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第一章 ツクモノと轆轤首
第二話 頭の長い理解者
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*
気が付くと私は仰向けになって知らない天井を見上げていました。何処だろうここーー。
少し腹部に重みを感じたので恐る恐る見てみると、綺麗な羽毛布団らしきものが乗っかっています。状況を察するにどうやら私も眠っていたようです、しかもこんな上等な寝床の上で。
この布団も何だか柔らかい感じの匂いがします。おそらくこの匂いを言い表すのなら、甘い匂いと言う言葉が適切でしょう。
カーテンは締め切っているので部屋は薄暗かったですが、日が既に上がってしまってるのは木漏れ日から見て取れました。
一応カーテンの光が私に直接当たらないように配慮してくれている辺り、轆轤首さんのしっかりとした気配りも垣間見えます。私、あの人に助けてもらってばかりだなぁ。
「と言うか私って眠れたんだ」
ふと私は思った疑問を口に出しました。
かれこれ何年もお婆ちゃんの家の市松人形として飾られていた私ですが、実の所これまで眠った事は一度も無かったんです。理由としては目を瞑るって言う行動自体を、私の動かない体が許してくれなかっただけなんですけどね。
なので眠る事で得られるこのすっきりとした爽快感も、同様に感じた事はありませんでした。意外と睡眠って気持ちのいいものなんですね、肩もより動きやすくなった気がしますし。
しかしそれがあったおかげで、ある程度私の知識は豊富になったとも言えるでしょう。何せ私は眠れない以上誰も居ない部屋で考える事と言えば、言葉の意味を理解しようとするぐらいでしたから。
まぁ自分自身の認識はあくまでも市松人形としてしか見ていなかったので、私の名前は考えようとも思いませんでしたけど。
「にしてもここの部屋はいつもの部屋に似てるなぁ」
この部屋はお婆ちゃんの家で私が飾られていた部屋とよく似ています。多分この建物には他にも同じような部屋が沢山あるのでしょう、見覚えがあるのも無理はないかも知れません。
懐かしいような、悲しいような、何とも微妙な心境です。
ほんの数日前の思い出に浸る事も悪くはないですが、取り敢えず彼女に朝のおはようの挨拶をしなければなりませんね。何せ私はこの家に居候させて頂いている身、一切の挨拶も無しにここに居座るなど厚かましいにも程がありますし。
そう思った私は自分の上に乗っかった重い布団を何とか跳ね除けて、敷き布団の上から起き上がりました。こうしてみてわかったけど起き上がるのもまた、気持ちがいい。
道中の事なんですが部屋と廊下を繋ぐ境目の辺りには、ちょっとした段差があるんです。それは轆轤首さん、と言うか人間達からすれば、そこまで高くは感じない段差なのでしょう。ですが私からすればその小さな段差でさえ、正直少し辛いんですよ。
何せ足が短いのもさる事ながら、私は歩く事にまだ慣れていないので長襦袢の裾は、私を蹟かせようとちょっかいをかけてくるんですから。昨日は襦袢姿が快適だと感じていたのに、慣れるのも逆に恐ろしい物です。
台所と一体になった小さな廊下を抜けて昨日の部屋に辿り着いた私は、轆轤首さんがこの部屋に居ない事に気が付きました。
「あれ? 轆轤首さーん」
一体何処に行ったのやら。そんな事を考えながらしばらく辺りを見回してみると、カーテンの締められていない窓の向こうで私はあるものを発見しました。
それは長い間夢見てきた太陽の光、ではなく私の昨日着ていた筈の、金色の刺繍が入った赤い着物でした。
もう絶句しちゃいましたよ。
見たかった太陽の光以前に、そもそも私の着物がその直射日光の的になっちゃってるんです。もう色が褪せちゃうってレベルではありませんよ。
それに着物を救出するべく急いで窓を開けようにも、全然鍵に手が届かない。察しの通り私の低い身長とまだ弱い腕力では敵わぬ相手だったのです。
ただひたすらに日光に当てられて褪せていく私の着物ーー。特にお婆ちゃんが気に入ってくれていた着物だっただけに、見ているだけで全身の力が一気に抜ける脱力感が訪れました。
けれどどうあがいてもあの着物の運命は変わらず、着物はハンガーに吊るされたまま無残にも陽の光を受け続けています。ああ、哀れなり私の着物ーー。
絶望のあまり目のやり場に困っている私でしたが、ふと机に置き手紙らしきものがある事に気付きました。
「何だろこれ」
昔から私は何故か字を読む事が出来たので、手紙の文字を読む事ぐらいは造作も無い事です。
内容を読むにこの手紙の書き手は轆轤首さんらしく、割と綺麗な字であの可哀想な着物についての真意が綴られていました。
わるい。
きのうおまえがかけてくれたきものにげろはいちまった。
いちおうあらってほしといたけどとれねぇとおもうんだ。
ほんとごめん。
しごといってくる。
おそらく私に文字を読む力が無かった時も考慮して、彼女は文章全部を平仮名で書いたのでしょうか。
要らぬ気遣いです、何度も言いますが私は日本語を読むぐらいお茶の子さいさいなんですから。今やこの彼女の優しさですらも気に障ります。
つまりはこの手紙の意味を理解するに、轆轤首さんは昨日私が掛け布団代わりに掛けてあげた着物に、自分の吐瀉物をぶっかけてしまったと言う事なんですね。
だから洗って殺菌ついでに直射日光に当てちゃってたんですか。
「あり得ないですよ全く!」
抑えきれぬ怒りを前に、私は遂に彼女の手紙をビリビリに破ってしまいました。
着物に吐瀉物産のシミをつけるだけでは飽き足らず、直射日光まで当てて色褪せをも実行しようとするとは、わざとではないにしてもやり過ぎです!
もはやこの時の私には、これから彼女とやっていける自信は微塵たりとも残ってはいませんでした。
「もうこんな所には居られない!」
非力故に物に当たる事すらままならない私は、この怒りを何処かへぶつけたい一心で叫びます。御近所迷惑、知ったこっちゃありません。
「こんな家出ていってやる! 轆轤首さんなんて大っ嫌い!」
何度も何度も同じ発言を繰り返しながら玄関へと辿り着いた私でしたが、実はこの時、またある事に気付いて更なるショックを受けました。
「えっ?」
それはまるでマヌケを見るように私を見下ろすドアノブ。そう、私がこの家の鉄扉を開けるには身長が圧倒的に足りなかったのです。まぁもし足りていたとしてもそもそも、腕力が無くて無理だったでしょうけどね。即ちこのドアもあの窓も同じ、私には強大過ぎる存在だったのです。
拷問に等しい状態で晒されている着物も助けられない、家出しようにも身長が足りずドアが開けられない、もうこれでは自分でも何がしたいのかよくわかりません。
私は自分の無力さを酷く痛感し、何足か並べられている靴の上で膝を突きました。これじゃあ轆轤首さんが帰って来ても笑われるだけですよ、私。
太陽の陽がだいぶ落ち着いてきた時間になっても、私の気持ちは晴れる事はありませんでした。寧ろ更に落ち込んでいったと言ってもいいでしょう。どうせあれだけ日が照っていれば着物も褪せるちゃってますし尚更です。
昨日の涙出た涙はどうやら昨日の内に消費してしまったようで出る事はありませんでした。どうりでスッキリしない訳です。
「はぁ」
あれ程見たかった太陽の光も、今では何であんなにまでに見たかったのかが不思議なくらいに憎たらしく思えていました。早く消え失せてくれれば良かったのに、そんな想いが募る一方です。何もかも轆轤首さんのせいですよ全く。
かれこれ五、六時間程この玄関に座り込んでいましたが、そろそろ私の膝もヒリヒリと痛みを感じてきるぐらいになってきました。
それに加えて泣いてスッキリしたくなった事もあり、私は遂に玄関から旅立つ事にしました。
「お水……飲みに行こ」
何よりこのモヤモヤとした感情を晴らすには、昨日みたいに涙を流す事が一番です。しかしながらお腹が減らないのもそうなんですけど、やっぱり喉の渇きがあまり感じられないのって妖怪なのだからでしょうか。
妖怪は一体何を原動力に動いているのやら、まぁ何とも奥深い生き物です。
台所に着くや否や私はここでも絶句してしまいました。当然です、窓や扉の鍵に手が届かないのであればシンクも例外ではないのですから。
ここに来てまでも低身長に邪魔をされる、もう私はこの家で過ごす事は本当に難しいのかも知れません。いいえ、人間が暮らしている居住区、と言った方がいいですね。とにかくこれでは水を口に入れる事すらままなりません。
為す術もなく私は、暗くなりつつあるあの着物が外に干されている部屋へと足を運びました。とは言っても結局部屋の電気には手が届きませんので、私が出来る事と言えば窓の外に見える着物と、黒と赤の混ざり合った空を眺める他ありませんが。
いずれにせよ暇なんです。私がここに居る以上は出来る事もあまりありませんし、これじゃある意味孤独と大差無いですよ。
