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第19話 その通り名、やめてください!!
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ティンバーさんを殺した日から三か月。このラムラムの町に来てから半年が経ちました。
私は世間一般の良識という下らぬ価値観に囚われることなく、ツツクラ様の従属するモノとして、仕事に精を出します。
このころには事務に新人さんが入って来て、私が事務仕事に従事する時間は減っていました。
今では主に、町の治安維持に従事しています。
悪徳の町と言えど、何もかもが自由というわけではありません。
どんな場所にも秩序というものがあります。
その秩序を破る不届き者を罰するのが、私の役目。
今日もそんなおバカさんを取り締まらないといけません。
――――
「くっそ、金を奪ってバレる前に、町からずらかる予定だったのによ!!」
「愚痴ってる場合じゃねぇぞ。走れ走れ走れ!」
複数人の男たちがラムラムの町を駆けています。
彼らは不届きにも、お金持ちが滞在する上層に忍び込み、金品を強奪した輩です。
その際、たまたま出くわしたその家の息子さんを殺害しています。
もう、救いようがない存在。
彼らは路地を通り抜けて逃げ去ろうとしています。
その前に大斧を手にした私――黒装束を纏った私が立ちはだかりました。
「ここから先は行き止まりですよ」
「――誰だ!?」
「が、ガキ?」
「いや、違う!! あいつは――」
「「「死魔のルーレンだ!!」」」
「その通り名やめてくれませんか、もう!」
いつ、誰がつけたのかわかりませんが、私は死を呼ぶ悪魔、死魔のルーレンと呼ばれています。
この呼び名すっごく嫌なんです。全然可愛くないですし、センスないですし。
「はぁ、もう……とにかく、殺しますね」
「ふざけんな!」
「そうだ、そう簡単殺されてたまるか!」
「に、逃げ切ってやる!!」
「それは無理ですよ。すでに門は閉じられてますし。でも、少しだけ運がいいですよ、あなたたちは」
「は?」
「私以外に見つかっていたら捕まって拷問でしたのに、殺されるだけで済むんですから、クスッ」
私は小さな笑いを立てて、一気に踏み込み、一人の男を大斧で薙ぎました。
その瞬間、彼は体をバラバラにして、狭い路地の壁にべちゃりと叩きつけられます。
残った男たちはそれを目にして悲鳴を上げます。
「ひいぃぃいいいいいい!」
「う、うそだろ! なんだよこれ!?」
「大丈夫、見た目は怖いですけど、痛みは感じませんから」
「なに言って――げふっ!」
「や、やめ――げはっ」
私は斧をぶんぶんと振り回して、残った彼らを全部壁に叩きつけました。
「はい、任務完了っと」
ちょうどそこに、治安維持部隊の上司に当たるパーシモンさんが、幾人かの部下を引き連れてやってきました。
「あ、先を越されたか――って、また派手にやったなぁ」
彼はそう言ってもじゃもじゃの髭をひっぱりつつ、肉と臓物の張り付いた壁を見ています。
私は少し申し訳なさそうに声を返しました。
「ごめんなさい。後片付け大変ですよね」
「ほっときゃ乾くと言いたいが、腐ると病気が怖いしなぁ。ってか、生け捕りにしろよ」
「そうすると、この方たち拷問されちゃうじゃないですか。それはちょっと可哀想でしたので」
「ガハハハ、ルーレンは優しいなぁ」
このように大声で笑っているパーシモンさんの後ろでは、彼の部下さんたちが顔を青褪めながら首を左右にフルフルと振っていました。
ひとしきり笑い飛ばしたパーシモンさんが、この後についての話をしようとしますが……。
「ルーレン、この後だが……」
「あ、すみません。これから私は奴隷市の警備があります」
「そうなのか? 兼任は大変だな。事務仕事まであるのによ」
「慣れですよ。それじゃあ……」
私はパーシモンさんに頭を下げて、次に部下さんたちにも頭を深々と下げます。
