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第一章 アルミュール男爵家

第十二話 怪物式錬金術

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 朝早く起きて、こっそりと分家予定地に向かう。
 地図を見て四隅にある杭を確認する。
 畑は別の位置というか、外壁の外にある。

「令嬢が住むから塀をつけた方がいいよね」

「ですねー」

 まだ眠そうにしているグリムは、俺がやらかすかもしれないと不安でしょうがないらしく、眠い目を擦りながらついてきたのだ。
 すまん。すぐに終わらせるから。

 地面に棒で線を引き、だいたいの大きさを決める。

「滴……滴……」

「まさか――っ! ぶっつけ本番ですかーっ!?」

「えいっ! 整地からの基礎!」

 ――ズンッ! ズンッ!

 と連続した振動の後、イメージ通りの基礎が完成。
 もちろん、近隣住民が騒ぎ出した。

 ここでバレるわけにはいかないため、周囲に人がいないことを【白毫眼】で確認し、【魔導眼】の収納から建材を取りだして隅に置き、逃げるように立ち去った。 

「滴、できたよー!」

「……そうですねー。でも分かっていただけたでしょー? 滴であの規模ですからねー? 手のひらサイズの魔法は点ですよー?」

「無茶な……」

 何か方法ないかなー?

「あっ! 杖を使えばいいんじゃないかな? 規模も威力も設定済みの単発魔法が設定された杖に、魔力を流せばいいだけ!」

「いいですねー! 実際そういうものが存在しますしー! 基本的に魔量が少ない人がー、魔石をはめてブーストした杖を使いー、魔力を節約するために用いますー!」

「俺は逆に、余剰分は溜めるようにすれば良くない?」

「ですねー!」

「他は……カルム少年の知識にある紋章術や魔法陣なんかはどうかな?」

「紋章術はともかくー、魔法陣は規模が大きくなりませんかねー? 一応儀式魔法で使われますからー」

「魔法陣の外に効果がはみ出さないようにすれば、さっきみたいな規模が大きい魔法を使っても、他に影響を及ばさなくて済むんじゃないかな?」

「その手がありましたねーー!」

「じゃあ、教本のために【打出の小槌】を使ってもいいかな?」

「許可しまーす! 普段は収納しておけばいいですからねー!」

 よしっ! やっと【九十九神】の恩恵を受けられるぜっ!

「家に帰ったら早速召喚しようっと!」

「言い訳は考えてますー?」

「……森で拾った」

「……嘘くさーー」

「でも、名乗り上げるヤツは全て嘘って分かるでしょ? 一種の踏み絵だよ。そいつらは信用しなくていいってことなんだからさ!」

「まぁやつらの対策には持って来いですねー」

「でしょー!」

 分家に到着する前に本家の様子を窺って見たのだが、まだ報告されていないようだった。
 適性属性が判明していない今、魔法を使ったとは言えない。よって、徹夜で組んだんだって言うしかない。……たぶん。

「それで、どうやって使うの?」

 自分の部屋に入り、機能しているのか分からない鍵をかけ、【白毫眼】で周囲を確認する。
 幸いなことに、俺の部屋には窓はない。

「『神霊具』を出してしまえばー、手順とか必要なくなりますー。だからー、最初に『神霊具』を召喚してもらいますー」

「名前を言うの?」

「いいえー。ステータスを出して【九十九神】の部分を押してくださいー」

「ステータスって……触れるの?」

「自分のものだけは可能ですよー。種族を押すことで両親の詳細を確認できたりー、あまりいませんが統合した結晶の詳細を見たりー」

「なんでいないの? 結構いそうじゃん。便利だし」

「統合するほどたくさん結晶化している人がいないからですー」

「なるほどー」

「あとー、身元確認のときにステータスの表示を要求されることがあるのですがー、名前・年齢・性別以外は非表示設定になっていますー。任意で表示設定にもできますよー」

 表示にする人いる? 個人情報を公開するわけないじゃん。

「奇特な人もいるんだねー」

「主に王侯貴族ですけどねー。天禀持ちが基本ですからー、有無の確認や希少性の判定などですねー。将来の子どもに影響するかもしれませんからねー。貴族に個人情報なんて概念なんてありませんのでー、早期リタイアを目指すなら気をつけてくださいねー!」

「俺は大丈夫……?」

「えぇー……たぶんー。馬鹿にされると思いますけどねー。それとー、もう一つ大切なことがありましたー」

「何?」

「奴隷や従魔契約の証明にー、備考欄を提示する人もいますー」

「あぁー。なるほどー」

 任意の部分は基本的に非表示でいいや。
 召喚獣を長時間出しっぱなしにしてたら、魔量の異常性を感じさせるだろう。でも従魔と言えば、召喚が使えないだけでなく、ステータスでバレる。
 その場しのぎの言い訳でいいかな。
 最悪の場合は、【偽装】でステータスを改ざんする。

「じゃあステータスのことはいいとして、早速【打出の小槌】を使用しまーす!」

「どうぞー」

 ステータスの【九十九神】の部分に触れると――。

 【九十九神】 = 御朱印帳
          御神札
          天叢雲剣
 【高天原】  = 八咫鏡
          鳥居
 【打出の小槌】= 八尺瓊勾玉