立っていてもしょうがないので私は、何も敷かれていない少しヒンヤリとした床に腰を下ろしました。ここでもまた、冷覚と言う感覚は私を刺激してきます。
外の景色も完璧に黒ずんでしまい、外にあった筈の着物も薄っすらとしか見えなくなってきました。来たるべき時が来てしまったとも言えますね。
そしてとうとうこの部屋も明かりと言うものを失ってしまう、そう思った次の瞬間でした。突如としてその方は、私の前に現れたのです。
「こんな暗い部屋で独りぼっちじゃあ君もさぞ心細いだろう?」
初めは轆轤首さんが帰って来たのかとも思いました。
ですが家のドアが開く音も聞こえず、況してや声もここまで嗄れているとなると、その考えも自ずと消失します。そもそもこの家の私と同じ住人がいるなんて聞いてないし。
様々な考えが交錯していると部屋の電気がパチッと通る音がしました。
「ど、ど、どちら様ですか!?」
「なあに、ワタシはここの住人の古い知り合いだよ」
光を照らされた闇の中から現れたのは、それはもう頭の長い老人でした。
服装も今の人達では着ていなさそうな着物姿で、何だか肌もお婆ちゃんみたいにシワシワになっちゃってます。この人も妖怪なのでしょうか、いや、どう見ても妖怪ですか。
轆轤首さんの知り合いとあらばまず挨拶をしなければなりませんね。こう言う時の挨拶って早く言った方が良いんですよ、“人間関係を築こう”って番組でやってました。
「わ、私……市松人形のツクモノって言います。昨日からこの家に住まわせて頂いてるんです」
「そうなのかい……これもまた運命か」
運命? まぁ運命と言われれば強ち間違いでもないのかも知れません。昨日私が轆轤首さんと出会う事も、いっその事運命として一括りにしてしまえば楽ですからね。
ですけどこの人が言う運命って何処か、私が思っている物とは違うような気もします。何れにせよ本人に聞かずして始まるわけもないので、一先ず質問でも投げ掛けてみますか。
「あ、あの……」
「いや、今の言葉は忘れてくれ」
いや、じゃなくて何か思わせぶりな事言ったくせにそれはないですよ、そんな事を言われちゃ余計に気になっちゃうじゃないですか。けれどこの人の顔を見るからに、これ以上の話も聞き出せそうにもありませんのでここは引くとしましょう。無論、気になる感情は治りませんけど。
「所でツクモノちゃん……と言ったかな。君は何だか悲しそうな顔をしてるいるけど一体どうしたんだい?」
私ってそんなに表情が顔に出てるんだ、私は思わず自分の顔に手を当ててしまいました。硬い、が率直な感想ではありますがどうやら、私は他の人がパッと見ただけでもわかる程に冴えない顔をしているみたいです。
そりゃあだって悲しいですよ、私の着物は天日干しされちゃいますし家出も出来ないしで踏んだり蹴ったりなんですから。
「……わかっちゃいますか?」
「どうやら君は感情を押し殺すのが苦手みたいだからね」
それって簡単に言えば、私が嘘は吐けないって事ですよね。
何でも表情に出してしまうってのは、きっと素晴らしい事ではあるのでしょうけど同時に、自分にとって不利でもありますし、まぁ素直に喜べるような物ではないです。
自分が自分を偽って我慢しているつもりでも、他人から見ればあからさまに感情を曝け出しているかのように見えちゃうんですからね。じゃあそれって逆に良い事無いじゃん、は言わないで下さい。
「ワタシで良ければ話を聞こうか? それに君とはいいお茶が飲めそうだ」
出会って間も無いのに私の話を聞いてくれるなんて、絶対この人は聖人か何かですよ。見ず知らずの人にこうも易々と心情を聞き出すなんて私には絶対に無理ですから。
やっぱり轆轤首さんを含め彼女の周りって聖人しか居ないのでしょうか……とも思いましたがよくよく考えてみるとそこに轆轤首さんを入れている時点で、私って甘々な人間だなって痛感しました。さっきまで私あの人の事大嫌いって言ってたのに。
「……ありがとうございます」
この人の親切を自分の為にも無駄にしないよう、私も自分が思った事などを包み隠さず話す事にしました。
「聞いてくれている人にはしっかりと礼儀を尽くすべきだ」ってお婆ちゃんも生前よく言ってましたしね。
それから私は昨日から今日にかけて起こった出来事を洗いざらいこのお爺さんにお話ししました、お婆ちゃんの事は勿論昨日あった轆轤首さんとの出来事、その全てを。
お爺さんが聞き上手な所もあり、つい私も感情を加えての説明になっちゃってましたのは内緒です。
それとはまた別の話なんですけど、客人にお茶をお出しするのが住人としてマナーだと思うのですが、なんとお爺さんが何から何までやってくれたんですよ。
そんな事すら出来ないなんて、身長が低い事が祟ってるにしても私って、本当に役立たずですね。
そんなこんなでお爺さんは陶器の器に入ったお茶を啜りながら、棚から勝手に取り出した大福を手に取って言いました。
「カッカッカッ! そりゃあ彼女が悪いな!」
「で、ですよね!?」
まるで痰を喉に詰まらせたかのような、独特な笑い方に若干引いてしまいましたけど、この人も同意見なのは嬉しいです。理解者が増えたと言えばいいのかな、何とも言い表し辛いですがとにかく嬉しいです。
「特に金の刺繍が入った着物だと尚更さ。あの子もそれぐらいはわかってると思ってたんだけどなぁ」
見た目もご老人なだけに、着物に関する知識もかなり持ち合わせているみたいですね。流石は現役で着物を着こなしている方、轆轤首さんも見習って欲しいぐらいですよ。
「けれど君も彼女の事は知っておかなくちゃいけないよ」
すると突然、お爺さんは畏まったような顔で私に話し掛けてきました。それはあたかも轆轤首さんの事を、私がまだ理解しきっていないとでも言いたそうな口調で。
「轆轤首さんの……事ですか?」
私は訊ねました、本当にその見解であっているのかと。まぁそれ以外には考えられませんけどね。
「ああ」
どうやら合ってたらしいです。確かに昨日の夜は轆轤首さんの事もちょろっと話はしましたけど、実は殆どが私の話でした。ですので私が轆轤首さんの事を何もわかっていない、と言われたらおそらくは反論出来ないです。
改めて思うとそれって同居人として失格なのかな。
「あの子はね、妖怪としても変わってる方なんだ」
何だか私も、それは薄々感じていました。私の中での妖怪のイメージはもっと堅苦しい物だったんですけど轆轤首さんを見ていると、そんなイメージも一瞬にして打ち砕かれちゃいましたし。明るい性格に他者を尊重するような考え、第一社会への適応力も素直に凄いなぁと思いましたよ。
ついでに言うと見た目も流行に乗ってるって感じがします。ーーそれは思い違いか。
「妖怪と言うのは昔から人との繋がりは深いんだ、脅かしたり助けたりと個々によって関わり方は様々だけどね。けれど現代、妖怪と言う存在は殆どの人間の記憶から忘れ去られようとしている。何が言いたいのかと言うと、今の時代は妖怪にとって暮らし辛い環境だって事さ」
妖怪と人間との繋がりは今と昔とでは違う、このお爺さんはそう言ったんです。すると昔は今みたいに人と人とがギスギスとした関係も、あまり存在しなかったのかも知れませんね。お互いに真に信じ合える、それは信仰の中で存在し続ける妖怪にも暮らし易い環境と言えるのかな。
じゃあ今の時代に生まれた私は……あまり深くは考えないでおきます。
「暮らし辛い……環境」
「そう。しかし轆轤首は敢えて人間との共存を選んだ、何せ人間が生み出す文化が好きだからね。じゃないと妖怪が人間の仕事なんてしないさ」
けれどだんだんわかってきました。何故自分と同じ妖怪に出会う確率が全然無いのにも関わらず、轆轤首さんは人間社会に溶け込もうとするのかを。彼女は人間が惚れたからじゃない、彼らが作り出す文化に惚れたのです。
だからこうして今も人間社会で生き抜く為に朝から仕事に行っている、だから私と出会った時にあんなに喜んでいた、それもまさかこんな時代でバッタリ仲間と出会えるとは思ってなかったから。なら私も同じ考えですよ。ーー轆轤首さん、貴方と敢えて本当に良かった。
貴方がもし私を拾ってくださらなければ、もうこんな事は昨日だけで何度も考えています。
「まぁあの子もあの子なりに精一杯生きているんだ。あんまり責めないでやってくれ」
「はい……私もちょっと怒り過ぎちゃってました」
言われずとも既に、私の中では轆轤首さんへの怒りは消え去ってました。
単純と言うか絆され易いと言うか、私ってとにかく意思が弱いですよね。もっと精神的にも成長して、自分の意見を主張出来るようになりたいです。
「カッカッカッ! まぁ何事も経験が大事さ。怒ってみるのも悲しんでみるのも、これから生きていく上で為になっていくよ」
何事も経験が大事、そう言えば轆轤首さんもおんなじ事を言ってましたっけ。やっぱり長く生きていれば生きている程その言葉の重さもわかってくるのですかね。
まだ彼らにとって私なんか赤子のような存在ではあるんだろうけど、いつかそう思える日も来るのだと考えると、何か嬉しい感じがします。ーー本当に人に恵まれたな、私。
「それはそうとお茶が冷めてしまうよ、早く飲んだ方がいい」
