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---夏目と番になる---

【15】※夏目目線

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朝イチで風邪を引いた明楽に服を着せこみ俺は駅に向かった。最近頑張っているから体が疲れたのだろう熱が長引くことは無いと思うが明楽の精神面が心配だ。

無理はしないで欲しい、最近やっと人間っぽさを取り戻したのに逆戻りになんて事が起きたら俺は一生明楽を外に出せなくなる。

部屋の荷物は全部郵送で家まで送って貰うとして軽い荷物だけを持って電車に乗り込む。


「なつめ、なつめ、ごめんね。」


なんだこの可愛い物体は。 俺の腕に頭を擦りつけ服を引っ張り始める。咳き込みながら背中を丸めた明楽に俺は上からひざ掛けをかけた。


「大丈夫だよ。4時間ぐらいかかるし、ゆっくり寝てて」


「ん、…」


頭を撫でながらそういうと明楽はすー、すー、と小動物のように丸まって眠った。たまに赤みがかかった頬を撫でおでこを冷やしてやるとあどけない声で俺を呼ぶ。


「お兄さん相席いかがですか?」


こんなに可愛い明楽を見せたくなくていい感じの席を買ったはずだが何故ここに普通車の切符を持った女がいる。

女は断る前に目の前の席に座り俺の連絡先をしつこく聞いてくる。


「お姉さんここ普通車じゃないよ。」


「えーいいじゃないですかぁ、連絡先下さいぃ!!」


「番いるの分からない?」


女は番持ちの人にも『運命って信じます?運命に勝てるものはないんですよ』と続けた。そんな運命あっていいはずがない、それにこの女の甘ったるい香水は俺の鼻にまとわりついて吐き気がする。


「・・・なっ、つめぇ」


明楽は寝ぼけながら俺の膝の上に乗り始め、ぽやんとした顔で胸の中に頭を収めたと思えば『じゃすとふぃっと』と言い残しまた眠った。
病院で初めて見た頃にはもう真っ白の髪の毛だったが最近色味が戻り始めとても綺麗な色合いをしている。目の色はまだ戻らないが明るくはなってきた。


「そういう事だからごめんね、お姉さん」


「でももしかしたらがあるから下さいよぉ」


猫なで声で言う女は勝手にベラベラと喋り始めた。『私もαなんですぅ』どうせポッと出のβ夫婦から生まれてきたのだろう。確かに容赦は綺麗だったがαとしての自覚がないのか下品な行動しか取っていない。喋り方、座り方、視線の合わせ方、服装、礼儀、全てに置いてαでも欠陥品なんだなと感じさせてしまう。せいぜいキャバ嬢になるのが妥当だろう。キャバ嬢でこのタイプなら上手く行けば売れる。


「・・・なつめ、っ、まぁた女の子とばっかりお喋りしてぅ、構ってぇ」


熱がある時の明楽はここまで尊いのか・・・俺の首に腕を回し首に吸い付く。この場合、目の前に座る女より俺たちの方がはしたない。


「なつめってばぁ!俺を見て!ちゅーぅ!」


舌を自分から絡めてくるこのおバカの口が息をするのがやっとなくらいまでいじめ倒すと女はいつの間にか消えていた。明楽の口の中が熱で暖かい。下手くそな癖に一生懸命短い舌を出してくるこの天使が可愛すぎる。


「んっ・・・なつめ、激しい。俺、激しいのいやなの!!苦しいし息できないし夏目のこともっと良くみたい!!!!セックスは優しくしてぇえ!!」


そういうと疲れたのか明楽はまた眠った。次の発情期は限界まで出させない様に尿道プラグでもしとこうか。そしたら体力は持つはずだ。

昨日入った店で部屋が同士だったが実は壁が薄くて声がデカい雪也のおかげで全部丸聞こえだったのに気がついてないらしい。明楽とやるセックスは気持ちよすぎて理性が砕けそうになるのに我慢しろだなんて無理だ。

毎日むにゃむにゃ寝言を言いながら寝てるのを見て俺の股間が張り裂けそうになるのも我慢してると言うのに。最初の頃、一人が怖かったのか夜中部屋に忍び込んできて一緒に眠った。それからというもの明楽が魘され寝てるのに泣いてる、金縛りで体が動かない、そんな明楽を俺はずっと見てきた。
最近はむにゃむにゃ寝言を言い始め、初めて聞いた時は涙腺が崩壊するかと思ったほどだ。


「なつめぇ、しゅぎぃ・・・」


「はいはい、分かってるから眠って」


何度か目を覚ましたがどうせ低血圧のせいで覚えてないだろう。毎回こんなことを言ってはまたすぐに眠る。
それが5回ほど繰り返された時、最寄り駅についた。





駅から出れば直ぐに見える家に明楽を背負い帰った。まだまだ軽い明楽を俺の部屋のベッドに乗せ、布団をかける。


「明楽、着いたからね。起きたらご飯用意してあるからね。おやすみ」


俺は明楽の頬と頭を撫で、明楽の可愛い額に冷えピタを貼った。

4日間の連休を取るために溜まった仕事を全て片付けたが時間でしか解決できないものも中にはある。
きよかちゃんの方は一日で決心が付き、書類を役所に提出したそうだ。事後報告にすると決め書類を作成したきよかちゃんは暫く病院に泊まり、幼い頃可愛がってくれた親戚が泣きながら迎えに来た。その親戚夫婦は中々子供ができず幼かったきよかちゃんを我が子のように可愛がって育てていたと聞く。きよかちゃんは新しい人生をスタートしこれからは5歳の弟のお姉ちゃんになる。そしてきよかちゃんからは虐待の跡といじめの跡が見つかり国からの補助で成人するまで薬代や生活費の半分を出してもらえることになった。前よりも生き生きとした彼女はきっともう暫く病院に来ないだろう。

あの親戚夫婦は手紙を貰った瞬間から手紙を貰ったであろう親戚に片っ端から連絡を取りきよかちゃんを迎え入れた。かかった時間は一日、夜なべして書類を作り受け入れ準備を整えたみたいだ。

最後に貰ったお礼の品は彼女らしく上品なカステラと高めのお茶っ葉だった。ナースルームでは今まで一番好評できよかちゃんがくれる最後のお菓子ときよかちゃんが愛されて良かったとみんなで涙した。










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