【完結】突然変異の訳アリ子持ちベータは、竜人の血を継ぐ執着系最強アルファ王太子に溺愛される

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29.ミエス・ランタ

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「おや、もしかしてソルはその名前に聞き覚えがあるのかい?」

 アレクシの言葉に、全身に電流が走ったような衝撃が走る。

「……いえ、知りません。初めて聞く名です」

 背中に冷たい汗が伝う。
 ――やはり、この男はすべてを知っているのか……!
 追及されたときのために、俺の頭は急速に回転を始めていた。

「ふうん、そうか。まあ、そうだろうね……」

 だがアレクシは、それ以上何も言おうとはしなかった。

「そのミエスという人物が、なにか重要な手がかりになるのですか?」

 アレクシがどこまで知っているのか、見極める必要があった。探りを入れるように問うと、彼はまるで疑うそぶりもなく、自然に口を開いた。

「僕は徹底的に調べたんだ。ヴェリオスが下級課程の生徒に興味を示していたという頃、下級課程の中で何か異変がなかったかをね。
もちろん、王立学院にはつてがあったから、学長や事務方にも協力してもらった。その結果、実に興味深い事実が判明した」

「興味深い事実……」

「そう。ミエス・ランタという『下級課程』の生徒が、ある日、忽然と姿を消していたんだ。
学院の寮には荷物を残したまま、まるでちょっと散歩にでも出たような様子で。……それっきり、彼は完全に消息を絶った」

 ――あの夜。
 ヴェリオスにうなじを噛まれそうになり、逃げ出した下級課程の生徒……それは俺だ。


「アレクシ様は、もちろんその生徒の事を調べられたのですよね?」

 俺の問いに、アレクシは当然だと頷いた。

「ああ。王立学院には、ミエスに関する記録が残っていた。ただし――」

 そこでアレクシの目が、一瞬鋭く光った気がした。

「そのすべてが偽造だったのさ。
ミエス・ランタは、南西部の漁村出身で、地元の学校からの推薦を得て入学したことになっていた。だが、その推薦状は偽造だった。
そこで僕は、詳細を確かめるために、実際にその漁村まで足を運んだんだ。そうしたら、いたんだよ、ミエス・ランタという人物が!」

「ですが、探していたミエスとは別人だった……?」

 アレクシは微笑む。

「その通り。赤毛にそばかす、日に焼けた筋骨たくましい大男だった。
当時の下級課程の生徒に聞いたところ、ミエスは暗い髪に暗い瞳の細身の男だったと言う。どう見ても別人だ」

 そして、アレクシは少し声をひそめて続けた。

「奇妙なことにね、ミエスのことをはっきり覚えている者が、ほとんどいないんだ。
皆口をそろえて言うのさ。『地味で、影が薄く、印象に残らない生徒だった』って。
親しい友人もおらず、自分のことを語ることもない。いつも静かに授業を受けているだけで、特に記憶に残る出来事もなかった、と」

 アレクシの言葉に、俺は少しだけ安堵する。
 ――そうだ。俺はちゃんと目立たぬように日々を過ごしていた……。


「さらに奇妙なことがあってね。
彼が消えたあとの寮の部屋にも、私物らしいものが何一つ残っていなかった。まるで最初からそこにいなかったかのように、痕跡が一切ない。
家族からの手紙もなければ、日記もない。普通の生徒なら必ず持っているようなものが、なかったんだ」

 アレクシは一瞬、何かを思い出すように目を細めた。


「だが、ミエスは一つだけ、手がかりを残していた。
それが――、あの木彫りの小鳥だよ」
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