「あっ、はい!」
せっかくお爺さんが入れてくださったのに話に夢中でお茶を飲むのをすっかり忘れてました。
湯気は辛うじてまだ、モクモクと発せられてるから冷めてはないと思います。ーーところで私って、お茶は飲めるのかな。ちょっとしたようで意外と重大な疑問が、私の脳裏に過ぎりました。
「あのう……」
「どうしたんだい? お茶は苦手かな」
「そうじゃなくてその……付喪神って飲食は出来るんですか?」
それは轆轤首さんに訊ねてもわからないと言われてしまっていたので、この真偽はわからずじまいだったから故の事でした。
しかし今私の目の前に居るのは轆轤首さんではなく、長生きしてそうな妖怪のお爺さんです。まさに答えを知るには絶好のチャンスと言えるでしょう。
「付喪……神だって?」
ですがこの時、何故かはわかりませんがお爺さんの目は大きく開かれました。
驚いたようにも見て取れましたし、何かを理解したようにも見えるし、もしかして付喪神って飲み食いしちゃダメだったのでしょうか。少し不安が募り始めたその時でした。
ガチャン。
玄関の方で鉄のドアが開く音がしました、どうやら轆轤首さんが帰宅されたみたいです。お爺さんの方に目をやると、お爺さんは優しそうな表情をして私の顔を見ていました。ーーあのねお爺さん、私お爺さんの言いたい事わかりますよ。
「いっておいで、ですよね?」
「ああ」
それ以上お爺さんは何も言いませんでした。今私のすべき事である轆轤首さんとの仲直りを、私自身がわかっていたからです。
私は精神的にも強くならなければなりません。こう言った日々の積み重ねも大事ですしそれを無駄にしない為にも、今日のような出来事も乗り越えられるぐらいにはなりたいですから。
それも何事も経験、その言葉の真意が理解出来る日が来るまで。
私はお爺さんに今出来る有りっ丈の笑顔を向けました、それもありがとうの意味を込めて。
また後でゆっくりとお話をしましょうね。
「ツクモノ……」
玄関に向かおうとした私ですがその途中、バッタリと轆轤首さんに出くわしちゃいました。
あらあらせっかく私がお出迎えしようと思ってたのに、それにこの人は何やら手には大っきな紙袋まで下げちゃってますよ。
取り敢えずは下手に彼女を刺激しないよう、慎重に話し掛けるべきですね。
「轆轤首さん……あの」
でも轆轤首は私の想いなんて考えもせずに、いきなり自分の感情を鉄砲玉の如く飛ばしてきました。
「ツクモノォ! アタシが悪かった、本当にすまねぇ!」
「えっ」
心の準備が整っていなかった私は、当然のように唖然としてしまいました。
一体どんな反応をすれば良いのやら、全くこの人には何度も驚かされちゃいます。けどそれがこの人の良い所なのかも。
「お前の着物に付いた汚れは簡単に落ちるようなもんじゃねぇ。しかもその汚れを数時間放置したとなると尚更だ」
なんだこの人も案外、着物の事をよくわかってるじゃないですか。そうですよ轆轤首さん、あなたの吐瀉物で汚れてしまった私の着物は修復不可能になっちゃったんですよ。
わかってるなら何で追い討ちを掛けるかのように、わざわざ直射日光へ当てる真似なんかしちゃったんですかね。
「じゃあ……」
「だから私は考えたんだ、お前に合うサイズの着物なんて中々売ってるしろものじゃないからな。そしてある結論に至った、そうこれだ」
すると轆轤首さんは手に持っていた大きめの紙袋を、私の前にドサリと置いて見せました。そして紙袋から取り出した物を私に向けてきたんです。
虫とかだったら嫌だなみたいな事を考えてると、なんとそこから出てきたのは私の予想とは大きくかけ離れた物でした。
「自分で着物を作ればいいんだよ」
「はい?」
それは私の着物に使われていた物とよく似た刺繍が施された黒い布でした。
一見着物のようにも見えましたが、畳み方からしてその可能性も低いでしょう。にしても自分で着物を作るって、この人は何考えてるんですかね。
「こう見えてアタシはな、手先は結構器用なんだよ。だから昔はよく自分で着物を作ったりしたのさ」
なるほどそう言う事でしたか。つまりは私の着物を天日干ししちゃった理由も、あの着物を私に諦めさせる為だったって事なんですね。だったらここで「自惚れるんじゃないよ、私はあの着物がよかったんだ!」なんて言っちゃったら轆轤首さん、絶対に悲しむなぁーー。わかりました。助けてもらった御恩もありますし、着物の件は轆轤首さんに任せます。
「じゃあ……轆轤首さん。着物の事、お願いしてもいいですか?」
「おう、このアタシに任せとけって。そうと決まれば早速作業に取り掛かるか!」
すると轆轤首さんは走って玄関に入ってすぐにある暗い部屋へと行っちゃいました。
にしても賑やかな人ですね、これでは返事をする暇も全くありませんよ。そんな彼女のペースにも、早く着いていけるようにならないと。
でもこれで轆轤首さんとは仲直りはーー。出来たのかな。
私ってこう言う経験がありませんので少し、不安な所もあるんです。もし轆轤首さんがまだ怒ってるんだったらどうしようって。
でも私は轆轤首さんじゃありませんし他人の心が読める妖怪でもありません。それもこれから生きていく上でわかるようになるんでしょうか。いいえ、わかるようになりたいですね。
何はともあれ、私から見れば仲直りは出来たように見えますので良しとしましょう。それもこれもあのお爺さんの助言のおかげです、もう感謝しても仕切れないぐらいですよ。
思っていたより早く暇が出来てしまったのでお礼の言葉でも言いに行きましょうか。廊下とさっきの部屋はかなり近い距離にありますので、私はすぐさまお爺さんの居る部屋に顔を出しました。
「お爺さーん」
気味の悪いくらいの静けさに、ポツリと灯る私のまだ聞き慣れない声。大福の空き包装と湯のみはそのまま、そこにお爺さんの姿はありませんでした。
トイレにでも行ったのかな、でもそれじゃあ轆轤首さんが見ていた筈です。どうやらお爺さんは私と轆轤首さんとが会話している間に、何処かへ行かれちゃったみたいですね。
せっかくお礼を申し上げたかったのに、この時の私は何だか申し訳ない気分でいっぱいでした。
でもまた、会えるといいな。そして伝えたい、ありがとうの感謝の言葉を。
「お爺さん、また会え……」
「ツクモノ! リビングの引き出しに入ってるボビン取ってきてくれぇ!」
そんな私の気持ちを考えもせず、轆轤首さんの声は家どころかこの建物中に響き渡りました。
全くあの人ときたらーー。と言うかボビンって何なんですか、聞いた事無い物の名前を言われてもわかんないですよ。
「どれですかぁ轆轤首さん!」
けれど私も人の事は言えないですね。やっぱり声が出る事は素晴らしいですし、大声を出すのもこれまた気持ちがいい。御近所迷惑、知ったこっちゃありません。
「これだよ。ここにあるやつ取ってくれ」
「ひゃっ!? ちょっと轆轤首さん、首伸ばしてこの部屋まで来ないで下さいよ!」
「悪りぃ悪りぃ」
すると待ちくたびれたのか、轆轤首さんは自身の首を伸ばして私の部屋へと首を伸ばしてきました。
自分の特徴を最大限に活かしてるなんて素晴らしい事ではありますけど、わざわざそれを私に見せつけるような真似はやめて欲しいです。昨日初めて轆轤首さんと出会ったので、まだ彼女の首が伸びる事に私は慣れてませんから。
けどこう言う何気ない会話も、案外悪くはないですね。何だかここが私の居場所なんだなって実感が湧いてきます。
出来る事ならお婆ちゃんともこんな会話をしてみたかったなぁーー。やだ、私ったら何を考えているのやら。
*
『昨日未明、さいたま市雛形区の住宅から火が出て、この家の住人と見られる八四歳の男性が死亡しました。また今回の火災も前回同様何者かによる故意的な犯行と見て、警察はーー』
たまたま轆轤首さんがつけたチャンネルが、昨日起きた放火事件のニュースを報道していました。
雛形区は私達が住んでいる地区でもありますので、この出来事も他人事で見ている訳にはいかないです。しかもこの連続放火魔の犯人は高齢者の方ばかりを狙っているので、私も怒りを露わにしてしまいます。
まぁ私がお婆ちゃんっ子だったからってのもありますけどね。
「もうこの放火で三件目だな。全く警察は何やってんだか」
こればかりは早く犯人が捕まる事を祈るばかりです。もうこれ以上お年寄りの方が天命を全うせずに亡くなられるのは心が痛みますから。
あの日からと言うもの、轆轤首さんの家での私の生活は百八十度変わりました。
まず第一に、彼女は各部屋のドアに私専用の入り口を作ってくれました。ーーそれも県営住宅なのに無断で。流石に玄関のドアまでは貫通させませんでしたけど、それでも過ごしやすくなった事に変わりはありませんね。感謝感謝です。
「ってかお前はせっかくアタシが休みだってのに朝からパソコン弄ってばっかりじゃねぇか」
「そうですか? 私はちゃんと轆轤首さんの話も聞いてるつもりですけど」
「本当かよ。じゃあこの前話した事だけどさぁ……」
何よりノートパソコンなる物が私に手渡されたのは大きい出来事でした。
