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第三章 学園国家グラドレイ
閑話 忍び寄る者
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ラースのもとへタマがお使いに出されている頃、お使いに出した張本人の【獅子王・リオリクス】は、現在とある十大ダンジョンの中にいた。
「それで、順調なんですか?」
「まあな。大筋は予定通りで進んでる。お前に、面白いやつを紹介してもらったかいがあったな。あの熊は最高だ」
現在、リオリクスは火神とともにいた。もちろんアバターなのだが、それでも現世にいる管理神のリオリクスが、直接天上の神々と会っていることは異常な光景だった。それに、彼らだけではなかった。もう一人……というか、一体と言うのだろう。金色の虎が、そこにはいた。
その虎の名は、【金聖虎・ヘリオス】。最強の神獣である。この虎のみ、単体でリオリクスの遊び相手が可能な者だった。この場合の遊びとは、模擬戦以上殺し合い未満のことを言う。つまり、ボムが目指す頂に座している者でもある。そしてここにいるということは、コイツも遊び好きであり遊び好き三人組が揃った瞬間でもあった。
「その熊の話は聞いていないのですが、どのような者なので?」
ヘリオスが、嬉しそうに話す火神とリオリクスの姿を珍しく思い聞いてみた。
「俺の弟のソモルンの親友で、ソモルンの妹のカルラの父親だ。ソモルンとカルラへの過保護ぶりも笑えるが、あの好奇心旺盛なところとちょっと我が儘な発想をするところが好きだな。あとは、強さに対して貪欲なところだ」
そのようにヘリオスに説明するリオリクスだった。ヘリオスはいまいちよく分からない関係性に、さらに疑問を感じたが、説明されそうにないことに気づき諦めたのだった。そして火神がここに呼んだ理由を話し出したので、黙って聞くことにした。
「まあ熊のこともラースのことも説明したからいいだろう。それよりも本題に入るぞ。お前らも知っている通り、この世界の十大ダンジョンは確かに人間向けではなかった。だが、普通のダンジョンの設定は人間向けのものだ。それなのに、ラースが攻略したダンジョンすら踏破出来ないのはおかしいだろ。十大ダンジョンだって定期的に間引きしなければ、スタンピートが起こる可能性が高まる。獣王国はリオリクスが調整しているが、他の国や場所にあるダンジョンの中では既にヤバそうなところはある。そしてあらかじめ言っておくが、ラースは使徒ではない。だから、スタンピートの度に各地に派遣することはしない。それに普段から間引きしろと、人間達に神託で言っているのにやらない。実力がないことが理由だとしても、改善する気がない。このままじゃ、待っているのは滅亡のみだぞ。
神である俺の立場から言わせてもらえば、滅ぶも栄えるも人間次第で勝手にしてくれ。助ける理由もない。強いて言えば、玩具がなくなる程度にしか思っていない。だが、このままでは俺が考えた娯楽が潰される可能性がある。それに加え、現在ラースをお使いに出しているということは、近いうちに我らがボスが解放されるということだ。ボスがこの事態を知ったら、問題を放置しているお前らも無事で済むと思うなよ?」
火神の性格は、遊びに対して本気を出せるというもの。今話している内容は、遊びに関しての話ではないと思うだろうが、それは違う。純粋に遊びを楽しむために、邪魔になる要素を出来るだけ排除してしまい、後顧の憂いなく遊びを楽しみたいのだった。そのためになら、多少の手間など苦ではない。
そして今回の説明で重要な部分とは、実力がない人間が多すぎるという点である。実力がない人間ばかりだから、ラースがチート無双しても、聖獣様のおかげでダンジョンを踏破出来たのでしょう? などと、嫌味のようなことを言われるのだ。
ラースの体は、確かに火神達が作った。だが、魔力は別に多く設定していない。武術のスキルもなかった。ギフトだって、パソコン機能はおまけのつもりだった。しかし、ラースは自分に必要なものを自分で修得した。
例えば、スキャナで魔術の知識を得たのは間違いないだろう。しかし、コントロールする力や、必要な魔力量は自分で身につけた物だった。属性纏もプルームの修業で身につけたが、下地の魔力纏は身体強化の延長線上にあるもので、無属性魔法を使えれば全員身につけられるものだ。そして無属性魔法を持って生まれない者はいないため、全員出来るということだ。
