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12、ドッペルゲングタイガー

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 「魔物」というのは、魔力属性を持った動植物のこと。多くの魔物は属性を持っているだけだが、中には魔法を扱える種もいる。そういった魔物のことを、私達人類は「魔獣」と呼ぶ。


 ドッペルゲングタイガーの属性は火だ。口から吐き出される火球に当たれば、秒で黒焦げになる。

 ピリッと肌に小さな刺激を感じる。魔力による威嚇だ。相手を挑発、威嚇するための行為だと言われている。

(そっちがその気なら・・・)

 こっちもやりすぎないように調節しながら、同量の魔力を放出する。

(! 増えた! )

 お互い徐々に量を増やしながら、威嚇し合う。バチバチと音を立てながら、魔力がせめぎ合う。

(埒が明かないわね。このまま行くと、いずれ暴走するわ)

 単純に戦闘力勝負でも勝てるが、そうすると周りの被害があまりにも甚大になってしまう。

(ここは作戦勝ちといきましょう! )

 ゆっくりと魔力の放出量を少なくしていき、僅かな魔力だけを漏らす。その瞬間、


「グルァ! 」


 ゴゥっと吐き出された火の玉が髪すれすれを通過していった。とっさに体をそらしていなかったら、今頃は顔から火の中に突っ込んでいただろう。


「!」

(あっ・・・)

 振り向いたときには、両足に火を纏いながら、飛びかかってきていた。驚いて足がもつれ、そのまま後ろに倒れ込んでしまう。


「ガアァ! 」


調


 熱気と共に鋭い爪が目の前に迫る。

 手がドッペルゲングタイガーの腹に触れたその瞬間。


 パキンッ!


 硬い音を立てて、ドッペルゲングタイガーの全身が凍った。それこそ尻尾の先からひげの先端まで。

 反応する暇もなかったドッペルゲングタイガーは、凍ったまま勢いに任せて突っ込んきて、私も尻餅をついた。

「ふう・・・」

 体に落ちた氷の塊を退かして立ち上がる。


(本当に上手く誘導されてくれたわね)


 最初に魔力を仕舞ったのは、魔力負荷過多症を装うためだった。
 魔力負荷過多症とはその名の通り、魔力変換時に体にかかる負担が限界量を超えたことで、体の防御本能によって魔力を取り込めなくなった状態のことだ。当然魔法も使えなくなる。

 案の定、騙されてくれたドッペルゲングタイガーは、私にこれ以上の攻撃手段はないと判断した。
 そして飛びかかってきたのが運の尽き。最初からそれを狙っていたのだ。

 離れているところから魔法を使ったところで、相殺されてしまう。だから直接触れて魔法を発動させる必要があった。そのうえで、最も手薄な腹を狙わせてもらった。


(さて、本命のリザードマンはどこかしら)









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