それによって轆轤首さんが仕事に出掛けた後の暇も解消出来ますし、更には自身の知識を深めるのにも役立っています。始めこそひらがな入力でしたが、今では毎日のように弄っているせいかローマ字もスラスラと打てるようになりました。
私って熱中すると、自分でも恐ろしいぐらいの記憶力を発揮するらしいです。
しかし結局の所私が一番調べたい事柄である「私が何の妖怪なのかと言う情報」は、三週間程経った今も見つかる気配はありません。
そもそも妖怪がインターネットを使うってのもおかしな話ですけどね。
「ーーおいツクモノ! アタシの話聞いてるか?」
「は、はい?」
「やっぱり聞いてなかったろぉ」
いけないいけない、調べ物に夢中で轆轤首さんの話が耳に入ってきてませんでした。でもこんなに私を引き込んでしまうパソコンも悪いですよ、少しは自重した下さいパソコンさん。
「で、何の話でしたっけ?」
「ったくお前にパソコンなんか与えたらろくな事ねぇな。今週末の旅行何処に行くかって話だよ」
そうでした。実はついこの間、轆轤首さんこんな事を言い出したんです。「長い間休みが取れそうだから県外に旅行でもしないか」ってね。
そりゃあもう嬉しかったですよ、インターネットでも何処に行きたいのか県中の事を調べもしましたし。けれど私が住んでるこの街の事もあんまり知らないのに、いきなり他府県に旅行だなんて轆轤首さん早過ぎると思いませんか。
私は少し早いと思いますよ、せめて段階は踏まないと。なので私はこう言いました。
『私この街の事を知りたいのでまだいいですよ』
『はぁ? お前は市松人形なんだからこの町出歩かれるとバレた時大変なんだよ。せめて県外行こうぜ』
でもあっさりと却下されちゃいました。当たり前です、轆轤首さんはもう二百年もこの町で暮らしてるんですから。そろそろ外の景色も観たくなってきた頃合いでしょうし、第一私がそれを拒む権利もありませんよ。
「轆轤首さんは何処に行きたいとか目星は付けたんですか?」
「おう、今回の旅はお前の手掛かりを掴む旅にしようと思っててさ、まぁちょっと貸してみな」
そう言うと轆轤首さんは、私から半ば強引にノートパソコンを奪い取って凄まじい速さのタイピングを始めました。
カチカチカチカチ。キーを押す音が陽の光をいっぱいに取り入れた部屋で大きく鳴り響きます。私と違って轆轤首さんの手は大きいので、キーを押すスピードもそれだけ段違いに速いのです。うぅ、ちょっとだけ羨ましい。
「ここだよ」
そして青白く光る画面を指差す轆轤首さん。その覗き込んだ画面の先に書かれていた単語に、私はある疑問を抱きました。
「徳島県……ですか?」
四国の東端に存在する県である徳島県。そこに彼女は行きたいらしいのです。
徳島県の事は私もあまり詳しくは知らないのですが、日本一低い山がある事ぐらいはテレビでやってたので知ってます。確かに私達が住んでいる雛形区からも結構離れてますので、旅行に行く場所としては名所もあっていいのかも知れませんね。
けれど名所ならば他の県にも有名な場所はあるでしょうに、何故また徳島県なのでしょうか。単に変わった山を観たいだけなら有名な富士山がある静岡県や、日本のマチュピチューーでしたっけーーがある兵庫県の方が良いと思うんですが。
「お前……今徳島県の事馬鹿にしなかったか?」
ギクッ、何でこの人はこんな時だけ勘が良いのかな。どうせならその勘をもっと他の所で活かせたらいいのに……例えば競馬とか。
やっぱり前言撤回です、轆轤首さんが賭け事に手を出してしまったら考えるだけでもゾッとしますよ。何てったって似合い過ぎてて怖い。
そんな事は置いておくとして、いつまで経っても轆轤首さんが質問の意図を教えてくれないまま、約二分程が経過しました。
馬鹿にしなかったかなんて言われても、まず私自身徳島県の事を詳しく知らないから仕方ないでしょ。 もういい加減答えを教えてくれてもいいんじゃないですか、轆轤首さん。
「ツクモノ……お前まだわかんねぇみたいだな」
「わかんないです」
ここはもう何も言う事が無いので正直に返事をしました。
幾ら考えたってわかんないものはわかんないのですよ、だって無から有を生み出す事は出来ないんですから。
「この旅行はお前を探す旅でもあるって言っただろうが!」
すると轆轤首さんは突然、頭がわんわんするぐらいの大きな声で発狂しました。それはもう耳がキーンとするどころではありませんよ、寧ろぶっ壊れちゃいそうです。突然叫ばないで下さい!
そして彼女は徳島県に続けてスペースした後、「妖怪」と打ち込み検索エンジンにかけ始めました。何やってるんだろう、そう思ったのも束の間、そこでヒットするサイトの数は私の想像以上の物でした。
私は知らなかったのですが、どうやら徳島県三好市にある山城町と言う場所は、妖怪の伝承が数多く残る、言わば妖怪村と呼ばれているらしいのです。かの有名な妖怪漫画家、水木しげるの漫画に出てくる“児啼爺”と言う妖怪の故郷でもあるみたいですね。
「妖怪村……って、こんな場所があったんですか?」
「……お前あれ程パソコン弄ってたのに知らなかったのかよ」
「全く眼中にありませんでした」
と言うかそもそも旅行に関して私が着目していた点と、轆轤首さんが着目していた点とはかなりのズレが生じていたみたいです。だって私旅行って聞いてたものだからつい、楽しい事ばかりのプラン立ててるのかと思い込んでましたから。
けれど轆轤首さんは違いました。彼女はこんな時でも、私の正体を探る事を忘れてはいなかったのです。
轆轤首さんが画面を下にスクロールさせていく内に、私は彼女が行きたがってそうな名所らしき場所を見つけました。
「それでこの“妖怪屋敷”ってわけですか」
「ああ。ここに行けば山城町に住む妖怪の情報が得られると思ってな」
なるほど、先の話は読めました。妖怪村と呼ばれる山城町に住まう妖怪達、そんな彼らと出会う事が今回の旅行の目的なんですね。
そうなってくると当然、ある疑問も自ずと浮上してきます。それは実際にその地に伝承通り妖怪が存在しているのかどうか、です。
「因みに確証の方は……」
「そんなものは無ぇ」
「ですよね」
まぁ完全に予想出来ていた反応につい苦笑いをしてしまいましたよ。しかし他の妖怪の方とのパイプが皆無だと言っても過言ではない轆轤首さんと、実質その轆轤首さんとしか繋がりを持っていない私とでは正直、その行き当たりばったりな勘に頼る他ないのです。
もしあの時のお爺さんが少しだけでも家に留まってくれていれば……そう考えるだけで気が重くなります。いいえ、過ぎた事をとやかく言っても仕方がないですね。
しばらく妖怪屋敷及びその周辺の情報を眺めていると、轆轤首さんは急に私の前に手を合わせて謝罪してきました。
「最初に言っとくがアタシも仕事があるからよ、日数は一泊二日で我慢してくれ。これだけは勘弁な」
「あ、そこは別に気にしないで下さい」
彼女は私が旅行日数の少なさにガッカリしないかどうか心配だったようですけど、私は旅行に連れて行ってくれるだけでも十分嬉しいんです。日にちが少しぐらい少なくたって文句なんて言いませんよ。
それにさっきも轆轤首さんは言ってましたけどこの旅行は彼女が私を探す為に組んでくれた計画なんですから、私もしっかりそこで自分を見つけられるように一生懸命に頑張ります。
「じゃあ行き先の方は徳島県で決めていいな、ツクモノ」
「はい!」
私は出来る限り声を張って返事をしました。そりゃあもう楽しみで仕方ありませんからね、元気な返事をするのも無理ありません。
「よし、ならお前は山城町で他に行きたい場所でもあるか調べておいてくれ。その間にアタシは今日の晩飯でも買ってくるぜ」
「わかりました」
ここで再びノートパソコンが私の前に手渡されました。轆轤首さんは自炊しないので、またいつものように晩御飯を買ってくるみたいですね。ならその間に旅行に必要な物でも調べておくとしましょう。
第一に着物の変えやお洋服は轆轤首さんが拵えて下さったので安心です。
本人が豪語した通り、轆轤首さんの裁縫の腕前はかなりの物でした。前の着物も私の中ではかなり気に入っていた物なんですけど、今私が着ている着物もそれに劣らない程の出来なんです。
しかも彼女は着物だけに飽き足らず、私サイズのお洋服まで作って下さいました。中でもパーカーは特に愛用しています、私は汗を掻きませんので尚更です。
あ、でもそれじゃあそんなに着替えなんて持っていっても意味ありませんか。
結局何が必要なのかを考えた結果、食事をしなくてもいい私には何も必要ない事がわかりました。馬鹿だな私って……。
そうなると着替えが必要で、尚且つ私を運ぶ為の大きなバッグも持っていかなければならない轆轤首さんは、大変どころの騒ぎじゃないですね。何だか申し訳ない気分でいっぱいです。
「ツクモノ! じゃあ行ってくるなぁ!」
すると何故か玄関の方から轆轤首さんの声が聴こえてきました。えっ、あなたまだ家を出てなかったんですか。
「何処までもマイペースな人だなぁ」
あまりの彼女のマイペースさに、私はつい声を漏らしちゃいました。けど轆轤首さんらしいと言えば轆轤首さんらしいですけどね。
