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第27話 がっがりです……

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 四階私室にあるツツクラ様の金庫から紫の箱を取り出して、最上階へ向かいます。
 するとそこに、大きな破壊音が聞こえました。
 ゴゴゴと町全体が揺れるような破壊音です。

 私はその音の出所をすぐに悟りました。
「嘘!? もう、門が破壊されたの!? どうやって!?」

 戦いが始まって、三十分も経ってません。
 そうだというのに、堅牢な門が破壊された。
 門近くの下層からは、怒号と悲鳴が聞こえてきます。

 私は四階の窓から飛び降り、状況を確認するために砦から出て、下層部分を見に行こうとしました。
 そこに、ディケードさんの怒鳴り声が轟きます。

「ルーレン! 何をしている!?」
「ひっ!? ディ、ディケードさん!?」

 彼は最上階付近から階下を眺めていたのでしょう。そこに私の姿を見かけて声を張り上げたようです。
 彼はさらにこう言葉を続けます。

「お前には任務があるだろう! 早くそれを全うしろ!」
「は、はい!!」


 私は体を砦に向けます。
 ちょうどその時、大剣を手にしたパーシモンさんと出会いました。

「お、ちみっ子。珍しく旦那から怒鳴られたようだが?」
「パーシモンさん? 状況は?」
「わけわかんねぇよ! こんな短時間で、僅か三百の兵に城門を守ってた兵士が全滅させられて、攻城兵器が突っ込んできやがった」

「それでは今から!」
「ああ、市街戦ってわけだ。ちみっ子にも来て欲しいところだが、ディケードの旦那の様子から、なんか別口の仕事があるんだろ?」
「……はい」
「そっか、お互い死なねぇように頑張ろうな」

 そう言って、パーシモンさんが離れていきます。
 ですが、なんとなくわかります。
 もう、会えないと。彼の願いは届かないと。


 だから、だから、最期に彼に問いたい。
「パーシモンさん、何故、私にツツクラ様を殺させようとしたのですか?」

 この問いに、彼はピクリと体を動かすも、すぐに豪快な笑いを見せ始めました。
「ガハハハハ! なるほど、気づいてたのか?」
「ティンバーさんの話、あれわざとですよね。私がツツクラ様を憎むように」
「ああ、そのとおりだ。ま、もしかしたら、何かしてくれるんじゃねぇかなぁって程度だったけどな」

「それがわかりません。殺意を向けるように仕向けてますが、そこに確実性もない。そもそも、パーシモンさんは何が目的でツツクラ様を?」
「別に目的なんてないさ」
「はい?」

「ただ、暇してただけだ」


 そう答えると、彼は髭をくいっと動かして、口端を捻じ曲げて笑いました――この姿は、あの時見ています。
 ティンバーさんの真相を伝えた後、パーシモンさんは振り返り立ち去る間際、僅かに髭を引くつかせた。その時の姿。


 彼からはいつもの豪快な男性の様子は消えて、とても下卑た笑みを見せつつ、言葉を続けます。

「いひひひ。暇で暇で仕方なかったんだよ。警備・警備・警備の毎日。その先には何にもありゃしねぇ。だから、何か起こる種ってのを撒いてみただけだ。残念ながら実りはしなかったがな」

「ただの暇つぶしのために、私を利用しようとしたんですか?」

「ああ、そうだぜ。実際、お前は良い暇つぶしになってた。ガキんちょの分際で必死に生き抜こうとして、心が壊されようとしたのに耐えて、それでいてツツクラの婆さんに従順。そんなお前が婆さんに牙を剥いたらどうなるかなっと思ったら、面白そうでな。くくくく」


 パーシモンさんは厭らしい笑いを見せ続けます。
 この姿が、彼の本当の姿。
 私は、今の彼の姿を瞳に映す気になれなくて、視線を逸らしました。
 ですが、腹立たしさに満たされた思いが膨れ上がり、彼の心に言葉のやいばを突き立てます。

「卑怯ですね」
「あん?」

「あなたは卑怯です。自分で何かを変える勇気がないから、私を利用した。かと言って、そこに確実性を持たせる気はさらさらなく、あくまでも安全圏から見ていられる程度の奸計。正直、がっかりです」
「幻滅ってか。フンッ! こんな場所にいる奴に何を期待してたんだ、ちみっ子?」

「ええ、その通りですね。でも、もう少しだけパーシモンさんは大きな人だと思ってました」
「ガハハ、体はデカいぞ」

「……私を利用するなら、ラスティさんのように大胆に行えば良かった。そうであれば、まだ納得した。ああ、見事だなって。だけど、パーシモンさん、あなたは卑怯で小物。戦士として見事な腕を持ちながら、そんな方だったことにがっかりしているんです」

「…………言いたいことはそれだけか?」

「はい。それでは、任務がありますので。御武運を祈っています」
「ああ、せいぜい暴れて、運が良けりゃ逃げ出す算段でも考えとくか、なにせ小物だからな俺は、ガハハハハ!」

 彼は大剣を手にして戦場に向かいます。
 戦士として死の覚悟はあるのに、とても小物……彼は、私の少ない人生経験では計ることのできない、よくわからない人でした。
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