タクミはどこかに行くのか?」
「マイルとラジアンと一緒に採集でもしているよ。海中のものはなかなか採りに来られないから、いろいろ探してみる」
「なるほど。わかったぞ、こちらは任せくれて構わぬよ」
「うん、お願いね。――マイル、ラジアン、海底を見に行こうか」
《行くの!》
《あそぶ~》

 僕は少しだけひまそうにしていたマイルとラジアンを連れて、海底に向かう。
 とはいっても、それほど離れていないので、頭上で子供達が暴れているのはちゃんと見える距離だ。

「ラジアン、あまり離れるなよ~」
《わかった~》

 海底ではラジアンがまだぎこちなく泳いでいたので、離れないように注意する。海底にも魔物はいるからな。

《海藻がいっぱいなの!》
「お、昆布こんぶとワカメだな」
《なになに~? これ、とるの~?》
「そうだよ。ラジアンも手伝ってくれるか?」
《うん、てつだう!》

 マイルが早速、よく使う海藻を見つけてくれたので、僕はマイルとラジアンと一緒にたっぷりと採取していった。

《タクミ兄、タクミ兄、これを見てなの! この海藻、野菜っぽいの!》
「ん? あ、本当だな。えっと……ミズ菜?」

 海藻を採っていると、マイルが野菜っぽいものを見つけた。名称は『ミズ菜』。だが、僕が知っている水菜っぽい野菜は、こちらの世界ではアオ菜という名前だ。なので、違う植物なのだろう。

《食べられるの?》
「うん、大丈夫みたい」

 そして、このミズ菜という名前の植物は……モロヘイヤっぽいものらしい。
 ……海中に生えている時点で、僕の知っている野菜ではなさそうだけどな。

《とりあえず、回収しておくの!》
「そうだね。食べてみないと美味しいか美味しくないかはわからないもんな」

 でただけで、程よい塩味のするおひたしになったりするかもしれないので、採取できる分は採取しておこう。

《やったー! 大物が来た!》

 ミズ菜を採取していると、ベクトルの喜びの叫びが聞こえた。

《ベクトルがはしゃいでいるの!》
「大物って魔物だよな? 何が来たん……――っ!?」

 何があったのかとベクトルのほうを見てみると、ベクトルの視線の先からシーサーペントが向かってくるのが見えた。

《あれ、なーに?》
「あれはシーサーペント。えっと……ヘビ型の魔物かな?」
《つよい?》
「そうだな。そこそこ強いと思うよ」

 それこそ姿形はリヴァイアサンに似ているが、ドラゴンではない。まあ、海の魔物としてはなかなか強い部類だろうけどな。
 だが、それでもベクトルならそこまで苦労しないだろう。

「あ、でも、泳ぎの慣れ具合によっては苦労するのかな?」
《苦労はしても、負けはしないと思うの!》
「それはそうだな」
《ベクトルおにーちゃん、がんばれ~》

 倒すのに時間は掛かるかもしれないが、負けることは想像できない。

「お、真っ直ぐに突っ込んでいったな~」
《いつも通りなの!》

 ベクトルは向かってくるシーサーペントに直進していくと、そのまま正面しょうめん衝突しょうとつ

「うわ~、豪快ごうかいに行ったな~」
《ベクトルは本当に頑丈がんじょうなの! 普通ならあれは痛いの!》
「だよな~。――あ、次はみついたか」

 頭突きだけでは仕留めきれなかったようで、ベクトルは続いて動きの止まったシーサーペントの首に上手く噛みついた。
 そして、力任せにぶんぶんとシーサーペントを振り回した。

《あ、シーサーペントがぐったりしたの!》
「もう少し苦戦するかと思ったけど、意外とあっけなく倒したな~」
《ベクトルおにーちゃん、すごーい》

 ラジアンはベクトルの雄姿ゆうしを見て、少々興奮しながらベクトルのほうへ泳いで行った。それに僕達もついて行く。

「ラジアンにあの戦い方は真似まねしないように言わないとな」
《あれはベクトルだからできるの! 絶対に真似は駄目なの!》

 尊敬や憧れから、ラジアンがベクトルのような力任せの戦闘をしないように注意しておこう。

《兄ちゃん、見てくれた?》
「うん、見ていたよ。大物なのにあっさり仕留めて凄いな」
《えへへ~。仕留めたやつは早速マジックリングに入れておいたから、あとでまとめて兄ちゃんに渡すね》
「そうだな。ベクトルのやつは時間がゆっくりになるのが少しだけだからな」
《ジュールとの約束を守らないと没収されちゃうから、兄ちゃんもオレが忘れていそうだったら、ちゃんと教えてね!》
「ははは~、了解。さすがにここで渡されても困るから、陸地に行ったらすぐに受け取るよ」

