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蛇足の章
第37話 ここで私は語り部を降ります
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今日もシオン様がダリア様から鞭で打たれ、その悲しみの矛先を私に向けて、シオン様が私を鞭で打つ。
でも、痛くもなんともない。だって、私はドワーフ。力のない少女が鞭を振るったところで、ドワーフの私に傷なんて負わせることはできない。
そう、私が我慢をすれば、シオン様は一時の安らぎが得られる。
だから、我慢すればいい。傷はつかないんだから……だけど、目に見えない傷は心に刻まれていく。
友達……友達が私を打つ。
どうして、そんなことをするの?
それはシオン様の心が繊細で耐えられなかったから。
だから、我慢すればいい。我慢、我慢、我慢――――我慢?
そう、私は我慢をしていた――理解すべきだったのに……。
シオン様の悲しみを理解すべきだったのに。
ただ、押し黙り、我慢をしていただけ。
ああ、なんて馬鹿な真似をしてしまったのでしょう。
我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢――そこに内包されるは、不満。
友達だよ? 私は友達なんだよ? どうして、友達を傷つけることで、あなたは平穏を得ようとしているの?
わかっている。わかっている! それはシオン様が繊細であったため。
だけどだけどだけど、友達なのに!! 初めてできた友達なのに!! 大切な友達なのに!!
どうして、こんなに苦しい思いをしなければならないの?
わかってる! それはシオン様のこころがあぁあぁぁぁああ!
ああああああああああ!
我慢は不満に。不満は怒りに。怒りは恐怖に。恐怖は悲しみに。
心は様々な色を産み出して、ドロドロぐちゃぐちゃの淀んだ色を塗りたくっていく。
――幸せだった日々は汚物の色に塗りつぶされて消え去りました。
はは、ははは、あはは、幸せなんて所詮は咎人の私には不似合いだったもの。
得られないもの。分不相応。何を勘違いしていたのでしょう?
美しいお姫様のメイドになって、友達となって過ごす毎日だって。
そんなもの、この私が得られるはずはなかった。
そうだった、私はあの日に終わってたんだ。
お父さんとお母さんを殺された日に。エイラちゃんがバラバラにされた日に。ティンバーさんを殺した日に。
私の生きる日々は何の価値のないものだったのに、勘違いをしていました。
だからって、苦しい日々に身を預けたりしない!
だって私は、同胞のドワーフを数字に変えてまで、生き残ることを選択したんだよ?
ティンバーさんを殺してでも、奴隷の子どもたちを見殺しにしてまでも、生きることを選択したんだよ?
とっくの昔に足を踏み外している。
そんな私が誰かの友達になるなんて許されない、幸せになることも許されない!
そうだ、屑は屑らしく生きればいい! 他者の命を奪ってでも!!
だから、私はこの日々を終わらせることにした。
恩あるセルガ様から与えられた役目を放棄して……。
そして、あの日が訪れてしまう。
敗北が約束されたゲームの駒から、勝者を混迷に誘う運命という名の歯車の一部となる日が……。
――――――――――――
シオン様が珍しく外出したいと仰いました。
外出する際、お供は護衛の私と馬車を操る御者の方のみ……。
町から離れ、見晴らしの良い高台へと向かいます。
途中から道は狭くなり、馬車は通れませんので馬車から降ります。
御者の方は馬車から離れることなく、私たちは誰もいない高台へ向かいました。
高台は開けていて、先には崖があります。
シオン様は崖の先端まで近づき、遠くの景色を望む。
私はシオン様の背中をじっと見つめます。
誰もいない場所。
だから私は……………………。
――――――――――――
――――――――
――――
――
シオン様は振り返り、こう仰います。
「フフ、ルーレン。もう、二度と裏切らないでね」
「はい、私はシオン様のメイド! 唯一無二である主を裏切るなど致しません」
「友達でいてよ。あなたは私にとって、唯一無二の友達なんだから……」
「はい、もちろんです! シオン様は唯一無二の友達で主です!!」
「クスッ、ルーレンって結構頑固だね。それじゃあ、そろそろ勇気を出さないと」
「勇気? シオン様、一体何をなされるのですか?」
「私は今から変になる。とっても変になる。だけど、私のことを忘れずに、変になっちゃった私に尽くして」
「変に?」
「今の私じゃ、届かないの。だから、これしかない!」
シオン様はソレを見せる。
「ソレは?」
「コレはね…………」
伝えられる。ソレの正体。これから起こる残酷な現実。
シオン様はソレを私へ託して、崖から身を投げ出した……。
「シオン様!!」
あり得ないあり得ない! 本当にそんなこと起きるの? シオン様はどうして信じられるの?
そこまで追い詰められていたの?
いや、あの魔法使いが唆したんだ!
でも、私は止められなかった!
