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第二章 居場所のない少女
第14話 美の魔王だった人とメイ探偵カリンちゃん
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私は手を胸元へ置いて、自身の名を高らかと名乗った。
「私の名は、アルラ=アル=スハイル。三億の魔族の頂点に立つ者、魔王アルラ=アル=スハイルだ!」
真名を唱えるとカリンは体をビクリを跳ね上げて、瞳を大きく開いた。
そして、一気に顔からあらゆる感情の色を消して、真顔を見せている。
どうやら、驚きのあまり、思考が心に追いつかず、どのような表情を見せればよいのかわからないようだ。
フ、それも無理もないこと。
まさか、目の前に立つ男が魔王だとは夢にも――。
「ぷ、ぷぷぷぷ、クククク、それはないよ、おじさ~ん」
「は? な、何故笑う?」
「真面目な話をしている途中で、そんな冗談を挟むなんて……」
「いやいや、じょうだんでは――」
「いい、おじさん。魔王アルラ=アル=スハイルは強さもそうだけど、超絶美形だってのが売りなんだよ。長年、正面から敵対してきた人間族でさえ、魔王の美に関しては嘲罵唱え難しとまで言われてるんだから」
「いや、それは……」
「なにせ、吟遊詩人が王都の真っ只中で魔王の美を讃える歌を口ずさんでも、規制できないくらいあるんだから。すれば、王侯貴族は魔王の美に嫉妬していると思われちゃうから」
「そ、そうなのか? 敵だと言うのに、凄い評価だな」
「そうだよ。私も歌を聞いたことがあるけど凄い褒めようだったし。えっと、たしかこんな感じだったかな?」
『一振りの剣にて万の命を奪い、魔法を振るわば百万の善根を断つ。悪鬼なれど一度口を開かば誰もが耳に酔い、双眸に姿を宿せば心を奪われ時を忘れる。歩かば天香国色にして沈魚落雁。混沌と闇の衣に相反し、英華発外の光輝は世界を照らし、白へと染める』
「って、感じだったかな」
「随分な持ち上げようだな。それにしても、世界を照らし、白へと染めるか……立花と言いナリシスと言い、褒め言葉が輝いてばかりだな。誰だ、私を輝かそうとしているのは……?」
「おじさん、大丈夫? 何かごにょごにょ言っているけど?」
「なんでもない」
(どうやら美の話が先行し過ぎて、今の太った農夫姿の容姿では名乗っても信じてもらえないようだな。さて、どうしたものか……はぁ、正体はもういいか)
正体は脇に置いて、話を峡谷のことへと絞る。
「カリン」
「なになに?」
「私の正体はともかく、まほろば峡谷の話は信じて欲しい。国を興して君が王になるべきだという思いも本気だ……無理だろうか?」
「うん、信じるよ」
「なっ? いいのか、そんなにあっさり信じて?」
「だって、おじさんがそんな嘘をつく理由がないもん」
「それはそうなんだが……誰もが近づけぬ大地の向こう側を知っている私の言葉に疑問を抱かないのか?」
「まぁ、たしかに、それについては疑問に思うんだけど……ここまでのおじさんの言動と行動から、なんとなく予測がつくんだよねぇ」
そう言って、カリンはニヤリと不敵な笑みを見せた。
何を予測したのかわからないが、尋ねてみるとしよう。
「君は、私をなんだと思っているんだ?」
「おじさんの桁外れの魔力。領主っぽい目線による言葉。過去に部隊長をやっていた。そして、私に国を作らせて王にしたい理由。そこからわたしは、おじさんの正体を見抜きました」
「ほ~。で、正体とやらは?」
彼女は大きく手を上げて、振り下ろし、私へ人差し指を突き立てた。
「ズバリ! おじさんは後継者争いに負けた上級貴族の四男坊!!」
「…………なぜ、そんな予測に至ったんだ?」
「ふふん、よくぞ聞いてくれました。魔力の強さ、領主の目線。ここからかなり位の高い貴族だと予測しました。そして、部隊長の経験。普通だったらそんなお偉いさんがそんな経験するとは思えないけど、四男坊ならあり得る!」
「……なぜだ?」
「長男であれば世継ぎとして重宝されるけど、四男って居場所がないはず。だからといって、屋敷で遊ばせておくわけにもいかないから戦場に送り出された。でも、超強いおじさんはそこで凄い功績を得た」
「ほう~、それはそれは……」
「だけど、いくら功績を積もうとも結局は四男坊。後継者にはなれなかった。それで自分の居場所はここにはないと旅に出る。その際、上級貴族であるおじさんは国家機密に触れて、まほろば峡谷のことを知った。そこへ向かえば何か成し得ることができるのではないかと? しかし、その何かが見つからない」
「それで?」
「わたしと出会い、大きな夢を見る。新たな国家という夢を。おじさんは私の夢に乗っかることで目標を産み出した。どう!? 私のこの予測にして推理は!!」
それなら四男でなくても五男でも六男でもいいだろうに。それに国家機密に触れられる理由がガバガバじゃないか?
そもそも、貫太郎の存在や私の料理の腕は貴族からかけ離れていないか?