 ジュールの脅しがしっかりと効いているようで、ベクトルはマジックリングを装備する条件を守ろうとしている。

《シーサーペントは美味しいかな? 食べるのが楽しみ~。――あ、サンドクラブを発見! 兄ちゃん、行ってくるね~》

 ベクトルは次の獲物を見つけると、すぐさま泳いで行った。

《ベクトルは慌ただしいの!》
「あれはあれでいいんじゃない? 確かにベクトルの行動には驚いたり呆れたりすることもあるけど、今さら礼儀正しくて大人しい子になったら……僕は調子がくるうような気がするな~」
《それはそうかもなの!》

 困ったこともあったりするが、ベクトルはやっぱり今のままのベクトルが一番落ち着くだろう。

「さて、そろそろ満足したかい?」
「「した~」」
「それじゃあ、日が暮れる前に陸地に行くよ」
「「は~い」」

 シーサーペントと遭遇してからもしばらくの間、魔物退治や海藻採取を続け、たっぷりと戦利品を手に入れた僕達は、日が暮れる前に陸地へと引き上げることにした。





 第二章 レギルス帝国へ行こう。


「さて、どこに行くかな~」
「「んにゅ?」」

 陸地に行くにしてもどこへ行こうか悩んでいると、アレンとエレナが不思議そうな顔をしていた。

「えっとな、今、僕達がいるところから一番近い海岸は、レギルス帝国っていう行ったことのない国なんだ。だから、その国に行くか、ガディア国へ戻るか悩んでいるんだよ」
「「あたらしいところ!」」
「レギルス帝国に行ってみる?」
「「いく!」」

 というわけで、行き先はアレンとエレナの言葉によって決定し、僕達はレギルス帝国へ行くことにした。
 再びカイザーの背に乗って、泳ぐこと数十分で僕達はレギルス帝国の海岸に上がった。
 カイザーに任せると、あっという間だったよ。

「「ここー?」」
「うん、ここがレギルス帝国だよ。一番近くの街は……グラッドの街だな。でもまあ、街には明日行こうか」
「「おとまりー?」」
「そうだね、今日はここで野営というか、家を出すところを探して泊まろうか」
「「わ~い。おとまり~」」

 せっかくなので、今日は野営にして浜焼きでもしようと思う。魚介がたっぷりと手に入ったことだしな。
 泊まる場所については、《無限収納インベントリ》にある持ち歩き用に作った家を出せばいいだけなので心配はない。まあ、開けた場所が必要になるんだけどな。

「晩ご飯は、海の食材をいろいろ焼くぞ~」
「「いっぱいたべる~」」
《兄ちゃん、兄ちゃん、シーサーペントも食べたい! あっ! 大変だ! オレ、戦利品を兄ちゃんに渡してない! 兄ちゃん、受け取って、受け取って~~~》

 ベクトルが慌てて、マジックリングの中身を全て出して積んでいく。

「うわ~。結構あるな~」
「おにぃちゃん、アレンのも~」
「エレナもおねがい~」
「えぇ!?」
《兄様、私の持っているものもお願い》
《兄上、ぼくのもお願いします》
「うわっ、ちょっと待って!」

 続いてアレンとエレナ、フィートとボルトもマジックバッグやマジックリングから海での戦利品を取り出していく。
 一人だけでも小山ができるほどの素材を複数人でまとめて出されると、辺りが凄いことになる。なので、僕は慌てて《無限収納インベントリ》に素材を入れていく。

「……結構な数の魔物を倒していたんだな~」
「「がんばった!」」

 あまり頑張らないで欲しい。だって、レベル差がさ……うん、もう諦めるのが一番だな。

「では、タクミ、我が集めたものも収めてくれ」
「え、何で!? カイザーのマジックリングは時間経過がかなりゆっくりで、容量もあるんだろう?」

 カイザーも何故か僕に素材を渡そうとしてくる。

「確かにそうではあるが、我が素材を持っていても使い道がない!」
「食材になるものだったら、持っていてもいいんじゃないか?」
「我の普段の食事は、生きたままの魔物だ! なので、仕留めたものはあまり好まん! あ、タクミの料理なら大歓迎だ!」
「……さすがに全部を料理して返すことはできないぞ」
「うむ、それはわかっておる。一部で良いので、帰る時に料理を持たせてくれると嬉しい」
「わかった。あと、食材じゃないものは売って、街で屋台の料理とかを買い込むかい?」
「おぉ! それも良いな!」