とにかく旅行、楽しみです。
気が付くと私は仰向けになって知らない天井を見上げていました。何処だろうここーー。
少し腹部に重みを感じたので恐る恐る見てみると、綺麗な羽毛布団らしきものが乗っかっています。状況を察するにどうやら私も眠っていたようです、しかもこんな上等な寝床の上で。
この布団も何だか柔らかい感じの匂いがします。おそらくこの匂いを言い表すのなら、甘い匂いと言う言葉が適切でしょう。
カーテンは締め切っているので部屋は薄暗かったですが、日が既に上がってしまってるのは木漏れ日から見て取れました。
一応カーテンの光が私に直接当たらないように配慮してくれている辺り、轆轤首さんのしっかりとした気配りも垣間見えます。私、あの人に助けてもらってばかりだなぁ。
「と言うか私って眠れたんだ」
ふと私は思った疑問を口に出しました。
かれこれ何年もお婆ちゃんの家の市松人形として飾られていた私ですが、実の所これまで眠った事は一度も無かったんです。理由としては目を瞑るって言う行動自体を、私の動かない体が許してくれなかっただけなんですけどね。
なので眠る事で得られるこのすっきりとした爽快感も、同様に感じた事はありませんでした。意外と睡眠って気持ちのいいものなんですね、肩もより動きやすくなった気がしますし。
しかしそれがあったおかげで、ある程度私の知識は豊富になったとも言えるでしょう。何せ私は眠れない以上誰も居ない部屋で考える事と言えば、言葉の意味を理解しようとするぐらいでしたから。
まぁ自分自身の認識はあくまでも市松人形としてしか見ていなかったので、私の名前は考えようとも思いませんでしたけど。
「にしてもここの部屋はいつもの部屋に似てるなぁ」
この部屋はお婆ちゃんの家で私が飾られていた部屋とよく似ています。多分この建物には他にも同じような部屋が沢山あるのでしょう、見覚えがあるのも無理はないかも知れません。
懐かしいような、悲しいような、何とも微妙な心境です。
ほんの数日前の思い出に浸る事も悪くはないですが、取り敢えず彼女に朝のおはようの挨拶をしなければなりませんね。何せ私はこの家に居候させて頂いている身、一切の挨拶も無しにここに居座るなど厚かましいにも程がありますし。
そう思った私は自分の上に乗っかった重い布団を何とか跳ね除けて、敷き布団の上から起き上がりました。こうしてみてわかったけど起き上がるのもまた、気持ちがいい。
道中の事なんですが部屋と廊下を繋ぐ境目の辺りには、ちょっとした段差があるんです。それは轆轤首さん、と言うか人間達からすれば、そこまで高くは感じない段差なのでしょう。ですが私からすればその小さな段差でさえ、正直少し辛いんですよ。
何せ足が短いのもさる事ながら、私は歩く事にまだ慣れていないので長襦袢の裾は、私を蹟かせようとちょっかいをかけてくるんですから。昨日は襦袢姿が快適だと感じていたのに、慣れるのも逆に恐ろしい物です。
台所と一体になった小さな廊下を抜けて昨日の部屋に辿り着いた私は、轆轤首さんがこの部屋に居ない事に気が付きました。
「あれ? 轆轤首さーん」
一体何処に行ったのやら。そんな事を考えながらしばらく辺りを見回してみると、カーテンの締められていない窓の向こうで私はあるものを発見しました。
それは長い間夢見てきた太陽の光、ではなく私の昨日着ていた筈の、金色の刺繍が入った赤い着物でした。
もう絶句しちゃいましたよ。
見たかった太陽の光以前に、そもそも私の着物がその直射日光の的になっちゃってるんです。もう色が褪せちゃうってレベルではありませんよ。
それに着物を救出するべく急いで窓を開けようにも、全然鍵に手が届かない。察しの通り私の低い身長とまだ弱い腕力では敵わぬ相手だったのです。
ただひたすらに日光に当てられて褪せていく私の着物ーー。特にお婆ちゃんが気に入ってくれていた着物だっただけに、見ているだけで全身の力が一気に抜ける脱力感が訪れました。
けれどどうあがいてもあの着物の運命は変わらず、着物はハンガーに吊るされたまま無残にも陽の光を受け続けています。ああ、哀れなり私の着物ーー。
絶望のあまり目のやり場に困っている私でしたが、ふと机に置き手紙らしきものがある事に気付きました。
「何だろこれ」
昔から私は何故か字を読む事が出来たので、手紙の文字を読む事ぐらいは造作も無い事です。
内容を読むにこの手紙の書き手は轆轤首さんらしく、割と綺麗な字であの可哀想な着物についての真意が綴られていました。
わるい。
きのうおまえがかけてくれたきものにげろはいちまった。
いちおうあらってほしといたけどとれねぇとおもうんだ。
ほんとごめん。
しごといってくる。
おそらく私に文字を読む力が無かった時も考慮して、彼女は文章全部を平仮名で書いたのでしょうか。
要らぬ気遣いです、何度も言いますが私は日本語を読むぐらいお茶の子さいさいなんですから。今やこの彼女の優しさですらも気に障ります。
つまりはこの手紙の意味を理解するに、轆轤首さんは昨日私が掛け布団代わりに掛けてあげた着物に、自分の吐瀉物をぶっかけてしまったと言う事なんですね。
だから洗って殺菌ついでに直射日光に当てちゃってたんですか。
「あり得ないですよ全く!」
抑えきれぬ怒りを前に、私は遂に彼女の手紙をビリビリに破ってしまいました。
着物に吐瀉物産のシミをつけるだけでは飽き足らず、直射日光まで当てて色褪せをも実行しようとするとは、わざとではないにしてもやり過ぎです!
もはやこの時の私には、これから彼女とやっていける自信は微塵たりとも残ってはいませんでした。
「もうこんな所には居られない!」
非力故に物に当たる事すらままならない私は、この怒りを何処かへぶつけたい一心で叫びます。御近所迷惑、知ったこっちゃありません。
「こんな家出ていってやる! 轆轤首さんなんて大っ嫌い!」
何度も何度も同じ発言を繰り返しながら玄関へと辿り着いた私でしたが、実はこの時、またある事に気付いて更なるショックを受けました。
「えっ?」
それはまるでマヌケを見るように私を見下ろすドアノブ。そう、私がこの家の鉄扉を開けるには身長が圧倒的に足りなかったのです。まぁもし足りていたとしてもそもそも、腕力が無くて無理だったでしょうけどね。即ちこのドアもあの窓も同じ、私には強大過ぎる存在だったのです。
拷問に等しい状態で晒されている着物も助けられない、家出しようにも身長が足りずドアが開けられない、もうこれでは自分でも何がしたいのかよくわかりません。
私は自分の無力さを酷く痛感し、何足か並べられている靴の上で膝を突きました。これじゃあ轆轤首さんが帰って来ても笑われるだけですよ、私。
太陽の陽がだいぶ落ち着いてきた時間になっても、私の気持ちは晴れる事はありませんでした。寧ろ更に落ち込んでいったと言ってもいいでしょう。どうせあれだけ日が照っていれば着物も褪せるちゃってますし尚更です。
昨日の涙出た涙はどうやら昨日の内に消費してしまったようで出る事はありませんでした。どうりでスッキリしない訳です。
「はぁ」
あれ程見たかった太陽の光も、今では何であんなにまでに見たかったのかが不思議なくらいに憎たらしく思えていました。早く消え失せてくれれば良かったのに、そんな想いが募る一方です。何もかも轆轤首さんのせいですよ全く。
かれこれ五、六時間程この玄関に座り込んでいましたが、そろそろ私の膝もヒリヒリと痛みを感じてきるぐらいになってきました。
それに加えて泣いてスッキリしたくなった事もあり、私は遂に玄関から旅立つ事にしました。
「お水……飲みに行こ」
何よりこのモヤモヤとした感情を晴らすには、昨日みたいに涙を流す事が一番です。しかしながらお腹が減らないのもそうなんですけど、やっぱり喉の渇きがあまり感じられないのって妖怪なのだからでしょうか。
妖怪は一体何を原動力に動いているのやら、まぁ何とも奥深い生き物です。
台所に着くや否や私はここでも絶句してしまいました。当然です、窓や扉の鍵に手が届かないのであればシンクも例外ではないのですから。
ここに来てまでも低身長に邪魔をされる、もう私はこの家で過ごす事は本当に難しいのかも知れません。いいえ、人間が暮らしている居住区、と言った方がいいですね。とにかくこれでは水を口に入れる事すらままなりません。
為す術もなく私は、暗くなりつつあるあの着物が外に干されている部屋へと足を運びました。とは言っても結局部屋の電気には手が届きませんので、私が出来る事と言えば窓の外に見える着物と、黒と赤の混ざり合った空を眺める他ありませんが。
いずれにせよ暇なんです。私がここに居る以上は出来る事もあまりありませんし、これじゃある意味孤独と大差無いですよ。
立っていてもしょうがないので私は、何も敷かれていない少しヒンヤリとした床に腰を下ろしました。ここでもまた、冷覚と言う感覚は私を刺激してきます。
外の景色も完璧に黒ずんでしまい、外にあった筈の着物も薄っすらとしか見えなくなってきました。来たるべき時が来てしまったとも言えますね。
