【完結】究極のざまぁのために、俺を捨てた男の息子を育てています!

.mizutama.

文字の大きさ
111 / 165

第111話 仮面の男

しおりを挟む
 だが、俺の目の前にいる男が、テオドールであるはずはなかった。

 テオドールは今19歳。
 目の前の男は、どう見積もっても20代後半から、30歳前後。

 だが、年齢の差以外は、与える印象から身に纏う雰囲気まで、その男はテオドールそのものだった。


 ーーだから、この男が選ばれたのか。


 アンドレはさきほど、シャンタルとも相談してこの男を選んだと話していた。

 俺がテオドールを愛していると知ったシャンタルは、俺のためにテオドールに良く似た男を選んだのだろう。


「ジュール様……」

 名を呼ばれて、俺の背筋に戦慄が走った。

 ーー声まで、そっくりだ。

 年齢なりの落ち着きがあるとはいえ、テオドールに話しかけられているような錯覚すら覚える。

 これでは、まるで……。


「ジュール様、不束者ですが、どうかよろしくお願いいたします」

 今からここではじまることに、およそ似つかわしくない丁重な挨拶。

 ベッドの上で男と向き合った俺は、ゴクリと唾を飲み込んだ。

「あの……、こちらこそ、よろしく……」

 ふわり、と男の逞しい腕に身体を絡めとられる。

 鍛え抜かれた身体は鋼のようで、俺はそっと男の背中に手を回した。

 ――温かい……。

 しばらく抱き合ったのち、男は身体を離すと俺の頬を撫でた。

 ためらうかのような男の手が、俺のシャツのボタンにかかる。

「……っ」

 だが、男の手は小刻みに震えており、ボタンをうまく外すことができなかった。

 俺はその手に自分の手を重ねた。

「……?」

「あのっ、不躾なことを言うようですが、もしかして、あなたは何か言うにやまれぬ事情があってここにいるのではありませんか?」

 俺の言葉に、ベルベッドの仮面の奥の瞳が揺れた。

「……」

 ――やはり、そうだ。

 俺は、男の手をきつく握り締めていた。


「多分……、あなたはこういったことは初めてですよね?
騎士をされていたと伺いました。あなたいまがここにいるのは、本意ではない。……違いますか?」

「いえ、私は……」

 否定の言葉を口にしながらも、男の感情は激しく揺さぶられているようだった。

「もし、お金に困って仕方なくこの仕事を受けたのであれば、俺でよければ力になります!
騎士団の関係者に知り合いもいますし、もし騎士の仕事にこだわらないのであれば、なにかあなたにもっとふさわしい仕事を紹介できると思います!」

 俺は考えていた。
 目の前にいるこの男は、テオドールに酷似していたことから、多額の報酬をシャンタルに約束されたのに違いないのだと。

 騎士を辞めて金銭に困った男は、プライドをかなぐり捨てて、淫紋持ちの男を抱くというこの愚かな仕事を受けざるをえなかったのだと。


 だが……、俺の言葉に、目の前の男は皮肉げな笑みを浮かべ、言った。

「ジュール様は、お優しいのですね」

「え……?」

 次の瞬間、手を強く引かれた俺は、その男の腕の中にすっぽりとおさまっていた。

「本当にジュール様は、とてもお優しい。私のようなものに、情けをかけてくださろうとするなんて」

「あの……、気に触ったなら、すみません。俺は差し出がましいことを……っ」

 俺は男にきつく抱きしめられた。

「私は金に困ってこの仕事を受けたわけではありません。私は、私の意志で今ここにいます。
ですが……、私では、不足でしょうか? ジュール様。なにか、私に気に入らないところがあるのなら、おっしゃっていただけませんか?」

 背中をゆっくりと撫でられ、耳元でくすぐられるように話されると、俺の身体がピクリと反応した。

「あっ……、いえ、気に入らないことなんて、そんなの、あるはず、ない……です。
でも、あなたが……、その、あまりにも似ていたので……、つい……」

「似ている?」

「はい、あの……、俺の……、好きな人に……」

「好きな、人……」

 男の身体が、強張った。

「でも、その人は誰にも言えない相手で……。俺は誰にも迷惑をかけたくないから、ずっと心の中で……」

「誰にも言えない、相手……、迷惑を、かけたくない……」

 男の声が、一段低くなった。

「すみません、気持ちが悪いですよね、こんなことを、言われたら……、わっ!」

 俺は男にベッドの上に押し倒されていた。
 男の背中越しに、空にぽっかりと浮かぶ満月が見えた。


「ジュール様。あなたは今までずっと、その男を思い続けていたんですか?」

 まるで詰問されているような口調に、俺は驚く。

「あの……、それは……」

「教えてください、その男は、貴方にとって何ですか?」


 黒い瞳の奥に見え隠れするのは、怒り……?