それなのに、創造神が監禁される前の人間の方が強かったという現在の状況。どう考えてもおかしいと考えた火神は、わざと人間を弱めている原因が何処かにあるということに気付いたのだった。
前置きが長くなったが、これらのことは火神が、創造神のことを調べているうちに判明したのだった。そして、この問題を解決させるための、人員の検討を始めた。
まずは、ソモルン達星霊シリーズだった。彼らは何故か攻撃的な魔術を使わない。そのため、戦闘力はかなり低い。戦闘力は調査の上では必要だったため、ソモルン達は候補から外れた。
次に、管理神三体だった。彼らは戦闘力に申し分なく調査能力もある。だが、目立ち過ぎる。さすがに管理神が動けば、冥界神に気付かれる。この場合、重要なのは冥界神にバレること。生命神にバレてもさほど影響がないのだ。
この影響とはもちろん勇者召喚のことである。勇者召喚で遊ぶために手を尽くしているのに、それを中止にされてしまっては全てが無駄に終わるということだ。それを避けるため、目立つ行為は自粛していた。
そして、ついに考え得る人員の候補がなくなったため、とりあえず棚上げしていたのだった。だが、ラースが偽聖剣の作製を始めたり、オークの国を作ったりと、教国に対しての嫌がらせを始めたことに気付いた火神は、リオリクスを自分が管理している十大ダンジョンに呼んだ。そこにたまたま旨い酒と飯に釣られたヘリオスがいたため、同行したのだった。
そして、現在に至る。これからは、仮に冥界神達が気付いたとしても、しばらくはラース達に目が行くだろう。その隙に、リオリクスに調査を頼もうと思ったのだった。普段からフラフラと遊び回っているため、冥界神のマークからは既に外れていたからだ。ここに来たときに子機を使わせなかったのは、子機も一応神器扱いになるため、察知されるのを避けたためだ。リオリクスが子機を持っていても大丈夫なのか? という疑問は、献上というものがあるため大丈夫らしい。
「言っておくが、何やらイヤな予感がする。だが、自分の世界のことを、余所の世界から誘拐してきた者に委ねるとか、恥ずかしすぎるだろ? しかし、ラースはおそらく協力するだろう。友達と呼んで可愛がっているソモルン達のことを思って。そして何も知らない人間共は、いつもラース達に頼っていて危機が去ったら、今度は恐怖して排除しようともするだろう。
しかしラース以外だと管理神となるが、管理神は何も出来ない。そういうルールだからだ。次に、神獣は基本的に、聖域に対しての敵対行動以外管理神と同様だ。続いて聖獣は、腑抜けの阿呆共しかいない。使えない聖獣は、害獣と変わらないのだがな。最後に人間は、現状に満足している者ばかりで実力不足。変わる気がない。羨むだけ。持っている者から、奪おうとする者だけ。ラース達の言う、阿呆しかいないというわけだ。この詰んだ世界がつまらないから、俺はラースを呼んで転生させた。お前らも、いつも二人で遊んでいてつまらんだろう? だから、ボムという熊がダンジョンに遊びに来たとき、喜んで相手してやったんだろ? 傷まで治して、あの無人島に行くように仕向けてな。
しかしお前らが現状に満足していて、熊のことも気まぐれだったというなら、それでも構わん。だが、リオリクス。その場合、お前が持っている子機を取り上げるぞ? 満足しているなら、不要なものだろ? イヤなら、遊びを邪魔する者を排除する仕事に協力しろ。リオリクスは、何故人間が弱くなったか? その理由は何故か? ヘリオスは、ラースの下に行け。教えてもいいと思ったことを教えてやれ。
イヤなら他に回すが、ラースが支給した物を得ることを禁じる。やるかやらないかは、お前らの自由だ。ただ、旨い物を飲み食いして、これから先、待っているだろう楽しみを満喫したいなら協力しろ。それに、創造神が解放されて死にたくないなら、言うことを聞いておいた方がいいと思うぞ? 現状、管理神三体のうち、折檻を受けるはリオリクスだけだ。そして、神獣は全員だ。理由は言わなくても、分かっているはずだ。そして、俺は報告の義務がある。さぁ、心して決めろ」
恐怖の宣告である。思い当たる節があるのだろう。二人はこれからの行動を心に決め、返事をした。
「「やらせて頂きます」」
