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第二章 シボラ商会
第三十六話 私兵団
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昨日のダンジョンで忘れ物をしたが、忘れていたものはシスター以外にもあった。
「召喚――グレーターデーモン」
「…………」
無口なイケメンが出現する。
あの侯爵級を若返らせて筋肉を落とした姿と言われれば、一応納得できるかな……?
服装は何故か漢服っぽいものを着ている。
昨日の侯爵級も格闘術を得意とした戦い方だったから、目の前のグレーターデーモンも同じなのかもしれない。
「名前は……『カーティル』。庭師に任命する。我が家のものをネズミから守ってくれたまえ!」
【御神札】という名のお守りを渡しながら、名付けと役職を決める。
「はっ! 一命に代えましても!」
「うむ。じゃあ家族と同僚に紹介するからついてきてね!」
「はっ!」
移動している間にグリムとユミルの紹介を終え、まずはキッチンにいるだろうディーノに会わせることに。
「おはよう!」
「……うっす」
「おーい! どうしたのーー?」
「……胸に手を置いて、よく考えてみろ」
「うーん……何かあった?」
「……そういうやつだよな……。短い付き合いでも分かるんだから、アルやメイベル嬢ちゃんの苦労が忍ばれる」
「まぁいいか。こちら新しい同僚であるカーティルくん。庭師が主な仕事になるから、彼のまかないもよろしくね!」
「よ、よろしくお願いします!」
俺の時と違い、九十度のお辞儀をするディーノ。
この違いはいったい何なんだ?
「よろしくお願いする」
「はい!」
「……ねぇ、反応違わない?」
「……当たり前だろ。この方は昨日の最後の……その魔物? に、激似だからな!」
あぁーー! 分かっちゃったのか!
「僕……勝ったんだけど……?」
「……やめろ。……考えないようにしてたんだから」
「そうだったんだねー! てっきりバラムたちと三人にしたことだと思ったんだけどなーー!」
「そっちに決まってるだろっ!」
「そ、そうか……。でも残念なお知らせがあるんだな……」
「……や、やめろ。本当に……やめて……」
「今日から四人なります! 拍手っ!」
「グァ♪」
もちろん、拍手をしたのはユミルだけだ。
カーティルにとっても、バラムがいるのは居心地がいいとは言えないだろうからね。
「クソッ……!」
◇
その後の紹介行脚で――。
「カルム……毎朝誰かしら連れて来るけど、あなたの部屋はどうなってるの?」
という、ママンの的を射た言葉に思わずドキッとした。
これに対する俺の答えは――。
「森に繋がってます」
――だった。
まぁ睨まれたから速攻で逃げたけど。
「さて、昨日言ったとおり装備について説明します! まずは希望する装備を手渡した用紙に書き込んでください! あと、バラムたちはもうあるからいいよね?」
「うむ。しかし、何やら共通の物も用意するのだろう? そちらは我々も欲しい」
「もちろん。それ以外の武器はいらないよね? 一応、いくつかは僕が作るんだけど」
「うーん……まぁ今は私兵団を優先しよう」
「了解」
バラムとフルカスはデュラハンの装備も依り代にしたから、いつでも手元に武器を召喚できるらしい。
「カーティルもちゃんと選んでねー! 終わったら採寸に行くからねー!」
「「「「「採寸?」」」」」
「採寸!」
ちなみに、メイベルも共通装備が欲しいらしく、一緒に採寸する予定だ。
サイズ自動調節があるから多少体格が変わっても大丈夫らしいが、子どもが大人になるほどの変化は無理らしい。
ダンジョン産の魔導具や魔晶具は大丈夫らしいが、人間が作ったものは不可能なのだ。
それでも欲しいということで、アルも俺も用意することにした。
ユミルは関係ないと判断したのか、俺の背中で爆睡中だ。
「メイベルは武器は今のままでいいの?」
「うん。まだ使えるし、私兵団のみんなみたいに戦闘職じゃないしね」
「……俺も私兵団じゃない」
「……ボクも」
この中で役職を理由に逃げることができない者は一人だけ。
それは、私兵団長のジェイドだ。
バラムという教官と打ち合わせたり、裏方全般を担うカーティルと連携したりと、ジェイドの周りには恐ろしい存在しかいない。
そのことに全員が気づいているし、当然本人も気づいている。
ただ一人だけ顔色が悪いのだ。
「ジェイド! 新しいジェイドになったね!」
「……」
睨まれているけど、反論はない。
反論する元気もないのかな?
