30 / 110
29.ミエス・ランタ
しおりを挟む
「おや、もしかしてソルはその名前に聞き覚えがあるのかい?」
アレクシの言葉に、全身に電流が走ったような衝撃が走る。
「……いえ、知りません。初めて聞く名です」
背中に冷たい汗が伝う。
――やはり、この男はすべてを知っているのか……!
追及されたときのために、俺の頭は急速に回転を始めていた。
「ふうん、そうか。まあ、そうだろうね……」
だがアレクシは、それ以上何も言おうとはしなかった。
「そのミエスという人物が、なにか重要な手がかりになるのですか?」
アレクシがどこまで知っているのか、見極める必要があった。探りを入れるように問うと、彼はまるで疑うそぶりもなく、自然に口を開いた。
「僕は徹底的に調べたんだ。ヴェリオスが下級課程の生徒に興味を示していたという頃、下級課程の中で何か異変がなかったかをね。
もちろん、王立学院にはつてがあったから、学長や事務方にも協力してもらった。その結果、実に興味深い事実が判明した」
「興味深い事実……」
「そう。ミエス・ランタという『下級課程』の生徒が、ある日、忽然と姿を消していたんだ。
学院の寮には荷物を残したまま、まるでちょっと散歩にでも出たような様子で。……それっきり、彼は完全に消息を絶った」
――あの夜。
ヴェリオスにうなじを噛まれそうになり、逃げ出した下級課程の生徒……それは俺だ。
「アレクシ様は、もちろんその生徒の事を調べられたのですよね?」
俺の問いに、アレクシは当然だと頷いた。
「ああ。王立学院には、ミエスに関する記録が残っていた。ただし――」
そこでアレクシの目が、一瞬鋭く光った気がした。
「そのすべてが偽造だったのさ。
ミエス・ランタは、南西部の漁村出身で、地元の学校からの推薦を得て入学したことになっていた。だが、その推薦状は偽造だった。
そこで僕は、詳細を確かめるために、実際にその漁村まで足を運んだんだ。そうしたら、いたんだよ、ミエス・ランタという人物が!」
「ですが、探していたミエスとは別人だった……?」
アレクシは微笑む。
「その通り。赤毛にそばかす、日に焼けた筋骨たくましい大男だった。
当時の下級課程の生徒に聞いたところ、ミエスは暗い髪に暗い瞳の細身の男だったと言う。どう見ても別人だ」
そして、アレクシは少し声をひそめて続けた。
「奇妙なことにね、ミエスのことをはっきり覚えている者が、ほとんどいないんだ。
皆口をそろえて言うのさ。『地味で、影が薄く、印象に残らない生徒だった』って。
親しい友人もおらず、自分のことを語ることもない。いつも静かに授業を受けているだけで、特に記憶に残る出来事もなかった、と」
アレクシの言葉に、俺は少しだけ安堵する。
――そうだ。俺はちゃんと目立たぬように日々を過ごしていた……。
「さらに奇妙なことがあってね。
彼が消えたあとの寮の部屋にも、私物らしいものが何一つ残っていなかった。まるで最初からそこにいなかったかのように、痕跡が一切ない。
家族からの手紙もなければ、日記もない。普通の生徒なら必ず持っているようなものが、なかったんだ」
アレクシは一瞬、何かを思い出すように目を細めた。
「だが、ミエスは一つだけ、手がかりを残していた。
それが――、あの木彫りの小鳥だよ」
アレクシの言葉に、全身に電流が走ったような衝撃が走る。
「……いえ、知りません。初めて聞く名です」
背中に冷たい汗が伝う。
――やはり、この男はすべてを知っているのか……!
