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第二章 シボラ商会

第三十五話 初召喚

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 ようやく一〇階層に到着した。
 まだ夕方くらいだから頑張れば夕ご飯に間に合うはず。

「相手はグレーターデーモンみたいだね!」

「死んだ……。今日が命日だったんだ……」

「ジェイド……大丈夫だよ! 明日には新しいジェイドに生まれ変わってるからさ!」

「オレは一人しかいない!」

「新しいジェイドに生まれ変わっても、たくさん働いてね!」

「死んでもこき使う気か! アレは……災禍級だぞ!? 特級冒険者のパーティーがなんとかってレベルだぞ!? 今までもヤバかったが……今回は洒落にならん!」

「相変わらず博識だねーー! あんなのチョロいよ! デュラハンの方が大変だったかも」

「そんなわけあるかーー!」

 俺の軽口に反応した鬼顔のデーモンは、不意打ちで俺の頭頂部に踵落としをぶちかます。

「ん? 何かした?」

 シボラ商会陣営は俺が死んだと思ったのか、目と口を開けたまま固まっていた。

「ふふふ。口だけはないということか……。面白い……!」

「面白い? 怖いの間違いではなく?」

「あぁ! 弱点を晒しているような小僧には分からんか」

「弱点?」

「これだ!」

 従業員目掛けて拳を振るうグレーターデーモンだったが、ジェイドに拳が届く前に不可視の障壁が阻んだ。

「ん? 結界か?」

「次は僕の番でいいのかな?」

「届くのならな!」

「そう?」

 毎度お馴染みの【死天眼】で拘束し、【神足通】の閃駆で一気に懐に入る。
 速度を乗せたまま、【金剛手】を使った全力グーパンチをボディーに喰らわせる。
 吹っ飛ぶ体を【観念動】で制止して、拳の連撃を浴びせていく。

「まだまだーー! 手加減が不要なんて最高だからね! ストレス発散させてもらうよ!」

「ま、待て――」

「ははははっ!」

 途中で少し飽きてきたが、拳法の訓練をしていなかったことを思い出し、型を一通り試したり体重を乗せた一撃を意識したりと、グリムの制止が入るまで続けた。

『みんな引いてますよーー!』

「……調子が悪かったのかな?」

 取り繕うも手遅れだったらしく、全員固まったまま動かなかった。

 結晶と宝箱はランダムルーレットだったらしく、初回は当たりを引くことができた。
 それと初めてスタンプが出現し、スタンプを押すことが叶う。

 そしてダンジョン産の召喚獣第一号は、グレーターデーモン(伯爵級)となった。

『さっきのも伯爵級?』

『さっきのは侯爵級ですー』

『下がったの? 確か、現状で最高の格で召喚できるんじゃなかったっけ?』

『ここは本来伯爵級の担当ですー。アレは事故ですー』

『もう一回スタンプを押したらどうなる?』

『同じ場所で二度以上は出現しませんよー』

『マジか……。さっきのやつ、結構強かったのにー』

『……結構ではないですー。死ぬほどですー』

『ユミルとどっちが?』

『……ユミルですー』

『さすが!』

 ユミルを撫でたくなり、両脇から抱き上げて抱っこをする。
 いつものおんぶじゃないことに最初は驚いていたが、すぐに慣れて抱きついてきた。

 可愛い。

 デーモンの死体は二つ欲しいから、一度九階層に続く階段に戻って再びグレーターデーモンと対峙する。

「あっ! さっきと違う!」

 でもやることは変わらず、何か話す前に連撃を叩き込んで討伐を終わらせる。

「はい、今日の仕事は終了ですよ!」

「「「「「「やっと……!」」」」」」

 えっ? メイベルも?

「ちょっとやることがあるから休憩してて。……漏らした人がいれば着替えもね!」

「「「「「漏らすかーー!」」」」」

「…………」

 メイベルの視線が突き刺さる。
 ……ちょっと下品だったかな。
 反省、反省!

「宝箱の中身とかは明日以降にするとして、結晶はあとで配布するから帰り支度だけはしておいてね」

 荷車の解体とかね。

「「「「「「はーい!」」」」」」

 ◇

 俺とグリムは一〇階層の床に魔法陣を描き、各階層で回収していたものを並べていく。

 幸いなことにワンフロアをぶち抜いているおかげで広く、魔法陣を二つ描いても余裕の広さだ。

 一つ目の魔法陣には、侯爵級のグレーターデーモンの死体。エルダーリッチの骨と装備に、二回目のデュラハンの鎧と装備。
 それぞれの魔核と、初回のドラゴンゾンビの魔核を並べる。

 二つ目の魔法陣には、伯爵級のグレーターデーモンの死体と、初回のデュラハンの鎧と装備に馬。
 リッチの骨と装備に、各種魔核にドラゴンゾンビの魔核を追加する。

 左手にエルダーリッチの持っていた死霊の宝珠がはまった杖を持ち、右手には【天叢雲剣】を小剣サイズに伸ばした状態で持つ。

「準備完了!」

 死霊の杖を媒介して二つの魔法陣に送り込むように、少しずつ魔力を放出していく。
 その際、魔力の質を高めるために魔力を圧縮することを忘れない。加減が難しいが、【千里眼】の魔力視で直接見ながら調節する。

「まずは一人目――バラム」

 魔力を放出すればいいだけだから、杖は途中で念動で浮かせておき、バラムのページを開いて【天叢雲剣】を地面に突き刺し、召喚陣を構築する。

「これが我の肉体か……。悪くない」

 まだもう一つ残っている。

「二人目――フルカス」

 フルカスは騎士だからか、馬も欲しがったのだ。
 だから、彼の隣には立派な体躯の馬がいた。

「ふむ。若い体ですが……良い」

 ふぅーー! やっと終わった!