「……じゃあガンツさんのところに行こうか!」
◇
ガンツさんのところは基本的に何でも作っている。奥さんも手伝っており、俺が提供した猪の皮をなめしてくれたのは奥さんだ。
「ごめんくださーい!」
「……たのもー! じゃないんだ」
メイベルの突っ込みが入る。
「そんな失礼なことはできない!」
「「えっ?」」
メイベルとアルに咎められかけるも、その前に奥さんが来てくれたため回避する。
「おはようございます!」
「あら、おはよう。今日はたくさん連れてきたのね」
「はい! 鎧の採寸をしてもらおうと思って!」
「まぁ! 全部お客さんってこと?」
「はい! 材料も持ち込みです!」
「それは楽しみね!」
早速詳しい話をしたいということで、全員で応接室に向かう。
「おぅ! 来てたのか! 今度はどうした?」
昨日馬車を借りたばかりだからね。
「今日は鎧を作ってもらおうと思って採寸しに来ました!」
「……いきなりだな。材料は?」
「持ってきました!」
木箱に入れて持ってきたサンプルをテーブルの上に並べていく。
まずは軽鎧用の素材。
クリムゾンブルの革に、デュラハンの鎧。主に金属部品にする胸当て・肩当て・背当て・手甲と、グリーブ風のブーツカバーだ。
ブーツはリッチ戦での魔導具ルーレット状の宝箱から大量に出た、『霊異長靴』というものを標準装備に採用する。
魔力を消費することで一時的に浮遊したり、使い方によっては空中を走れるらしい。
ただ、防御力が低そうだから、ブーツを覆うグリーブを後付けで用意することにした。
金属部品や革鎧部分を強化するために、ドラゴンゾンビの骨粉も使用する。
次に鎧下の素材だ。
蒸れないように布を使いたいが、防御力が下がっても嫌なので、森で採取した蜘蛛糸を放出することにした。
元々はお披露目のときの礼服を作るために取っておいたのだが、ママンには行かなくていい許可をもらった。さらに、本家からも何も言われていないから、お披露目に行かなくても大丈夫だと判断し、使用を決める。
余れば首と肩を覆うネックカバーのような防具も作れるといいな。
まぁ追加で採取しに行ってもいいけど。
蜘蛛は『ナイトデススパイダー』という、夜の真っ暗なときに黒い糸を張る鬼畜のようなハンターだ。
ゆえに、採取した糸も天然で黒い糸をしている。
続いて、鎧じゃないけど依頼するものに関する素材を並べる。
一つ目はポーチだ。体の前後に二つ作ってもらい、端材で財布も作ってもらう予定だ。
素材は在庫処分も兼ねて、ビッグボアの革を使ってもらう。
二つ目はドラゴンゾンビの牙で作られたナイフだ。
ハンドガードなどの金属部分は、デュラハンの鎧の余った部分を鋳つぶしてつかってもらおと思ってるが、リビングアーマーが大量にあるから変更するかも。
以上が依頼するもので、メイン武器とサブ武器は俺が用意する。
だから、現在配布できる装備はドラゴンゾンビの外套と霊異長靴くらいしかない。
「――というわけです! お願いできますか?」
「……はぁ? ここ数日外出したと思ったら……。何か知らないのも連れてるしよ……。いったいどうなってんだ?」
「さぁ? 森で出会ったんですよ」
「…………それで武器はどうするんだ?」
「僕が用意しようかと」
「……どうやって?」
「基本的にはデュラハンの武器で希望に沿うものを選んでもらって、ドラゴンゾンビの牙を触媒にして魔核の魔力で強化や魔法付与をしようかと。あとは魔石も大量にあるので、魔導具を作る予定です」
「……贅沢だな。それと七歳になったら職人ギルドに登録して、製作物を登録しろよ?」
「はい!」