 カイザーの持っていた素材も預かることにし、売却は僕がする。カイザーはギルド員とかにはなれないしな。

「それで……何をやっていたんだっけ?」

 突発的な荷物整理が始まったため、その前は何をやっていたのか忘れてしまった。

《兄ちゃん! シーサーペント!》
「ああ! そうだったな」

 シーサーペントを食べたいという話をしていたんだったな。
 僕は《無限収納インベントリ》にしまったシーサーペントを取り出した。

「食べるにしても、解体しないといけないんだよな~」

 ところで……浜焼きって、採りたての魚介を浜辺で焼くことだよな? シーサーペントって蛇だけど、魚介に含めていいのだろうか? 海のものというくくりなら、いいのかな? となると、ブルードラゴンも含めてもいいのかな?
 なんてことを考えていると、アレンとエレナがバッと手を上げた。

「「かいたいやりたい!」」
「解体? 何の解体をやりたいって?」
「「シーサーペント!」」
「えぇー!?」

 アレンとエレナの突然の発言に、僕は思わず子供達の顔を二度見してしまった。

「いやいやいや、これは大きいし……たぶん固いよ?」
「「がんばる!」」
「……えぇ~」

 僕が困惑していると、カイザーが首を傾げる。

「子らはこの形状の魔物の解体ならできるのか?」
「ん? ああ、まあ……ヘビっぽいものは何度か解体しているのを見ているから、さばく順番とかは覚えていると思うな」
「おぼえてる~」
「べんきょうした~」

 子供達が実際に解体したものは、魔物の種類も数もそこまで多くはない。だが、誰かが解体していたらじっくりと覚えるように見つめていたし、本などでも勉強していたので、手順だけなら問題ないだろう。

「であれば我が力を貸そう。解体はやったことがないが、指示を出してくれれば我が動こう。それならば、子らにやらせても問題ないであろう?」
「「わ~い。カイザー、ありがとう!」」
「よいよい」

 何故だか、あっという間に子供達が解体する流れになっていた。

「いや、あのな……」
「シーサーペントは我らに任せて、タクミはブルードラゴンの解体をするといい」
「んん!?」
《おぉ、ドラゴンのお肉が食べられるんだね! 楽しみ!》
《兄様、頑張って!》
「……わかったよ」

 みんなからの期待の眼差まなざしに、僕は嫌とは言えなかった。正直、ブルードラゴンの肉は僕も食べてみたいしね。
 というわけで、ぶつ切りにしたブルードラゴンの一部を《無限収納インベントリ》から取り出す。
 すると、それを合図に、子供達はかばんからナイフを取り出し、カイザーを伴って意気揚々いきようようとシーサーペントへ向かっていく。

「とりあえず、こっちはぐるっと皮剥ぎからかな?」

 僕の目の前にあるブルードラゴンの部位は、胴体の真ん中あたりの輪切りである。
 なので、切り目を一本入れてから、そこからぐように皮を身から剥がしていく。すると、鱗付きの長方形の皮の出来上がりだ!
 あとは、適当に骨以外をブロック分けにしていく。

「よし、こんなものかな~」

 さらに焼いて食べやすい大きさへとカットして、ブルードラゴンは準備完了である。

「「おにぃちゃん!」」

 ちょうど同じ頃、子供達に叫ぶように呼ばれた。

「「こっちもおわった~」」
「え? 終わったの!?」

 子供達のほうは、シーサーペント丸々一体分の解体が終わったようだ。
 ブルードラゴンよりは小さいとはいえ、僕が捌いた部位よりは大きいのに?

「タクミ、とりあえず、丸っといた皮がこれだ」
「ああ、うん……ありがとう」

 三人の共同作業だったお蔭で、作業の効率が上がったのかな?
 僕は少し呆然ぼうぜんとしながら、カイザーから受け取った皮を《無限収納インベントリ》にしまう。

「おにぃちゃん、おにくもしまって~」
「おにぃちゃん、こっちのはたべるの~」

 アレンとエレナはブロック分けにした肉を渡してくる。しかも、しっかりと食べる分のお肉は、ステーキ状の大きさになっているではないか!

「アレンとエレナは、凄いな~」
「「すごい?」」
「うん、作業は手早いし、解体したものも綺麗だ。よくできたな~」
「「えへへ~」」

 いや~、この歳でここまでできるって、本当にまれだと思う。ここまであれこれできる子だと、逆にできないことを探したくなる。……そう思うのは、僕が悔しいと思っているからかな?

