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第二章 シボラ商会

第三十四話 騎乗戦

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 六階層から下はワンフロアぶち抜きの一部屋しかないのか、階段を降りてすぐにとても広い空間に出た。

 なお、荷車はどすこいパワーと言って浮遊で浮かせて運んだ。
 誰も信じてくれなかったけどね。

 そして眼前にはひしめき合ったスケルトンの軍勢が。
 怨み辛みをたたえた眼窩で俺たちを睨む。

「ユミルは階段近くでみんなを守ってあげて」

「グァ♪」

 胸をポンッと叩くユミルが頼もしい。

「メイベルはグリムにサポートしてもらって少し戦ってみて、辛くなったら無理せず後方に下がってね」

「わかった!」

 俺は腰に差していたメイスに手を伸ばす。
 【魔導眼】の破壊を準備し、高速戦闘モードへと意識を切り替える。
 【虚空蔵】の並列思考・高速思考・行動予測を準備し、【神足通】の閃駆の準備を整える。

「よーしっ! どすこいパワーの本気を少しだけ見せてあげよう!」

 メイスを肩に担ぎ、動き出したスケルトンの軍勢に向かって歩を進める。

「どすこーい!」

 転移並みの速度でスケルトンに肉薄し、メイスを左から右に一薙ぎする。触れた感触すら曖昧だが、鎧袖一触のごとく粉砕していく。

 さらに視界に入ったスケルトンの体の一部を【魔導眼】で破壊し、行動不能に追い込んでいく。
 一体一体トドメを刺すことはせず、とりあえず立っているスケルトンをゼロにすることに重きを置いていた。

 閃駆を駆使して、時には天駆で空中を駆け、統率していた上位種も一撃で粉砕した。

「さぁ! みなさん! 試練のときですよ! 先ほど拾った盾とハンマーを持ち、スケルトンの頭蓋を砕いて行きましょう! 特に、アル! 九歳までは人生で一番成長できる時期です! 頑張りましょう!」

「「「「「…………」」」」」

「どうしたのかな? 早く終われば、ここで小休憩しますよ?」

「いや、休憩は嬉しいけどさ……。今日は任せるんじゃなかったっけ?」

「予定は予定でしかないんだよ? 臨機応変で行こう!」

 ラルフが真っ先に動いたことで他のみんなも動き出したが、アルのことも考えてフォーメーションを組んでいるようだった。
 安全第一で盾で固めて、ラルフとジェイドがメインに頭蓋を砕くことにしたようだ。

『攻撃しなくても魂格は上がるの?』

『先ほどまでの荷物運びも上がりますよー。ポーターも立派な仕事ですからねー』

『じゃあ頑張ってもらおうか!』

『ですねー』

「ユミル、メイベル。ちょっと来て!」

「どうしたの?」

「グァ?」

「ちょっと壁になって。食料を出すからさ」

「はーい!」

「グァ!」

 メイベルは収納のことを知っているからね。
 本当なら荷車とかもいらないんだけど、手札を切りすぎるのもどうかなって思って控えている。

 今回の目的を達成できれば収納くらいは大丈夫だろうし、戦闘力を見せつければ離反する危険性も少ないかなと考えている。
 まぁ頭がお花畑でないことを祈ろう。

「今日は簡単に食べられるサンドイッチだよ。手洗い場も用意したから、手洗いとうがいをしてから食べてね!」

 骨砕きから帰ってきた男性陣に説明するも、極度の緊張により疲弊していたようで返事はなかった。

 まだ魔核拾いと宝箱回収があるのだが、それすらも気にならないようだ。
 俺は【観念動】を使って魔核と結晶を拾い集め、ついでに宝箱も開ける。罠があったようだが、離れた位置から開けたから無傷だ。

「お金と……宝石? 魔石かな? あとで鑑定しよう!」

 宝箱は動かせなかったから、中身を全て麻袋に移し替える。
 中身が空になった直後、宝箱はすぐに消えた。

『グリム……スタンプが出なかったね』

『ここはボスではないですからー』

『そうなんだね-』

 後片付けをした後、食事を摂ったり食休みを取ったりと休憩を挟んだ。

「じゃあ次に行こう!」

「……なぁ、なんでそんなに元気なんだ?」

「どすこいパワーだよ?」

「……インチキ野郎めっ!」

 当たらずとも遠からずであることは認めよう。
 しかし、インチキではない。

「しかも、料理しなかったしっ!」

「……ちっちゃいことは気にするなっ!」

「「「「「…………」」」」」

 どうやら突っかかる元気すらないようだ。
 でも俺は休まない。

「次は何かなーー!」

「グァ♪」

 浮遊で荷車を浮かせて階段を降りると、そこには鼻呼吸をやめたくなる物体があった。

「……ドラゴンゾンビかぁ。臭いなぁ……」

「アレを見た感想が……臭いだけ……? どうやって倒すんだよっ! 魔法は効果がないし、物理はすぐに再生するらしいんだぞ!?」

「おっ! 博識!」

 今回はお一人で戦うことにする。
 ユミルとグリムは防御に徹してもらう。
 それでもジェイドは心配らしく口を開きかけていたが、ユミルに止められていた。

「グァ!」

「ユミルの期待に応えよう!」

 金剛弓を取り出し、頭部を狙って一矢放つ。
 眉間を貫いた矢は後頭部から抜けていく。その際、腐肉を周囲にまき散らしていた。

 どれほどの速度で何回再生するか分からないが、頭部から始めて両手両足に、尻尾の付け根と順に撃ち抜いていく。
 さらにインチキの一つである【死天眼】を発動して、再生能力を封印する。