 と、神霊具の一覧が出た。
 他のものがすごく気になるけど、今回は『八尺瓊勾玉』だけを召喚する。

 八尺瓊勾玉の部分に触れると、手のひらサイズの薄い緑色の勾玉がステータスから飛び出た。

「手に取ってくださーい。そして、ステータスを消してくださーい」

「はーい」

 目移りさせない気だな。事故で押しちゃったもさせない気だ。

「でも……これ……小槌じゃないよね?」

「それは収納時の姿なのでー、魔力を注入すると起動しますー。逆に魔力を止めるとー、元の勾玉に戻りますー」

「他の人もこの仕様?」

「物体召喚は三つある等級の内ー、一番上の等級ですのであまりいませんー。ただしー、小学生と幸運&不運少女は物体召喚能力がありますー。仕様はそれぞれ違いますー」

「小槌みたいなの?」

「いいえー。小学生はー、あなたみたいに複数のものを召喚できるわけではないのですー。聖剣を一本だけなのでー、『聖剣召喚』って言えば魔法陣から飛び出てきますー」

「……喜びそうな仕様だね。俺は嫌だけど」

「幸運少女は道具召喚ですのでー、ステータスがタブレットみたいな仕様になっていますー。起動と停止は同じ仕様ですしー、対価が魔力って言うところも同じですー。さらにー、知識があるものしか召喚できないのも同じですー」

「え!? 俺も!?」

「あなたはややこしいのでー、後で説明しますー! 彼女の場合はー、前世の方が優れた道具が多そうと判断したのでー、制限を設けたんですー」

 まぁねー。道具という曖昧な線引きだと制限がないと怖いよねー。銃とかも道具って言えば、道具だもんなー。

「不運少女は武具召喚という用途が狭そうな物体召喚ですがー、彼女は軍隊経験者なんですよー。知識があるものを召喚できるという条件だとー、恐ろしいオークになってしまうのですー」

「俺より強くなりそう……」

「まぁそれはないんですけどー、強化魔法陣で転生させてあげたのにー、あなたに匹敵するチート持ちだと釣り合いが取れないのでー、火薬を使う以前の武器なら召喚できるようにしましたー。仕様はー、幸運少女と同じですー」

「歴史オタク以外の人が、甲冑とかに興味があると思うかね?」

「前提が違いますー。制限がついているのは前世のものについてだけですー。現世のものは無制限なのでー、知れば知るほど召喚できるものが増えていきますー。まぁ大きなものや価値があるものは多く魔力を消費しますけどねー」

「……オーク娘が不利じゃない? 幸運少女は町で魔導具を勉強すれば召喚できるようになるかもしれないけど、オーク娘は勉強する機会がないよね?」

「神々は平等ですー。そして慈悲深いですー」

「……そうかな?」

 平等という割には、俺はそこそこ酷い目にあったよ?

「……そうですよー。心が狭いのは眷属ですからねー」

 コイツ……自分が怒られないためなら平気で眷属を売るな……。先輩って言ってたのに……。

「オーク娘はオークの国に生まれたのですー。幸運少女には結晶を天禀にしたものしか与えませんでしたがー、オーク娘は本物の天禀を追加で与えたのでー、あとは彼女の努力次第ですー」

「……平等じゃないよね?」

「何を言うんですーー! 道具召喚に日用品と雑貨を付けてあげましたしー、見目を良くした上で十歳も若返らせましたしー、希望の国にも転移させてあげたのですー! まぁ神々に嫌われてましたけどー」

 クレーム入れたから俺も嫌われてるかもしれないな……。まず間違いなく……。

 それで俺の前世のものに対する制限はというと、流し読み込みで読んだことがある書物、試食込みで食べたことがあるもの、聞きかじり程度の知識がある薬品だけ。

 うーん……。結構緩いな。
 特に薬品の制限がガバガバだということに驚きを隠せなかった。

「この薬品って、医薬品も入るの?」

「知識があれば入りますねー。ただー、これが役に立つのは前世ではなくー、現世の物体だと思いますよ?」

「何で?」

「前世の制限ですらガバガバなんですよ? エリクサーの知識の内ー、材料を知っていれば調合法とか知らなくても無限の魔力で量産できるのですー。細かい病気とか不調とかー、正直どうでもよくなりますよー」

「体調が悪いなーって思ったら、エリクサーを栄養ドリンクみたいにガブ飲みできるってこと?」

「そうですー。転売もできますよー」

「他の人はやらないのかな? 最高の錬金術だと思うんだけど?」

「エリクサーを創るためには大量の魔力が必要になりますー。魔量の目安は最低で☆7ですー。たぶん創った後は昏睡状態になると思いますー」

「なるほど……」

 怪物式錬金術ってことね。

「あなたはー、タイトルを知っていたりー、具体的な内容をイメージできればー、あらゆる書物を召喚できますー。絶版とか消失とか関係なくー。……分かりますよねー?」

「はいっ! エリクサーの本を召喚しますっ!」

「そうっ! そうですーー!」

「さらに読書喫茶みたいなものも開けるのですね!? 希少本を読みたい方がわんさか来るということですね!?」

 いや……。漫画も召喚できるなら平民層も……。

「それは考えてませんでしたー! ですが、商会の売りにはなりますねー!」

「ですね! ですね!」

 夢が広がるぜーー!

「「ふははははっ!!!」」

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