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第一章 アルミュール男爵家

第十三話 初めてのお買い物

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 グリムと二人、思わずテンションが上がって高笑いをしたせいか、女性陣が動き出してしまった。
 部屋に来られる前に、『魔法陣大全』や『紋章術大全』に『薬術大全』、『錬金術大全』などの希少価値が高い本を中心にまとめて召喚する。

「なんで超高級書物ばかりなんですかー? 魔力がなくなりますよー?」

「だって魔力がなくなって全快すると増えるんでしょ? それに召喚できるときに召喚しておかないと」

「……まだ増やすつもりですかー?」

「うん!」

「ちっとも可愛くないですよー! むしろムカつきますーー!」

 可愛い子どもを装ってみたけど、どうやらイラつかせただけだったようだ。失敗失敗。

 ついでに塩だれを召喚してみた。
 塩だれなら「自分で作ったんだー!」と言えば信じてくれるかもしれないから、隠す必要はないかなって。

 ちなみに、勾玉は使用時に小槌へと変化した。
 前世の本で見たとおりの金色の本体に、花柄や樹木の絵柄がつき、名称不明の打つ部分には、太陽の柄と月の柄が両端に刻まれている。

 何とも豪華な道具である。
 さすが、準神器。

「うーん……減らないねー」

 あまり魔力が減らないから、本を入れる革製のリュックや臨時収入を入れる財布に、小さいけど荷物を載せて引ける荷台を召喚した。
 言い訳対策を兼ねた口止め料として、メイベルとママンの分の化粧水と鞄も用意する。

「完璧っ!」

「全然ですよー! どうするんですかーー!」

「……森で拾った」

「うわーー! 森の恵に感謝をーーー! ――じゃないっ! 薬はーー!?」

「それは作ったー! 喜んで欲しくて作りましたー! ダメでしょうかー?」

「ふんっ! 全く可愛くないですよー!?」

 注意を受けている間にリュックに本と財布をしまい、荷台にボロ小屋に置いてあった大工道具を載せる。
 一応鍋と塩だれも載せておこう。
 誰か食材を恵んでくれるかもしれないし、人がいなければ【魔導眼】から肉を出せばいい。

「よしっ! 勾玉を収納して終了! 朝御飯の支度に行こうか!」

「……そうですねー。はぁ……」

 ◇

 女性陣は朝から重たいものは無理らしく、森でもいできた果物を朝食代わりに食べていた。
 これも昨日採ってきたものだ。

「ところで……それは何かしら?」

「どれですかー?」

「……分かりませんか?」

 ギロリと向けられるママンの視線が恐ろしい……。

「か、鞄のことですよね? 分かってますよー!」

「昨日森で本を拾ったんですけど、それを入れる鞄が欲しくて自分で作ってみましたー! ついでに化粧水も作ってみましたー!」

 できる限り馬鹿っぽく話してみたけど、返答やいかに!?

「……化粧水って何かしら?」

「洗顔の後に使用する肌のお手入れ用品みたいですよ? 禁忌の勇者の伝記に書いてあったものを再現してみました!」

「ということは……失われた薬ってことよね?」

「大袈裟ですよー! でもお肌はツヤツヤプルプルになるみたいですよ?」

 直後、俺の手から化粧水が消える。

「まぁまぁ! 私のために!?」

「もちろんですともっ!」

「では、使い方の説明を聞こうかしらっ!」

「はい! 片手のひらに出し、両手につけて伸ばします。顔の内側から外側に向けて円を描くように馴染ませながら広げていきます。潤うまで数回繰り返しますが、そのとき首にも塗ることをオススメするとのことです!」

「なるほど……なるほど……。なくなったら……?」

「もちろんっ! 用意させていただきますっ!」

「ありがとう」

「いえいえ!」

 よしっ! 一人目終わり!

 次は、こちらにジトッとした視線を向けているメイベルだ。

「メイベルは僕とお揃いの鞄を用意したよー!」

「お、お揃いですか!?」

「うん! 財布も入ってるよー!」

「ありがとうございますっ!」

「どういたしまして!」

『よくやりますねー。それにしても……その話し方はいったい……』

『純粋無垢な子どもを演じているのだよ』

『ゲロ吐きそうですよー』

『エリクサー飲むー?』

『……飲んでも治りそうにないですー』

 そりゃあお手上げだー! 心因性の病気かもしれないね。

『お大事に!』

 ◇

「それでは母上、家を建てに行って参ります!」

「気をつけて行くのよ。メイベルをしっかり守ってあげるのよ?」

「はい! 任せてください!」

「母上様、行ってきます!」

「気をつけていってらっしゃい」

 何故……母上なんだ? 妹だからか?
 いろいろ疑問に思うも、答えが出そうにないから保留でいいか。
 今は村内観光も兼ねているから、商品リサーチを優先しよう。

 領主邸を中心に南側が一番安全だから、南側は居住区に生っている。東側には冒険者ギルドと商人ギルドがあり、ニコライ商会の系列店で組まれた商店街がある。
 そして俺たちが向かっている西側には生産関係のギルドがあり、職人街になっている。

 元々この村に住んでいた住人が多く、ニコライ商会とはたまに取引をする程度の関係らしい。
 横槍がなさそうで良いことだ。

「おっ! メガネ?」

 金属フレームの丸メガネが店頭に並べられていた。

「おっ! 坊主、珍しいものなのによく知ってたな!」

 村の人は俺が男爵家の息子とは知らないから、この態度でも全くおかしくない。
 五歳の祝福の儀式でお披露目されるし、そもそも髪色が違って目を閉じているから、分からない方が普通だ。

「禁忌の勇者の伝記に書いてあったんだー!」

「おっ! 坊主はもう字が読めるのかっ!」

 ――そうだったっ! 教会の私塾で基礎教育を学べるようになるのは、祝福の儀式を受けた五歳以上。
 だが、確か商人ギルドに登録するために早めに学習する者もいるってカルム少年の記憶にある。

「うんっ! 本が好きだし、将来商人になりたいからねー!」

 何故か、俺をガン見するメイベル。

『何でもかんでも禁忌の勇者のせいにするのは良くないですよー。というかー、メガネなんかどうするんですかー? 目を瞑ってるのにー』

『まぁ任せて! 考えがあるんだ!』

「おっ! もう将来を見越してるのかっ! 少しは子どもらしく遊べよっ!」

「うんっ!」

 おじさんが暇つぶしで作ったというメガネのうち、サイズが合う金縁の丸メガネを購入した。
 メイベルには、我が国で人気の日蓮華という花の飾りがついた髪留めをプレゼントした。

「あ、ありがとうっ!」

「どういたしまして!」

 どうせ悪銭という臨時収入だからね。

「おい、坊主っ! やるなー!」

「おじさんが商売上手なんですよ!」

「おいっ! オレはまだお兄さんだっ!」

 俺からしたら十分おじさんだよ。
 まぁ気持ちは分かるけど。

 ちなみに、金銭の単位はスピラだ。
 計算が面倒な人は貨幣の数を使うけどね。

 紋晶貨 = 一本 ⇒ 一千万
 白金貨 = 一枚 ⇒  百万
 金 貨 = 一枚 ⇒  十万
 大銀貨 = 一枚 ⇒  一万
 銀 貨 = 一枚 ⇒  一千
 銅 貨 = 一枚 ⇒   百
 粒鉄貨 = 一枚 ⇒   十

 場所によって必要な金銭がことなるけど、生活費は前世の日本と変わりはないかな?
 家族四人で十五万くらいかな?
 保険とかない変わりに、高い税金や薪を買ったりするから正確いくらとは言えないな。

 臨時収入は襲撃の準備金の復路分が残っていたらしく、金貨が結構入っていた。
 個人の財布もあったし、短期バイトとしては最高だったな。

 今回はメガネが少し高めだったけど、金貨一枚いかないくらいだから余裕で払えた。
 まぁ今後の付き合いを考えて値切らなかったのもあるけどね。

「じゃあお兄さん、またねー!」

「失礼します!」

「おうっ! また来いよっ!」

 値切らないカモ客だからな。

「それで……どうしました?」

 ガン見の理由が知りたい。

「えっと……話し方が違うような気がして……」

『猫を被ってるんですよー!』

 無視だ、無視。

「いつもの話し方だと、すぐに男爵家の子どもって分かるでしょう? 西側に住んでいる人たちはニコライ商会ともめた方もいますのでー、何かとニコライ商会の味方をする男爵家のことを嫌う人もいるんですよ」

「えっと……これからそこに住むのですよね……?」

「えぇ。だから父上は断るだろうと思って西側にしたんです。断ったら本家で引き取れますからねー。貴族令嬢だったらその対応でも良かったのですが、メイベルは王族ですからね。その対応はダメだし、何あったら全責任を取らなければいけないんですよ。実情を知ってたんだからね」

「で、でも……わたしはもう……王族では……」

「メイベルが思ってるとかは関係ないんだー」

「どういうこと……?」

「メイベルの追放は第二王妃の一存だったみたいだから、他の人は領地に引きこもってると説明されてるみたいだよ? つまり本国では王族だし、父上たちは事情を知らないから王族だと思って対応するしかないんだよ」

 話しているうちに敬語が面倒になってきた。
 不機嫌になったら敬語に戻そう。

「ど……どうして……?」

「なんで知ってるかというと、昨日の隊長が第二王妃の子飼いで主犯だからだね」

「そ……そんな……」

 衝撃的な事実だったのだろう。
 顔色が悪くなってしまった。
 しかし、抱きしめるのはセクハラ問題になりそうだし……。うーん……、俺には無理だ……。

「つ、着いたよ? 大丈夫?」

「大丈夫です……」

 全然大丈夫じゃないと思うな……。

『背中をさすったりしないんですかー?』

『日本社会で生活していた大人にそれは無理。セクハラが怖い……。声かけただけで訴えられるんだぞ? 絶対少子化問題解決しないと思ったもん。交際できないのに……結婚なんかできるわけない……!』

『辛いことがあったんですねー』

 メイベルの回復を待っていると、不意に声を掛けられた。

「おいっ! それはお前のかっ!?」

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