「じゃあ、片づけをしたらご飯にしようか」
「「うん!」」

 複雑な気分だが、これは美味しいものを食べて忘れてしまうに限るな。
 というわけで、さっくり浜焼きを始める。

「とりあえず、最初はコショウ塩だけにするから、タレとか他の味の塩が欲しい時は言ってね」
「「《《《《《 《はーい》 》》》》》」」
「うむ」

 人数が多くなったので、手持ちのホットプレートだけでは焼ける量が心許こころもとなく感じるな~。
 もっと台数を増やすか大きいものを作ってもらったほうが良さそうだな。とりあえず今は、魔道具のコンロとフライパンセットも稼働させることにしよう。
 あとは……この世界に来て最初の頃のように、焚火たきびの周りに串刺くしざしにした肉を立てて、直火で焼くか~。

「もうやけた?」
「これ、もういい?」
「ん~、良さそうだな」
「「わ~い。いただきまーす!」」

 まずはシーサーペントの肉からだ。

「「おいしぃ~~~」」
「うん、美味しいね」

 シーサーペントは肉の分類なのか魚の分類なのかはわからないが、とろけるような脂身ながらあっさりとした味わいだった。

「こっちも良さそうだな」
「「たべる、たべる~」」

 続いて、ブルードラゴンの肉だ。

「「んん~~~」」
「うわぁ~~~。これは……」
《ドラゴン、美味しい!》
《美味しいわ~》
《美味しいです》
美味うまっ! これ、美味い!》
《美味しいの!》
《おいしい~》

 シーサーペントも美味しいと思ったが、ブルードラゴンはもっと美味しかった。
 とにかく〝美味しい〟としか言葉が出なかった。

「ふむ、焼くとこういう味になるのだな~。生も美味いが、これも美味い!」

 カイザーだけはドラゴンを食べ慣れているせいか、しっかりと味わい、以前食べたことがあるものと比較ひかくしていた。

「……しかし、下位のドラゴンでこの味か~」
「ほかのドラゴン!」
「もっとおいしい!?」

〝中位、上位のドラゴンはもっと美味しい?〟と僕が言葉に出さなくても、子供達は僕の言いたいことを理解し、目を輝かせていた。

「しかも、水属性以外のドラゴンもいるんだよな~」
「「はっ! そうだった!」」
《そうか! 上位種もだけど、他種のドラゴンもいるんだよね!》
《レッドドラゴンとかになると、また味わいが違うのかしら?》
《食べ比べてみたいですね~》
《絶対に狩る! 兄ちゃん、ドラゴンのいそうなところに行こう!》
《そのうち食べてみたいの!》
《ドラゴン、おいし~》

 確か、火、風、土、光、やみ属性と、六属性のドラゴンがいるんだよな~。

「ウォータードラゴンならそのうち手に入れてくると約束しよう。なので、水属性以外のドラゴンが手に入った時は、是非とも我にも食べさせてくれ!」
「「がんばる!」」
「いやいやいや! 確かに気になるけど、そこは頑張らなくていいよ!」
「「えぇ~~~」」
「不満そうな顔をしても、ドラゴンが生息していそうな場所には滅多めったなことでは行かないよ」

 このままでは秘境とかにでも突っ走っていきそうな勢いだ。さすがにそれは見過ごせないので、ここは〝止める〟の一択だ。
 僕ももの凄ーく気になるけどさ! やはり賛同はできない。


しおりを挟む
表紙へ
感想 10,303

あなたにおすすめの小説

私を棄てて選んだその妹ですが、継母の私生児なので持参金ないんです。今更ぐだぐだ言われても、私、他人なので。

百谷シカ
恋愛
「やったわ! 私がお姉様に勝てるなんて奇跡よ!!」 妹のパンジーに悪気はない。この子は継母の連れ子。父親が誰かはわからない。 でも、父はそれでいいと思っていた。 母は早くに病死してしまったし、今ここに愛があれば、パンジーの出自は問わないと。 同等の教育、平等の愛。私たちは、血は繋がらずとも、まあ悪くない姉妹だった。 この日までは。 「すまないね、ラモーナ。僕はパンジーを愛してしまったんだ」 婚約者ジェフリーに棄てられた。 父はパンジーの結婚を許した。但し、心を凍らせて。 「どういう事だい!? なぜ持参金が出ないんだよ!!」 「その子はお父様の実子ではないと、あなたも承知の上でしょう?」 「なんて無礼なんだ! 君たち親子は破滅だ!!」 2ヶ月後、私は王立図書館でひとりの男性と出会った。 王様より科学の研究を任された侯爵令息シオドリック・ダッシュウッド博士。 「ラモーナ・スコールズ。私の妻になってほしい」 運命の恋だった。 ================================= (他エブリスタ様に投稿・エブリスタ様にて佳作受賞作品)

