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33.王都
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「アレクシ様」
俺は、興味深げに窓の外を眺めるアレクシに、そっと声をかけた。
「なんだい、ソル?」
「俺がヴェリオス様と対面して、……もし、ヴェリオス様が俺にまったく興味を示さなかったり、気に入らなかったりした場合は、そのときはすぐに村へ戻してもらえますか?」
アレクシは何かを思案するように、遠くへ視線を投げた。
「うーん、そうだねえ。まあ、そんなことはまず起こらないと思うけどね。
とはいえ、今のヴェリオスは何を言い出すか分からないからな。よし、こうしよう。万が一にも、ヴェリオスがソルに興味を示さなかった場合――、そのときは、約束の一月の間だけ、王宮内で何か君にできる仕事を探して、業務に従事してもらおう」
「……一月」
あれほどの金貨を受け取っておいて、すぐに逃げ出そうなんて、やはり甘い考えなのかもしれない。
それに、自分勝手に約束の期限より前に王宮を抜け出して、村や、――リクに迷惑をかけるのだけは絶対に避けたい。
「ただし、ソル。君はさっき『そんなことは絶対にない』と断言していたが、もし、あのヴェリオスが君と対面した瞬間に、君がオメガへと変異して、彼が君を『番』だと認識してしまったら、
――君はもう、逃げられないよ」
アレクシの瞳が、まるでいたずらを思いついた子どものようにきらめいている。
……それは冗談なのか、それとも本気なのか。
「俺がオメガに変異することは、絶対にありません。それに、ヴェリオス様が俺を『番』だと認識することも、あり得ないと思います」
そう言った俺に、アレクシは微笑みを浮かべた。
「ソルにとっては、その方がいいのかもしれないねえ。竜人の血を引く僕が言うのもなんだけど、実のところ『竜人の番』っていうのは、非常に厄介なものだから。
竜人同士ならまだしも、もし『番』が普通の人間であった場合、竜人の愛情は、重すぎることがあるんだ。
ヴェリオスも、本当はあのまま『番』なんて存在に出会わなければ、もっと穏やかで幸せな人生を送れたのかもしれないな。身を焦がすような愛に苦しむこともなく、平穏な日々の中で、単調でも満ち足りた一生を、ね。
……だからこそ、今のヴェリオスは、あんな姿になってしまったのかもしれないね」
アレクシの言葉には、どこか含みがある。
「ヴェリオス様の身にいったい、何が起こったのですか?」
俺は、以前から抱いていた疑問を口にした。
かつてとはまったく違う状態にあるというヴェリオス。
今、王太子は一体どんな姿をしているのか?
「まあ、実際に会えばすぐに分かることさ。少しばかり事情が込み入っていてね。それは、君自身の目で確かめてごらん。
ああ、そうそう、ソル。先に言っておくけど、今のヴェリオスの姿にどんなに驚いても、大声を上げたり、露骨な反応を見せたりしないようにね。ヴェリオスは、ああ見えて案外繊細なところがあるんだ」
「俺がそんなに驚くような姿に、変わられてしまったんですか?」
思わず、問い返してしまう。
「うーん、それは見てからのお楽しみ、ということでね。……ほら、もう王都の門が見えてきたよ。僕のおしゃべりがちょっと長すぎたかな。
ところでソル、君は王都に来るのは初めてかい?」
「……はい。初めてです」
もちろん嘘だ。
かつて通っていた王立学院は、王宮からそう遠くない場所にある。
王宮の内部に入ったことはないが、外からは何度もその荘厳な白亜の宮殿を見上げてきた。
「見てごらん。宮殿のいちばん高い塔が見えてきた。
あそこの最上階からは、この国の広大な大地が遠くまで見渡せるんだよ。ソルも、機会があれば一度登ってみるといい。
――ヴェリオスと一緒に、ね」
俺は、興味深げに窓の外を眺めるアレクシに、そっと声をかけた。
「なんだい、ソル?」
「俺がヴェリオス様と対面して、……もし、ヴェリオス様が俺にまったく興味を示さなかったり、気に入らなかったりした場合は、そのときはすぐに村へ戻してもらえますか?」
アレクシは何かを思案するように、遠くへ視線を投げた。
「うーん、そうだねえ。まあ、そんなことはまず起こらないと思うけどね。
とはいえ、今のヴェリオスは何を言い出すか分からないからな。よし、こうしよう。万が一にも、ヴェリオスがソルに興味を示さなかった場合――、そのときは、約束の一月の間だけ、王宮内で何か君にできる仕事を探して、業務に従事してもらおう」
「……一月」
あれほどの金貨を受け取っておいて、すぐに逃げ出そうなんて、やはり甘い考えなのかもしれない。
それに、自分勝手に約束の期限より前に王宮を抜け出して、村や、――リクに迷惑をかけるのだけは絶対に避けたい。
「ただし、ソル。君はさっき『そんなことは絶対にない』と断言していたが、もし、あのヴェリオスが君と対面した瞬間に、君がオメガへと変異して、彼が君を『番』だと認識してしまったら、
――君はもう、逃げられないよ」
アレクシの瞳が、まるでいたずらを思いついた子どものようにきらめいている。
……それは冗談なのか、それとも本気なのか。
「俺がオメガに変異することは、絶対にありません。それに、ヴェリオス様が俺を『番』だと認識することも、あり得ないと思います」
そう言った俺に、アレクシは微笑みを浮かべた。
「ソルにとっては、その方がいいのかもしれないねえ。竜人の血を引く僕が言うのもなんだけど、実のところ『竜人の番』っていうのは、非常に厄介なものだから。
竜人同士ならまだしも、もし『番』が普通の人間であった場合、竜人の愛情は、重すぎることがあるんだ。
ヴェリオスも、本当はあのまま『番』なんて存在に出会わなければ、もっと穏やかで幸せな人生を送れたのかもしれないな。身を焦がすような愛に苦しむこともなく、平穏な日々の中で、単調でも満ち足りた一生を、ね。
……だからこそ、今のヴェリオスは、あんな姿になってしまったのかもしれないね」
アレクシの言葉には、どこか含みがある。
「ヴェリオス様の身にいったい、何が起こったのですか?」
俺は、以前から抱いていた疑問を口にした。
かつてとはまったく違う状態にあるというヴェリオス。
今、王太子は一体どんな姿をしているのか?
「まあ、実際に会えばすぐに分かることさ。少しばかり事情が込み入っていてね。それは、君自身の目で確かめてごらん。
ああ、そうそう、ソル。先に言っておくけど、今のヴェリオスの姿にどんなに驚いても、大声を上げたり、露骨な反応を見せたりしないようにね。ヴェリオスは、ああ見えて案外繊細なところがあるんだ」
「俺がそんなに驚くような姿に、変わられてしまったんですか?」
思わず、問い返してしまう。
「うーん、それは見てからのお楽しみ、ということでね。……ほら、もう王都の門が見えてきたよ。僕のおしゃべりがちょっと長すぎたかな。
ところでソル、君は王都に来るのは初めてかい?」
「……はい。初めてです」
もちろん嘘だ。
かつて通っていた王立学院は、王宮からそう遠くない場所にある。
王宮の内部に入ったことはないが、外からは何度もその荘厳な白亜の宮殿を見上げてきた。
「見てごらん。宮殿のいちばん高い塔が見えてきた。
あそこの最上階からは、この国の広大な大地が遠くまで見渡せるんだよ。ソルも、機会があれば一度登ってみるといい。
――ヴェリオスと一緒に、ね」
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