そしてとうとうこの部屋も明かりと言うものを失ってしまう、そう思った次の瞬間でした。突如としてその方は、私の前に現れたのです。
「こんな暗い部屋で独りぼっちじゃあ君もさぞ心細いだろう?」
初めは轆轤首さんが帰って来たのかとも思いました。
ですが家のドアが開く音も聞こえず、況してや声もここまで嗄れているとなると、その考えも自ずと消失します。そもそもこの家の私と同じ住人がいるなんて聞いてないし。
様々な考えが交錯していると部屋の電気がパチッと通る音がしました。
「ど、ど、どちら様ですか!?」
「なあに、ワタシはここの住人の古い知り合いだよ」
光を照らされた闇の中から現れたのは、それはもう頭の長い老人でした。
服装も今の人達では着ていなさそうな着物姿で、何だか肌もお婆ちゃんみたいにシワシワになっちゃってます。この人も妖怪なのでしょうか、いや、どう見ても妖怪ですか。
轆轤首さんの知り合いとあらばまず挨拶をしなければなりませんね。こう言う時の挨拶って早く言った方が良いんですよ、“人間関係を築こう”って番組でやってました。
「わ、私……市松人形のツクモノって言います。昨日からこの家に住まわせて頂いてるんです」
「そうなのかい……これもまた運命か」
運命? まぁ運命と言われれば強ち間違いでもないのかも知れません。昨日私が轆轤首さんと出会う事も、いっその事運命として一括りにしてしまえば楽ですからね。
ですけどこの人が言う運命って何処か、私が思っている物とは違うような気もします。何れにせよ本人に聞かずして始まるわけもないので、一先ず質問でも投げ掛けてみますか。
「あ、あの……」
「いや、今の言葉は忘れてくれ」
いや、じゃなくて何か思わせぶりな事言ったくせにそれはないですよ、そんな事を言われちゃ余計に気になっちゃうじゃないですか。けれどこの人の顔を見るからに、これ以上の話も聞き出せそうにもありませんのでここは引くとしましょう。無論、気になる感情は治りませんけど。
「所でツクモノちゃん……と言ったかな。君は何だか悲しそうな顔をしてるいるけど一体どうしたんだい?」
私ってそんなに表情が顔に出てるんだ、私は思わず自分の顔に手を当ててしまいました。硬い、が率直な感想ではありますがどうやら、私は他の人がパッと見ただけでもわかる程に冴えない顔をしているみたいです。
そりゃあだって悲しいですよ、私の着物は天日干しされちゃいますし家出も出来ないしで踏んだり蹴ったりなんですから。
「……わかっちゃいますか?」
「どうやら君は感情を押し殺すのが苦手みたいだからね」
それって簡単に言えば、私が嘘は吐けないって事ですよね。
何でも表情に出してしまうってのは、きっと素晴らしい事ではあるのでしょうけど同時に、自分にとって不利でもありますし、まぁ素直に喜べるような物ではないです。
自分が自分を偽って我慢しているつもりでも、他人から見ればあからさまに感情を曝け出しているかのように見えちゃうんですからね。じゃあそれって逆に良い事無いじゃん、は言わないで下さい。
「ワタシで良ければ話を聞こうか? それに君とはいいお茶が飲めそうだ」
出会って間も無いのに私の話を聞いてくれるなんて、絶対この人は聖人か何かですよ。見ず知らずの人にこうも易々と心情を聞き出すなんて私には絶対に無理ですから。
やっぱり轆轤首さんを含め彼女の周りって聖人しか居ないのでしょうか……とも思いましたがよくよく考えてみるとそこに轆轤首さんを入れている時点で、私って甘々な人間だなって痛感しました。さっきまで私あの人の事大嫌いって言ってたのに。
「……ありがとうございます」
この人の親切を自分の為にも無駄にしないよう、私も自分が思った事などを包み隠さず話す事にしました。
「聞いてくれている人にはしっかりと礼儀を尽くすべきだ」ってお婆ちゃんも生前よく言ってましたしね。
それから私は昨日から今日にかけて起こった出来事を洗いざらいこのお爺さんにお話ししました、お婆ちゃんの事は勿論昨日あった轆轤首さんとの出来事、その全てを。
お爺さんが聞き上手な所もあり、つい私も感情を加えての説明になっちゃってましたのは内緒です。
それとはまた別の話なんですけど、客人にお茶をお出しするのが住人としてマナーだと思うのですが、なんとお爺さんが何から何までやってくれたんですよ。
そんな事すら出来ないなんて、身長が低い事が祟ってるにしても私って、本当に役立たずですね。
そんなこんなでお爺さんは陶器の器に入ったお茶を啜りながら、棚から勝手に取り出した大福を手に取って言いました。
「カッカッカッ! そりゃあ彼女が悪いな!」
「で、ですよね!?」
まるで痰を喉に詰まらせたかのような、独特な笑い方に若干引いてしまいましたけど、この人も同意見なのは嬉しいです。理解者が増えたと言えばいいのかな、何とも言い表し辛いですがとにかく嬉しいです。
「特に金の刺繍が入った着物だと尚更さ。あの子もそれぐらいはわかってると思ってたんだけどなぁ」
見た目もご老人なだけに、着物に関する知識もかなり持ち合わせているみたいですね。流石は現役で着物を着こなしている方、轆轤首さんも見習って欲しいぐらいですよ。
「けれど君も彼女の事は知っておかなくちゃいけないよ」
すると突然、お爺さんは畏まったような顔で私に話し掛けてきました。それはあたかも轆轤首さんの事を、私がまだ理解しきっていないとでも言いたそうな口調で。
「轆轤首さんの……事ですか?」
私は訊ねました、本当にその見解であっているのかと。まぁそれ以外には考えられませんけどね。
「ああ」
どうやら合ってたらしいです。確かに昨日の夜は轆轤首さんの事もちょろっと話はしましたけど、実は殆どが私の話でした。ですので私が轆轤首さんの事を何もわかっていない、と言われたらおそらくは反論出来ないです。
改めて思うとそれって同居人として失格なのかな。
「あの子はね、妖怪としても変わってる方なんだ」
何だか私も、それは薄々感じていました。私の中での妖怪のイメージはもっと堅苦しい物だったんですけど轆轤首さんを見ていると、そんなイメージも一瞬にして打ち砕かれちゃいましたし。明るい性格に他者を尊重するような考え、第一社会への適応力も素直に凄いなぁと思いましたよ。
ついでに言うと見た目も流行に乗ってるって感じがします。ーーそれは思い違いか。
「妖怪と言うのは昔から人との繋がりは深いんだ、脅かしたり助けたりと個々によって関わり方は様々だけどね。けれど現代、妖怪と言う存在は殆どの人間の記憶から忘れ去られようとしている。何が言いたいのかと言うと、今の時代は妖怪にとって暮らし辛い環境だって事さ」
妖怪と人間との繋がりは今と昔とでは違う、このお爺さんはそう言ったんです。すると昔は今みたいに人と人とがギスギスとした関係も、あまり存在しなかったのかも知れませんね。お互いに真に信じ合える、それは信仰の中で存在し続ける妖怪にも暮らし易い環境と言えるのかな。
じゃあ今の時代に生まれた私は……あまり深くは考えないでおきます。
「暮らし辛い……環境」
「そう。しかし轆轤首は敢えて人間との共存を選んだ、何せ人間が生み出す文化が好きだからね。じゃないと妖怪が人間の仕事なんてしないさ」
けれどだんだんわかってきました。何故自分と同じ妖怪に出会う確率が全然無いのにも関わらず、轆轤首さんは人間社会に溶け込もうとするのかを。彼女は人間が惚れたからじゃない、彼らが作り出す文化に惚れたのです。
だからこうして今も人間社会で生き抜く為に朝から仕事に行っている、だから私と出会った時にあんなに喜んでいた、それもまさかこんな時代でバッタリ仲間と出会えるとは思ってなかったから。なら私も同じ考えですよ。ーー轆轤首さん、貴方と敢えて本当に良かった。
貴方がもし私を拾ってくださらなければ、もうこんな事は昨日だけで何度も考えています。
「まぁあの子もあの子なりに精一杯生きているんだ。あんまり責めないでやってくれ」
「はい……私もちょっと怒り過ぎちゃってました」
言われずとも既に、私の中では轆轤首さんへの怒りは消え去ってました。
単純と言うか絆され易いと言うか、私ってとにかく意思が弱いですよね。もっと精神的にも成長して、自分の意見を主張出来るようになりたいです。
「カッカッカッ! まぁ何事も経験が大事さ。怒ってみるのも悲しんでみるのも、これから生きていく上で為になっていくよ」
何事も経験が大事、そう言えば轆轤首さんもおんなじ事を言ってましたっけ。やっぱり長く生きていれば生きている程その言葉の重さもわかってくるのですかね。
まだ彼らにとって私なんか赤子のような存在ではあるんだろうけど、いつかそう思える日も来るのだと考えると、何か嬉しい感じがします。ーー本当に人に恵まれたな、私。
「それはそうとお茶が冷めてしまうよ、早く飲んだ方がいい」
「あっ、はい!」
せっかくお爺さんが入れてくださったのに話に夢中でお茶を飲むのをすっかり忘れてました。
