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8、勅命
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「・・・ラフィ、セラフィ! 」
ドアの外から聞こえた声に、ムクッと体を起こす。
「お父様・・・どうかしましたか? 」
眠い目を擦りながら、ナイトウェアの上に一枚羽織っただけの姿でドアを開ける。
「夜中に起こして悪かったな。恐れていた事態になった」
その一言で、何が起こったか大体察した。
「我が家を見つけ次第報告するようにとの勅命が下されたようだ。今急使が騎士団と共にこっちに向かっている。明け方には着くだろう」
「珍しく腰が軽いのですね」
「ああ、普段の延滞癖はどこへ行ったのか・・・」
あの王家、普段の会議とか謁見とかでは「今準備中だ」とやら「しばらく考える」とやらばかり連呼してるくせに、こういう時だけはさっさと勅命で解決しようとする。本当に困ったものだ。
「とにかく、朝までにここを出ればよいのですね? 」
「ああ、何か案があるのか? 」
「ええ。しばらく出掛けてきますので、お父様たちはここでお待ちください。あ、お財布もついでにお借りしていいですか? 」
「好きなだけ持ってっていいぞ! ・・・それと護衛を一人連れていけ、念のためだ」
「わかりましたわ」
逃亡旅が始まって三日目。ここはエンブルグ王国の一番北にある領、クレーシラント領。国境を越えるまであと一歩だ。
━━━━━━━━━━
冒険者服に着替えて、護衛と一緒に宿を出る。閑散として人気のない夜でも、一か所だけ賑わっているところがある。
娼館だ。
貴族の中では、娼館と言うとあからさまに嫌な顔をされがちだが、それは不貞をした男性方のお相手の多くが娼婦や娼館出身だからであって、イメージほど悪い場所ではない。実際、その周りでは夜市などが開かれ、経済を回すのに一役買っている。
「お嬢様・・・」
「娼館に行く訳じゃないわよ」
夜市を見て回りながら、目的のものを探す。
(ないわね・・・)
そう思いながらキョロキョロ見渡していると、ふとあ一団が目に入った。
(! あの人たちなら・・・)
「あの、お久しぶりです」
「ん? お嬢ちゃん誰だ? 」
「先日は宿を教えてくれてありがとうございました」
そう言うと、その人たち「ああ、あの時の嬢ちゃん! 」と思い出してくれた。
そう、ダーアイラン領でホテルを教えてくれた人たちがいたのだ。
「嬢ちゃんもここに来ていたのか! 夜市を見に来たのか? 案内するぜ? 」
「いえ、お願いがあってきました。あなたたちに協力して欲しいことがあるんです」
━━━━━━━━━━
「お願いって、どうしたんだ? 嬢ちゃん」
近くの宿にある小さな部屋を取って、落ち着いて話せる環境を作った。
「あまり難しいのは無理だからな。いくらなんでも俺たちは商人だ」
「ええ、わかってます。だからこれは取引です」
途端にガラッと雰囲気を変えた私を見て、向こうも何か悟ったようだ。
「取引か・・・。嬢ちゃん何者だ? 」
「Sランク冒険者セーラ」
「そっちじゃない」
「でも言えるのはこれだけ」
「・・・そうか」
それから、じっと見つめられてしばらく思案顔をされた。目でお互い会話し合っているのがわかる。
「お嬢様」
耐えられなくなった護衛が耳元で囁いてきた。
「ダメよ」
護衛を抑えながら様子を見ること数秒。ようやくあっちの意見が纏まったようで、一番前に座っていた人が、話しかけてきた。
「内容はなんだ? 」
どうやらお眼鏡に叶ったようだ。
「荷車を三台。それとその上に積んである商品丸ごとが欲しいです。行けますか? 」
「荷車はどうにか融通できる。だが商品に関しては条件による」
これは始めから予測していた。荷車の方はいくらでも替えは効くけど、商品には仕入先というのがあるから、そうはいかない。
「・・・これでどうですか? 」
「「「!」」」
ドンッと音を立てて机に置かれたのは、ずっしりと重そうな小袋。
中身は言わずともがな、お金だ。
「言いましたよね、これは取引だと。ですので、譲ってもらう気はありません。対価はちゃんと払いますよ? 」
「その袋の中身、見てもいいか? 」
「ええ」
おずおずと袋を手に取ったその人は、袋を開けながら、
「疑うような真似ですまない。だが最近、小銀貨を大量にいれて、さも大金が入っているかのように見せる詐欺が流行っててな・・・念のため見してくれ」
と申し訳なさそうに説明してくれた。
(そういえば、うちの領の報告にも入ってたわね・・・なにか対策を取っておかなければ)
帰ったらすぐに確認をしよう。
帰宅後の予定を組んでいる間に、小袋はまた机に戻されていた。
「ざっと見たが、軽く金貨五十枚は入ってたぞ? 」
「ええ、金貨四十五枚と小金貨百枚が入ってます」
「本当にいいのか? こんな大金」
「商品代とあなたたちへの報酬、それにあなたたちの雇い主への分も入っています」
「ついでに口止め料もだろ? 」
「ええまあ・・・」
口止め料という単語が出た瞬間、急にこっちが悪党みたいに聞こえる。
(あまり人聞きがよくないから、言いたくなかったのだけど・・・)
「口止め料とは言っても、そんな重いものではありませんから。脅されたり逮捕される可能性があるときには、話してもらってかまいません」
「いいのか? 」
「ええ。むしろ、数日後にはヒソヒソと噂が立つ。ぐらいに広まってくれたら、助かります」