【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない 

堀 和三盆
恋愛
 一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。  信じられなかった。  母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。  そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。  日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。

婚約破棄されないまま正妃になってしまった令嬢

alunam
恋愛
 婚約破棄はされなかった……そんな必要は無かったから。 既に愛情の無くなった結婚をしても相手は王太子。困る事は無かったから……  愛されない正妃なぞ珍しくもない、愛される側妃がいるから……  そして寵愛を受けた側妃が世継ぎを産み、正妃の座に成り代わろうとするのも珍しい事ではない……それが今、この時に訪れただけ……    これは婚約破棄される事のなかった愛されない正妃。元・辺境伯爵シェリオン家令嬢『フィアル・シェリオン』の知らない所で、周りの奴等が勝手に王家の連中に「ざまぁ!」する話。 ※あらすじですらシリアスが保たない程度の内容、プロット消失からの練り直し試作品、荒唐無稽でもハッピーエンドならいいんじゃい!的なガバガバ設定 それでもよろしければご一読お願い致します。更によろしければ感想・アドバイスなんかも是非是非。全十三話+オマケ一話、一日二回更新でっす!

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

お前は家から追放する?構いませんが、この家の全権力を持っているのは私ですよ?

水垣するめ
恋愛
「アリス、お前をこのアトキンソン伯爵家から追放する」 「はぁ?」 静かな食堂の間。 主人公アリス・アトキンソンの父アランはアリスに向かって突然追放すると告げた。 同じく席に座っている母や兄、そして妹も父に同意したように頷いている。 いきなり食堂に集められたかと思えば、思いも寄らない追放宣言にアリスは戸惑いよりも心底呆れた。 「はぁ、何を言っているんですか、この領地を経営しているのは私ですよ?」 「ああ、その経営も最近軌道に乗ってきたのでな、お前はもう用済みになったから追放する」 父のあまりに無茶苦茶な言い分にアリスは辟易する。 「いいでしょう。そんなに出ていって欲しいなら出ていってあげます」 アリスは家から一度出る決心をする。 それを聞いて両親や兄弟は大喜びした。 アリスはそれを哀れみの目で見ながら家を出る。 彼らがこれから地獄を見ることを知っていたからだ。 「大方、私が今まで稼いだお金や開発した資源を全て自分のものにしたかったんでしょうね。……でもそんなことがまかり通るわけないじゃないですか」 アリスはため息をつく。 「──だって、この家の全権力を持っているのは私なのに」 後悔したところでもう遅い。

婚約破棄 ~家名を名乗らなかっただけ

青の雀
恋愛
シルヴィアは、隣国での留学を終え5年ぶりに生まれ故郷の祖国へ帰ってきた。 今夜、王宮で開かれる自身の婚約披露パーティに出席するためである。 婚約者とは、一度も会っていない親同士が決めた婚約である。 その婚約者と会うなり「家名を名乗らない平民女とは、婚約破棄だ。」と言い渡されてしまう。 実は、シルヴィアは王女殿下であったのだ。

「お前との婚約はなかったことに」と言われたので、全財産持って逃げました

ほーみ
恋愛
 その日、私は生まれて初めて「人間ってここまで自己中心的になれるんだ」と知った。 「レイナ・エルンスト。お前との婚約は、なかったことにしたい」  そう言ったのは、私の婚約者であり王太子であるエドワルド殿下だった。 「……は?」  まぬけな声が出た。無理もない。私は何の前触れもなく、突然、婚約を破棄されたのだから。

平民の娘だから婚約者を譲れって? 別にいいですけど本当によろしいのですか?

和泉 凪紗
恋愛
「お父様。私、アルフレッド様と結婚したいです。お姉様より私の方がお似合いだと思いませんか?」  腹違いの妹のマリアは私の婚約者と結婚したいそうだ。私は平民の娘だから譲るのが当然らしい。  マリアと義母は私のことを『平民の娘』だといつも見下し、嫌がらせばかり。  婚約者には何の思い入れもないので別にいいですけど、本当によろしいのですか?    

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。