湯気は辛うじてまだ、モクモクと発せられてるから冷めてはないと思います。ーーところで私って、お茶は飲めるのかな。ちょっとしたようで意外と重大な疑問が、私の脳裏に過ぎりました。
「あのう……」
「どうしたんだい? お茶は苦手かな」
「そうじゃなくてその……付喪神って飲食は出来るんですか?」
それは轆轤首さんに訊ねてもわからないと言われてしまっていたので、この真偽はわからずじまいだったから故の事でした。
しかし今私の目の前に居るのは轆轤首さんではなく、長生きしてそうな妖怪のお爺さんです。まさに答えを知るには絶好のチャンスと言えるでしょう。
「付喪……神だって?」
ですがこの時、何故かはわかりませんがお爺さんの目は大きく開かれました。
驚いたようにも見て取れましたし、何かを理解したようにも見えるし、もしかして付喪神って飲み食いしちゃダメだったのでしょうか。少し不安が募り始めたその時でした。
ガチャン。
玄関の方で鉄のドアが開く音がしました、どうやら轆轤首さんが帰宅されたみたいです。お爺さんの方に目をやると、お爺さんは優しそうな表情をして私の顔を見ていました。ーーあのねお爺さん、私お爺さんの言いたい事わかりますよ。
「いっておいで、ですよね?」
「ああ」
それ以上お爺さんは何も言いませんでした。今私のすべき事である轆轤首さんとの仲直りを、私自身がわかっていたからです。
私は精神的にも強くならなければなりません。こう言った日々の積み重ねも大事ですしそれを無駄にしない為にも、今日のような出来事も乗り越えられるぐらいにはなりたいですから。
それも何事も経験、その言葉の真意が理解出来る日が来るまで。
私はお爺さんに今出来る有りっ丈の笑顔を向けました、それもありがとうの意味を込めて。
また後でゆっくりとお話をしましょうね。
「ツクモノ……」
玄関に向かおうとした私ですがその途中、バッタリと轆轤首さんに出くわしちゃいました。
あらあらせっかく私がお出迎えしようと思ってたのに、それにこの人は何やら手には大っきな紙袋まで下げちゃってますよ。
取り敢えずは下手に彼女を刺激しないよう、慎重に話し掛けるべきですね。
「轆轤首さん……あの」
でも轆轤首は私の想いなんて考えもせずに、いきなり自分の感情を鉄砲玉の如く飛ばしてきました。
「ツクモノォ! アタシが悪かった、本当にすまねぇ!」
「えっ」
心の準備が整っていなかった私は、当然のように唖然としてしまいました。
一体どんな反応をすれば良いのやら、全くこの人には何度も驚かされちゃいます。けどそれがこの人の良い所なのかも。
「お前の着物に付いた汚れは簡単に落ちるようなもんじゃねぇ。しかもその汚れを数時間放置したとなると尚更だ」
なんだこの人も案外、着物の事をよくわかってるじゃないですか。そうですよ轆轤首さん、あなたの吐瀉物で汚れてしまった私の着物は修復不可能になっちゃったんですよ。
わかってるなら何で追い討ちを掛けるかのように、わざわざ直射日光へ当てる真似なんかしちゃったんですかね。
「じゃあ……」
「だから私は考えたんだ、お前に合うサイズの着物なんて中々売ってるしろものじゃないからな。そしてある結論に至った、そうこれだ」
すると轆轤首さんは手に持っていた大きめの紙袋を、私の前にドサリと置いて見せました。そして紙袋から取り出した物を私に向けてきたんです。
虫とかだったら嫌だなみたいな事を考えてると、なんとそこから出てきたのは私の予想とは大きくかけ離れた物でした。
「自分で着物を作ればいいんだよ」
「はい?」
それは私の着物に使われていた物とよく似た刺繍が施された黒い布でした。
一見着物のようにも見えましたが、畳み方からしてその可能性も低いでしょう。にしても自分で着物を作るって、この人は何考えてるんですかね。
「こう見えてアタシはな、手先は結構器用なんだよ。だから昔はよく自分で着物を作ったりしたのさ」
なるほどそう言う事でしたか。つまりは私の着物を天日干ししちゃった理由も、あの着物を私に諦めさせる為だったって事なんですね。だったらここで「自惚れるんじゃないよ、私はあの着物がよかったんだ!」なんて言っちゃったら轆轤首さん、絶対に悲しむなぁーー。わかりました。助けてもらった御恩もありますし、着物の件は轆轤首さんに任せます。
「じゃあ……轆轤首さん。着物の事、お願いしてもいいですか?」
「おう、このアタシに任せとけって。そうと決まれば早速作業に取り掛かるか!」
すると轆轤首さんは走って玄関に入ってすぐにある暗い部屋へと行っちゃいました。
にしても賑やかな人ですね、これでは返事をする暇も全くありませんよ。そんな彼女のペースにも、早く着いていけるようにならないと。
でもこれで轆轤首さんとは仲直りはーー。出来たのかな。
私ってこう言う経験がありませんので少し、不安な所もあるんです。もし轆轤首さんがまだ怒ってるんだったらどうしようって。
でも私は轆轤首さんじゃありませんし他人の心が読める妖怪でもありません。それもこれから生きていく上でわかるようになるんでしょうか。いいえ、わかるようになりたいですね。
何はともあれ、私から見れば仲直りは出来たように見えますので良しとしましょう。それもこれもあのお爺さんの助言のおかげです、もう感謝しても仕切れないぐらいですよ。
思っていたより早く暇が出来てしまったのでお礼の言葉でも言いに行きましょうか。廊下とさっきの部屋はかなり近い距離にありますので、私はすぐさまお爺さんの居る部屋に顔を出しました。
「お爺さーん」
気味の悪いくらいの静けさに、ポツリと灯る私のまだ聞き慣れない声。大福の空き包装と湯のみはそのまま、そこにお爺さんの姿はありませんでした。
トイレにでも行ったのかな、でもそれじゃあ轆轤首さんが見ていた筈です。どうやらお爺さんは私と轆轤首さんとが会話している間に、何処かへ行かれちゃったみたいですね。
せっかくお礼を申し上げたかったのに、この時の私は何だか申し訳ない気分でいっぱいでした。
でもまた、会えるといいな。そして伝えたい、ありがとうの感謝の言葉を。
「お爺さん、また会え……」
「ツクモノ! リビングの引き出しに入ってるボビン取ってきてくれぇ!」
そんな私の気持ちを考えもせず、轆轤首さんの声は家どころかこの建物中に響き渡りました。
全くあの人ときたらーー。と言うかボビンって何なんですか、聞いた事無い物の名前を言われてもわかんないですよ。
「どれですかぁ轆轤首さん!」
けれど私も人の事は言えないですね。やっぱり声が出る事は素晴らしいですし、大声を出すのもこれまた気持ちがいい。御近所迷惑、知ったこっちゃありません。
「これだよ。ここにあるやつ取ってくれ」
「ひゃっ!? ちょっと轆轤首さん、首伸ばしてこの部屋まで来ないで下さいよ!」
「悪りぃ悪りぃ」
すると待ちくたびれたのか、轆轤首さんは自身の首を伸ばして私の部屋へと首を伸ばしてきました。
自分の特徴を最大限に活かしてるなんて素晴らしい事ではありますけど、わざわざそれを私に見せつけるような真似はやめて欲しいです。昨日初めて轆轤首さんと出会ったので、まだ彼女の首が伸びる事に私は慣れてませんから。
けどこう言う何気ない会話も、案外悪くはないですね。何だかここが私の居場所なんだなって実感が湧いてきます。
出来る事ならお婆ちゃんともこんな会話をしてみたかったなぁーー。やだ、私ったら何を考えているのやら。
*
『昨日未明、さいたま市雛形区の住宅から火が出て、この家の住人と見られる八四歳の男性が死亡しました。また今回の火災も前回同様何者かによる故意的な犯行と見て、警察はーー』
たまたま轆轤首さんがつけたチャンネルが、昨日起きた放火事件のニュースを報道していました。
雛形区は私達が住んでいる地区でもありますので、この出来事も他人事で見ている訳にはいかないです。しかもこの連続放火魔の犯人は高齢者の方ばかりを狙っているので、私も怒りを露わにしてしまいます。
まぁ私がお婆ちゃんっ子だったからってのもありますけどね。
「もうこの放火で三件目だな。全く警察は何やってんだか」
こればかりは早く犯人が捕まる事を祈るばかりです。もうこれ以上お年寄りの方が天命を全うせずに亡くなられるのは心が痛みますから。
あの日からと言うもの、轆轤首さんの家での私の生活は百八十度変わりました。
まず第一に、彼女は各部屋のドアに私専用の入り口を作ってくれました。ーーそれも県営住宅なのに無断で。流石に玄関のドアまでは貫通させませんでしたけど、それでも過ごしやすくなった事に変わりはありませんね。感謝感謝です。
「ってかお前はせっかくアタシが休みだってのに朝からパソコン弄ってばっかりじゃねぇか」
「そうですか? 私はちゃんと轆轤首さんの話も聞いてるつもりですけど」
「本当かよ。じゃあこの前話した事だけどさぁ……」
何よりノートパソコンなる物が私に手渡されたのは大きい出来事でした。
それによって轆轤首さんが仕事に出掛けた後の暇も解消出来ますし、更には自身の知識を深めるのにも役立っています。始めこそひらがな入力でしたが、今では毎日のように弄っているせいかローマ字もスラスラと打てるようになりました。