こうして、火神の壮大な計画が動き出した。一つ目は、もちろんラースを使って酒や料理の普及だ。案内人は、リオリクスに紹介してもらった巨熊である。火神は素直で可愛い、この巨熊を気に入っていた。
二つ目は、何故か弱くなった人間の調査だ。コイツらが弱いせいで、このワクワクに溢れた世界が、無意味のようなものになっている気がして気に入らなかった。ラースを無人島に飛ばしたのは、誰にも会わず染まらなければ成長の過程も知ることができ、他の者との比較がしやすくなると思ったからだ。
案内役のボムがいたが、教えたのは上位スキルがあることだけ。そんなことは、街の図書館に行けば分かることだ。そしてやはりこの世界の人間は、異常なほど弱いことが判明した。リオリクスには現世の調査をさせ、自分は生死を司る生命神と冥界神について調べるつもりだった。
三つ目は、神獣と聖獣のテコ入れ。惰眠を貪るだけの阿呆共の引き締めに使えればと思っていたのだ。四つ目は、星霊シリーズに友達を作ってあげたかった。創造神のペットというが、他の神も大好きな子達である。いつも寂しそうにしている光景を見ては、胸が締め付けられる思いをしていたため、友達を作ってあげられればと思ったのだ。
そして最後は、創造神と創ったこの世界を自慢したかった。ワクワクに溢れた景色を見てもらいたかった。この世界の者は、この世界を見て改めて感動する者が少ない。だが、ラース達は楽しそうにしている。魔獣であるボムもだった。その姿を見て、嬉しくてたまらなかった。
故に、それを脅かす者は誰であろうと許すつもりはなかった。冥界神は、おそらく言い訳をして逃げるだろうと思っていた。そうさせないための証拠集めをするということも、計画に含まれていた。火神はここまでの計画を誰にも言わず、一部を話し仲間を引き入れて準備をしていたのだった。あの適当コンビの片割れだとは、到底思えない行動だった。だからこそ、バレない。そして、動き出した。全てを片付けるために。
「じゃあ頼むわ。ヘリオスは、十大ダンジョンの管理の代行を頼んでおけよ」
そう言って、消えていったのだった。
「何で俺だけ折檻? 神獣は分かるけど」
残されたリオリクスの疑問は、折檻の理由だった。
「……遊び過ぎたからでは? それより、俺は子守りですよ……」
そう嘆くヘリオス。だが、ヘリオスは知らない。ただの子守りではないことを。そこにいるのは、【始原竜・プルーム】。しかし、リオリクスは言わない。悪戯を思いついたからだ。プルームの人型バージョンで、存在感をコントロールした状況で、ヘリオスが何を言うのか気になったからだ。だが、二人は知らない。この軽い気持ちの悪戯が、後に波乱を巻き起こすことを……。
そして、それぞれ動き出した。リオリクスは獣王国へ戻り調査開始。ヘリオスは代行を頼みに親族の下へ。
ところ変わって、竜の巣。
「もういいじゃろ?」
「まあギリギリというところですね」
プルームの修業も、一段落したようだ。
「ただ、戦闘は駄目ですからね。戦闘態勢になった時点で、相手は死にます。追い払いたいときは、ほんのちょっとだけ、存在感を出すだけで十分ですからね。プルーム様の存在感を感じて平気なのは、カルラ様だけですから」
そう言う雷竜王に、プルームが物申す。
「我の弟子二人は平気だったぞ」
自信満々で言うプルームに対しての返答は。
「ああ。あれは我慢していただけです」
という、無遠慮な言葉だった。そして意外とズバズバ言う雷竜王だった。ちなみに雷竜王は、プルームの飲み仲間で同時に竜族の中では英雄とされている。理由は、プルームにこのようなことを言え、あの存在感のコントロールの真っ只中にいるのに、意識を保っていられたためだ。
プルームは納得できず微妙に不機嫌になったものの、もうすぐ可愛い娘に会えると思い満面の笑みを浮かべた。そして、我慢出来ずにすぐに飛び立とうとしたのだった。
「では、早速カルラの下へ行くぞ」
だが、飛び立とうとしているプルームに、雷竜王は待ったをかけた。
「竜の姿で行っては、コントロールなどしていても無意味です。ですので、私が送って行きますから背に乗ってください」
「そうか。悪いな」
そう言って出発する最強の竜と竜神だった。そして、この空の旅の最中に、カルラからラース不祥事が伝えられた。悲しむカルラの泣き声にプルームは心配になり、同時に泣かせたラースに激しい怒りが湧いた。カルラを慰め安心させたあと、雷竜王に急ぐよう命令するのだった。