まぁ、それを言い出したら魔王という立場からもかけ離れているわけだが……。
しかし、彼女の推理に余計なツッコミを入れてもしょうがないし、自分が魔王だと喧伝しても現状ではマイナスにしか働かないだろうし、端的に言えば――ま、いっか。
「はは、まさかそこまで見抜かれるとは。君の迷推理には脱帽だよ」
「でしょ! ふふん、これからわたしのことは名探偵カリンちゃんと呼んでちょうだい!」
「私の名は、アルラ=アル=スハイル。三億の魔族の頂点に立つ者、魔王アルラ=アル=スハイルだ!」
真名を唱えるとカリンは体をビクリを跳ね上げて、瞳を大きく開いた。
そして、一気に顔からあらゆる感情の色を消して、真顔を見せている。
どうやら、驚きのあまり、思考が心に追いつかず、どのような表情を見せればよいのかわからないようだ。
フ、それも無理もないこと。
まさか、目の前に立つ男が魔王だとは夢にも――。
「ぷ、ぷぷぷぷ、クククク、それはないよ、おじさ~ん」
「は? な、何故笑う?」
「真面目な話をしている途中で、そんな冗談を挟むなんて……」
「いやいや、じょうだんでは――」
「いい、おじさん。魔王アルラ=アル=スハイルは強さもそうだけど、超絶美形だってのが売りなんだよ。長年、正面から敵対してきた人間族でさえ、魔王の美に関しては嘲罵唱え難しとまで言われてるんだから」
「いや、それは……」
「なにせ、吟遊詩人が王都の真っ只中で魔王の美を讃える歌を口ずさんでも、規制できないくらいあるんだから。すれば、王侯貴族は魔王の美に嫉妬していると思われちゃうから」
「そ、そうなのか? 敵だと言うのに、凄い評価だな」
「そうだよ。私も歌を聞いたことがあるけど凄い褒めようだったし。えっと、たしかこんな感じだったかな?」
『一振りの剣にて万の命を奪い、魔法を振るわば百万の善根を断つ。悪鬼なれど一度口を開かば誰もが耳に酔い、双眸に姿を宿せば心を奪われ時を忘れる。歩かば天香国色にして沈魚落雁。混沌と闇の衣に相反し、英華発外の光輝は世界を照らし、白へと染める』
「って、感じだったかな」
「随分な持ち上げようだな。それにしても、世界を照らし、白へと染めるか……立花と言いナリシスと言い、褒め言葉が輝いてばかりだな。誰だ、私を輝かそうとしているのは……?」
「おじさん、大丈夫? 何かごにょごにょ言っているけど?」
「なんでもない」
(どうやら美の話が先行し過ぎて、今の太った農夫姿の容姿では名乗っても信じてもらえないようだな。さて、どうしたものか……はぁ、正体はもういいか)
正体は脇に置いて、話を峡谷のことへと絞る。
「カリン」
「なになに?」
「私の正体はともかく、まほろば峡谷の話は信じて欲しい。国を興して君が王になるべきだという思いも本気だ……無理だろうか?」
「うん、信じるよ」
「なっ? いいのか、そんなにあっさり信じて?」
「だって、おじさんがそんな嘘をつく理由がないもん」
「それはそうなんだが……誰もが近づけぬ大地の向こう側を知っている私の言葉に疑問を抱かないのか?」
「まぁ、たしかに、それについては疑問に思うんだけど……ここまでのおじさんの言動と行動から、なんとなく予測がつくんだよねぇ」
そう言って、カリンはニヤリと不敵な笑みを見せた。
何を予測したのかわからないが、尋ねてみるとしよう。
「君は、私をなんだと思っているんだ?」
「おじさんの桁外れの魔力。領主っぽい目線による言葉。過去に部隊長をやっていた。そして、私に国を作らせて王にしたい理由。そこからわたしは、おじさんの正体を見抜きました」
「ほ~。で、正体とやらは?」
彼女は大きく手を上げて、振り下ろし、私へ人差し指を突き立てた。
「ズバリ! おじさんは後継者争いに負けた上級貴族の四男坊!!」
「…………なぜ、そんな予測に至ったんだ?」
「ふふん、よくぞ聞いてくれました。魔力の強さ、領主の目線。ここからかなり位の高い貴族だと予測しました。そして、部隊長の経験。普通だったらそんなお偉いさんがそんな経験するとは思えないけど、四男坊ならあり得る!」
「……なぜだ?」
「長男であれば世継ぎとして重宝されるけど、四男って居場所がないはず。だからといって、屋敷で遊ばせておくわけにもいかないから戦場に送り出された。でも、超強いおじさんはそこで凄い功績を得た」
「ほう~、それはそれは……」
「だけど、いくら功績を積もうとも結局は四男坊。後継者にはなれなかった。それで自分の居場所はここにはないと旅に出る。その際、上級貴族であるおじさんは国家機密に触れて、まほろば峡谷のことを知った。そこへ向かえば何か成し得ることができるのではないかと? しかし、その何かが見つからない」
「それで?」
「わたしと出会い、大きな夢を見る。新たな国家という夢を。おじさんは私の夢に乗っかることで目標を産み出した。どう!? 私のこの予測にして推理は!!」
それなら四男でなくても五男でも六男でもいいだろうに。それに国家機密に触れられる理由がガバガバじゃないか?
そもそも、貫太郎の存在や私の料理の腕は貴族からかけ離れていないか?
まぁ、それを言い出したら魔王という立場からもかけ離れているわけだが……。
しかし、彼女の推理に余計なツッコミを入れてもしょうがないし、自分が魔王だと喧伝しても現状ではマイナスにしか働かないだろうし、端的に言えば――ま、いっか。
「はは、まさかそこまで見抜かれるとは。君の迷推理には脱帽だよ」
「でしょ! ふふん、これからわたしのことは名探偵カリンちゃんと呼んでちょうだい!」
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