今回は素材持ち込みだから加工費だけだが、特急の大量注文だから割り増し料金となった。
お金は大量にあるからいいのだが、素材の方を欲しがったため、残った材料次第ということで契約を終えた。もちろん、前金はお金で支払っている。
「じゃあ僕は神父様のところに行くから、ジェイドたちはバラムとフルカスとカーティルを商人ギルドに連れて行ってあげて」
ガンツさんの工房を出て、今日の予定について説明する。
「商人ギルド?」
「彼らは家宰と執事に庭師だからね」
「……冒険者ギルドじゃダメなのか? 使用人は商人ギルドに登録しないぞ?」
「え? そうなの?」
「あぁ。他の町では役所が斡旋してるからな。特殊な能力持ちの使用人だと、それぞれの専門ギルドがあるけどな。フルカスさんが、番頭をやるなら商人ギルドに登録する必要はあるけど、執事がやりにくくなるぞ?」
「そうか! 執事が番頭を担当することはあっても、商人が執事をやるってことは痛くない腹を探られるかもしれないのか!」
普通は執事以上の上級使用人は貴族家の子息や、貴族の紹介が必要だ。
商人との二足のわらじとなると、密偵の隠れ蓑と言っているようなもの。誰も取引をしてくれなくなるだろう。
貴族が商売をする分は大丈夫なんだけどね。
「でも身分証は欲しいから、ディーノとアルも連れて行って冒険者登録してきて!」
「いいけど……アルはどうするんだ?」
冒険者は基本的に十歳以上でないと登録できないが、特例児童の場合は仮登録ができる。
孤児だったり生活困窮者だったり。
「アルは母子家庭で小さい妹もいる。ジェイドが面倒を見ると言って、雑用仕事を受けさせればいいだろ? うちで雑用仕事出すし」
「……なるほど」
「俺は……? 料理人で商人ギルドに登録してるぞ?」
「うちは総合職で、君は私兵団の補給部隊長なのだよ!」
「……一人しかいないのに」
「いってらっしゃい!」
お揃いの外套とブーツを身につけた従業員たちを、俺とメイベルは静かに見送るのだった。
「何事もないといいなぁ……」
「ねぇ……」
「グァ」
「ホォー!」
「召喚――グレーターデーモン」
「…………」
無口なイケメンが出現する。
あの侯爵級を若返らせて筋肉を落とした姿と言われれば、一応納得できるかな……?
服装は何故か漢服っぽいものを着ている。
昨日の侯爵級も格闘術を得意とした戦い方だったから、目の前のグレーターデーモンも同じなのかもしれない。
「名前は……『カーティル』。庭師に任命する。我が家のものをネズミから守ってくれたまえ!」
【御神札】という名のお守りを渡しながら、名付けと役職を決める。
「はっ! 一命に代えましても!」
「うむ。じゃあ家族と同僚に紹介するからついてきてね!」
「はっ!」
移動している間にグリムとユミルの紹介を終え、まずはキッチンにいるだろうディーノに会わせることに。
「おはよう!」
「……うっす」
「おーい! どうしたのーー?」
「……胸に手を置いて、よく考えてみろ」
「うーん……何かあった?」
「……そういうやつだよな……。短い付き合いでも分かるんだから、アルやメイベル嬢ちゃんの苦労が忍ばれる」
「まぁいいか。こちら新しい同僚であるカーティルくん。庭師が主な仕事になるから、彼のまかないもよろしくね!」
「よ、よろしくお願いします!」
俺の時と違い、九十度のお辞儀をするディーノ。
この違いはいったい何なんだ?
「よろしくお願いする」
「はい!」
「……ねぇ、反応違わない?」
「……当たり前だろ。この方は昨日の最後の……その魔物? に、激似だからな!」
あぁーー! 分かっちゃったのか!