私って熱中すると、自分でも恐ろしいぐらいの記憶力を発揮するらしいです。
しかし結局の所私が一番調べたい事柄である「私が何の妖怪なのかと言う情報」は、三週間程経った今も見つかる気配はありません。
そもそも妖怪がインターネットを使うってのもおかしな話ですけどね。
「ーーおいツクモノ! アタシの話聞いてるか?」
「は、はい?」
「やっぱり聞いてなかったろぉ」
いけないいけない、調べ物に夢中で轆轤首さんの話が耳に入ってきてませんでした。でもこんなに私を引き込んでしまうパソコンも悪いですよ、少しは自重した下さいパソコンさん。
「で、何の話でしたっけ?」
「ったくお前にパソコンなんか与えたらろくな事ねぇな。今週末の旅行何処に行くかって話だよ」
そうでした。実はついこの間、轆轤首さんこんな事を言い出したんです。「長い間休みが取れそうだから県外に旅行でもしないか」ってね。
そりゃあもう嬉しかったですよ、インターネットでも何処に行きたいのか県中の事を調べもしましたし。けれど私が住んでるこの街の事もあんまり知らないのに、いきなり他府県に旅行だなんて轆轤首さん早過ぎると思いませんか。
私は少し早いと思いますよ、せめて段階は踏まないと。なので私はこう言いました。
『私この街の事を知りたいのでまだいいですよ』
『はぁ? お前は市松人形なんだからこの町出歩かれるとバレた時大変なんだよ。せめて県外行こうぜ』
でもあっさりと却下されちゃいました。当たり前です、轆轤首さんはもう二百年もこの町で暮らしてるんですから。そろそろ外の景色も観たくなってきた頃合いでしょうし、第一私がそれを拒む権利もありませんよ。
「轆轤首さんは何処に行きたいとか目星は付けたんですか?」
「おう、今回の旅はお前の手掛かりを掴む旅にしようと思っててさ、まぁちょっと貸してみな」
そう言うと轆轤首さんは、私から半ば強引にノートパソコンを奪い取って凄まじい速さのタイピングを始めました。
カチカチカチカチ。キーを押す音が陽の光をいっぱいに取り入れた部屋で大きく鳴り響きます。私と違って轆轤首さんの手は大きいので、キーを押すスピードもそれだけ段違いに速いのです。うぅ、ちょっとだけ羨ましい。
「ここだよ」
そして青白く光る画面を指差す轆轤首さん。その覗き込んだ画面の先に書かれていた単語に、私はある疑問を抱きました。
「徳島県……ですか?」
四国の東端に存在する県である徳島県。そこに彼女は行きたいらしいのです。
徳島県の事は私もあまり詳しくは知らないのですが、日本一低い山がある事ぐらいはテレビでやってたので知ってます。確かに私達が住んでいる雛形区からも結構離れてますので、旅行に行く場所としては名所もあっていいのかも知れませんね。
けれど名所ならば他の県にも有名な場所はあるでしょうに、何故また徳島県なのでしょうか。単に変わった山を観たいだけなら有名な富士山がある静岡県や、日本のマチュピチューーでしたっけーーがある兵庫県の方が良いと思うんですが。
「お前……今徳島県の事馬鹿にしなかったか?」
ギクッ、何でこの人はこんな時だけ勘が良いのかな。どうせならその勘をもっと他の所で活かせたらいいのに……例えば競馬とか。
やっぱり前言撤回です、轆轤首さんが賭け事に手を出してしまったら考えるだけでもゾッとしますよ。何てったって似合い過ぎてて怖い。
そんな事は置いておくとして、いつまで経っても轆轤首さんが質問の意図を教えてくれないまま、約二分程が経過しました。
馬鹿にしなかったかなんて言われても、まず私自身徳島県の事を詳しく知らないから仕方ないでしょ。 もういい加減答えを教えてくれてもいいんじゃないですか、轆轤首さん。
「ツクモノ……お前まだわかんねぇみたいだな」
「わかんないです」
ここはもう何も言う事が無いので正直に返事をしました。
幾ら考えたってわかんないものはわかんないのですよ、だって無から有を生み出す事は出来ないんですから。
「この旅行はお前を探す旅でもあるって言っただろうが!」
すると轆轤首さんは突然、頭がわんわんするぐらいの大きな声で発狂しました。それはもう耳がキーンとするどころではありませんよ、寧ろぶっ壊れちゃいそうです。突然叫ばないで下さい!
そして彼女は徳島県に続けてスペースした後、「妖怪」と打ち込み検索エンジンにかけ始めました。何やってるんだろう、そう思ったのも束の間、そこでヒットするサイトの数は私の想像以上の物でした。
私は知らなかったのですが、どうやら徳島県三好市にある山城町と言う場所は、妖怪の伝承が数多く残る、言わば妖怪村と呼ばれているらしいのです。かの有名な妖怪漫画家、水木しげるの漫画に出てくる“児啼爺”と言う妖怪の故郷でもあるみたいですね。
「妖怪村……って、こんな場所があったんですか?」
「……お前あれ程パソコン弄ってたのに知らなかったのかよ」
「全く眼中にありませんでした」
と言うかそもそも旅行に関して私が着目していた点と、轆轤首さんが着目していた点とはかなりのズレが生じていたみたいです。だって私旅行って聞いてたものだからつい、楽しい事ばかりのプラン立ててるのかと思い込んでましたから。
けれど轆轤首さんは違いました。彼女はこんな時でも、私の正体を探る事を忘れてはいなかったのです。
轆轤首さんが画面を下にスクロールさせていく内に、私は彼女が行きたがってそうな名所らしき場所を見つけました。
「それでこの“妖怪屋敷”ってわけですか」
「ああ。ここに行けば山城町に住む妖怪の情報が得られると思ってな」
なるほど、先の話は読めました。妖怪村と呼ばれる山城町に住まう妖怪達、そんな彼らと出会う事が今回の旅行の目的なんですね。
そうなってくると当然、ある疑問も自ずと浮上してきます。それは実際にその地に伝承通り妖怪が存在しているのかどうか、です。
「因みに確証の方は……」
「そんなものは無ぇ」
「ですよね」
まぁ完全に予想出来ていた反応につい苦笑いをしてしまいましたよ。しかし他の妖怪の方とのパイプが皆無だと言っても過言ではない轆轤首さんと、実質その轆轤首さんとしか繋がりを持っていない私とでは正直、その行き当たりばったりな勘に頼る他ないのです。
もしあの時のお爺さんが少しだけでも家に留まってくれていれば……そう考えるだけで気が重くなります。いいえ、過ぎた事をとやかく言っても仕方がないですね。
しばらく妖怪屋敷及びその周辺の情報を眺めていると、轆轤首さんは急に私の前に手を合わせて謝罪してきました。
「最初に言っとくがアタシも仕事があるからよ、日数は一泊二日で我慢してくれ。これだけは勘弁な」
「あ、そこは別に気にしないで下さい」
彼女は私が旅行日数の少なさにガッカリしないかどうか心配だったようですけど、私は旅行に連れて行ってくれるだけでも十分嬉しいんです。日にちが少しぐらい少なくたって文句なんて言いませんよ。
それにさっきも轆轤首さんは言ってましたけどこの旅行は彼女が私を探す為に組んでくれた計画なんですから、私もしっかりそこで自分を見つけられるように一生懸命に頑張ります。
「じゃあ行き先の方は徳島県で決めていいな、ツクモノ」
「はい!」
私は出来る限り声を張って返事をしました。そりゃあもう楽しみで仕方ありませんからね、元気な返事をするのも無理ありません。
「よし、ならお前は山城町で他に行きたい場所でもあるか調べておいてくれ。その間にアタシは今日の晩飯でも買ってくるぜ」
「わかりました」
ここで再びノートパソコンが私の前に手渡されました。轆轤首さんは自炊しないので、またいつものように晩御飯を買ってくるみたいですね。ならその間に旅行に必要な物でも調べておくとしましょう。
第一に着物の変えやお洋服は轆轤首さんが拵えて下さったので安心です。
本人が豪語した通り、轆轤首さんの裁縫の腕前はかなりの物でした。前の着物も私の中ではかなり気に入っていた物なんですけど、今私が着ている着物もそれに劣らない程の出来なんです。
しかも彼女は着物だけに飽き足らず、私サイズのお洋服まで作って下さいました。中でもパーカーは特に愛用しています、私は汗を掻きませんので尚更です。
あ、でもそれじゃあそんなに着替えなんて持っていっても意味ありませんか。
結局何が必要なのかを考えた結果、食事をしなくてもいい私には何も必要ない事がわかりました。馬鹿だな私って……。
そうなると着替えが必要で、尚且つ私を運ぶ為の大きなバッグも持っていかなければならない轆轤首さんは、大変どころの騒ぎじゃないですね。何だか申し訳ない気分でいっぱいです。
「ツクモノ! じゃあ行ってくるなぁ!」
すると何故か玄関の方から轆轤首さんの声が聴こえてきました。えっ、あなたまだ家を出てなかったんですか。
「何処までもマイペースな人だなぁ」
あまりの彼女のマイペースさに、私はつい声を漏らしちゃいました。けど轆轤首さんらしいと言えば轆轤首さんらしいですけどね。
とにかく旅行、楽しみです。
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