「すみません、ここの後片付けお願いできますか? 今度、埋め合わせしますから」
「い、いやいや、気にすんなよ!」
「そ、そうだぜ。仕事があるんだろ!」
「あとは俺たちがやっとくから!! さぁ、早く行きな!」
以前は仲間と言っても、ドワーフの私のお願いなんて簡単に聞いてくれませんでしたが、最近は仕事を熟して実績を上げているおかげか、皆さんがとても協力的で助かってます。
私はもう一度頭をぺこりと下げて、奴隷市の会場へ向かうことにしました。
「ありがとうございます、皆さん」
――――ルーレンが去った路地裏
兵士たちは原型を失った遺体を片付けながら声を震わせていた。
「こえ~、めっちゃこえ~」
「なんで笑顔なんだよ、あの子」
「俺らも決して善人とは言わねぇが、ルーレンヤバ過ぎだろ!」
「普段は礼儀正しくて優しいから、こういうの見ちゃうと余計にこえーんだよなぁ」
彼らの声にパーシモンが語気を強める。
「おい、お前ら。あんまり怖い怖い言ってやるなよ!」
「だって、隊長~」
「洒落にならないっすよ」
「仲間だから、まだ何とか普通に接してますが」
「もし、敵に回ったらと思うと……」
「なんだお前ら、敵に回る予定でもあるのか?」
「「「ないですないです!」」」
「だったらいいだろ」
「でも、やっぱ怖いっすよ。人の命を何とも思ってないところなんか」
「……本当にちみっ子が、何とも思ってないと思ってるのか?」
「へ?」
「いや、なんでもねぇ」
パーシモンは壁に張り付いた肉を見つめる。
(一見、残虐。だが、そこに宿るのは慈悲。どうせ殺されるなら一思いに……同時に自分の恐ろしさを流布して、立場を固めているってところか。問題はちゃんと割り切れているか?)
彼は視線をルーレンが去った道の先へと向けて、軽く頭を左右に振った。
(いや、割り切るんじゃなくて、切り分けたんだろうな。残虐な行為はツツクラ婆さんの命令で、仕方のないこと。その中に自分の優しさを含める。器用なんだか不器用なんだか。やっぱり、ちみっ子は面白いな。ま、それで心を保てているならいいか。こっちも深入りする理由なんてねぇし)
私は世間一般の良識という下らぬ価値観に囚われることなく、ツツクラ様の従属するモノとして、仕事に精を出します。
このころには事務に新人さんが入って来て、私が事務仕事に従事する時間は減っていました。
今では主に、町の治安維持に従事しています。
悪徳の町と言えど、何もかもが自由というわけではありません。
どんな場所にも秩序というものがあります。
その秩序を破る不届き者を罰するのが、私の役目。
今日もそんなおバカさんを取り締まらないといけません。
――――
「くっそ、金を奪ってバレる前に、町からずらかる予定だったのによ!!」
「愚痴ってる場合じゃねぇぞ。走れ走れ走れ!」
複数人の男たちがラムラムの町を駆けています。
彼らは不届きにも、お金持ちが滞在する上層に忍び込み、金品を強奪した輩です。
その際、たまたま出くわしたその家の息子さんを殺害しています。
もう、救いようがない存在。
彼らは路地を通り抜けて逃げ去ろうとしています。
その前に大斧を手にした私――黒装束を纏った私が立ちはだかりました。
「ここから先は行き止まりですよ」
「――誰だ!?」
「が、ガキ?」
「いや、違う!! あいつは――」
「「「死魔のルーレンだ!!」」」
「その通り名やめてくれませんか、もう!」
いつ、誰がつけたのかわかりませんが、私は死を呼ぶ悪魔、死魔のルーレンと呼ばれています。
この呼び名すっごく嫌なんです。全然可愛くないですし、センスないですし。
「はぁ、もう……とにかく、殺しますね」
「ふざけんな!」
「そうだ、そう簡単殺されてたまるか!」
「に、逃げ切ってやる!!」
「それは無理ですよ。すでに門は閉じられてますし。でも、少しだけ運がいいですよ、あなたたちは」
「は?」
「私以外に見つかっていたら捕まって拷問でしたのに、殺されるだけで済むんですから、クスッ」