ラースに忍び寄る怒れる竜の手。それは、地獄からの使者の手であることは間違いなかった。雷竜王は心の奥底で合掌しながら、ラースの無事を祈るのだった。
「それで、順調なんですか?」
「まあな。大筋は予定通りで進んでる。お前に、面白いやつを紹介してもらったかいがあったな。あの熊は最高だ」
現在、リオリクスは火神とともにいた。もちろんアバターなのだが、それでも現世にいる管理神のリオリクスが、直接天上の神々と会っていることは異常な光景だった。それに、彼らだけではなかった。もう一人……というか、一体と言うのだろう。金色の虎が、そこにはいた。
その虎の名は、【金聖虎・ヘリオス】。最強の神獣である。この虎のみ、単体でリオリクスの遊び相手が可能な者だった。この場合の遊びとは、模擬戦以上殺し合い未満のことを言う。つまり、ボムが目指す頂に座している者でもある。そしてここにいるということは、コイツも遊び好きであり遊び好き三人組が揃った瞬間でもあった。
「その熊の話は聞いていないのですが、どのような者なので?」
ヘリオスが、嬉しそうに話す火神とリオリクスの姿を珍しく思い聞いてみた。
「俺の弟のソモルンの親友で、ソモルンの妹のカルラの父親だ。ソモルンとカルラへの過保護ぶりも笑えるが、あの好奇心旺盛なところとちょっと我が儘な発想をするところが好きだな。あとは、強さに対して貪欲なところだ」
そのようにヘリオスに説明するリオリクスだった。ヘリオスはいまいちよく分からない関係性に、さらに疑問を感じたが、説明されそうにないことに気づき諦めたのだった。そして火神がここに呼んだ理由を話し出したので、黙って聞くことにした。
「まあ熊のこともラースのことも説明したからいいだろう。それよりも本題に入るぞ。お前らも知っている通り、この世界の十大ダンジョンは確かに人間向けではなかった。だが、普通のダンジョンの設定は人間向けのものだ。それなのに、ラースが攻略したダンジョンすら踏破出来ないのはおかしいだろ。十大ダンジョンだって定期的に間引きしなければ、スタンピートが起こる可能性が高まる。獣王国はリオリクスが調整しているが、他の国や場所にあるダンジョンの中では既にヤバそうなところはある。そしてあらかじめ言っておくが、ラースは使徒ではない。だから、スタンピートの度に各地に派遣することはしない。それに普段から間引きしろと、人間達に神託で言っているのにやらない。実力がないことが理由だとしても、改善する気がない。このままじゃ、待っているのは滅亡のみだぞ。
神である俺の立場から言わせてもらえば、滅ぶも栄えるも人間次第で勝手にしてくれ。助ける理由もない。強いて言えば、玩具がなくなる程度にしか思っていない。だが、このままでは俺が考えた娯楽が潰される可能性がある。それに加え、現在ラースをお使いに出しているということは、近いうちに我らがボスが解放されるということだ。ボスがこの事態を知ったら、問題を放置しているお前らも無事で済むと思うなよ?」
火神の性格は、遊びに対して本気を出せるというもの。今話している内容は、遊びに関しての話ではないと思うだろうが、それは違う。純粋に遊びを楽しむために、邪魔になる要素を出来るだけ排除してしまい、後顧の憂いなく遊びを楽しみたいのだった。そのためになら、多少の手間など苦ではない。
そして今回の説明で重要な部分とは、実力がない人間が多すぎるという点である。実力がない人間ばかりだから、ラースがチート無双しても、聖獣様のおかげでダンジョンを踏破出来たのでしょう? などと、嫌味のようなことを言われるのだ。
ラースの体は、確かに火神達が作った。だが、魔力は別に多く設定していない。武術のスキルもなかった。ギフトだって、パソコン機能はおまけのつもりだった。しかし、ラースは自分に必要なものを自分で修得した。
例えば、スキャナで魔術の知識を得たのは間違いないだろう。しかし、コントロールする力や、必要な魔力量は自分で身につけた物だった。属性纏もプルームの修業で身につけたが、下地の魔力纏は身体強化の延長線上にあるもので、無属性魔法を使えれば全員身につけられるものだ。そして無属性魔法を持って生まれない者はいないため、全員出来るということだ。
それなのに、創造神が監禁される前の人間の方が強かったという現在の状況。どう考えてもおかしいと考えた火神は、わざと人間を弱めている原因が何処かにあるということに気付いたのだった。
