日曜の昼は後輩女子にパスタを作る

矢木羽研

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本編

激安レッドカレーでトムヤムクン風!

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「おはようございます!」
「おう、おはよう」

いつもの朝、いつものやりとり。今日は夏休みど真ん中だ。いや、大学の夏休みの日程を考慮するとまだ前半なのだが、どうしても8月を中心に考えるクセが付いてしまっている。

「今日は曇り気味だから少しはマシですけど、いつまで続くんでしょうねこの暑さ」
「ま、考えても仕方ないだろう。夏休みなだけマシかもな」

今日は買い物に行こうかと思っていたが、だるいので結局行かなかった。こんな体に活を入れるものと言えば……。

「今日は何を作ってくれます?」
「決めてない。冷蔵庫でも見てリクエストしてくれ」
「はーい……あ、レッドカレーペーストあるじゃないですか」

業務スーパーで買ってきた、リアルタイというメーカーによるペーストだ。

「ああ、30皿分が300円くらいで買える激安のやつだけどな」
「私も実家にいたころに買ったことありますよ! おいしいんですけど使い切るのがきつかったですよね」

保存料無添加なので、開封後は速やかに使い切らないといけない。それに本体価格は安くても、レシピ通りに作るならココナッツミルクなどを別途用意する必要がある。温めればすぐに食べられるレトルトなどと比べると、やや上級者向けだ。

「ねえ、これでパスタできます?」
「できるけど、今はココナッツミルクが無いからな。代用の豆乳やヨーグルトもないし……」

あらためて冷蔵庫をチェックする。ミルク系の材料はない。肉やウインナーも切らしている。

「そうだ、トムヤムクンなら作れるぞ」
「トムヤムクン? それってレッドカレーペーストですよね?」
「ああ。でも基本となるのは赤唐辛子とレモングラス、それにタイのショウガのガランガルが共通しているから、工夫次第で似たようなものは作れるぞ」

俺は冷蔵庫から長ネギと舞茸を取り出した。

「具はこれでいいか。エシャロットとフクロタケの代わりだな」
「確かに、フクロタケは大衆的なお店だとマッシュルームとかで代用してますからね」
「もっと大衆的な店だと、しめじとかを使う場合もあるぞ。今回は舞茸があるからそれで済ませよう。後はエビ……干しエビがあったな」

少し前に、友人たちとお好み焼きを作るときに買ってきた干しエビがまだ残っていた。

「それじゃ、お湯を用意してもらえるか」
「はーい!」

今日のパスタは1.4ミリのフェデリーニ。汁なしで炒め合わせる予定なので、やや細めのほうが合うだろう。

*

「干しエビ、本当はもっと早くから戻しておいたほうがよかったんだけどな」

一人分を大さじ2杯として、大さじ4杯の干しエビをボウルに入れ、半カップ強の水を注ぎ入れる。

「だいたい大さじ8杯分の120ml、つまりエビの倍量ってことですね」
「そういうわけだな。本当なら冷凍のむきえびでも使うところだが、干しエビでも風味は十分だ」

続いて長ネギを斜めに薄切りにして、油を引いたフライパンに投入する。舞茸はそのまま手でほぐして入れ、中火で炒めていく。

*

「しんなりしてきたら味付けだ」

フライパンの中に、レッドカレーペーストを大さじ2、酢を大さじ2、ナンプラーと砂糖を大さじ1ずつ入れる。

「へえ、お酢ですか」
「本来ならキーライムとかタマリンドとか、代用するにしてもレモン汁あたりを使うべきなんだろうけどな」

トムヤムクンは酸味が決め手である。穀物酢はやや尖っているかも知れないが、煮詰めれば多少は丸くなるだろうという判断だ。

「ここにエビを戻し汁ごと入れる。それでもまだ水気が少ないから、パスタの茹で汁を加えて、煮詰めながら均一なソースにするんだ」
「いい匂いですねぇ」

調味料を入れるとキッチンがタイの匂いになる。もう少しで出来上がりだ。フライパンの火を止め、ベランダの鉢植えからバジルの葉っぱを摘み取ってくる。

*

「パスタ、このくらいでいいですかね」
「……だな」

いつもより若干硬め、それでもアルデンテというには柔らかい程度に茹でたパスタを湯切りして、再び火をかけたフライパンに入れてソースと和えていく。

「トムヤムクンだからスープパスタかと思ったんですが、違うんですね」
「濃厚なソースと絡めたほうが美味いと思うんだよな」

ソースが均一に絡んだところで、味の素を入れる。やや多めに8振りくらいか。

「味の素はソースに混ぜるよりも、最後に入れたほうが少量でも味が立つと思う。火を止めたら刻んだバジルとよく混ぜて……完成!」

「それじゃ、いただきます!」

*

「うーん、美味しい! こんなありあわせの材料だけでも、ちゃんとトムヤムクンっぽくなるんですね」
「干しエビとネギ類ときのこ類、最低でもこれさえあればなんとかなると思ってる。……そうだ、これも試してみるか」

俺は冷蔵庫からケチャップを取り出した。

「ペーストに混ぜようかとも思ってたんだけど、後から加えて味を変えたほうが面白そうだからな」
「確かに、トムヤムクンにトマトを入れるお店もありますからね」

*

「ごちそうさまでした! やっぱり暑い国の料理は元気が出ますね!」
「だな!」
「そうだ、午後から買い物に行くならお付き合いしますよ。冷蔵庫の中身も空っぽじゃないですか」
「それなんだけど、しばらく実家に帰るつもりだから、冷蔵庫の中身は減らしておいたほうがいいと思ってたんだ」

お盆明けに実家近くの会社を訪問するために帰省は遅めに行くことにした。卒業後は東京で働くのか地元に戻るのか、未だに決めかねているのだが、親戚の紹介ということで顔出しくらいはしようと思っている。

「もしかして、来週はいなかったりします?」
「かもな。まあ早めに連絡はするよ」
「どっちにしても買い物には行きたいんですよね。ほら、あちこちでサマーセールとかやってますし」

そう言いながら、彼女は店舗のアプリを見せてきた。実家に戻ったら、この後輩とも簡単には会えなくなるということを改めて意識する。永遠に続くようで終わってみれば一瞬なのは、夏休みも大学生活も同じなのかも知れない。
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