「僕……勝ったんだけど……?」
「……やめろ。……考えないようにしてたんだから」
「そうだったんだねー! てっきりバラムたちと三人にしたことだと思ったんだけどなーー!」
「そっちに決まってるだろっ!」
「そ、そうか……。でも残念なお知らせがあるんだな……」
「……や、やめろ。本当に……やめて……」
「今日から四人なります! 拍手っ!」
「グァ♪」
もちろん、拍手をしたのはユミルだけだ。
カーティルにとっても、バラムがいるのは居心地がいいとは言えないだろうからね。
「クソッ……!」
◇
その後の紹介行脚で――。
「カルム……毎朝誰かしら連れて来るけど、あなたの部屋はどうなってるの?」
という、ママンの的を射た言葉に思わずドキッとした。
これに対する俺の答えは――。
「森に繋がってます」
――だった。
まぁ睨まれたから速攻で逃げたけど。
「さて、昨日言ったとおり装備について説明します! まずは希望する装備を手渡した用紙に書き込んでください! あと、バラムたちはもうあるからいいよね?」
「うむ。しかし、何やら共通の物も用意するのだろう? そちらは我々も欲しい」
「もちろん。それ以外の武器はいらないよね? 一応、いくつかは僕が作るんだけど」
「うーん……まぁ今は私兵団を優先しよう」
「了解」
バラムとフルカスはデュラハンの装備も依り代にしたから、いつでも手元に武器を召喚できるらしい。
「カーティルもちゃんと選んでねー! 終わったら採寸に行くからねー!」
「「「「「採寸?」」」」」
「採寸!」
ちなみに、メイベルも共通装備が欲しいらしく、一緒に採寸する予定だ。
サイズ自動調節があるから多少体格が変わっても大丈夫らしいが、子どもが大人になるほどの変化は無理らしい。
ダンジョン産の魔導具や魔晶具は大丈夫らしいが、人間が作ったものは不可能なのだ。
それでも欲しいということで、アルも俺も用意することにした。
ユミルは関係ないと判断したのか、俺の背中で爆睡中だ。
「メイベルは武器は今のままでいいの?」
「うん。まだ使えるし、私兵団のみんなみたいに戦闘職じゃないしね」
「……俺も私兵団じゃない」
「……ボクも」
この中で役職を理由に逃げることができない者は一人だけ。
それは、私兵団長のジェイドだ。
バラムという教官と打ち合わせたり、裏方全般を担うカーティルと連携したりと、ジェイドの周りには恐ろしい存在しかいない。
そのことに全員が気づいているし、当然本人も気づいている。
ただ一人だけ顔色が悪いのだ。
「ジェイド! 新しいジェイドになったね!」
「……」
睨まれているけど、反論はない。
反論する元気もないのかな?
「……じゃあガンツさんのところに行こうか!」
◇
ガンツさんのところは基本的に何でも作っている。奥さんも手伝っており、俺が提供した猪の皮をなめしてくれたのは奥さんだ。
「ごめんくださーい!」
「……たのもー! じゃないんだ」
メイベルの突っ込みが入る。
「そんな失礼なことはできない!」
「「えっ?」」
メイベルとアルに咎められかけるも、その前に奥さんが来てくれたため回避する。
「おはようございます!」
「あら、おはよう。今日はたくさん連れてきたのね」
「はい! 鎧の採寸をしてもらおうと思って!」
「まぁ! 全部お客さんってこと?」
「はい! 材料も持ち込みです!」
「それは楽しみね!」
早速詳しい話をしたいということで、全員で応接室に向かう。
「おぅ! 来てたのか! 今度はどうした?」
昨日馬車を借りたばかりだからね。
「今日は鎧を作ってもらおうと思って採寸しに来ました!」
「……いきなりだな。材料は?」
「持ってきました!」
木箱に入れて持ってきたサンプルをテーブルの上に並べていく。
まずは軽鎧用の素材。
クリムゾンブルの革に、デュラハンの鎧。主に金属部品にする胸当て・肩当て・背当て・手甲と、グリーブ風のブーツカバーだ。
ブーツはリッチ戦での魔導具ルーレット状の宝箱から大量に出た、『霊異長靴』というものを標準装備に採用する。
魔力を消費することで一時的に浮遊したり、使い方によっては空中を走れるらしい。
ただ、防御力が低そうだから、ブーツを覆うグリーブを後付けで用意することにした。