前置きが長くなったが、これらのことは火神が、創造神のことを調べているうちに判明したのだった。そして、この問題を解決させるための、人員の検討を始めた。
まずは、ソモルン達星霊シリーズだった。彼らは何故か攻撃的な魔術を使わない。そのため、戦闘力はかなり低い。戦闘力は調査の上では必要だったため、ソモルン達は候補から外れた。
次に、管理神三体だった。彼らは戦闘力に申し分なく調査能力もある。だが、目立ち過ぎる。さすがに管理神が動けば、冥界神に気付かれる。この場合、重要なのは冥界神にバレること。生命神にバレてもさほど影響がないのだ。
この影響とはもちろん勇者召喚のことである。勇者召喚で遊ぶために手を尽くしているのに、それを中止にされてしまっては全てが無駄に終わるということだ。それを避けるため、目立つ行為は自粛していた。
そして、ついに考え得る人員の候補がなくなったため、とりあえず棚上げしていたのだった。だが、ラースが偽聖剣の作製を始めたり、オークの国を作ったりと、教国に対しての嫌がらせを始めたことに気付いた火神は、リオリクスを自分が管理している十大ダンジョンに呼んだ。そこにたまたま旨い酒と飯に釣られたヘリオスがいたため、同行したのだった。
そして、現在に至る。これからは、仮に冥界神達が気付いたとしても、しばらくはラース達に目が行くだろう。その隙に、リオリクスに調査を頼もうと思ったのだった。普段からフラフラと遊び回っているため、冥界神のマークからは既に外れていたからだ。ここに来たときに子機を使わせなかったのは、子機も一応神器扱いになるため、察知されるのを避けたためだ。リオリクスが子機を持っていても大丈夫なのか? という疑問は、献上というものがあるため大丈夫らしい。
「言っておくが、何やらイヤな予感がする。だが、自分の世界のことを、余所の世界から誘拐してきた者に委ねるとか、恥ずかしすぎるだろ? しかし、ラースはおそらく協力するだろう。友達と呼んで可愛がっているソモルン達のことを思って。そして何も知らない人間共は、いつもラース達に頼っていて危機が去ったら、今度は恐怖して排除しようともするだろう。
しかしラース以外だと管理神となるが、管理神は何も出来ない。そういうルールだからだ。次に、神獣は基本的に、聖域に対しての敵対行動以外管理神と同様だ。続いて聖獣は、腑抜けの阿呆共しかいない。使えない聖獣は、害獣と変わらないのだがな。最後に人間は、現状に満足している者ばかりで実力不足。変わる気がない。羨むだけ。持っている者から、奪おうとする者だけ。ラース達の言う、阿呆しかいないというわけだ。この詰んだ世界がつまらないから、俺はラースを呼んで転生させた。お前らも、いつも二人で遊んでいてつまらんだろう? だから、ボムという熊がダンジョンに遊びに来たとき、喜んで相手してやったんだろ? 傷まで治して、あの無人島に行くように仕向けてな。
しかしお前らが現状に満足していて、熊のことも気まぐれだったというなら、それでも構わん。だが、リオリクス。その場合、お前が持っている子機を取り上げるぞ? 満足しているなら、不要なものだろ? イヤなら、遊びを邪魔する者を排除する仕事に協力しろ。リオリクスは、何故人間が弱くなったか? その理由は何故か? ヘリオスは、ラースの下に行け。教えてもいいと思ったことを教えてやれ。
イヤなら他に回すが、ラースが支給した物を得ることを禁じる。やるかやらないかは、お前らの自由だ。ただ、旨い物を飲み食いして、これから先、待っているだろう楽しみを満喫したいなら協力しろ。それに、創造神が解放されて死にたくないなら、言うことを聞いておいた方がいいと思うぞ? 現状、管理神三体のうち、折檻を受けるはリオリクスだけだ。そして、神獣は全員だ。理由は言わなくても、分かっているはずだ。そして、俺は報告の義務がある。さぁ、心して決めろ」
恐怖の宣告である。思い当たる節があるのだろう。二人はこれからの行動を心に決め、返事をした。
「「やらせて頂きます」」
こうして、火神の壮大な計画が動き出した。一つ目は、もちろんラースを使って酒や料理の普及だ。案内人は、リオリクスに紹介してもらった巨熊である。火神は素直で可愛い、この巨熊を気に入っていた。