 思いもよらぬ質問に、俺は少しの間考え込んだ。


「その人は、俺にとって……、本当の愛を教えてくれた人です」

「……っ!」

 男は俺の両手首をつかむと、ベッドに押さえつけた。

 仮面ごしからでもわかる。男の瞳は月の光を受けてぎらぎらといびつな光をたたえていた。

しおりを挟む
感想 63

あなたにおすすめの小説

転生したら同性の婚約者に毛嫌いされていた俺の話

鳴海
BL
前世を思い出した俺には、驚くことに同性の婚約者がいた。 この世界では同性同士での恋愛や結婚は普通に認められていて、なんと出産だってできるという。 俺は婚約者に毛嫌いされているけれど、それは前世を思い出す前の俺の性格が最悪だったからだ。 我儘で傲慢な俺は、学園でも嫌われ者。 そんな主人公が前世を思い出したことで自分の行動を反省し、行動を改め、友達を作り、婚約者とも仲直りして愛されて幸せになるまでの話。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

婚約破棄署名したらどうでも良くなった僕の話

黄金 
BL
婚約破棄を言い渡され、署名をしたら前世を思い出した。 恋も恋愛もどうでもいい。 そう考えたノジュエール・セディエルトは、騎士団で魔法使いとして生きていくことにする。 二万字程度の短い話です。 6話完結。+おまけフィーリオルのを1話追加します。

義理の家族に虐げられている伯爵令息ですが、気にしてないので平気です。王子にも興味はありません。

竜鳴躍
BL
性格の悪い傲慢な王太子のどこが素敵なのか分かりません。王妃なんて一番めんどくさいポジションだと思います。僕は一応伯爵令息ですが、子どもの頃に両親が亡くなって叔父家族が伯爵家を相続したので、居候のようなものです。 あれこれめんどくさいです。 学校も身づくろいも適当でいいんです。僕は、僕の才能を使いたい人のために使います。 冴えない取り柄もないと思っていた主人公が、実は…。 主人公は虐げる人の知らないところで輝いています。 全てを知って後悔するのは…。 ☆2022年6月29日 BL 1位ありがとうございます!一瞬でも嬉しいです! ☆2,022年7月7日 実は子どもが主人公の話を始めてます。 囚われの親指王子が瀕死の騎士を助けたら、王子さまでした。https://www.alphapolis.co.jp/novel/355043923/237646317

平凡な僕が優しい彼氏と別れる方法

あと
BL
「よし!別れよう!」 元遊び人の現爽やか風受けには激重執着男×ちょっとネガティブな鈍感天然アホの子 昔チャラかった癖に手を出してくれない攻めに憤った受けが、もしかしたら他に好きな人がいる!?と思い込み、別れようとする……?みたいな話です。 攻めの女性関係匂わせや攻めフェラがあり、苦手な人はブラウザバックで。    ……これはメンヘラなのではないか?という説もあります。 pixivでも投稿しています。 攻め:九條隼人 受け:田辺光希 友人:石川優希 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 また、内容もサイレント修正する時もあります。 定期的にタグ整理します。ご了承ください。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

5回も婚約破棄されたんで、もう関わりたくありません

くるむ
BL
進化により男も子を産め、同性婚が当たり前となった世界で、 ノエル・モンゴメリー侯爵令息はルーク・クラーク公爵令息と婚約するが、本命の伯爵令嬢を諦められないからと破棄をされてしまう。その後辛い日々を送り若くして死んでしまうが、なぜかいつも婚約破棄をされる朝に巻き戻ってしまう。しかも5回も。 だが6回目に巻き戻った時、婚約破棄当時ではなく、ルークと婚約する前まで巻き戻っていた。 今度こそ、自分が不幸になる切っ掛けとなるルークに近づかないようにと決意するノエルだが……。

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

氷の騎士団長様の悪妻とかイヤなので離婚しようと思います

黄金 
BL
目が覚めたら、ここは読んでたBL漫画の世界。冷静冷淡な氷の騎士団長様の妻になっていた。しかもその役は名前も出ない悪妻! だったら離婚したい! ユンネの野望は離婚、漫画の主人公を見たい、という二つの事。 お供に老侍従ソマルデを伴って、主人公がいる王宮に向かうのだった。 本編61話まで 番外編 なんか長くなってます。お付き合い下されば幸いです。 ※細目キャラが好きなので書いてます。    多くの方に読んでいただき嬉しいです。  コメント、お気に入り、しおり、イイねを沢山有難うございます。    

処理中です...