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第83話

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 カゼノミヤ戦からしばらくして……秋の運動会、高等部2年生である探と茜の修学旅行も終わって冬将軍が本格到来。世間も壇条学院生達も年の瀬カウントダウンに入り始めた11月某日。
「皆、覚悟はできているか?」
 迷処山、山頂の大桜。壇条学院オカルト研究会、マヨイガ探索隊リーダー・雲隠探はメンバーに問う。
「もちろんです、先輩!」「ああ、覚悟は出来ている」「押忍っ!!」「いつでもええよ、リーダー」
 数百年ぶりに蘇ったマヨイガの儀が始まった原点とでも言うべきかつて火乃宮があった場所に再び集った5人のもののふは最後の戦いを前に覚悟を決める。
「よしっ、じやあ……一礼、二拍手、一礼!!」

「もののふ様方、お待ちしておりました!!」
 マヨイガポータルで5人を待っていた白仮面装着済みの五武神と5つの鳥居に囲まれるように光の間中央に出現していた一枚の障子戸。
「この度は我らの試練を乗り越え、主に挑まれしこと……まことにおめでとうでございます」
 五人を代表して前に出てきたチノミヤノミコトはうやうやしく頭を下げる
「ありがとうございます、チノミヤ様」
「先日お渡しした武心玉はお持ちでございますな」
「ああ、ゴブガミが装備せんと最終試練に挑めん言うとったから装備済みやで」
「それは大変結構でございます。この奥で主がお待ちでございます……もののふ様方にご武運があらん事を」
「ご武運があらん事を!!」
 先日の学園祭ではっちゃけていた五武神達の緊張した声色に格式ばった所作。
 自分たちが挑んで乗り越えねばならない試練の重みを感じ取った5人は開いた障子襖の奥にある暗闇の世界に入っていく。

『おお間違いない……人の世で神として役目を失って幾星霜、またこうして雲隠に御鐵院の血を継ぐもののふ等に相対するとは!!』
 暗闇の世界に反響する女性の声。
 5人が身構える中、壁のろうそくが波打つように一気に灯ってとてつもなく広い板の間を照らす。
「先輩! あっちです!」
 明るくなった部屋で美香が指さす方向、台形にへこんだ壁。そのくぼみに設けられた高座に座る金の冠を被った巫女装束の少女。チノミヤから聞いていた話と合致する容姿にそれがマヨイガ五武神の主にして最終試練を課す大神であるタメシヤノミコトであると5人はすぐ気づく。
「そう構えずともよいぞ、若き者らよ。わらわがゆるす、ひとまず楽にせい」
 抜身の二刀流を構える探、矢を弓につがえた茜、エレメントプラス済みで放電する大籠手にマヨイガエレメント技射出体勢の英里子と美香を前にタメシヤノミコトは悠々と言い放つ。
「さて、わらわの課す最終カミイクサであるが……なんのことはない、わらわと戦う。それだけの話じゃ」
「おいおい、ヤンキーの喧嘩じゃあるまいしそれだけでいいのかよ?」
「うむ、マヨイガエレメント・物理攻撃と手段は間わぬ。とにかくわらわが力尽きた時点でそなたらの勝ちじゃ」
「あの、タメシヤノミコト様。それだと貴女が死ぬことになるんですけど本当にそれでいいんですか?」
 最終試練にしてはあまりにも平易すぎる内容に不安を覚えた美香は恐る恐る尋ねる。
「ミズノモノよ、その通りである。もちろんわらわも死ぬのは嫌であるからして全力で防御と反撃はさせてもらうがな……ほほほ」
 扇で口元を隠しつつ目を細めて笑うマヨイガ五武神の主に美香はぞわっとする。
「そしてもののふ等よ、後ろにある方陣はそなたら専用のリスタートポイントである。
 魔力と体力全回復、装備完全復元……この試練が終わるまで何度でも使用回数無制限となっておるぞよ」
 最終試練にしては不自然な程に単純な内容に好条件。判断のつかない不気味な違和感に5人は戸惑う。
(茜さん……この試練、危険な気配しかしませんよね? 止めたほうがいいんじゃないでしょうか?)
(華咲もそう思うのか? 奇遇にも私も同感だ)
(ウチも右に同じや。これ間違いなく裏があるで)
「タメシヤノミコト様、様々な好条件のご提案は嬉しいのですが……本当にそれでよろしいのでしょうか?」
「うむ、何が不満なのかはわからぬが……ここはわらわの領域。そなたらに決定権はない」
 マヨイガガールズと同じことを感じ取っていた探の提言をタメシヤノミコトはあっさりと拒絶する。
「この度、わらわとの最終カミイクサを拒否するというのであればもう一度最初から5つの宮を巡り、マヨイガ紋を完全化してもらう事になるが……それでも構わぬのか?」
「あれを2週目なんて無理ゲーや!」
「ぞんなの無理よ! もう私達には時間がないのよ!」
「チノモノにカゼノモノよ、さすれば我が試練に挑むがよい……郎党らはかように申しておるがさあどうする、雲隠の血を継ぎし者よ?」
「……皆、ここまで来たからにはもう戻れない。とにかく戦うしかない!!」
「……おうっ!!」
 二刀流を構えた探、魔導杖を突き立てた美香、モーニングスターランスを肩に乗せた英里子、大籠手を打ち合わせる須田丸、神紋弓に風エレメント矢をつがえる茜。
 雲隠リーダーと共にタメシヤノミコトの最終カミイクサに挑みしもののふ達は各々の覚悟を武器に託す。
「おお、そう来なくてはのう!! では最終カミイクサ開始じや!!」
 暗闇の中、どこからともなく響く大銅鑼の音と共に立ち上がったタメシヤノミコトは扇を広げる。

【第84話に続く】
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