 短時間だけしか効果はないが、魔核を捉えた瞬間【魔導眼】で収納してしまえば討伐完了だ。

「おーい! 宝箱の中身を移して!」

「「「「「「…………」」」」」」

「グァ!」

 ポテポテ歩いてくるユミルが可愛くて癒される。
 今回はメイベルからもジト目を向けられているからね。

「おっ! 今回は竜骨と爪と牙が少量に、黒い外套かぁ!」

『準魔晶具みたいですねー。魔法防御と軽い断熱効果の付与術式が施されてるみたいですー』

『鑑定でも同じ結果だったけど、魔晶具との違いって何?』

『魔晶具はー、使用するために条件があるんですー。あなたの金剛弓はー、力自慢しか弓を引けないのにー、力自慢が弓騎士のように弓を巧みに操れるとは思えませんー。強力ゆえの条件があるんですよー』

『なるほどー。着ればいいだけの外套は対象外か』

『まぁ中には着ている間、魔力を消費し続けるというものもありますけどねー』

『それは楽しみだね』

「終わった……」

 アルは疲れていても仕方がないな。

「諸君! 疲れているかね?」

「……もちろん」

「肉体的に? それとも精神的に? どちらか一つだけ答えてくれたまえ!」

 アル以外は精神的な疲れだったため、攻略続行となった。

「アルは荷車に乗って休憩してて」

「え? 荷物……」

「全員荷物を目の前に出して!」

 ガチャガチャと荷物を置く、死んだ目をした従業員たち。

「どすこいパワー! はっ!」

 【魔導眼】の収納に入れ、空の麻袋を彼らに手渡す。
 そのあと、アルとメイベルの子ども組は荷車で移動するために荷車に乗った。

 まぁ何故かユミルまでも荷車に乗っているけど。

「はい、戻ってーー!」

「「「「「「はぁ!?」」」」」」

 次の階層に行こうと階段を降り始めてすぐ、ドラゴンゾンビがいた部屋に戻るように指示を出した。

「まだ結晶は一個だけだし、外套も一人分だよ? 最低でもあと六回は倒さないとね!」

「グァ」

「ユミルも欲しい?」

「グァ♪」

「じゃあ七回だね!」

 直後、全員の瞳から光が消えたように見えた。

 ◇

 俺の【豪運】様を持ってしても二十回もかかってしまった。
 途中で「もういいよ」という声が聞こえたが、俺は有言実行を座右の銘に掲げているからね。途中で終わらせはしない。

 帰りは確実に遅くになるけど、かくれんぼ王が見つからなくて遅くなったこともあるし、今回も大丈夫だろう。

 八階層はデュラハンだった。

 デュラハンはリビングアーマーとは違い、鎧に直接霊が宿っているタイプだ。
 操られているリビングアーマーとは違い、攻撃の精密さや威力が桁違いだった。

 しかも馬に乗ってのチャージは凄まじく、ガンツさんのところで買った盾が一撃で粉砕した。
 盾がなくても【物理無効】だが、悟らせないことで攻撃の幅が広がるとバラムとフルカスに教え込まれている。

 それに俺にもパートナーがいる。
 ユミルが初めて背中に乗ることを許してくれたため、左手に盾を持ち、右手に槍を構えて騎乗戦を戦い抜いた。

 当然、俺たちの勝利だ。

 相手の馬は死んでるはずなのに、ユミルの威圧に恐怖してたたらを踏んだのだ。
 その隙を逃さず馬を仕留め、次いでデュラハンも討伐した。

 ドラゴンゾンビの死体は放置したが、とある理由からデュラハンの死体は馬ごと回収した。

 宝箱は武器ルーレットで、たまに盾が出る以外は刃物がメインだ。
 この階層も全部で十回のマラソンをして次の階層へ向かった。

 不思議だったのは、二回目以降は馬がいなかったことだ。
 デュラハンなのに、そんなことある? と思わずにはいられなかった。

「「「「あと二階……あと二階……」」」」

 アルとメイベル以外のぼやきが聞こえてくるも、全て無視して進んでいる。

「九階層に到着!」

「――エ……エルダー……」

「リッチだね!」

 ぶっちゃけ諸事情によりインチキするから、デュラハンよりも簡単な敵なんだよね。

 大物ぶって骨でできた椅子に座っているけど、即刻退場してもらうよ?

 【魔導眼】の吸収で魔力を吸収する。
 精神干渉や魔法耐性などの各種抵抗が弱まったところに、【魔導眼】の羅王眼でエルダーリッチを見つめる。

「ソノメヲ……ヤメローーー!」

 いつぞやの森の襲撃者が一瞬で死に至った魔眼だ。
 本来はバラムの【羅王覇気】という『九羅王』特有の能力だったらしいが、これは常時発動能力であるため、そのまま吸収していた場合は死体が量産されtいたそうだ。

 【魔導眼】は、羅王眼ともう一つあるバラムの能力を封印するために作られたらしい。
 それに眷属が便乗したからややこしくなったんだとか。

 そういえば、お説教はどうなったかな……。


 閑話休題。

 死体を丸ごとと杖をもらい、宝箱を開ける。
 宝箱は魔導具ルーレットらしい。
 準魔晶具と言って良いほどの品だ。

「ほら、周回するよー!」

「なぁ……護衛って何……?」

 ――パシリです!

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