追及されたときのために、俺の頭は急速に回転を始めていた。
「ふうん、そうか。まあ、そうだろうね……」
だがアレクシは、それ以上何も言おうとはしなかった。
「そのミエスという人物が、なにか重要な手がかりになるのですか?」
アレクシがどこまで知っているのか、見極める必要があった。探りを入れるように問うと、彼はまるで疑うそぶりもなく、自然に口を開いた。
「僕は徹底的に調べたんだ。ヴェリオスが下級課程の生徒に興味を示していたという頃、下級課程の中で何か異変がなかったかをね。
もちろん、王立学院にはつてがあったから、学長や事務方にも協力してもらった。その結果、実に興味深い事実が判明した」
「興味深い事実……」
「そう。ミエス・ランタという『下級課程』の生徒が、ある日、忽然と姿を消していたんだ。
学院の寮には荷物を残したまま、まるでちょっと散歩にでも出たような様子で。……それっきり、彼は完全に消息を絶った」
――あの夜。
ヴェリオスにうなじを噛まれそうになり、逃げ出した下級課程の生徒……それは俺だ。
「アレクシ様は、もちろんその生徒の事を調べられたのですよね?」
俺の問いに、アレクシは当然だと頷いた。
「ああ。王立学院には、ミエスに関する記録が残っていた。ただし――」
そこでアレクシの目が、一瞬鋭く光った気がした。
「そのすべてが偽造だったのさ。
ミエス・ランタは、南西部の漁村出身で、地元の学校からの推薦を得て入学したことになっていた。だが、その推薦状は偽造だった。
そこで僕は、詳細を確かめるために、実際にその漁村まで足を運んだんだ。そうしたら、いたんだよ、ミエス・ランタという人物が!」
「ですが、探していたミエスとは別人だった……?」
アレクシは微笑む。
「その通り。赤毛にそばかす、日に焼けた筋骨たくましい大男だった。
当時の下級課程の生徒に聞いたところ、ミエスは暗い髪に暗い瞳の細身の男だったと言う。どう見ても別人だ」
そして、アレクシは少し声をひそめて続けた。
「奇妙なことにね、ミエスのことをはっきり覚えている者が、ほとんどいないんだ。
皆口をそろえて言うのさ。『地味で、影が薄く、印象に残らない生徒だった』って。
親しい友人もおらず、自分のことを語ることもない。いつも静かに授業を受けているだけで、特に記憶に残る出来事もなかった、と」
アレクシの言葉に、俺は少しだけ安堵する。
――そうだ。俺はちゃんと目立たぬように日々を過ごしていた……。
「さらに奇妙なことがあってね。
彼が消えたあとの寮の部屋にも、私物らしいものが何一つ残っていなかった。まるで最初からそこにいなかったかのように、痕跡が一切ない。
家族からの手紙もなければ、日記もない。普通の生徒なら必ず持っているようなものが、なかったんだ」
アレクシは一瞬、何かを思い出すように目を細めた。
「だが、ミエスは一つだけ、手がかりを残していた。
それが――、あの木彫りの小鳥だよ」
1,618
あなたにおすすめの小説
【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~
tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。
番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。
ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。
そして安定のヤンデレさん☆
ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。
別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。
結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした
紫
BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。
実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。
オメガバースでオメガの立場が低い世界
こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです
強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です
主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です
倫理観もちょっと薄いです
というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります
※この主人公は受けです
身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される
秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました!
応援ありがとうございます!
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。
ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。
死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――?
傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
そんなに義妹が大事なら、番は解消してあげます。さようなら。
雪葉
恋愛
貧しい子爵家の娘であるセルマは、ある日突然王国の使者から「あなたは我が国の竜人の番だ」と宣言され、竜人族の住まう国、ズーグへと連れて行かれることになる。しかし、連れて行かれた先でのセルマの扱いは散々なものだった。番であるはずのウィルフレッドには既に好きな相手がおり、終始冷たい態度を取られるのだ。セルマはそれでも頑張って彼と仲良くなろうとしたが、何もかもを否定されて終わってしまった。
その内、セルマはウィルフレッドとの番解消を考えるようになる。しかし、「竜人族からしか番関係は解消できない」と言われ、また絶望の中に叩き落とされそうになったその時──、セルマの前に、一人の手が差し伸べられるのであった。
*相手を大事にしなければ、そりゃあ見捨てられてもしょうがないよね。っていう当然の話。
竜王陛下、番う相手、間違えてますよ
てんつぶ
BL
大陸の支配者は竜人であるこの世界。
『我が国に暮らすサネリという夫婦から生まれしその長子は、竜王陛下の番いである』―――これが俺たちサネリ
姉弟が生まれたる数日前に、竜王を神と抱く神殿から発表されたお触れだ。
俺の双子の姉、ナージュは生まれる瞬間から竜王妃決定。すなわち勝ち組人生決定。 弟の俺はいつかかわいい奥さんをもらう日を夢みて、平凡な毎日を過ごしていた。 姉の嫁入りである18歳の誕生日、何故か俺のもとに竜王陛下がやってきた!? 王道ストーリー。竜王×凡人。
20230805 完結しましたので全て公開していきます。
殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?
krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」
突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。
なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!?
全力すれ違いラブコメファンタジーBL!
支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる