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第一章 アルミュール男爵家
第十一話 能力の使用を我慢する
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メイベル様とパパンの対面は滞りなく終わり、ママンとパパンの久しぶりの会話も数分で終わった。
俺はその間に夕ご飯の準備をしていた。
「さすが! 塩しかない!」
今まで野草の塩味炒めばっかりだから、仕方ないと言えば仕方ない。
「グリムも食べる?」
「当然ですねー」
「召喚獣って魔力だけじゃないの?」
「召喚獣によりますー。霊体の召喚獣は食べませんからねー」
姿は消しているけど、今は普通に話している。
台所は応接室風のリビングから一番遠いからだ。
【白毫眼】でパパンが帰ったことを確認してからリビングに戻る。
ちなみに、メイベル様がパパンにあいさつをしたときに王族ということが判明し、パパンはすごい形相で俺を見ていた。
王族と言ったら絶対に本家に迎えようとするだろうからね。
それを阻止するために、分家到着後の第一声は引っ越し計画の許可書を入手したこと。
王族と知った後に伝えると、その前に反故にされる可能性もあるからね。上物の計画を立てようと話した後に反故にしようものなら、信用も名誉も大きく損なうだろう。
パパンは文句を言うために待っていたみたいだけど、早々に台所に逃げたからクレーム回避成功。
「母上、今日は猪のステーキと焼肉どちらがいいですか? 味は塩味オンリーですけど」
「……私にそれを聞くのですか? お客様ではなく?」
「今日は母上。明日はメイベル様。次の日は僕。その次の日は気まぐれのローテーションですよ? それにこれから一緒に住むんですから、いつまでもお客さん扱いはお互い苦しいと思いますよ?」
「そうです! それと……様ではなくて、メイベルとお呼びくださいっ!」
ジッと俺を見るメイベル様……とママン。
「よろしく、メイベル」
「――はいっ!」
「そうねっ! その方がいいわね!」
何故か楽しそうな女性陣。
「それでお肉はどうします?」
◇
結局、お肉は久しぶりということで薄切りにして焼肉風で食べた。
カルム少年のときの記憶もあるせいか、すごい美味しく感じた。
肉自体も美味しい。
甘い脂がプリッとしてて、噛むと口の中にジュワッと広がるのだ。それでいて臭くない。硬くもない。
「最高ですね」
「……えぇ」
涙ぐむママンと俺。
猪の命に感謝して一口一口味わって食べた。
「美味しい」
意外なことに、メイベルも感動している様子だった。城で美味しいものを食べているはずなのに。
だが、地雷が怖いからあえて聞くまい。
……決して、過去視で少し見えてしまったからじゃないよ? 地雷が怖いからだからね?
そして食事の後はお風呂タイムだ。
今まではママンが青系統属性だから水を出して行水するだけだったが、今日はすでに石を焼いて準備している。
長い間水しか入っていなかった風呂釜に、熱々のお湯が入るときが来た。
「女性陣からどうぞ!」
「ありがとう、カルム」
「ありがとうございます」
「いいんですよ」
二人を見送った後、俺はベッドメイクをしにゆっくり素早く動く。
「この移動方法、楽だーー!」
「あまり使うと筋肉がつかないから多用禁止ですよー!」
「分かってるって!」
急いでも周囲を破壊しない移動方法を発明したのだが、これが本当に便利。
【観念動】の浮遊と念動を併用しているのだ。
浮遊で体を持ち上げ、念動で動かしているだけ。
誰かの目があるときは足と手を動かせば、歩いているように見えるという寸法だ。
台所で練習したから、足元を至近距離からガン見されない限り大丈夫だろう。
「それにしても今日は張り切ってますねー」
「うん! 夜に【九十九神】を試してみようと思って!」
「――えっ!? あなたの天禀は分かりやすいんですよー? だから、私が隠れているんですけどー? それにダンジョンはどうするんですか!?」
「【高天原】ってダンジョン扱いなんでしょ? 向こうで従魔にした場合は、召喚獣になるんじゃない?」
「――少々お待ちをーっ!」
また取説みたいな本を読み出したグリム。
「た、たしかに……。従魔の上限はダンジョン以外としか書いてありませんがー……、従魔を連れていたらバレるでしょー!?」
「グリムは天禀をもらった後に姿を現すから今見られたら問題になるけど、他の子は従魔って言えば大丈夫だよね?」
「ダメですーー!」
「何でよーー!」
「『神霊具』にスタンプを押すって言いましたよねー!? それはー、スタンプに魔力を通すとー、召喚獣がどこにいても自分の近くに召喚できるんですー! その能力が使えなくなりますよー?」
「え? 能力自体がなくなるわけじゃないのに?」
「いいですかー? 普通の従魔は召喚で喚べませんー! あなたが従魔って言ってしまった場合ー、転移したら従魔の能力だと思われるんですよー!? 他にも金系統に召喚属性がありますがー、従魔を召喚することは不可能ですー!」
「じゃあ従魔の能力って言えばいいんじゃないのかな?」
「そんなに珍しい魔物がいるなら寄こせって言われますよー!? 早期リタイアするんですよねー!?」
確かに、王侯貴族が毎日詰めかけるだろうことは予想できる。
「じゃあ【高天原】に行くだけ!」
「行ったが最後ー、契約して帰ってくることでしょー!」
「何でよーー!」
「向こうの魔物は好戦的なんですー! といっても殺すとかではなくー、彼らは遊んでいるつもりなんですがねー! あなたみたいな規格外の生物が縄張りに近づいたらー、真っ先に戦闘になってー、結果気に入られますよー!」
「いやいやいや。【隠蔽】があるじゃん?」
「説明したでしょー? 村規模の人間が隠れ住んでいるってー! 外に出歩いているだけで強者判定ですよー! 彼らは頭がいいですからねー!」
「じゃあしばらくお預けかーー!」
モフモフに会いたかったのに……。
女神様が俺を騙そうとしてまで戯れたかったモフモフでしょ? どんな子か気になるじゃん。
「じゃあ代わりに魔法を教えてよ」
「……そうですねー。そうしましょー! でも、隕石はダメですよー?」
「分かってるって!」
トラウマになっちゃったのかな?
そんなに怖がることを言った覚えはないんだけどな。
「カルムー、お風呂どうぞ」
「はーい!」
チラッと女性陣に目を向けると、この短い間でかなり仲良くなっている様子だった。
やっぱり裸の付き合いはいいってことだ。
「うーん。銭湯は絶対に作りたいな!」
◇
お風呂の中では念話を利用して座学が行われた。
魔法属性は基本属性の中から一つか、派生属性を一つだけ得る。
基本属性は効果の違いはあれど、回復や補助魔法もある汎用性が高い属性だ。
対して派生属性は、戦略級の攻撃力を有する攻撃特化型の魔法を使用できる反面、大量の魔力を消費する上、回復や補助魔法はない。
なお、金系統の派生属性のことを固有属性と呼んでいる。
特化型の属性だが、戦闘職以外の専門職に就くらしい。そして大変希少な属性らしい。
基本属性にはそれぞれ特長がある。
赤 = 武攻型 ⇒ 火 熱
青 = 魔攻型 ⇒ 水 氷
緑 = 万能型 ⇒ 風 補助
黄 = 防御型 ⇒ 土 草
白 = 支援型 ⇒ 光 回復
黒 = 特殊型 ⇒ 闇 異常
金 = 固有型 ⇒ 無 強化
グリムの説明とカルム少年の記憶はだいたい同じものだった。カルム少年が読んだ本には、金系統の基本魔法が記載されていなかったけど。
俺は金系統の派生だから、固有属性ということになるらしい。
『混沌って何使えるの?』
俺も念話の練習中だ。
【観念動】の念動と【順風耳】を組み合わせると念話ができるらしい。
『元は黒属性だったのですがー、基本属性が全てとー、赤から黒までの派生属性が各三つずつにー、固有属性が八つが融合しましたー。そこに天禀【竜魔法】が加わったからー、できないことはないと思いますよー』
『じゃあ魔力を感知して、集めるように操作してイメージするだけ?』
『もっと簡単ですー。結晶の魔力感知と魔力操作を合わせた上位互換が、天禀【魔力制御】なのでー、イメージするだけでいいですー。さらにあなたには魔力視がありますのでー、細かい制御が可能になるんですー』
『じゃあなんで禁止にしてたの?』
『怪物だからですー! 今までの説明は人間に対しての説明ですー! 人外の魔量を持つ怪物はー、同じ方法で使用してはダメなのですー!』
『……小さくすればいいんでしょ?』
『違いますー! 人間が蛇口から魔力を出すんだとしたらー、怪物は滴を一滴垂らすだけに留めてくださいー!』
『……グリムも冗談言うんだね』
『冗談だったらよかったんですけどねー』
座学を最後まで聞いただけなのに……。
何故だろう? 全くできる気がしないのは……。
「寝よっか……」
『ですねー』
俺はその間に夕ご飯の準備をしていた。
「さすが! 塩しかない!」
今まで野草の塩味炒めばっかりだから、仕方ないと言えば仕方ない。
「グリムも食べる?」
「当然ですねー」
「召喚獣って魔力だけじゃないの?」
「召喚獣によりますー。霊体の召喚獣は食べませんからねー」
姿は消しているけど、今は普通に話している。
台所は応接室風のリビングから一番遠いからだ。
【白毫眼】でパパンが帰ったことを確認してからリビングに戻る。
ちなみに、メイベル様がパパンにあいさつをしたときに王族ということが判明し、パパンはすごい形相で俺を見ていた。
王族と言ったら絶対に本家に迎えようとするだろうからね。
それを阻止するために、分家到着後の第一声は引っ越し計画の許可書を入手したこと。
王族と知った後に伝えると、その前に反故にされる可能性もあるからね。上物の計画を立てようと話した後に反故にしようものなら、信用も名誉も大きく損なうだろう。
パパンは文句を言うために待っていたみたいだけど、早々に台所に逃げたからクレーム回避成功。
「母上、今日は猪のステーキと焼肉どちらがいいですか? 味は塩味オンリーですけど」
「……私にそれを聞くのですか? お客様ではなく?」
「今日は母上。明日はメイベル様。次の日は僕。その次の日は気まぐれのローテーションですよ? それにこれから一緒に住むんですから、いつまでもお客さん扱いはお互い苦しいと思いますよ?」
「そうです! それと……様ではなくて、メイベルとお呼びくださいっ!」
ジッと俺を見るメイベル様……とママン。
「よろしく、メイベル」
「――はいっ!」
「そうねっ! その方がいいわね!」
何故か楽しそうな女性陣。
「それでお肉はどうします?」
◇
結局、お肉は久しぶりということで薄切りにして焼肉風で食べた。
カルム少年のときの記憶もあるせいか、すごい美味しく感じた。
肉自体も美味しい。
甘い脂がプリッとしてて、噛むと口の中にジュワッと広がるのだ。それでいて臭くない。硬くもない。
「最高ですね」
「……えぇ」
涙ぐむママンと俺。
猪の命に感謝して一口一口味わって食べた。
「美味しい」
意外なことに、メイベルも感動している様子だった。城で美味しいものを食べているはずなのに。
だが、地雷が怖いからあえて聞くまい。
……決して、過去視で少し見えてしまったからじゃないよ? 地雷が怖いからだからね?
そして食事の後はお風呂タイムだ。
今まではママンが青系統属性だから水を出して行水するだけだったが、今日はすでに石を焼いて準備している。
長い間水しか入っていなかった風呂釜に、熱々のお湯が入るときが来た。
「女性陣からどうぞ!」
「ありがとう、カルム」
「ありがとうございます」
「いいんですよ」
二人を見送った後、俺はベッドメイクをしにゆっくり素早く動く。
「この移動方法、楽だーー!」
「あまり使うと筋肉がつかないから多用禁止ですよー!」
「分かってるって!」
急いでも周囲を破壊しない移動方法を発明したのだが、これが本当に便利。
【観念動】の浮遊と念動を併用しているのだ。
浮遊で体を持ち上げ、念動で動かしているだけ。
誰かの目があるときは足と手を動かせば、歩いているように見えるという寸法だ。
台所で練習したから、足元を至近距離からガン見されない限り大丈夫だろう。
「それにしても今日は張り切ってますねー」
「うん! 夜に【九十九神】を試してみようと思って!」
「――えっ!? あなたの天禀は分かりやすいんですよー? だから、私が隠れているんですけどー? それにダンジョンはどうするんですか!?」
「【高天原】ってダンジョン扱いなんでしょ? 向こうで従魔にした場合は、召喚獣になるんじゃない?」
「――少々お待ちをーっ!」
また取説みたいな本を読み出したグリム。
「た、たしかに……。従魔の上限はダンジョン以外としか書いてありませんがー……、従魔を連れていたらバレるでしょー!?」
「グリムは天禀をもらった後に姿を現すから今見られたら問題になるけど、他の子は従魔って言えば大丈夫だよね?」
「ダメですーー!」
「何でよーー!」