私は小さな笑いを立てて、一気に踏み込み、一人の男を大斧で薙ぎました。
その瞬間、彼は体をバラバラにして、狭い路地の壁にべちゃりと叩きつけられます。
残った男たちはそれを目にして悲鳴を上げます。
「ひいぃぃいいいいいい!」
「う、うそだろ! なんだよこれ!?」
「大丈夫、見た目は怖いですけど、痛みは感じませんから」
「なに言って――げふっ!」
「や、やめ――げはっ」
私は斧をぶんぶんと振り回して、残った彼らを全部壁に叩きつけました。
「はい、任務完了っと」
ちょうどそこに、治安維持部隊の上司に当たるパーシモンさんが、幾人かの部下を引き連れてやってきました。
「あ、先を越されたか――って、また派手にやったなぁ」
彼はそう言ってもじゃもじゃの髭をひっぱりつつ、肉と臓物の張り付いた壁を見ています。
私は少し申し訳なさそうに声を返しました。
「ごめんなさい。後片付け大変ですよね」
「ほっときゃ乾くと言いたいが、腐ると病気が怖いしなぁ。ってか、生け捕りにしろよ」
「そうすると、この方たち拷問されちゃうじゃないですか。それはちょっと可哀想でしたので」
「ガハハハ、ルーレンは優しいなぁ」
このように大声で笑っているパーシモンさんの後ろでは、彼の部下さんたちが顔を青褪めながら首を左右にフルフルと振っていました。
ひとしきり笑い飛ばしたパーシモンさんが、この後についての話をしようとしますが……。
「ルーレン、この後だが……」
「あ、すみません。これから私は奴隷市の警備があります」
「そうなのか? 兼任は大変だな。事務仕事まであるのによ」
「慣れですよ。それじゃあ……」
私はパーシモンさんに頭を下げて、次に部下さんたちにも頭を深々と下げます。
「すみません、ここの後片付けお願いできますか? 今度、埋め合わせしますから」
「い、いやいや、気にすんなよ!」
「そ、そうだぜ。仕事があるんだろ!」
「あとは俺たちがやっとくから!! さぁ、早く行きな!」
以前は仲間と言っても、ドワーフの私のお願いなんて簡単に聞いてくれませんでしたが、最近は仕事を熟して実績を上げているおかげか、皆さんがとても協力的で助かってます。
私はもう一度頭をぺこりと下げて、奴隷市の会場へ向かうことにしました。
「ありがとうございます、皆さん」
――――ルーレンが去った路地裏
兵士たちは原型を失った遺体を片付けながら声を震わせていた。
「こえ~、めっちゃこえ~」
「なんで笑顔なんだよ、あの子」
「俺らも決して善人とは言わねぇが、ルーレンヤバ過ぎだろ!」
「普段は礼儀正しくて優しいから、こういうの見ちゃうと余計にこえーんだよなぁ」
彼らの声にパーシモンが語気を強める。
「おい、お前ら。あんまり怖い怖い言ってやるなよ!」
「だって、隊長~」
「洒落にならないっすよ」
「仲間だから、まだ何とか普通に接してますが」
「もし、敵に回ったらと思うと……」
「なんだお前ら、敵に回る予定でもあるのか?」
「「「ないですないです!」」」
「だったらいいだろ」
「でも、やっぱ怖いっすよ。人の命を何とも思ってないところなんか」
「……本当にちみっ子が、何とも思ってないと思ってるのか?」
「へ?」
「いや、なんでもねぇ」
パーシモンは壁に張り付いた肉を見つめる。
(一見、残虐。だが、そこに宿るのは慈悲。どうせ殺されるなら一思いに……同時に自分の恐ろしさを流布して、立場を固めているってところか。問題はちゃんと割り切れているか?)
彼は視線をルーレンが去った道の先へと向けて、軽く頭を左右に振った。
(いや、割り切るんじゃなくて、切り分けたんだろうな。残虐な行為はツツクラ婆さんの命令で、仕方のないこと。その中に自分の優しさを含める。器用なんだか不器用なんだか。やっぱり、ちみっ子は面白いな。ま、それで心を保てているならいいか。こっちも深入りする理由なんてねぇし)
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