 これが本来の目的で、諜報員を排除した理由だ。

「約束は守ってもらうからね」

 二人に【御神札】という名のお守りを渡しながら、パシリ契約の確認をする。

「ふむ。二言はない」

「御意」

 二人は体に慣れるために少し時間が欲しいということだったから、逆走していくことを提案した。
 もちろん、麻袋を持たせて。

「さて、結晶を配布する時間ですよ! たくさんあるから重複して使用すれば、きっと微妙に強化されるはず!」

「なぁ……何か言うことはないか……?」

「何かあった?」

「「「「「「…………」」」」」」

 全員が無言で九階層へと続く階段を見ている。

「はい! 配るよ! 横一列に間を開けて座って! 同じだから人の物は盗らないように! 盗ったものはグレーターデーモンと同じ罰を受けます!」

 全員が座ったことを確認し、順番に数を数えながら置いていく。
 六階層までの大量入手の物は多めに配置して、さらに余った分はくじ引きで公平に分けた。

 ただ、最後のグレーターデーモンで出た二つのランダム結晶は俺とメイベルがもらった。
 代わりに魔導具や武器の優先権を与える。

 内訳は――。

 【身体補助系】骨強化 ⇒ スケルトン
        不屈  ⇒ ゾンビ

 【魔力消費系】変身  ⇒ グール
        隠形  ⇒ レイス
        魔糸  ⇒ リビング鎧
        自己回復⇒ 死霊竜
        装甲  ⇒ デュラハン
        波動  ⇒ リッチ

 【戦闘技術系】手加減 ⇒ 侯爵級

 【特殊感覚系】幸運  ⇒ 伯爵級

 となった。

 【技能結晶】は四つの分類に分けられ、アンデッド系は元々魔力消費系の技能結晶が多く出るらしい。

 まぁ基本的には大変希少なものだけど。

 グレーターデーモンの技能結晶は、もちろん俺が手加減だ。
 【豪運】様があるのに、今更幸運なんかいらない。

 でも手加減は本当に心の底からほしい!

 全員に結晶の能力えお伝え、魔力を流して吸収してもらう。
 吸収を終えた後は、今日の出来事についての口止めだ。従業員や専属護衛だから守秘義務は当然あり、必ず遵守してもらうと伝えた。
 何故か全員が神に誓いだしたが、よくよく考えてみれば教会にいたことに気づく。

「一〇階層まで来れば、一瞬で帰る方法があるらしいよ!」

「「「「「「やったーー!」」」」」」

 十一階層に向かう階段の途中に転移魔法陣があり、そこに全員で乗って一階の入口近くに転移する。

「ふむ。遅かったな」

「……早かったね。ちゃんと拾った?」

「当然だ。ついでに忘れ物も持ってきたぞ」

「忘れ物……?」

「あれだ」

 バラムが指差す方向に視線を向けると、拘束具で縛られたままのシスターがいた。

「あぁーー! いたねーー!」

 ちなみに、バラムはラルフを超えるゴツい体格の持ち主で、筋肉のお化けみたいだ。顔も怖いし。
 こんな王様がいたらと思うと……。

 フルカスはバラムと比べれば細身だが、十分威圧的なガッシリ体型だ。
 バラムよりも物腰が柔らかいから、そこまで怖くは感じない。

 なお、彼らは自薦で役職も決まっている。
 何を思って選んだかよく分からないが、従業員にとっては絶望的でしかないと思う。

「諸君! 馬車に乗る前に同僚? を紹介しよう! まずはこちらのゴツい方から。彼はバラムといい、我が家の家宰にして私兵団の教官を務めてくれるそうだ!」

「よろしく頼む」

 このゴツいのがタキシードを着るんだよ?
 俺なら二度見の後にガン見するね。

「次はフルカス。彼は執事を担当するけど、主な役職はシボラ商会の番頭だ。ほとんど丸投げするから、彼の指示に従うように!」

「お手柔らかにお願いします」

 全員無言で頷くだけだ。

「追加で役職を決めていくよ。……これから人が増えると予想してね? 総合職なのは変わらないけど、主にやる仕事を割り振るからね! ジェイドは私兵団長。ゲイルとラルフは仮で副団長ね。村の代官とかやることがたくさんあるから、随時配置替えするね!」

 何故か緊張している彼らは、ダンジョン内と違って沈黙している。

「ディーノは当然料理長。メイベルも変わらず副会長で、ユミルは秘書。グリムは相談役!」

 アルは「ボクは?」という顔で俺を見る。

「アルは補佐官ね。事務仕事を丸投げしまーす! 学費も出すから王都の初等学園に行くこと!」

「――えっ!」

「とりあえず親御さんと相談だね! それじゃあ馬車に乗って! どすこいパワーで帰宅するよー!」

「あれはどうする?」

「明日尋問するから、怪物村の倉庫に放り込んで結界を張っておこう!」

「ふむ、捕獲の罠も設置しておこう」

「そうだねーー!」

 シスターをエサに諜報員を釣り出す罠を設置し、帰路に着く。
 アルはジェイドたちに夕飯を持たせて送らせ、バラムたちは銭湯の従業員エリアでディーノと同居してもらう。

 俺とメイベルは、コッソリと自室に入ろうとして失敗する。

「カルム、メイベル……遅かったわね?」

「……母上」

「母上様……」

 この日のママンはグレーターデーモンの侯爵級よりも怖かった……。

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