「『神霊具』にスタンプを押すって言いましたよねー!? それはー、スタンプに魔力を通すとー、召喚獣がどこにいても自分の近くに召喚できるんですー! その能力が使えなくなりますよー?」
「え? 能力自体がなくなるわけじゃないのに?」
「いいですかー? 普通の従魔は召喚で喚べませんー! あなたが従魔って言ってしまった場合ー、転移したら従魔の能力だと思われるんですよー!? 他にも金系統に召喚属性がありますがー、従魔を召喚することは不可能ですー!」
「じゃあ従魔の能力って言えばいいんじゃないのかな?」
「そんなに珍しい魔物がいるなら寄こせって言われますよー!? 早期リタイアするんですよねー!?」
確かに、王侯貴族が毎日詰めかけるだろうことは予想できる。
「じゃあ【高天原】に行くだけ!」
「行ったが最後ー、契約して帰ってくることでしょー!」
「何でよーー!」
「向こうの魔物は好戦的なんですー! といっても殺すとかではなくー、彼らは遊んでいるつもりなんですがねー! あなたみたいな規格外の生物が縄張りに近づいたらー、真っ先に戦闘になってー、結果気に入られますよー!」
「いやいやいや。【隠蔽】があるじゃん?」
「説明したでしょー? 村規模の人間が隠れ住んでいるってー! 外に出歩いているだけで強者判定ですよー! 彼らは頭がいいですからねー!」
「じゃあしばらくお預けかーー!」
モフモフに会いたかったのに……。
女神様が俺を騙そうとしてまで戯れたかったモフモフでしょ? どんな子か気になるじゃん。
「じゃあ代わりに魔法を教えてよ」
「……そうですねー。そうしましょー! でも、隕石はダメですよー?」
「分かってるって!」
トラウマになっちゃったのかな?
そんなに怖がることを言った覚えはないんだけどな。
「カルムー、お風呂どうぞ」
「はーい!」
チラッと女性陣に目を向けると、この短い間でかなり仲良くなっている様子だった。
やっぱり裸の付き合いはいいってことだ。
「うーん。銭湯は絶対に作りたいな!」
◇
お風呂の中では念話を利用して座学が行われた。
魔法属性は基本属性の中から一つか、派生属性を一つだけ得る。
基本属性は効果の違いはあれど、回復や補助魔法もある汎用性が高い属性だ。
対して派生属性は、戦略級の攻撃力を有する攻撃特化型の魔法を使用できる反面、大量の魔力を消費する上、回復や補助魔法はない。
なお、金系統の派生属性のことを固有属性と呼んでいる。
特化型の属性だが、戦闘職以外の専門職に就くらしい。そして大変希少な属性らしい。
基本属性にはそれぞれ特長がある。
赤 = 武攻型 ⇒ 火 熱
青 = 魔攻型 ⇒ 水 氷
緑 = 万能型 ⇒ 風 補助
黄 = 防御型 ⇒ 土 草
白 = 支援型 ⇒ 光 回復
黒 = 特殊型 ⇒ 闇 異常
金 = 固有型 ⇒ 無 強化
グリムの説明とカルム少年の記憶はだいたい同じものだった。カルム少年が読んだ本には、金系統の基本魔法が記載されていなかったけど。
俺は金系統の派生だから、固有属性ということになるらしい。
『混沌って何使えるの?』
俺も念話の練習中だ。
【観念動】の念動と【順風耳】を組み合わせると念話ができるらしい。
『元は黒属性だったのですがー、基本属性が全てとー、赤から黒までの派生属性が各三つずつにー、固有属性が八つが融合しましたー。そこに天禀【竜魔法】が加わったからー、できないことはないと思いますよー』
『じゃあ魔力を感知して、集めるように操作してイメージするだけ?』
『もっと簡単ですー。結晶の魔力感知と魔力操作を合わせた上位互換が、天禀【魔力制御】なのでー、イメージするだけでいいですー。さらにあなたには魔力視がありますのでー、細かい制御が可能になるんですー』
『じゃあなんで禁止にしてたの?』
『怪物だからですー! 今までの説明は人間に対しての説明ですー! 人外の魔量を持つ怪物はー、同じ方法で使用してはダメなのですー!』
『……小さくすればいいんでしょ?』
『違いますー! 人間が蛇口から魔力を出すんだとしたらー、怪物は滴を一滴垂らすだけに留めてくださいー!』
『……グリムも冗談言うんだね』
『冗談だったらよかったんですけどねー』
座学を最後まで聞いただけなのに……。
何故だろう? 全くできる気がしないのは……。
「寝よっか……」
『ですねー』
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