金属部品や革鎧部分を強化するために、ドラゴンゾンビの骨粉も使用する。
次に鎧下の素材だ。
蒸れないように布を使いたいが、防御力が下がっても嫌なので、森で採取した蜘蛛糸を放出することにした。
元々はお披露目のときの礼服を作るために取っておいたのだが、ママンには行かなくていい許可をもらった。さらに、本家からも何も言われていないから、お披露目に行かなくても大丈夫だと判断し、使用を決める。
余れば首と肩を覆うネックカバーのような防具も作れるといいな。
まぁ追加で採取しに行ってもいいけど。
蜘蛛は『ナイトデススパイダー』という、夜の真っ暗なときに黒い糸を張る鬼畜のようなハンターだ。
ゆえに、採取した糸も天然で黒い糸をしている。
続いて、鎧じゃないけど依頼するものに関する素材を並べる。
一つ目はポーチだ。体の前後に二つ作ってもらい、端材で財布も作ってもらう予定だ。
素材は在庫処分も兼ねて、ビッグボアの革を使ってもらう。
二つ目はドラゴンゾンビの牙で作られたナイフだ。
ハンドガードなどの金属部分は、デュラハンの鎧の余った部分を鋳つぶしてつかってもらおと思ってるが、リビングアーマーが大量にあるから変更するかも。
以上が依頼するもので、メイン武器とサブ武器は俺が用意する。
だから、現在配布できる装備はドラゴンゾンビの外套と霊異長靴くらいしかない。
「――というわけです! お願いできますか?」
「……はぁ? ここ数日外出したと思ったら……。何か知らないのも連れてるしよ……。いったいどうなってんだ?」
「さぁ? 森で出会ったんですよ」
「…………それで武器はどうするんだ?」
「僕が用意しようかと」
「……どうやって?」
「基本的にはデュラハンの武器で希望に沿うものを選んでもらって、ドラゴンゾンビの牙を触媒にして魔核の魔力で強化や魔法付与をしようかと。あとは魔石も大量にあるので、魔導具を作る予定です」
「……贅沢だな。それと七歳になったら職人ギルドに登録して、製作物を登録しろよ?」
「はい!」
今回は素材持ち込みだから加工費だけだが、特急の大量注文だから割り増し料金となった。
お金は大量にあるからいいのだが、素材の方を欲しがったため、残った材料次第ということで契約を終えた。もちろん、前金はお金で支払っている。
「じゃあ僕は神父様のところに行くから、ジェイドたちはバラムとフルカスとカーティルを商人ギルドに連れて行ってあげて」
ガンツさんの工房を出て、今日の予定について説明する。
「商人ギルド?」
「彼らは家宰と執事に庭師だからね」
「……冒険者ギルドじゃダメなのか? 使用人は商人ギルドに登録しないぞ?」
「え? そうなの?」
「あぁ。他の町では役所が斡旋してるからな。特殊な能力持ちの使用人だと、それぞれの専門ギルドがあるけどな。フルカスさんが、番頭をやるなら商人ギルドに登録する必要はあるけど、執事がやりにくくなるぞ?」
「そうか! 執事が番頭を担当することはあっても、商人が執事をやるってことは痛くない腹を探られるかもしれないのか!」
普通は執事以上の上級使用人は貴族家の子息や、貴族の紹介が必要だ。
商人との二足のわらじとなると、密偵の隠れ蓑と言っているようなもの。誰も取引をしてくれなくなるだろう。
貴族が商売をする分は大丈夫なんだけどね。
「でも身分証は欲しいから、ディーノとアルも連れて行って冒険者登録してきて!」
「いいけど……アルはどうするんだ?」
冒険者は基本的に十歳以上でないと登録できないが、特例児童の場合は仮登録ができる。
孤児だったり生活困窮者だったり。
「アルは母子家庭で小さい妹もいる。ジェイドが面倒を見ると言って、雑用仕事を受けさせればいいだろ? うちで雑用仕事出すし」
「……なるほど」
「俺は……? 料理人で商人ギルドに登録してるぞ?」
「うちは総合職で、君は私兵団の補給部隊長なのだよ!」
「……一人しかいないのに」
「いってらっしゃい!」
お揃いの外套とブーツを身につけた従業員たちを、俺とメイベルは静かに見送るのだった。
「何事もないといいなぁ……」
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