二つ目は、何故か弱くなった人間の調査だ。コイツらが弱いせいで、このワクワクに溢れた世界が、無意味のようなものになっている気がして気に入らなかった。ラースを無人島に飛ばしたのは、誰にも会わず染まらなければ成長の過程も知ることができ、他の者との比較がしやすくなると思ったからだ。
案内役のボムがいたが、教えたのは上位スキルがあることだけ。そんなことは、街の図書館に行けば分かることだ。そしてやはりこの世界の人間は、異常なほど弱いことが判明した。リオリクスには現世の調査をさせ、自分は生死を司る生命神と冥界神について調べるつもりだった。
三つ目は、神獣と聖獣のテコ入れ。惰眠を貪るだけの阿呆共の引き締めに使えればと思っていたのだ。四つ目は、星霊シリーズに友達を作ってあげたかった。創造神のペットというが、他の神も大好きな子達である。いつも寂しそうにしている光景を見ては、胸が締め付けられる思いをしていたため、友達を作ってあげられればと思ったのだ。
そして最後は、創造神と創ったこの世界を自慢したかった。ワクワクに溢れた景色を見てもらいたかった。この世界の者は、この世界を見て改めて感動する者が少ない。だが、ラース達は楽しそうにしている。魔獣であるボムもだった。その姿を見て、嬉しくてたまらなかった。
故に、それを脅かす者は誰であろうと許すつもりはなかった。冥界神は、おそらく言い訳をして逃げるだろうと思っていた。そうさせないための証拠集めをするということも、計画に含まれていた。火神はここまでの計画を誰にも言わず、一部を話し仲間を引き入れて準備をしていたのだった。あの適当コンビの片割れだとは、到底思えない行動だった。だからこそ、バレない。そして、動き出した。全てを片付けるために。
「じゃあ頼むわ。ヘリオスは、十大ダンジョンの管理の代行を頼んでおけよ」
そう言って、消えていったのだった。
「何で俺だけ折檻? 神獣は分かるけど」
残されたリオリクスの疑問は、折檻の理由だった。
「……遊び過ぎたからでは? それより、俺は子守りですよ……」
そう嘆くヘリオス。だが、ヘリオスは知らない。ただの子守りではないことを。そこにいるのは、【始原竜・プルーム】。しかし、リオリクスは言わない。悪戯を思いついたからだ。プルームの人型バージョンで、存在感をコントロールした状況で、ヘリオスが何を言うのか気になったからだ。だが、二人は知らない。この軽い気持ちの悪戯が、後に波乱を巻き起こすことを……。
そして、それぞれ動き出した。リオリクスは獣王国へ戻り調査開始。ヘリオスは代行を頼みに親族の下へ。
ところ変わって、竜の巣。
「もういいじゃろ?」
「まあギリギリというところですね」
プルームの修業も、一段落したようだ。
「ただ、戦闘は駄目ですからね。戦闘態勢になった時点で、相手は死にます。追い払いたいときは、ほんのちょっとだけ、存在感を出すだけで十分ですからね。プルーム様の存在感を感じて平気なのは、カルラ様だけですから」
そう言う雷竜王に、プルームが物申す。
「我の弟子二人は平気だったぞ」
自信満々で言うプルームに対しての返答は。
「ああ。あれは我慢していただけです」
という、無遠慮な言葉だった。そして意外とズバズバ言う雷竜王だった。ちなみに雷竜王は、プルームの飲み仲間で同時に竜族の中では英雄とされている。理由は、プルームにこのようなことを言え、あの存在感のコントロールの真っ只中にいるのに、意識を保っていられたためだ。
プルームは納得できず微妙に不機嫌になったものの、もうすぐ可愛い娘に会えると思い満面の笑みを浮かべた。そして、我慢出来ずにすぐに飛び立とうとしたのだった。
「では、早速カルラの下へ行くぞ」
だが、飛び立とうとしているプルームに、雷竜王は待ったをかけた。
「竜の姿で行っては、コントロールなどしていても無意味です。ですので、私が送って行きますから背に乗ってください」
「そうか。悪いな」
そう言って出発する最強の竜と竜神だった。そして、この空の旅の最中に、カルラからラース不祥事が伝えられた。悲しむカルラの泣き声にプルームは心配になり、同時に泣かせたラースに激しい怒りが湧いた。カルラを慰め安心させたあと、雷竜王に急ぐよう命令するのだった。
ラースに忍び寄る怒れる竜の手。それは、地獄からの使者の手であることは間違いなかった。雷竜王は心の奥底で合掌しながら、ラースの無事を祈るのだった。
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