私じゃ、このような惨くとも、救いのある選択肢を用意できなかった!!
「シオン様!!」
降りられそうな場所を探して、崖下へ向かう。
シオン様はどうなってしまったのでしょうか?
常識的に考えれば、無残な御姿になられているでしょう。
ですが、すでに運命の歯車は回り始めて、常識が通用しなくなっています。
だから、私は――!!
崖下まで降りて、顔を正面へ向けます。
シオン様が横たわっていました。
(ああ、どうかご無事で!!)
空回る足を無理やり回して、シオン様の下へ向かいます。
するとシオン様は、身体の具合を確かめる仕草をみせながらも、むくりと起き上がりました。
その御姿に驚き、足は止まります。
そして、そろりそろりと草を踏みしめて近づきます。
お姿全体を瞳に収められる距離になって、私は言葉を零れ落としました。
「う、嘘、シオン様……?」
シオン様には、お怪我一つなかったのです。
シオン様はこちらへ怪訝な表情を見せて、らしくない言葉遣いを見せました。
「お前は誰だ? その格好は? コスプレか?」
――――と、ここまでで、私の物語は終わりを迎えます。
いえ、続くのですが、語り部を降りて、続く道の片隅に寄らせていただこうと思います。
私は変になったシオン様……不遜ですね。言い直しましょう。
私はシオンお嬢様を支える立場として、続く道を歩むことにしました。
これから続く道は、ラムラムの町やお屋敷で経験した以上に困難で、凄惨なものとなるかもしれません。
ですが、私はセルガ様を裏切り、シオン=ポリトス=ゼルフォビラ様を主と掲げるメイド。
どのようなことが起きようと、彼女へ忠誠を尽くし、彼女のために働き、そして、その時が訪れた時――――シオンお嬢様を殺す!!
――――――――――
この後の物語は
『殺し屋令嬢の伯爵家乗っ取り計画~殺し屋は令嬢に転生するも言葉遣いがわからない~』
という作品に引き継がれます。
タイトルはギャグじみてますが、それなりにまじめなお話です。
というか、ギャグの予定で書いてたのに、お屋敷で起こる殺人事件という推理ものっぽい感じになってしまった作品です。
引き継がれたの物語の中では、ルーレンは片隅に咲く花のような存在ですが、ルーレンという存在を深く知ったあなたが読み進めると、思いも寄らぬ発見や矛盾を知ることになるかもしれません。
果たして、続く物語で、ルーレンは幸せを手にすることができるのでしょうか?
でも、痛くもなんともない。だって、私はドワーフ。力のない少女が鞭を振るったところで、ドワーフの私に傷なんて負わせることはできない。
そう、私が我慢をすれば、シオン様は一時の安らぎが得られる。
だから、我慢すればいい。傷はつかないんだから……だけど、目に見えない傷は心に刻まれていく。
友達……友達が私を打つ。
どうして、そんなことをするの?
それはシオン様の心が繊細で耐えられなかったから。
だから、我慢すればいい。我慢、我慢、我慢――――我慢?
そう、私は我慢をしていた――理解すべきだったのに……。
シオン様の悲しみを理解すべきだったのに。
ただ、押し黙り、我慢をしていただけ。
ああ、なんて馬鹿な真似をしてしまったのでしょう。
我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢――そこに内包されるは、不満。
友達だよ? 私は友達なんだよ? どうして、友達を傷つけることで、あなたは平穏を得ようとしているの?
わかっている。わかっている! それはシオン様が繊細であったため。
だけどだけどだけど、友達なのに!! 初めてできた友達なのに!! 大切な友達なのに!!
どうして、こんなに苦しい思いをしなければならないの?
わかってる! それはシオン様のこころがあぁあぁぁぁああ!
ああああああああああ!
我慢は不満に。不満は怒りに。怒りは恐怖に。恐怖は悲しみに。
心は様々な色を産み出して、ドロドロぐちゃぐちゃの淀んだ色を塗りたくっていく。
――幸せだった日々は汚物の色に塗りつぶされて消え去りました。
はは、ははは、あはは、幸せなんて所詮は咎人の私には不似合いだったもの。
得られないもの。分不相応。何を勘違いしていたのでしょう?
美しいお姫様のメイドになって、友達となって過ごす毎日だって。
そんなもの、この私が得られるはずはなかった。
そうだった、私はあの日に終わってたんだ。
お父さんとお母さんを殺された日に。エイラちゃんがバラバラにされた日に。ティンバーさんを殺した日に。
私の生きる日々は何の価値のないものだったのに、勘違いをしていました。
だからって、苦しい日々に身を預けたりしない!
だって私は、同胞のドワーフを数字に変えてまで、生き残ることを選択したんだよ?
ティンバーさんを殺してでも、奴隷の子どもたちを見殺しにしてまでも、生きることを選択したんだよ?
とっくの昔に足を踏み外している。
そんな私が誰かの友達になるなんて許されない、幸せになることも許されない!
そうだ、屑は屑らしく生きればいい! 他者の命を奪ってでも!!
だから、私はこの日々を終わらせることにした。
恩あるセルガ様から与えられた役目を放棄して……。
そして、あの日が訪れてしまう。
敗北が約束されたゲームの駒から、勝者を混迷に誘う運命という名の歯車の一部となる日が……。
――――――――――――
シオン様が珍しく外出したいと仰いました。
外出する際、お供は護衛の私と馬車を操る御者の方のみ……。
町から離れ、見晴らしの良い高台へと向かいます。
途中から道は狭くなり、馬車は通れませんので馬車から降ります。
御者の方は馬車から離れることなく、私たちは誰もいない高台へ向かいました。
高台は開けていて、先には崖があります。
シオン様は崖の先端まで近づき、遠くの景色を望む。
私はシオン様の背中をじっと見つめます。
誰もいない場所。
だから私は……………………。
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シオン様は振り返り、こう仰います。
「フフ、ルーレン。もう、二度と裏切らないでね」
「はい、私はシオン様のメイド! 唯一無二である主を裏切るなど致しません」
「友達でいてよ。あなたは私にとって、唯一無二の友達なんだから……」
「はい、もちろんです! シオン様は唯一無二の友達で主です!!」
「クスッ、ルーレンって結構頑固だね。それじゃあ、そろそろ勇気を出さないと」
「勇気? シオン様、一体何をなされるのですか?」
「私は今から変になる。とっても変になる。だけど、私のことを忘れずに、変になっちゃった私に尽くして」
「変に?」
「今の私じゃ、届かないの。だから、これしかない!」
シオン様はソレを見せる。
「ソレは?」
「コレはね…………」
伝えられる。ソレの正体。これから起こる残酷な現実。
シオン様はソレを私へ託して、崖から身を投げ出した……。
「シオン様!!」
あり得ないあり得ない! 本当にそんなこと起きるの? シオン様はどうして信じられるの?
そこまで追い詰められていたの?
いや、あの魔法使いが唆したんだ!
でも、私は止められなかった!
私じゃ、このような惨くとも、救いのある選択肢を用意できなかった!!
「シオン様!!」
降りられそうな場所を探して、崖下へ向かう。
シオン様はどうなってしまったのでしょうか?
常識的に考えれば、無残な御姿になられているでしょう。
ですが、すでに運命の歯車は回り始めて、常識が通用しなくなっています。
だから、私は――!!
崖下まで降りて、顔を正面へ向けます。
シオン様が横たわっていました。
(ああ、どうかご無事で!!)
空回る足を無理やり回して、シオン様の下へ向かいます。
するとシオン様は、身体の具合を確かめる仕草をみせながらも、むくりと起き上がりました。
その御姿に驚き、足は止まります。
そして、そろりそろりと草を踏みしめて近づきます。
お姿全体を瞳に収められる距離になって、私は言葉を零れ落としました。
「う、嘘、シオン様……?」
シオン様には、お怪我一つなかったのです。
シオン様はこちらへ怪訝な表情を見せて、らしくない言葉遣いを見せました。
「お前は誰だ? その格好は? コスプレか?」
――――と、ここまでで、私の物語は終わりを迎えます。
いえ、続くのですが、語り部を降りて、続く道の片隅に寄らせていただこうと思います。
私は変になったシオン様……不遜ですね。言い直しましょう。
私はシオンお嬢様を支える立場として、続く道を歩むことにしました。
これから続く道は、ラムラムの町やお屋敷で経験した以上に困難で、凄惨なものとなるかもしれません。
ですが、私はセルガ様を裏切り、シオン=ポリトス=ゼルフォビラ様を主と掲げるメイド。
どのようなことが起きようと、彼女へ忠誠を尽くし、彼女のために働き、そして、その時が訪れた時――――シオンお嬢様を殺す!!
――――――――――
この後の物語は
『殺し屋令嬢の伯爵家乗っ取り計画~殺し屋は令嬢に転生するも言葉遣いがわからない~』
という作品に引き継がれます。
タイトルはギャグじみてますが、それなりにまじめなお話です。
というか、ギャグの予定で書いてたのに、お屋敷で起こる殺人事件という推理ものっぽい感じになってしまった作品です。
引き継がれたの物語の中では、ルーレンは片隅に咲く花のような存在ですが、ルーレンという存在を深く知ったあなたが読み進めると、思いも寄らぬ発見や矛盾を知ることになるかもしれません。
果たして、続く物語で、ルーレンは幸せを手にすることができるのでしょうか?
応援ありがとうございます!
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