アイドルはナマモノですか！？

27

　葵の部屋で看病してもらった俺は、結局一晩で熱も下がり、ムラムラも解消されて元気いっぱいで仕事に復帰した。

　……目が覚めたら、葵は居なかったけど、残されたメモには「我慢せずに必ず呼んで」と書かれていて、俺を心配してくれていることがわかり、これからはきちんと葵に頼ろうと改めて思い直した。

　――だから

「あお、い……っ、……っ、ぁ……そこ、グリグリ、やぁ…………！」

「好き、だろ？七瀬……っ、はぁ……すっげー吸い付いてくるけど？」

「す、すきっ……すっ、きぃ……っ、あっ、おっきくなっ……！？あっ、あっ……っ、イ、イく……っ、だめっ、イっちゃ……！」

「はっ、はっ……かわい～……七瀬……っ、七瀬………！」

「あっ、あぁああああ……っ、…………！」

　……と、俺が呼び出すと応じてくれたり、遊びに来た流れでそうなったりと、葵の言葉にすっかり甘えてしまっていて“当たり前”になってしまっていた。

✴✴✴

「……………はぁ」

　自信がない。

　話すことが下手な俺にラジオなんてできるんだろうか。

　……毎回ではないけど、メンバーのみんなで仕事できるのは嬉しいし、SSR単独でのレギュラー番組なんて、本当に嬉しい。
けど……

「ナナちゃん大丈夫？」

「渚……」

「心配？」

「そう、だな……」

　俺が台本を持つ手をギュッとすると、渚は慰めるかのように微笑んで、俺の頭を撫でた。
　優しい手に、自分の弱いところを撫でられているような感覚になって、泣きつきたくなる。

　……普段はかわいいって感じの渚だけど、時折こうして年上ってことを実感する。

　なんだかんだと面倒見が良かったり、頼れたりするんだよな……。

「大丈夫だよ、ナナちゃん。この渚さんに任せなさい！絶対うまくいくから」

「……ああ」

　俺は前向きな気持ちで頷くと、渚は目を細めて微笑んでから、いつもの明るく元気な声で
「ナナちゃんが元気になるおまじない！ギューッ！！」と、力強く抱きしめてきた。
　俺が「元気出た」と、笑うと渚はまるで天使のように可憐に微笑む。

　すばるくんのことを尊敬してるし、アイドルの鏡だと思うけど、渚もこういうところがすごくアイドルだよな……羨ましい。

　“市川七瀬は無愛想。アイドルになんてなれない”

　……そう言われてきた自分とは正反対だ。

　いや、だめだな……緊張のせいかネガティブなことを考えてしまう。
　しっかりしなきゃいけないのに……。

　また俯きそうになる。

　前を向かなきゃいけないのに。

　ため息が出そうになるのをグッと堪えていると、急に身体が重くなった。

「……っ、ん？」

「俺もまーぜてっ」

「アオおっも！かわいいかわいい渚くんが潰れちゃう～！」

　……よく見えないけど、どうやら抱きついている渚に葵がじゃれついているらしい。
　楽しそうにじゃれ合っている声を聞いていると、なんだかこっちまで楽しくなってきて思わず笑ってしまった。

　仲良いよな。俺まで嬉しくなってくる。

「はい、そこまで。ナナが潰れちゃうから離れて」

「え～？せっかくナナちゃんにギューッてしてたのにぃ～アオが邪魔するから～」

「俺だって混ざりたかったんだもーん」

「俺なら大丈夫だぞ」

「だーめ。それにそろそろ本番はじまるから準備して」

「もうそんな時間か……」

　俺にくっついていた渚と葵が離れていくと同時にまた緊張がぶり返してきて、心臓がキュッとなる。

　大丈夫だろうか……。

　そんなことを思っていたら、すばるくんが俺の肩に触れた。

「大丈夫だよ、ナナ。僕がついてるから。一緒にお仕事がんばろうね」

「……ああ」

　コクリと頷くと、すばるくんはふわりと微笑んだ。

　――みんながいるから、大丈夫。

　俺はゆっくりと深呼吸しながら目を閉じて、前を向くようにしっかりと目を開けた。