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第82話

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「カミウチさん! 気張ってくれや!!」
「お願い、頑張って!!」
(くそっ……風神紋のフルパワーを注いだとは言え足りなかったのか!)
 上空で激突する風マヨイガエレメントニ大奥義。
 当事者たる茜も諦めかけたその時……茜の放った神打は月堕内に徐々ににめり込み、そのまま共振し始める。
「この展開はまさか……」「うん……」「まずいかも……」「伏せろ!!」
 茜が探の突撃ルートを切り開いた時のようにあの矢が内部からエネルギーをかき乱して爆散するかもしれない。
 あの時の大きめなグミ射ち弾はとにかくとして密度も体積も比較にならない程の巨大隕石ともなれば……と言う恐ろしい事実に気が付いた5人はすぐに身の安全を確保すべく件の地下道に飛び込んで身を低くし、耳をふさいで口を大きく開く。

「危なかったわぁ……あんなモン至近距離で喰らったらゴブガミでもただじゃ済まんやろなぁ……」
 正面激突したカゼノミヤ巨怪鳥のエレメント奥義と茜の強大な弓術奥義は相互エネルギー干渉暴走により自爆。
 その際に発生した衝撃波で破壊されて拡大前の状態に戻ってしまった浮島の中央部、地下道入口からにょっきりと顔を出した英里子は周囲を慎重に見回す。
「先輩、あっちの方に……!」
「あれは、ゴブガミ!?」
 美香のセンサーに引っかかった何か……それは地面にうつ伏せで倒れるボロボロの白狩衣姿で立派なアフロ黒髪上に白烏帽子を乗せたゴブガミだった。
「あれは……近づいて大丈夫なのか?」
 爆発でアフロと言うギャグ漫画の定番ネタはさておき、これまでゴブガミに関わって来た経験をもってしても何を企んでいるのか全く読めない5人は二の足を踏んでしまう。
「先輩に皆、ここは私が……『クリエイト・スライム』」
 そんな中、手の中に小ぶりな眷族魔物・スライムを作り出した美香。
「スライムちゃん、ちょっとあそこのアフロさんを調べてきて」
「キュピッ!!」
「美香ちゃん、アイツにゃこれで十分やろ」
 スライムが主の命を果たさんと地面に飛び降りる間もなく、武心玉をアイテムとして取り出していた英里子は袴の尻目掛けて全力で投げる。

「ぎゃははははは、あはははは!! ごめんなにゃあぁい!! ゆるしてくれにゃあぁあ!!」
 高校生にもなって人への投石攻撃に及んだ英里子のお仕置き用に美香が水マヨイガエレメント能力で作り出した巨大セミハ―ドスライム。そのウォーターベッドの如き軟体ボディに乗せられて手足を固め囚われた英里子は、敏感なへそと脇、首筋、足裏をひんやりしたミニスライムハンドで4点くすぐり責めされ続けており、正面で動画撮影モードスマホを構えたままにこやかに見守る親友に許しを乞う。
「だ―め、まだ5分も経ってないんだよ?」
「もうしましぇぇぇん! みかさまぁ!! だからどうかあ! ぎやはははははは!! しんじゃう! ほんまにしんじゃぅぅうぅ!!」
「ああ、そう? じゃあ死なないように頑張ってね!」
「英里子ちゃんのさでぃす……アーッ!! アイーッ!! アォォォォォン!!」
 美香の眷族魔物の軟体ボディで呼吸が大丈夫な程度に口を塞がれた英里子はさらに繊細で柔らかに凶悪化したくすぐり快楽責めに激しい悲鳴を上げる。

 そこから数メートル離れたカミイクサ場の浮島内。
「須田丸君、愛しの呉井さんがぐちゃぐちゃどろどろな事になっているけど……止めなくていいのかい?」
 アフロから普段の髪型に戻り、英里子の投石直撃を喰らった臀部に保冷剤を当てていたゴブガミはおそるおそる須田丸に問う。
「いや、あれは姉ちゃんでもかばえない自業自得ですから俺でも無理っすよ……アニキこそいいんですか? あんたの大切な彼女さん、何かヤバイ物に目覚めちゃってません?」
 須田丸は隣の探と茜に丸投げする。
「須田丸、普段からニコニコして怒らないタイプを本気で怒らせるとああなるんだ。
 今後のために忘れない方がいい」
「……老若男女問わず人は見た目ではないと言う事だねぇ。あなおそろしや、くわばらくわばら……」
「そうだよな、御鐵院。アニキ、頼むから天寿を全うしてくれよ……何かあったら俺でも御鐵院でも頼ってくれよな」
「ああ、何かあってからじゃぁ遅いからな。絶対にだぞ?」
「あっ、ああ。うん、ありがと…… うございます?」
何かを悟った哀れみの眼で左右から肩を叩いてくる2人に探は戸惑う。

「まあボクがアフロに仕込んでいたクラッカーやドッキリ看板の件はさておきとして……このカミイクサ、ボクの負けだ。そしてもう既に分かっているとは思うが、最後の1つとなっていた茜君の風神紋も完全状態となっている」
様子を見に来た所でバンッ!!と出す予定だった『ドッキリ大成功!!』の看板と内部収納スペース付き爆発アフロかつら、パーティークラッカーを四次元振袖に押し込んだゴブガミは座を正し、神妙な面持ちで言う。
「つまりは……君達はマヨイガの儀の中核をなす五武神の試練を終え、最終試練を課す我らが主たるタメシヤノミコト様に挑む資格を得たのだ」
 その言葉を前に既に座を正していた3人は背筋を伸ばす。
「雲隠君、とりあえずここから先はかなり真面目なお話だから華咲さんと呉井さんを穏便に連れて来てくれないかな……?」
「わかりました」
 探は立ち上がって半死半生の英里子を助けに行く。

「ゴブガミせんせ、色んな意味で済まん……ほんまにすんません」
「まあそれはいいんだけどさぁ……どうして君はボクのケツにこれを投げたわけよ?」
 小道具を四次元振袖にしまい終えたゴブガミは美香のくすぐり拷間から一時的に解放された英里子に武心玉を返しつつ聞く。
「呉井が言うにはそれをゴブガミに投げつければヤツはピカーッ!と光の粒子と化して石の中に吸い込まれるはずや!!との事だったから……おそらく実験したかったんだろう」
「ああ、そうなのね御鐵院さん…… ? うん、そういう浪漫浴れる気持ちはわかるけどさ。
 コレは全然違うんだよ。誰でもいいからアイテムスキャナーにかけてごらん」
「じゃあ僕が。オープンステータス、アイテムスキャナー起動……」
『武魂石:アイテムレア度:計測不能/アイテムカテゴリ:装飾品/装備効果:全能力・耐性向上(特大)、マヨイガエレメント技威力向上(特大)』
 エアディスプレイ画面に表示されたそのとんでもない効果に5人は言葉を失う。
「いや、君達の事だから言わずともボクがチノミヤ君に託した物の意味を察して適切に使ってくれるだろうと思っていたけど……まさかのモ○スター○―ル扱いするとは、正直驚いたよ」
ゴブガミはため息を吐く。
「……」「……」「……」「……」「とりあえず……改めてすまん、ゴブガミ」
 何とも言えない申し訳なさで黙り込む4人とどうにか息を整えて謝る英里子。
「いずれにせよだ、チートアイテム上昇補正無しでボクを倒せたってのは本当にすごい事だよ!! 壇条学院オカルト研究会の皆、本当に頑張った!! おめでとう!!  御鐡院さんも風神紋入手おめでとう!
 この後、我らが主様に挑まんとする君達に武運があらん事を願っているよ!」
 腕を大きく広げて5人の若きもののふ達の肩に手を回し、健闘をたたえて祝福するゴブガミ。
 ようやく理解できた勝利と言う実感的事実に5人は思わず涙ぐむのであった。

【第83話に続く】
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