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32.紫のノクティルカ
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リクを産んでから、俺はあの夜――王立学院で起きた出来事について、自分なりに調べ続けていた。
ずっと俺の診察をしてくれていたユッカ先生からは、俺が一時的に「オメガ化」していたことについて、医師の立場からの見解や、さまざまな知見を聞くことができた。
そして、アレクシがヴェリオスの『番』について数々の考察を巡らせたように、俺自身もまた、ヴェリオスに『番』と認識され、さらには彼との子を授かったという事実について、一つの結論にたどり着いていた。
それは――、
すべては、王立学院の『月夜見庭園』に咲き乱れていた『魔花』の作用によるものだった、ということだ。
王立学院の奥深く、まるで隠されるように配置されていた『月夜見庭園』。
そこには、王国内でも非常に珍しい、特別な品種の魔花が植えられていた。
俺もすべての種類を把握していたわけではないが、とりわけ印象に残っていたのが『ノクティルカ』という花だった。
通常、ノクティルカは純白の花を咲かせるが、満開を迎えるほんの一瞬だけ、その花弁から幻覚を引き起こす成分を放出するという。
そして……、あの時俺が探していたのは『紫のノクティルカ』。
それが実在するものだったとすれば、その効果は純白のものとは比べものにならないほど強力で、俺たちの心身にどれほどの影響を与えたのか、想像もつかない。
加えて、その庭園には他にも、俺の知識では把握しきれないような、さまざまな作用をもつ魔花が所狭しと植えられていたはずだ。
芳香を放ち、魔力を帯びたそれらの植物が混ざり合った結果、あの夜の『月夜見庭園』は、一種の『幻惑の温室』のような状態になっていたのだと、俺は考えている。
そして、あのときヴェリオスが呟いた言葉……。
「――あなたは、死んだはずなのに……」
ヴェリオスは、自身の『番』がすでにこの世にいないことを知っていたのだろう。
けれどもあの夜、魔花の作用によって、俺を亡き『番』と見間違えるような幻覚を見せられた――。
一方で、俺自身もまた、魔花の幻覚作用に取り込まれていた。
そして、最高位のアルファであるヴェリオスのフェロモンと、魔花に含まれる成分が何らかの反応を起こした結果、俺の身体が一時的に『オメガ化』してしまったのだ。
図らずもそのとき、俺はヴェリオスとの交合によって妊娠したため、そのまま出産までオメガの状態が継続した。
だが、出産を終えた今、俺の身体はもとのベータへと戻っている。
ユッカ先生は言っていた。
「この世界にはまだ、作用の解明されていない薬草や、強力な魔力を宿した植物が数多く存在している。それらが人間にどのような影響を及ぼすかは、誰にもわからない」と。
つまり――。
あの夜、ヴェリオスが俺を『番』と誤認し、俺もまた彼に惹きつけられたのは、すべてが魔花のもたらした一時の幻だった。
そして、その幻覚を本能で信じてしまったヴェリオスは、逃げた俺を『本物の番』と勘違いしたまま、その面影を追い、ずっと探し続けていたのだろう。
けれど、今のヴェリオスにはもう、あの魔花の影響は残っていない。
再び俺と出会ったとしても、きっと俺が誰かもわからないはずだ。
――すべては、あの魔花が見せた、儚くも甘美な一夜の夢幻だったのだ……。
ずっと俺の診察をしてくれていたユッカ先生からは、俺が一時的に「オメガ化」していたことについて、医師の立場からの見解や、さまざまな知見を聞くことができた。
そして、アレクシがヴェリオスの『番』について数々の考察を巡らせたように、俺自身もまた、ヴェリオスに『番』と認識され、さらには彼との子を授かったという事実について、一つの結論にたどり着いていた。
それは――、
すべては、王立学院の『月夜見庭園』に咲き乱れていた『魔花』の作用によるものだった、ということだ。
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通常、ノクティルカは純白の花を咲かせるが、満開を迎えるほんの一瞬だけ、その花弁から幻覚を引き起こす成分を放出するという。
そして……、あの時俺が探していたのは『紫のノクティルカ』。
それが実在するものだったとすれば、その効果は純白のものとは比べものにならないほど強力で、俺たちの心身にどれほどの影響を与えたのか、想像もつかない。
加えて、その庭園には他にも、俺の知識では把握しきれないような、さまざまな作用をもつ魔花が所狭しと植えられていたはずだ。
芳香を放ち、魔力を帯びたそれらの植物が混ざり合った結果、あの夜の『月夜見庭園』は、一種の『幻惑の温室』のような状態になっていたのだと、俺は考えている。
そして、あのときヴェリオスが呟いた言葉……。
「――あなたは、死んだはずなのに……」
ヴェリオスは、自身の『番』がすでにこの世にいないことを知っていたのだろう。
けれどもあの夜、魔花の作用によって、俺を亡き『番』と見間違えるような幻覚を見せられた――。
一方で、俺自身もまた、魔花の幻覚作用に取り込まれていた。
そして、最高位のアルファであるヴェリオスのフェロモンと、魔花に含まれる成分が何らかの反応を起こした結果、俺の身体が一時的に『オメガ化』してしまったのだ。
図らずもそのとき、俺はヴェリオスとの交合によって妊娠したため、そのまま出産までオメガの状態が継続した。
だが、出産を終えた今、俺の身体はもとのベータへと戻っている。
ユッカ先生は言っていた。
「この世界にはまだ、作用の解明されていない薬草や、強力な魔力を宿した植物が数多く存在している。それらが人間にどのような影響を及ぼすかは、誰にもわからない」と。
つまり――。
あの夜、ヴェリオスが俺を『番』と誤認し、俺もまた彼に惹きつけられたのは、すべてが魔花のもたらした一時の幻だった。
そして、その幻覚を本能で信じてしまったヴェリオスは、逃げた俺を『本物の番』と勘違いしたまま、その面影を追い、ずっと探し続けていたのだろう。
けれど、今のヴェリオスにはもう、あの魔花の影響は残っていない。
再び俺と出会ったとしても、きっと俺が誰かもわからないはずだ。
――すべては、あの魔花が見せた、儚くも甘美な一夜の夢幻だったのだ……。
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