「怖い言い方をするな・・・」
ドアの外から聞こえた声に、ムクッと体を起こす。
「お父様・・・どうかしましたか? 」
眠い目を擦りながら、ナイトウェアの上に一枚羽織っただけの姿でドアを開ける。
「夜中に起こして悪かったな。恐れていた事態になった」
その一言で、何が起こったか大体察した。
「我が家を見つけ次第報告するようにとの勅命が下されたようだ。今急使が騎士団と共にこっちに向かっている。明け方には着くだろう」
「珍しく腰が軽いのですね」
「ああ、普段の延滞癖はどこへ行ったのか・・・」
あの王家、普段の会議とか謁見とかでは「今準備中だ」とやら「しばらく考える」とやらばかり連呼してるくせに、こういう時だけはさっさと勅命で解決しようとする。本当に困ったものだ。
「とにかく、朝までにここを出ればよいのですね? 」
「ああ、何か案があるのか? 」
「ええ。しばらく出掛けてきますので、お父様たちはここでお待ちください。あ、お財布もついでにお借りしていいですか? 」
「好きなだけ持ってっていいぞ! ・・・それと護衛を一人連れていけ、念のためだ」
「わかりましたわ」
逃亡旅が始まって三日目。ここはエンブルグ王国の一番北にある領、クレーシラント領。国境を越えるまであと一歩だ。
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冒険者服に着替えて、護衛と一緒に宿を出る。閑散として人気のない夜でも、一か所だけ賑わっているところがある。
娼館だ。
貴族の中では、娼館と言うとあからさまに嫌な顔をされがちだが、それは不貞をした男性方のお相手の多くが娼婦や娼館出身だからであって、イメージほど悪い場所ではない。実際、その周りでは夜市などが開かれ、経済を回すのに一役買っている。
「お嬢様・・・」
「娼館に行く訳じゃないわよ」
夜市を見て回りながら、目的のものを探す。
(ないわね・・・)
そう思いながらキョロキョロ見渡していると、ふとあ一団が目に入った。
(! あの人たちなら・・・)
「あの、お久しぶりです」
「ん? お嬢ちゃん誰だ? 」
「先日は宿を教えてくれてありがとうございました」
そう言うと、その人たち「ああ、あの時の嬢ちゃん! 」と思い出してくれた。
そう、ダーアイラン領でホテルを教えてくれた人たちがいたのだ。
「嬢ちゃんもここに来ていたのか! 夜市を見に来たのか? 案内するぜ? 」
「いえ、お願いがあってきました。あなたたちに協力して欲しいことがあるんです」
━━━━━━━━━━
「お願いって、どうしたんだ? 嬢ちゃん」
近くの宿にある小さな部屋を取って、落ち着いて話せる環境を作った。
「あまり難しいのは無理だからな。いくらなんでも俺たちは商人だ」
「ええ、わかってます。だからこれは取引です」
途端にガラッと雰囲気を変えた私を見て、向こうも何か悟ったようだ。
「取引か・・・。嬢ちゃん何者だ? 」
「Sランク冒険者セーラ」
「そっちじゃない」
「でも言えるのはこれだけ」
「・・・そうか」
それから、じっと見つめられてしばらく思案顔をされた。目でお互い会話し合っているのがわかる。
「お嬢様」
耐えられなくなった護衛が耳元で囁いてきた。
「ダメよ」
護衛を抑えながら様子を見ること数秒。ようやくあっちの意見が纏まったようで、一番前に座っていた人が、話しかけてきた。
「内容はなんだ? 」
どうやらお眼鏡に叶ったようだ。
「荷車を三台。それとその上に積んである商品丸ごとが欲しいです。行けますか? 」
「荷車はどうにか融通できる。だが商品に関しては条件による」
これは始めから予測していた。荷車の方はいくらでも替えは効くけど、商品には仕入先というのがあるから、そうはいかない。
「・・・これでどうですか? 」
「「「!」」」
ドンッと音を立てて机に置かれたのは、ずっしりと重そうな小袋。
中身は言わずともがな、お金だ。
「言いましたよね、これは取引だと。ですので、譲ってもらう気はありません。対価はちゃんと払いますよ? 」
「その袋の中身、見てもいいか? 」
「ええ」
おずおずと袋を手に取ったその人は、袋を開けながら、
「疑うような真似ですまない。だが最近、小銀貨を大量にいれて、さも大金が入っているかのように見せる詐欺が流行っててな・・・念のため見してくれ」
と申し訳なさそうに説明してくれた。
(そういえば、うちの領の報告にも入ってたわね・・・なにか対策を取っておかなければ)
帰ったらすぐに確認をしよう。
帰宅後の予定を組んでいる間に、小袋はまた机に戻されていた。
「ざっと見たが、軽く金貨五十枚は入ってたぞ? 」
「ええ、金貨四十五枚と小金貨百枚が入ってます」
「本当にいいのか? こんな大金」
「商品代とあなたたちへの報酬、それにあなたたちの雇い主への分も入っています」
「ついでに口止め料もだろ? 」
「ええまあ・・・」
口止め料という単語が出た瞬間、急にこっちが悪党みたいに聞こえる。
(あまり人聞きがよくないから、言いたくなかったのだけど・・・)
「口止め料とは言っても、そんな重いものではありませんから。脅されたり逮捕される可能性があるときには、話してもらってかまいません」
「いいのか? 」
「ええ。むしろ、数日後にはヒソヒソと噂が立つ。ぐらいに広まってくれたら、助かります」
「怖い言い方をするな・・・」
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